友人が海外留学から戻る2年後に音楽活動を始めることに。だけど、そのつもりで今の人生を決めていいものか……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室188】
✳️今週のお悩み✳️
22歳の大学4年生です。私は4年制大学で理学療法を専攻しており、先日行われた国家試験の結果無事に理学療法士の免許を取得することができました。それで理学療法士として通常ならば正社員として医療機関に就職するのですが、私は趣味である音楽で生計が立てられればなぁと大学在学中から現在までずっと夢見てきており、高校の頃からの親友であり音楽について真剣に語り合ってきた仲の現在アメリカに留学中のKさん(6年制大学に在学中であと2年間大学生活が残っております)と就職を機に一緒に思い切って音楽を真剣にやってみようと話し合いました。しかし、彼は6年制大学に通っているということもあり本格的に音楽活動を行うのは2年後になります。二人の間ではその2年間で曲と活動計画などを練っていこうとは話し合っていますが物理的な問題から二人そろっての練習などはできません。(二人とも素人レベルかもしれませんがギターやベースなどは人並みに扱える程度で、歌は声楽などの専門家に習ったことはないですが歌うこと自体は好きです。)そしてその間私はどうしようかと思い、今のところはその2年後に備えて出来るだけ時間を音楽に割けるように医療機関に新卒で非正規雇用で勤めようと考えております。
しかし私の中で引っかかっていることがあります。それは今現在二人で音楽をやりたい気持ちも情熱もあるのですが実際に2年後になってお互いにその気持ちをキープできるのかがわからないことです。つまりは本当に2年後音楽をやるつもりで今の人生を決めていいものか悩んでいます。二人とも若いしこの先の2年の間に様々なことを経験すると思います。それらを踏まえると音楽をやるという前提で話を進めるにはあまりにも不確定な要素が多すぎて2年後に向けて私がどのような道を選んだらよいのか正直まだ決めきれません。繰り返しになりますが二人とも音楽が大好きで音楽のことを愛してやまないです。将来的に本当に音楽で生計が立てられたらと思っています。もちろん音楽がただ好きなだけじゃダメで音楽を表現することに対して求められる資質が無いとそういったことも厳しいと思っております。ライムスターとして活躍されている宇多丸師匠の音楽人生経験などから何かアドバイスをいただけないでしょうか? よろしくお願いします。長文失礼しました。
(あかりん・22歳・愛知県)
宇多丸:
まずは、国家試験合格、おめでとうございます!
そういう、これ以上ないほどしっかりした資格を取っておいたりすることは、なんにせよ人生にとって、絶対プラスだと思いますよ。
でね、前も言ったかもだけど、けっこうなメジャーアーティストでも、実はほかに普通の仕事を持ってたりする人って、意外と多いですよ。
たとえば、ゴンチチのお二人が長いことサラリーマン勤めも同時に続けてたとか、ケツメイシのRYOが薬剤師だとかは有名な話だし……、最近だとCharisma.comも、ちょっと前まで昼間は普通にOLやりながら活動してたはず。僕の周りでも、KOHEI JAPANが基本的にはずっと飲食業やってたりとか、まぁ細かく挙げだしたらキリがないくらい。
とにかく、音楽とは別になんかしら堅めな職業にがっつりついてるって、プロでも全然珍しいことじゃないと思いますよ。
なので、こういう話題になるたびに言ってるけど、音楽か仕事かの二者択一で考えなきゃいけないわけじゃ別にないよ、っていうね。
特にいまどきは、音楽に限らず創作活動全般のハードルが、昔とは比べものにならないくらい下がってるわけだからさ。作ることも、発表することも。「ホントはやりたいけど、やってない」ことに対する言い訳が、ほとんどできない時代なんですよ。まぁ、それゆえの大変さというのも当然あるだろうけど……。
ということで、もちろん理学療法士も、普通は片手間でできるようなもんじゃない大変な仕事なのは間違いないだろうけども、そこは好きでやろうとしてることなんだからなんとか頑張っていただくということで、とりあえずは並行して音楽もちゃんと続けつつ、仮にそっちがうまいこと本格的に軌道に乗ってきたりでもしたら、どんなバランスでやっていったらいいかそのとき改めて考えればいい、っていうくらいの話じゃない?とはまず思うけど。
でも、それ以前の問題として……、音楽活動を続けるもなにも、あかりんさんはどうやら、現状まだなにも始めてもいない、ってことなんだよね?
そこが正直、ちょっとよくわかんないところなんだけど。曲作りでもなんでも、できることからやり始めればいいじゃん?
こばなみ:
相棒のKさんが海外にいるから?
宇多丸:
うーん……、つまり、Kさんが隣にいないとなにもしない、できないってこと?
それはさすがにどうなんだろう。
つまり、なんで音楽活動のスタートが2年後でなきゃいけないのかが、まずよくわからない。
すぐそばで練習とかはできなくても、それぞれできることなんていくらでもあるはずだし……、ていうか、いまどきは海を隔てて共同で曲を作ったり、全然普通なんですけど!
こばなみ:
それこそネットでスカイプつないだりするとか?
宇多丸:
タイムラグがあるから同時に演奏したりするのは難しいだろうけど、話し合いのしやすさは言うまでもなく飛躍的に向上してるわけだし……、それよりなにより、いまはレコーディングも、データのやりとりで作っていくの、わりと当たり前だからね。
それこそ、それぞれのメンバーは普段北欧とかいろんなとこに住んでる多国籍楽曲制作チームみたいなのが、いまのポップミュージック界には欠かせないくらいで。
だから、片方がアメリカに住んでるから音楽活動できない、ってこともないと思うんだけどな、いまどきは。
こばなみ:
ちょっと古い考えなのですかね?
宇多丸:
というか……、ちょっとキツい言い方をすれば、本当にやりたいのかよ?っていう感じもしちゃう。
なんでもいいからとっとと作ったりやったりし始めろよ!
プロとしてモノになるかどうかなんて、そのずっと後で悩めばいいことだよ。アマチュアですらない時点で、そんなことわかるわけないじゃん(笑)。
2年後にKさんとちゃんと音楽やるテンションが続いてるかどうかわからない、って話もさ、なにもやってない段階でそんなこと不安がってたって、意味なくない?
だいいち、仮に2年後、Kさん側が音楽人生はやっぱり断念すると言いだしたとして、あかりんさんもじゃあ、それに合わせてあきらめる、ってことなのかな。
要は、Kさんと一緒じゃなきゃやらない、ってことなの?
こばなみ:
Kさんとやる以外の選択肢だってありますよね?
宇多丸:
いま安定的にやってるように見えるミュージシャンやグループも、たいていは、何度かバンドを解散したりメンバーチェンジを繰り返したりして、ようやく落ち着くべきところに落ち着いた、って感じだったりするわけでさ。
初めて付き合った人と結婚まで行くって例が少ないように(笑)、最初に組んだ相手って、別に絶対じゃないから。
なので、Kさんとじゃなきゃ音楽人生が成り立たない、みたく考えてるっぽいのが、またちょっと引っかかるんですよね。
意地悪な言い方をすれば、Kさんが好きなの? 音楽が好きなの?って話になっちゃうでしょう。
とにかく今のあかりんさんは、実際になにかやる手前で、ウジウジしすぎ!
2年後どうなってるかとか、音楽家として十分な資質があるかどうかとか、そんなのは全部、とりあえず最初の一歩を踏み出してみないことには、なんとも言えないことだから。
前も言ったけど、なにごとも出発点だけは、「考えるな、跳べ!」が必要なんですよ。
実際、自分に才能があるかないかなんてことは、努力と経験をある程度積みあげたうえで初めてわかることだろうと僕は考えているし、逆にそれが見きれるレベルまで行けたような人は、天才的とは言えなくとも一定以上の技量は間違いなく身についてるはずなので、どっちにしろスタート地点より手前に踏みとどまってる人が云々するようなことじゃないんですよ。
そして、その「最初の一歩を踏み出す」ことを、別に人生のすべてを賭けた丁半博打!みたく考える必要もない。
頭のほうで言ったとおり、堅気な職もきっちりキープしつつ、というクレバーなやり方だって全然アリなんだしさ。
こばなみ:
ちょっと考えすぎているのかもしれませんね。
宇多丸:
まぁ、どういう種類の音楽をやろうとしてるかにもよるかもだけど……、プロたるものこうでなければならない、みたいな思い込みにとらわれすぎというか、なんか頭でっかちになってる感じはありますね。
こばなみ:
にしても本当に、表現の場って開放されましたしね。音楽もそうだし、小説も漫画も発表の機会はいくらだってある。
宇多丸:
なので、あかりんさんには、「頑張って!」とは言ってあげたいけど、まだその手前の段階だろとも思うから、今できるアドバイスとしては、「オラーッ! 四の五の言ってねぇで、いいから音出せやボケーッ!」って、ケツを蹴り上げる感じですね(笑)。
いや、気持ちはわかるんですよ。
僕も、これだけキャリアを積んでるように見えても、特にしばらくぶりに歌詞を書くときなんかは、なーんかその、「最初の一歩」がなかなか踏み出せずにウジウジしちゃう感じ、いまだにあったりしますからね。
曖昧模糊とした「いいものを作りたい」っていう脳内ハードルばっかり勝手に高くなっちゃって、身動きが取れなくなっちゃう、みたいな。
でもやっぱ、とにもかくにもド頭の一行をえいっと書き出さないと、いいも悪いもわからないというか、具体的になにをどうしたらいいのかも見えてこないから。作ってみてダメだと思えば、ダメなところを検討して、直してけばいいだけのことだからさ。
だから本当は、休まず作り続けるのが一番いいんだよね。
多作の人って、ものすごく多作じゃん? プリンスとか。あれって、止まってないから逆にサクサク行きやすいんだと思う。
でね、さっき言ってた資質とか才能云々の話で言えば、そこで休まず続けるだけの精神的スタミナというか、情熱の持続力が並はずれてる人をこそ、「天才」とかって言うんじゃないかと思いますよ。
好きなことのためにする努力を、まーったく苦と思ってないタイプというか。
逆に言えば、才能の欠如っていうのは、要は「“好き”が足りない」ってことなんだと、少なくとも僕は考えるようにしてますけど。
ということで、あかりんさんも、ホントにやる気があるなら、せっかくインターネットというものがあるんですから、それを最大限に活用して、Kさんと密に連絡を取り合いつつ、今からでも曲作りくらいは、ガンガン始めるべきですよ!
そこから見えてくるものも、いいこと悪いこと含めてたくさんあるはずだし……。
ついでに言っておけば、理学療法士としても経験をしっかり積んでおくことは、表現活動のほうにも、いずれ必ず生きてくるはずだと僕は思いますけどね。
そっちの仕事も、「本当にやりたいこと」に対するマイナスとして一面的にカテゴライズしないで、むしろ自分のなかの引き出しというかチャンネルをより豊かにしてくれる、絶好の機会くらいに考えるようにしたほうが、絶対にいいと思う。
理学療法士でもあるというあかりんさん固有の事情、大げさに言えば固有の人生の在り方を、言い訳にするより、武器にしたほうが良くない?っていうね。
これ、なんにつけても言えることだけども。それこそKさんとの遠距離コンビ状態だってそうかもしれない。
「自分が自分であることを誇る/そういうやつが最後に残る」っていうKダブシャインの名ラインがあるけども、ホントそういうことだと思いますよ。
こばなみ:
武器にしちゃえっていいですね。そしてそもそも創作活動ができるって、とても素敵なことだと思います。あかりんさん、音楽できたらぜひ聞かせてくださいよ~!!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2017年4月22日に公開したものを再編集し、掲載しています。