家族で会いたいから、兄にコロナのワクチンを打ってもらいたいのだけれども……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室380】
✳️今週のお悩み✳️
身内の思想の違いについて相談です。私は実家で両親と暮らしているのですが、都内でひとり暮らしをしている3歳上の兄がいます。その兄がコロナのワクチンは打たないと言っています。兄は基礎疾患やアレルギーがあるわけではないのですが、どうしても打ちたくないそうなのです。私や両親は、兄と会いたいので打ってほしいと思うのですが、本人の意向もあるので強く言えないでいます。どうしようもない問題だとわかっているのですが、できれば打ってもらい、みんなでご飯を食べたりしたいです。相談になっていないかもしれませんが、アドバイスいただけると助かります。
(おいも・30歳・会社員・千葉県)
こばなみ:
これは、あちこちで起こっている問題なんじゃないですかね。
宇多丸:
まぁ一般論で言えば、打つ派も打たない派も、お互い考えを押しつけ合わない、というのが一応のマナーという感じに、今の日本ではなってるかなと思いますが。
ある程度距離をとったままでいられるような関係なら、それでひとまずぜんぜんいいんですけど。
とはいえ、個人的には、最近わりと近しい方が、ワクチン未接種のままホントにコロナでいきなり亡くなっていたりもしてるんで、状況を安易に軽視するような言動を聞くと、正直ストレートに腹が立つ、くらいのテンションではあります。
前にも言いましたけど、お身内や親しい方をコロナで亡くされてるというような人が、まさに今、横にいるのかもしれないと思いながらみなさん暮らしてくださいね、というのは切に訴えたいあたりで。
後遺症に苦しんでる方だっていっぱいいるわけだし。
それはもう、ワクチン打つ派だろうが打たない派だろうが関係なく、です。
なので、まだまだコロナを甘く見るのは早いと思うし、そんな現時点での対抗策として、やはりワクチンの普及が一定の効果を示しているのも明らかだろうから……。
こばなみ:
打ちたくても打てない人もいますからね。
宇多丸:
そうだね。
国によってはワクチン不足こそが深刻な問題なわけだし、いろんな体質や病気などとの兼ね合いでリスクが高くなってしまう方というのも、もちろんいらっしゃるようですよね。
こばなみ:
その人の考え方だから、すごく話しにくいことになってるなぁとは実感しています。家族とかは忌憚なきところが話せるけども、友達とかだと、打ってない理由とか、聞いたところで、平行線になりそうで……。
宇多丸:
まぁだからやはり、さっきも言ったように、基本は互いに押しつけ合わないようにする、というのがまずは穏当な線引きではあると思いますよ。
ただ、今回のケースのようにご家族だったり、あるいはパートナーだったり、単にしばらく距離を置いて済ますというわけにもゆかない関係性の場合が、ちょっと厄介ですよね。
ありがちなパターンとして、改めてしっかり言ってきかせようとしても、かえって強い反発を招いてしまうだけ、ということも考えられるし……。
ありうる説得の方向性としてはやっぱり、「親のため」という錦の御旗を掲げる、って感じなのかなぁ。
たとえば、あなた自身のことはじゃあ百歩譲って勝手にすればいいけども、直接会うとなると、そちらのポリシーのためにこちらも望まぬリスクを負わされることになるわけで、特に親はやはり高齢だからワクチン接種済みとはいえ心配なので、そっちもちょっとは譲歩というか協力してくれないか……みたいな話の持ってき方で、どうですかね。
こばなみ:
人のことを考えてっていうのはありますよね。自分の感染も怖いけど、人にうつしてしまったらと思うと本当に苦しい。
宇多丸:
そうなんだよね。
我が身がかわいいというのは当然として、自分自身がウイルスのキャリアになるかもしれないからこそ、ということも、我々みんなもっと真剣に考えたほうがいい気がしますね。
まぁ、そんな話ができるかどうかも、お兄さんがどういう経緯でそこまで強固なワクチン拒絶派になったのかにもよるかもだけど。
こばなみ:
兄妹なのだから、本当の理由を聞くことはできる間柄ではあるんじゃないですか。
宇多丸:
とはいえ、肉親だから最後にはわかり合える、というのも間違いなくひとつの幻想ではあるだろうから、あまり期待はしすぎないほうがいいかもしれないですよ。
時間をおいて頭を冷やしてもらうしかない、ということもやはり世の中にはありますから。
いっぽうで、親御さんと会える時間だって、無限じゃないですからね。
そこんとこお兄さんは、本当にわかっているのかなぁ……。
ちなみにですが、PCR検査はお兄さん的にはアリなんですかね?
たとえば、一定の隔離生活や検査を直前にしてもらう、というのも一応、かなりの譲歩ではあるけど、選択肢としてなくはないわけですが。
こばなみ:
お兄さん、別にそこまでして会わなくてもいいと思ってるのかもしれないですけどね。
でも、会いたいと思ったときにいなくなっちゃうということもあるし……。
宇多丸:
ホント、いつまでもあると思うな親と金!なんだけどね。
それと、仮にそうやって検査やら何やらでとりあえず面会オッケーにしたとしても、そもそも「家族なのにお互い見てる景色が実はまるで違った」という現実を突きつけられたことからくるショック、断絶感が、本質的に解消されるわけではないでしょうからね……。
しかし、とにかくひとつはっきりしているのは、もし仮にこのままお兄さんがワクチンや検査などの手をいっさい打たずに帰省とかしたとして、万が一ですけど、その後、親御さんの身に何かがあったりしたら……。
それこそおいもさんは、一生決定的にお兄さんを許せなくなってしまうと思うんですよね。
それが一番避けたい事態じゃないですか。
だからやっぱり、念のためだろうが気休めだろうが今やれることはやっておくべきだし、そういう考えというか覚悟のほどは、お兄さんに改めてはっきり伝えていいと思う。
さらにもうちょっと手前の話をするならば、お兄さんがこんなふうに、おいもさんたち他のご家族とかけ離れた極端な考えを持つに至ったのは、ひとりで東京で暮らしていて、特にコロナ禍でそうなった人は実際多いだろうけど、コミュニケーションのチャンネルが非常に限られてしまっていた、ということも実はすごく大きいと思うんですよね。
そのせいで、ある方向の思い込みが、どんどん強化されがちだったりもしたのかもしれない。
そしてそれは、ある程度時間をかけて醸成されたものであるぶん、そう急には解きほぐせなかったりもするだろう、と思うんです。
そこで結果を急ぐあまり「なんでわかってくれないの!」とかいらだっちゃうと、たぶん逆効果というか。
なのでやはり、焦らず少しずつ、あちらの気持ちが徐々にでもほぐれてくれるよう、できるだけ穏当で常識的なやりとりを日常的に重ねてゆく、ってことしかないのかなという気もします。
ということで、今回は特に、スッキリ解決!とはゆきませんでしたが……。
こばなみ:
でも本当に、このお悩みの類いは、今、現実にたくさんあることだと思いましたので、取り上げさせていただきました。