言うことが昨日と今日で違う、とよく言われます。私は変なのでしょうか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室236】
✳️今週のお悩み✳️
こんにちは。私の悩みは自分の性格についてです。言うことが昨日と今日で違う、と彼や友達によく言われます。自分では、悪く言えばちょっとわがまま、よく言えば素直と思ってはいるのですが、たとえば、細かいことですが、ケーキなど甘いものはあまり食べないので、あまり好きじゃないと周囲に言っていたとしても、たまに食べたいときってあるじゃないですか。で、食べたい!と言っていると、コロコロ変わって読めない……と。でも人間、いいと思っていたものが急に嫌いになったりとか、そういうこともありませんか?
それとも私は変なのでしょうか……?
(ユーグレナ・32歳・東京都)
宇多丸:
端的に言えばさ……、どいつもこいつもうるせぇなバカ野郎!ってことに尽きない?(笑)
僕も、普段は明らかに甘いものは好きじゃないし、それを公言してもいるけど、だからって別に「絶対に砂糖っけがあるもんは口に入れねぇ!」とかってわけじゃ当然なくて、言うまでもなくですが、たまたまコースに付いてきたケーキを食べて普通に美味しく感じたり、ときには積極的にチョコとかが食べたくなることもある。 それの何が悪いんだか、文句言われる意味がマジわかんない。
「武士に二言はない」みたいなのはさ、何かその人の信義にかかわるような、よほど重大な約束ごとか、さもなきゃ裁判や国会での答弁みたく公的な場とか、そのくらいシビアな場でのみ意味を持つ物言いなんであって、それ以外のたいていの局面では、人の言動にそこまでの一貫性を求めるべきでも、それを目指すべきでもないと、僕はむしろ思いますけどね。 結果として一本筋が通ってた、ってことなら、それはそれで全然いいんだけどさ。
こばなみ:
一貫しているほうがいい、みたいな雰囲気ってありますよね。
宇多丸:
「ブレない」とか、褒め言葉として完全に定着した感すらあるもんね。
その尊さ良さがあるというのももちろんわかるんだけど。
でもそれって、角度を変えれば、「進歩がない」とか「頭が固い」って言い方もできるわけじゃん。 逆に、言ってることがちょいちょい変わる人というのはつまり、「常に柔軟で、思考停止に陥っていない」、という風にも言えるわけで(笑)。 要は、こんなのは光の当て方次第、切り取り方次第なんだから、どちらかが絶対的にいいとか悪いってもんでもないはずでしょ。
なんにせよ僕は、しょーもない件で「前はこう言ってたのに」みたいなことをことさらに言いたてる人こそ、ちょっとイヤですけどね。 んなもん、「それはそれ、これはこれ」に決まってんだろ!
こばなみはどう?
こばなみ:
私もケーキに関しては同じだな。デフォルトでそんなには食べないけど、そりゃ食べたいときもあるし。
全体的に、「ブレないほうがいい」って押し付けられるのは嫌ですね……。
宇多丸:
僕なんか相当「柔軟」ですよ!
あれほど導入に消極的だったスマホも、使い出してみたら速攻「便利だねぇ~!」って(笑)。
こばなみ:
この連載でもスマホに関しては相当言ってましたよね(笑)。
宇多丸:
でも逆に、「新しいものに対して、常に柔軟でいなければならない!」みたいな気負いも、それはそれで窮屈に感じるんですよ。
その都度その都度、その人なりに考えて対応してけばいいじゃん、そんなもんは別に。
たぶんだけど、ユーグレナさんの周りの人たちは、言ってみれば血液型性格診断的な思考法というか、人を固定的な類型に当てはめて何かわかった気になりたい、手っ取り早く安心したい、みたいなところがちょっとあるんじゃないですかね。 だから、いったん「この人は甘いものが嫌いな人」ってことにしたら、そのままでいてくれないとどう捉えたらいいかわからなくなっちゃって困る、みたいな。
あとはたとえばだけど、たいして親しくもない、たまにしか会わないような相手なのに、こっちが前から当たり前のようにしてるようなことをたまたま目にして、「◯◯してるなんて珍しい~!」「らしくない~(笑)」とかドヤ顔で的はずれなこと言ってくる、みたいなことってあるじゃん。 いや別にまったく珍しくないし……、ていうか、そもそもお前がオレの何を知ってるって言うんだ?っていうね。 そういうのでイライラしちゃうときってない?
こばなみ:
あるある。
スカートはいてると、あれ今日はどうしたの?みたいなのとか。
いやいや、ここ数年はいつもはいていますけど!
宇多丸:
というわけで、もちろんユーグレナさんが悪いわけでもなんでもなく、「変なのでしょうか?」なんて思わなきゃいけないような状況のほうがおかしいよ。
こんなのを「性格上の問題」と思い込んでしまうとか、ホントやめたほうがいいと思いますよ。
まぁ、これがたとえば、仕事上で上司が出してくる指示がコロコロ変わって矛盾してる、とかだと、さすがに周りも大迷惑だろうけどさ。 それでさえ、毎回ちゃんと前言撤回!って宣言して、その理由をきちんと伝えてくれるなら、絶対にナシってわけでもないだろうと思うし……。
なんというか、「ブレない」ことを目的化してしまっているよりは、ずっとずっとマシだと思うんですよね、「ブレ、からの補正」は。
こばなみ:
あ~、たしかに「ブレないことを目的としてる」人、いますよね。
宇多丸:
まぁね、「決して譲れないぜ この美学」とか自分らも歌ってますけど(笑)。
あれも、かれこれ30年前に書いた歌詞だから!
そのころと考えがまったく変わっていないとしたら、そっちのが悪い意味でヤベーだろ!ってことだし。
あえて言えば、ユーグレナさんも僕も、「私は甘いものが嫌いです」なんていう打ち出しを、必要以上にすることもなかったかもしれないよね。 そうやって、自己定義という名のレッテル張りを自分自身にして、可能性や感受性を閉じてしまっていた面はなかったかと言えば……、でしょ? なので、そこはお互い、素直に自戒していきましょうということで……。
とにかく、場合によってはいつでもごめんなさいしてブレる用意あり!くらいの前向きに謙虚な姿勢でいたほうが、この先さらに人生豊かになる余地が、よりありそうなのは間違いないと思いますよ。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2018年5月19日に公開したものを再編集し、掲載しています。