お付き合いを保留にしている彼がいます。とても優しくて理想の彼氏像なのですが、一緒にいてもつまらない、そしてダサい……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室244】
✳️今週のお悩み✳️
お付き合いを保留にしている彼についての相談です。合コンで出会い、好きだと告白されたものの、私の中でハッキリと答えを出さずに保留にしています。もうデートも何回もしているし、1日一緒にいたことも数回あります。彼はとても優しく、絶対怒らないし、私のことを常に肯定してくれるし自由にさせてくれて、私が理想としてた彼氏像です。なんですが、彼から刺激をもらうことがなく、どうも彼といてもとてもつまらないのです。特に、私はファッションが好きなのですが、彼はダサい上に同じ服を何度も着ます。私の中でこれがかなり迷いの大部分を占めています。まわりからは、「そんないい人いないから大事にしろ」案と、「そもそも全然合わないんじゃないの」案とあり、自分でもよくわからなくなってきました。私は結婚したいです。結婚するパートナーに対して、何かしら刺激は必要ですか? それとも、優しく包まれることが何より重要ですか? ご意見お聞かせください。
(ピカ子・27歳・東京都)
宇多丸:
「彼といてもとてもつまらないのです」……これ、けっこうなパワーワードじゃない?(笑)
もう答えは出てるじゃんという気もするけど。
ダサいこと自体がダメだって言ってるわけじゃないけど、ピカ子さんのなかでプライオリティが高い部分が、この彼はまったくクリアできてないわけだからさ。 服装のことなんてどうでもいいじゃん!って人にとっては理解できないかもしれないけど、そこが譲れないくらい大事な人だって当然いるんだ、ってことですよ。
僕も、ファッション含めたパートナーのセンス全般、わりと気になるほうなんで、気持ちはわかりますよ。
こばなみ:
直してあげるとか、ダメなんですか?
宇多丸:
その手前に「好きっ!」がちゃんとある相手ならそれもあり得るだろうけど、問題は、ピカ子さんがこんな時点でもう「つまらない」とか言ってるところなんだよ。
直してあげようとか、思う余地すらないっぽいじゃん。
こばなみ:
じゃあ、なんで付き合うんだっていったら、やっぱり結婚に焦って……!?
宇多丸:
「私は結婚したいです」が、ホント急に出てくるからね。
とにかくそのゴールに向かって突き進みたいっていう……、この連載でも何度か言ってますけど、本当は、結婚はゴールじゃなくて、スタートなんだけどね。
あと、「刺激」と「優しく包まれる」を共存不能な対立概念みたくとらえるこの考え方も、正直どうなんだろうね。 まぁ、フィクションでありがちな構図ですけどね。『溺れるナイフ』的なというか……。
でもさ、僕の感覚では、実際に誰かと付き合うときに、「優しい」なんていうのはすべての前提というか、最低条件だろ!って気がするんだけど。 そもそも優しくないやつなんか好きになってんじゃねぇよ!とすら思う(笑)。 刺激だなんだっていうのは、そのあとからプラス要素として足されていく、言ってみりゃオプションみたいなもんでさ。
相談文には「とても優しく、絶対怒らないし、常に肯定してくれるし自由にさせてくれる」ってあるけど、逆に、「たいして優しくない」「すぐ怒る」「肯定してくれない」「束縛する」、一個でも当てはまったらアウトでしょ! 理想ラインが低すぎるよ!って僕は思っちゃうけど。
それに、「刺激」って表現に僕は違和感があって……、要は、「一緒にいて楽しい」ってことが大事、という話じゃないの?
楽しいっていうのは、一緒にテレビ観て楽しいでも、セックスして楽しいでもいいんだけどさ。 それこそ、なんにも話さなくてもこの人といると心地いいとか、とにかく共に過ごす時間が「快」であるような相手を選びましょうよ、ってことじゃん?
そこへ行くと、今回のケースではすでに、彼といても「とてもつまらない」っていう、これ以上ないほど率直な言葉が出ちゃってるわけだからさ。
現状はまだ、向こうから告白されてるだけでしょ? ピカ子さん側の気持ちが積極的に動いてるわけじゃまったくない。 なのに、このままズルズル付き合いだして、まして結婚までしちゃったら……。
こばなみ:
そりゃ、ダメですよね。
でも、そのとても「つまらない」彼だって、別の人にとっては面白い人になりうるわけですよね。
宇多丸:
もちろん。
この前、「好き」というワイルドカードはすべてを吹き飛ばすという話をしたけど、今回はその逆だよね。
でもあれかな、女性のみなさんの実感としては、「“優しいだけ”の男でも、現実にはじゅうぶんレアなんだよ!」って感じだったりするのかな。
マネージャーおさない:
それでいったら、そこまでまだこの彼のことを知らないと思うから、本当に優しいかどうかもわからないですよね?
宇多丸:
そうだよねぇ。
その一点だってまだどうなるかわかったもんじゃないよね。
お友達もさ、「そんないい人いないから大事にしろ」って、付き合ってもないレベルでよくそこまでの保証ができるよな。
こばなみ:
まわりに最低条件を満たしてる人がいないんじゃないですか?
宇多丸:
でも、その人たちとピカ子さんの価値基準は、またまったく違うわけだからさ。
ファッションが好きってわざわざ言うような人が、こいつダサいなぁと思う相手とパートナーでいなきゃならないって、やっぱけっこうな苦行だと思いますよ。
だって、自分が好きなショップとか連れていけないんだぜ?
で、だったら彼を作り変えてあげようとか、そこまでの興味もない。 彼にそこまでのコストを払うほどのモチベーションが、そもそもないじゃん。
普通、誰かと付き合いだして一定期間を経ると、やっぱりそれなりに嫌なところ、合わないところが見えてきたりもするわけじゃないですか。同居したりすればなおさらだけど。 そこで、顔が好みでも尊敬できるでもいいけど、「それでも、好きっ!」っていうベースの気持ちが強くなかったら、あとはそりゃ嫌いになるいっぽうってことじゃん。
ピカ子さんなんか現状すでに「とてもつまらない」なんてラインなんだから(笑)、そこからさらに下がっていくいっぽうなのだとしたら、そんなんでいいわけないでしょ、と思っちゃうけど。
こばなみ:
だから、やはりたぶん結婚に焦っているんですよね。
宇多丸:
こんなテンションで結婚なんかしたら、相手にも失礼だよ。
「とてもつまらない」と内心思われながら付き合われてるほうの身にもなってよ。
さっきこばなみも言ったけど、その彼も、単にピカ子さんの趣味に合わないだけで、ほかの誰かにとっては、本気で申し分ない人たりうるかもしれないんだからさ。 だから、どっちが悪いとかじゃなくて、お友達の言う通り「そもそも全然合わない」だけですよ。 いい人だと思うんだったら、彼を早く解放してあげなよ。
にしても、「とてもつまらない」……こばなみなんて、オモシロにかけてはプライドをがあるほうだと思うけど、実は「あいつ、いっつもアヒャアヒャアヒャアヒャ言ってるけど、正直“とてもつまらない”」とか思われてたとしたら、どうよ?
こばなみ:
ひょえ~! この連載、2~3回休みますわ~。
と同時に、こいつわかってねーなー!!!!!って怒りも湧いてきますね!
だから本当に、彼がいい人なんだったらなおさら、早く解放してあげたほうがよさそうですね。
宇多丸:
繰り返しますが、結婚は、すべてをいい方向に持ってってくれる万能のソリューションでもなんでもなくて、むしろ半永久的に「他者」と関わっていかなきゃならない、厄介さを引き受けることなんだから。
さびしいからとか、みんなそうしてるからとかで安易にそっちに逃げても、間違いなくロクなことにはなりませんから!というのが僕の意見です。
前も言ったかもだけど、ひとりでいるより、「誰かと一緒にいるはずなのに孤独」というほうが、もっともっと絶望は深くなりがちだったりしますからね……。
【今週のお絵描き】
*** *** *** *** *** ***
この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2018年7月21日に公開したものを再編集し、掲載しています。