何不自由なく幸せな生活なのに閉塞感……、この生活が続くかと思うと絶望し、人生を辞めたくなります。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室280】
✳️今週のお悩み✳️
既婚女性、子どもなしです。仕事も忙しくなく、夫とも仲良く穏やかな暮らしですが、ワクワクすることや何かを楽しいと思うことがほとんどありません。毎日朝起き、電車に乗り、会社へ着き、仕事をし、紆余曲折し、帰宅し、ご飯を作り食べ、本を読んだりインターネットをしたりし、眠り、週末に夫と1週間分の買い物をし、予定があるときは出かけ……ということを繰り返しています。何不自由なく幸せな生活のはずなのに、いつからか閉塞感を感じはじめ、この生活をあと50年以上は続けないといけないかと思うと絶望しときどき(3日に1度くらい)人生を辞めたくなります。ほかの人はなぜこのような感覚にならないのか不思議でなりません。20代のころはもっと楽しみなことやワクワクすることがあったような気がしています。どうしたらもっと生きることに希望を見いだせるのでしょうか。
(まめしば・32歳・東京都)
宇多丸:
まぁ、いわゆるミドルエイジ・クライシスの一種という感じですかね。
「他の人はなぜこのような感覚にならないのか」とおっしゃってますが、そんなこともないでしょ。
特にある年齢以上になって、人生の「先が見えた」気がしちゃうと、決して少なくない割合の人が陥る状態だったりもすると思いますよ。
まめしばさんの場合はとくに、あまりに波風立たない「凪」な暮らしが続くことに、退屈を超えて息苦しさを感じてしまっていると。
あくまで理屈から言えばですが、だったら、人生にギャンブル的な不確定要素をぶち込むか、あるいは日々を安穏と過ごす以上の「より大きな目標」を設定するか、というのが突破口になり得るはずですけど。
たとえば、事業や投資を始めてみるとか?
こばなみ:
安定した会社に務めてる女子友だちが、投資を始めたら、「毎日がドキドキして生きてる感じがする!」って言ってたのを思い出しました。
宇多丸:
まさにその作戦が功を奏したケースだ!
そんな感じで、どうすかね、お金方向で冒険してみるというのは?
それで儲かりゃ嬉しいし、やりがいも出てくるかもですよ。
ちなみに、子どもというのもやっぱり、いっときたりとも同じ存在ではないし、次から次へとタスクが襲いかかってくるし、むろんもろもろのリスクには事欠かないしで、まさに人生最大の不確定要素であり、育て上げること自体が自分単体の生を超えた「より大きな目標」にもなるようなものではありますよね。 ま、それすらも、事情によっては倦怠や絶望を招く元になり得る、というのもまた事実でしょうが……。
こばなみ:
私はこのお悩みを読んでいて、ワクワクするのことがないのは辛いけど、毎日帰ってご飯を作って食べるところなど、自分がやろうとしていてできていないので、そっかー、できていると退屈に思うのかと、すごい気になってしまって。
宇多丸:
あれもやりたいこれもやりたいっていうのがもともとあるような人は、まだいいんですよ。
僕はむしろ、一生かかってもそのすべてをやりきることはできないという現実に絶望してますよ!
もし、それほど打ち込める趣味とかがないのだとしたら……、ボランティアのエキスパートになるっていうのはどう? 助けを求めてる人はあちこちに絶えずいるわけだし、その都度、対応すべき事態も変わってくるはずでしょ。
人から求められたことに応え、感謝されたり充実感を得たりする……、自己完結しちゃってないぶん、煮詰まりにくい「生きがい」じゃない? これ、一番のオススメかもですね。
あとね、元も子もないことを言ってしまえば、「この生活をあと50年以上は続けないといけない」って言うけど、その間な~んにも変化が起こらないっていうのも、あり得ないわけですから。 天変地異に病気に事故、普通にガンガン待ち構えてるでしょ!
皆さんちょっと思い出してほしいんだけど、震災の後とかさ、直前までの平穏な暮らしがいかに贅沢なものだったかって、骨身にしみて感じたりしませんでした? あるいは、僕も最近、大腸憩室炎というやつで初めて本格的に入院して、当たり前のように好きなところ行って好きなもん飲み食いできるってことがどれだけ素晴らしいことだったのか、やはり身をもって実感しまくったりしましたし。
事ほど左様にですね、「終わりなき日常」がある種の絶望を招き得るというのはわかるけど、なんかしらの変化というのはいずれ遠からず、ちゃーんと訪れてくれるものでもありますからね。 その意味でこれは、まめしばさんがまだじゅうぶんにお若くて健康で、同じ明日が来ることを疑っていないからこそ深刻化しがちなお悩みなのかもしれないですよ。
こばなみ:
36歳くらいからガクッときますよ! あと40代に入るともっとくる。とくに女性はホルモンバランスも崩れたりしますから、ご注意!
宇多丸:
だからこそ絶望も深まるんだろ!って話もあるけど(笑)。
少なくとも、何事も起こらない日々というのがありがたく感じられる局面というのが、誰にも必ずやってくるってことはほぼ間違いない。
僕みたいに不安定な仕事してると、今月も仕事あったセーフ! 今月もギャラ振り込まれてたセーフ!っていう綱渡り気分がずっと続くようなもんですから、良くも悪くもハラハラドキドキには事欠きませんよ(笑)。 まめしばさんも、いっそ会社やめて独立してみれば?
とにかくなんにせよ、人生というものが本質的にはらんでいる危うさを顕在化させるか、そう簡単には到達し得ない大目的を見つけるか、さしあたってはそのどっちか、もしくは両方、ってことになるんじゃないですかね。
こばなみ:
不安に思いすぎるのも辛いけど、順風満帆で辛いっていうのもあるんですね。
宇多丸:
人間というのはつくづくやっかいな生き物ですよね。
よく僕が引用する『マトリックス』の、人間は「完全な幸福状態」には耐えられないっていう、あの話ですよ。
あとそうだ、エクストリームスポーツって、まさにこういう「退屈という病」を吹き飛ばすためにこそあるんじゃない? 身体的危険が伴う無謀なアクションに挑むことで、アドレナリンをドバーッと出して、生の実感、充実感を得る、という。
だからさ、やっぱあれだよ、結局またスカイダイビングだよ!
こばなみ:
でた━━━━(゚∀゚)━━━━!!
宇多丸:
実際に死の恐怖を味わうのは大変だから、その擬似体験としてのスカイダイビング。で、「生きててよかった!」を再確認する。
なんなら一番手軽じゃね? ほかのエクストリームスポーツは訓練がいるけど、スカイダイビングは最初から、インストラクターにひっついてもらって、落ちるだけだからさぁ(笑)。
こんなのほかにあります?
こばなみ:
ないです(きっぱり)。
宇多丸:
そんなんで気が晴れるなら安いもんだけどね……。
念のため付け加えておくと、あまりにもふさぎこみがちになって辛いようなら、サクッと心療内科などで診てもらうというのも手ですからね。前から言ってますけど、お腹が痛くてどうしようもなければ医者に行くのと同じことで、恥ずかしいことでもなんでもないですから。 参考図書として、いとうせいこうさんと星野概念さんの共著『ラブという薬』をオススメしておきます!
ともあれ、こんなんでお役に立てたかわかんないですけど、少しでも元気が取り戻せるといいですね……。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年5月11日に公開したものを再編集し、掲載しています。