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【千葉】世界でも認められたクラフトビールをつくる女性醸造家・鍵谷百代さん

日本全国でがんばっている女性を紹介する「のぼり坂47」プロジェクト。今回は、千葉県佐倉市の「ロコビア」でクラフトビールを醸造する鍵谷百代さんに聞きました。


「地ビールをつくらないか」の突然の誘いに、悩んで、悩んで決めた今の道

「ロコビア」は1998年に創業し、それ以来、ほぼ私ひとりでビールの醸造から出荷まで行っています。

ひとりでクラフトビールづくりに励む鍵谷百代さん

スタートしたきっかけは、現在私が醸造している工場に併設されている酒販店のオーナーから誘われたこと。
ビールの製造をはじめる前は、その酒販店で化粧品や貴金属などの仕入れ・販売をひとりでやっていて、それ自体やりがいを感じていたのですが、突然「地ビールをつくらないか」と声をかけられて…。

ビールの製造免許を取るためには、年間の最低製造量が決まっているのですが、1994年に法が改正され、その量が2000キロリットルから60キロリットルまで引き下げられたんです。それで「地ビール」、今でいうところの「クラフトビール」にいろいろな人が参入するようになりました。うちは、一歩出遅れたタイミングではありますが、1997年にオーナーが千葉県初の地ビール醸造所を立ち上げていたんですね。

その第二工場的なものをオーナーが考えていたようで、最初の地ビールの工場は男性が工場長なので、おそらく少し変化をつけたかったのか、「女性のための女性がつくるビール」というコンセプトで1998年にはじまりました。

ただ私自身、子どものころに父親のビールを間違えて飲んでしまったことがあり。そのときの「なんだ、この苦いのは!?」という印象が強く、ビールにいいイメージがなかったんです。
だから、最初声をかけられたときは、本当に悩みました。すごくすごく悩んで、結論がなかなか出なかったんです。でも「今、断るのは簡単だし、ビールはあまり好きじゃない。けどもし、あとになってビールをつくりたいと思っても、きっとつくれないだろうな…。そのときに後悔したくない」と、ふと思って。それでやってみようと考えるようになりました。

それでまったくの初心者から、ビール醸造の世界に飛び込みました。


「濃縮麦汁」ではもの足りない! 失敗からの再スタート

はじめたころは右も左もわからなかったので、先述の千葉県初の地ビール屋さんの工場に出向いて指導してもらいました。そこには製造スタッフが何人かいて、各工程にひとりが専属で作業するスタイルだったので、その各担当者にいろいろ教えてもらったんです。

そして実際にビールづくりがスタートします。最初に麦汁というビールのもとをつくるのですが、1年目はこの麦汁に「濃縮麦汁」(濃縮された水飴状態の麦汁)を使っていたんですね。だから、当時の仕込みというのは、それをお湯で溶かして希釈する作業でした。
これだと、半日くらいで終わります。きっと声をかけてくれたオーナーも、「これならひとりでできる」と、私に託してくれたのでしょう。

でも、その工程では、「濃縮麦汁」で味が決まってしまって、自分らしさが出せないことに気がついたんです。限界を感じて、麦芽を仕入れて、それを粉砕して一から麦汁をつくることに決めました。

そもそも地ビールの参入が増えたタイミングから出遅れてのスタートなのに、さらに麦汁でつまずいて遅れてしまっている状態。それを取り戻すべく、オーナーのつながりで、サントリーさんのテストプラントチームにご指導いただけることになりました。

そのプロ集団には麦汁のつくり方はもちろん、麦汁を作る装置もすべてコーディネートしてもらって、1999年の10月ごろから再スタートしました。

酒販店に隣接している「ロコビア」の醸造所。ここでビールがつくられています

ほかにも現在の看板商品のレシピをサントリーの方に作ってもらうなど、ビールづくりのすべてを教えてもらいました。

また、酵母を供給してもらったり、ビールの数値的なデータを機械にかけてレシピとできあがりのちがいなどを毎回チェックしてもらったり…。今でもお世話になっています。


とにかく重労働。でもその分、やりがいがあり、生涯まっとうしたい仕事

とにかくビールづくりは重労働なんです。そこがときどきしんどいですね。

たとえば、1回の仕込みには、500リットルの釜を使いますが、アルコール5%のビールをつくる際は麦芽を約100キログラム使うんです!

それだけでも結構重いんですが、月4回くらいこの仕込み作業が発生します。単純に瓶に換算するとひと仕込み1,500本分ですね。しかも、樽詰の商品もあります。瓶とちがって回収したら毎回洗って再利用するので、洗いの作業も…。だから本当に肉体労働です。

それだけでなく、危険物の取り扱いも多くて、生蒸気も扱いますし、緊張感もあります。

でも、もともと私自身が力仕事をしてみたいと思っていたタイプだったし、できあがってくるビールがもう我が子のような感覚! とてもやりがいがある仕事なんです。

それに、今ある装置は私の身長に合わせてすべてカスタマイズされているので体の一部のようなもの。ビールはもちろん、装置たちも生き物のように私の気持ちが伝わると思っていて、毎回仕込みの朝に工場に行くと「今日も1日よろしくお願いします」って声をかけるんです。

できたビールにも装置にも愛着がありますし、もう好きとか嫌いとかではなく、ビールづくりは私にとってかけがえのないものになりました。

ビールづくりをはじめる前はあんなに悩んだのに、本当に今はやってよかったと心から思っています。40歳を過ぎた最近、「私は最期、ここで終わればいいや」とまで思うようになりました。

もともと長生きしたい願望が強いので、もっともっとビールづくりに携わっていきたいですが、ここのところひどく自分の衰えを感じることが増えてきて(笑)。先々のことを考えたときに、そういう風に思うようになりました。


世界のビール品評会でメダルを獲得! 今後もおいしいビールをつくって、魅力を広めていきたい

今後はひたすらおいしいビールをつくりたいです!
日本ってまだまだビールは最初の1杯とか乾杯で…というイメージが絶対的に多いと思うんですよ。もちろんそれでもいいんですが、ワインと同じように、香りや色も楽しめるものなので、そういったビールの魅力を広めたいですね。

そのために、自分もいろいろなビールをつくってみたいし、飲んでもみたいです(笑)。

そこで、「ロコビア」では「歴史的醸造シリーズ」と称して、かつてはつくられていたけれど、今では誰も飲んだことないビールを掘り起こして、再現する取り組みを行っています。

限定商品のため現在は販売していませんが、「歴史的醸造シリーズ」でつくったアメリカで飲まれていたドイツビール

また、「Pink Boots Collaboration Brew」も。これは、クラフトビール業界の女性の地位向上を目指して、「Pink Boots」というアメリカの女性醸造者の団体が主催しているイベントです。
世界中の女性のビール職人と、酒販店や小売店、飲食店で働くなどビールに関わっている女性が参加して、国際女性デー(3/8)に同じレシピのビールをつくるという内容。
2021年は新型コロナウイルスの影響で日にちがずれましたが、開催しました。ここでできあがったビールは販売するときに、クラフトビール業界で働く女性への奨学金となる寄付金が発生するようになっています。1回目から参加していますが、今後も引き続き参加する予定です。

あとは、世界のビールの大会である「ワールド・ビア・カップ」でゴールドメダルを取りたいです!
この大会は、2年に一度、偶数年に行われている世界最大規模の品評会ですが、クラフトビールだけではなくて、大手のビールやとにかくビールであればエントリーできます。

うちは醸造しはじめたときからエントリーしていたのですが、2004年に初めて看板商品であるビールでシルバーメダルをもらうことができました! 自分が日々やっている作業は間違いないんだという確認ができて、すごく自信にもつながったし、がんばれる材料になったんです。

それから、2006年、2008年と3大会連続でメダルをもらったのですが、2004年以外はブロンズメダル。ゴールドメダルをもらえるまでは、絶対続けたいと思っているんです。

本当は2020年に行われる予定だったのですが、コロナ禍で中止になってしまって…。しかもこのとき手応えを感じていたので、本当に悔しかったんですよね。
次回は2022年の予定ですが、そのときには世界中が元通りになって、イベントも行われるといいなと思っています。


後ろを振り返らず前進し、チャンスをつかむ判断ができるように!

女性が、いや女性に限らずの話ですが、楽しく生活し、いきいきと生きる上で大切なことは、振り返らずに、常に前進することかもしれませんね。
私自身が、結構きついことが起きてもプラスに捉えられちゃう、ありがたい性格なのもありますが、後ろ向きに考えてもはじまらないとも思っているんです。

あとは、我が子たちや自分に関わる人たちには言っているんですけど、タイミングって絶対あるからそのチャンスを逃さないように!
この先もたぶん、何かを選ばなければいけない岐路に立つことがあると思いますが、そういうときに正しい判断ができるようになっていたいですよね。

★好きな言葉★

やって後悔よりもやらない後悔をしない

もうとにかくやらないで後悔するのが本当に嫌なんですよね(笑)。ビールづくりをはじめるときも、「やらなかったら絶対後悔する!」と思ったのが原動力でしたし。

この「やらない後悔をしない」ことで、常に前進できたり、チャンスを逃さなくなったりすると思うんですよね。

鍵谷さんが千葉県佐倉市でクラフトビール手がける「ロコビア

千葉県佐倉市発のクラフトブルワリー。
千葉県内にある「シモアール」の店舗を中心に、千葉・東京・大阪と通信販売サイトにて販売中。ほかにも、全国56ヵ所の飲食店で「ロコビア」のビールを楽しむことができます。

公式ホームページ:https://www.locobeer.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/LOCOBEER.Inc/
公式オンラインショップ:https://shop.locobeer.jp/







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