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【ライムスター宇多丸のお悩み相談室359】自分に経験がないからか、女性への差別的発言に鈍感です。しっかりした意見が言えない私は、社会人として欠落しているのでしょうか?


✳️今週のお悩み✳️
女性への差別的発言があったり、生理の話がオープンになってきたりと、私たち女性を取り巻く環境は日に日に変わっていると思うのですが、そんななか私は鈍感で悩んでいます。自分はこう思うという強い意見がなく、差別的発言にひどいとは思いますが、一時的には怒りがわいても持続しません。それは私が育ってきた環境が女子校(中学から大学まで)でそういった経験がなかったこと、家族は典型的なかかあ天下、姉妹の構成、やさしい父、就職して小さいなデザイン会社に勤めていますが、女性も多いからか、女性だからどうだ、のようなことを言われたり、そういう扱いを受けたことがありません。だからなのか、穏やかといえば聞こえはいいかもしれませんが、問題意識が薄いのではないか?と悩みます。強くしっかりした意見が言えない私は社会人として欠落しているのでしょうか? そうであれば、どう改善したらいいと思いますか。宇多丸さん、喝入れをお願いします。
(ポコ・35歳・会社員・東京都)


宇多丸:
ここ2回ほど、男性パートナーがもらした無神経な発言から、日本の性差別の現状について考え、怒る!という回が続いたわけですが、ちょうどそれらとは好対照をなす投稿と言えますね。

こばなみ:
私はこのポコさんの気持ち、わかるなぁと。環境がよかったのか、幸いにも辛いことがあまりなく育ってきたものでして、なにも思わないということではないのですが、自分は社会問題に対して疎いんじゃないかと、それを引け目に感じてしまうことは、正直あります。

宇多丸:
なるほど……。

でもさ、ある社会問題に対して、人それぞれに考えやテンションの差があったりするというのは、本来当たり前のことじゃない?

誰ひとりとして同じ経験、同じ人生を歩んでなどない以上、その問題に対する当事者性、距離感も、それぞれ違って当然で。

たとえば性差別に関しても、女性の中でさえ、どれだけ自分事に感じるかにはそれなりの幅がある、という。

もちろん、その違い自体に、ポコさんやこばなみのように「私なんかいい気なものでしかないんじゃないか」などとコンプレックスを感じたり、逆に「なんでみんなもっと声を上げないの?」的にいらだちをおぼえたりするというのも、気持ちとしてはぜんぜんわかるけども……、大事なのは、その「みんなそれぞれ違う」という事実に対して、お互いできる限り想像力を働かしましょうよ、ってことじゃないかな。

たとえば、「私自身は女だからと言って差別的な扱いを受けたことなど一回もないし、そういう視線を感じたこともまったくない」というような女性がいたとして、無論そのほうが望ましいことなのは間違いないし、そのことをもって責められるいわれはないのも当たり前だけど、だからと言ってその人が、仮にもし、「……なので、言われてるほど今の世の中に差別なんか存在しないと思う」とか言い散らかしたりしたら、それはもう完全に、現に差別に苦しんでいる人たちに対して抑圧的、なんなら暴力的に機能する何かに、速攻でなりさがっちゃうわけじゃないですか。

そういう理屈をふりまわす人、ホントにちょいちょいいたりしますけども。

要は、自分の視界に入るものが世界のすべてだと思い込めちゃっているから、そういう傲慢な発言になる。

あとはひょっとしたら、そうした件に自分があまり熱くなれないことに、ポコさんやこばなみ同様、ある種の後ろめたさを実は感じてもいて、だからこそつい反射的に「迎撃態勢」をとってしまう、というような面もあるかもしれない。

いずれにせよ、現状そこまで不自由を感じずにいられているような恵まれた立場の人は特に、そこに問題があるということ自体に気づけなくなりがち……だからこそ、常に自らを戒め、謙虚でいなきゃいけないはずだろう、と僕は思うんですよね。

これは、セクシズムのみならず、この世のありとあらゆる差別構造に言えることで。

もっと言えば、ある面では被差別側にいる人が、同時にまた別の面では無自覚な抑圧側でもある、というようなことだって、普通にいくらでもありうるわけでしょ。

そう考えると、「自分は何もわかってないのかもしれない、ヘタすりゃすでに加害者側でもあるのかもしれない」というような「引け目」は、誰もが軽くでも持ち続けたほうがいい感覚なのかもしれないですよね。

だからたとえば、ポコさんやこばなみみたいな人も、実際に性差別で辛い目に遭ってきた人たちとくらべておっとり構えてしまうのは仕方ないというか、それそのものが悪いわけではまったくない、恥じるべきことでもないのはたしかなんだけども、それと同時に、そういう問題が現実にそこらじゅうにあるということ、自分はたまたま幸運な場所に生まれついてそれらを避けられただけなんだということを、最低限アタマで理解しようとすることは、できるはずじゃない?

そういうことさえなんとか心がけてゆけるなら、「差別を解消してゆきたい」という根本の理想は共有している者同士であれば、互いに立場や細かい考えの違い、テンションの差などはあったとしても、大筋でそれぞれが連帯してゆくことは、ぜんぜん可能だろうと思うんですよね。

逆に、大目的は一致しているのに違いがあるからっていちいち分断なんかしてたら、それこそ差別をよしとする側の、思うツボですよ!

その意味で、いわゆる意識の高い、「正しさ」に敏感な人が、そこまで厳格な基準で動いていない人を一方的に激しく非難したりするのも、とは言えそれぞれ異なる事情を抱えた他者同士でもあるということに対して、ちょっと配慮を欠いているとも言えるかもしれないですよね。

こばなみ:
それに似たようなことで、私がちょっと感じていたのは、例えば生理がオープンになってきたという動きがここ数年ありますけども、生理用品を買ったときに袋に入れて欲しいか/欲しくないかという話をよくしていて、そもそも隠すものでもないわけだからオープンにしていい、だから袋に入れなくていいじゃないかって意見もあるし、やっぱりちょっと恥ずかしいから入れてほしいっていう意見もあって。なんとなく私は袋に入れたい派なんですけど、オープンにするのが「正」のほうが意見が強い感じがしていて……。でも別に答えを1つに決めなくていいんじゃないか、とか……。

宇多丸:
そうだね。

女性自身さえ生理というものを恥ずかしく感じるよう仕向けられてきた、これまでの社会のあり方は確かにひどく男性中心的、性差別的で、なるべく早く正されるべきというのは間違いなく正論だし、そのための意識変革の第一歩として、まず生理用品を隠すように買うのはやめようよ、という提案も筋が通ってると思う。

しかし同時に、理念としてはそこに賛同していたとしても、とは言え長年内面化されてきた羞恥心を急になかったことにはできないよ!というような女性たちが少なからずいるというのも、これまた無理からぬ話で。

その人たちに、どうしても今すぐ袋から生理用品を出すよう強要するところまで……、つまり、現時点でのその人にとっての切実な選択よりも、大文字の「正しさ」を厳格に優先させるべし、というところまで行ってしまうとしたら、それは歴史的に見てもちょっと、危ない方向なのではないかという気がします。

大原則として、積極的に他者を害したりしない限りは、それこそ保守的な価値感を持つ権利だってあるわけですから。もちろん女性であってもね。

こばなみ:
なるほど、納得しました。

宇多丸:
ただこれ、くれぐれも勘違いしないでいただきたいのは、どんな考え方でもいいって言ってるわけじゃなくて。

「みんなちがって、みんないい」、要は多様性の肯定というのは、「他者の権利を侵害しない」「他者の尊厳を踏みにじらない」っていう、この最低限の一線が守られているのが前提の話なので。もちろん「正しさ」の主張にも、同じルールが適用されるべきで。

その点、言うまでもなく差別主義というのは、人権侵害、尊厳無視の最たるものですから。問答無用でアウト!なわけです。

まぁとにかく、ポコさんもこばなみも、そしてもちろん僕もでしょうが、ここまで比較的恵まれた境遇にいられたことを感謝しつつ、だからと言ってそこに開き直ってちゃダメで、むしろいつでも自分の世間知らずっぷりに焦ってる、くらいでちょうどいいのかもね、ってことじゃないですかね。

そのうえで、普段から怒りを表明したり具体的な活動をしたりというところまではゆかなくとも、いざというときには、ライトなスタンスでいいから自分なりにできることをする、ということで、とりあえずはじゅうぶんなんじゃないかなぁ。

たとえばやはり、ちゃんと考えて参政権を行使する、とかは基本だろうし……、ほかにも、寄付や署名、リツイートやいいねもそうかもしれないし、あとはまわりの人たちとカジュアルに話し合う、などまで含めて、やり方は色々ですよね。

まぁ人間誰しも、直接的な認知の限界はあるわけだけど、知性と想像力で、そのギャップをある程度まで埋める、努力はできるはずだから。

本を読む、ニュースに触れる、人の話を聞く……、それこそ、この女子部JAPANの連載の良さって、自分とは立場が違う人の、まさに「当事者」としてのリアルな声が聞けることだったりすると思うんですけど。

僕自身もすごく勉強になりますし、みなさんにとってもそうであるといいな、と思って毎回やっています。

こばなみ:
今回も含めた3回のテーマで、私、だいぶ自分の気持ちも整理ができた気がします。

この連載で、お悩みを打ち明けていただいたり、問題提起していただくことで、大切なことを改めて実感したり、自分を省みたりするきっかけを多くの人に提供でき、生きていくうえでの学びが深まっていくと思うので、みなさま今後ともどうぞ、末長~くよろしくお願い致します。投稿、お待ちしております!



【今週のお絵描き】

画・宇多丸



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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。

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女子部JAPAN こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは「F30プロジェクト」と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。女性活躍推進など、"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。



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