仕事をしっかりやってるのに認められないのは、上司に媚びないから?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室61】
✳️今週のお悩み✳️
私の悩みは、職場で上司に「目の敵」まではいかないかもしれないんですが、目を付けられているという事です。きっと私が上に媚びるようなことをまったくしないからだと思います。仕事は人よりシッカリしていても(数字に出ています)、陰でで「あいつはやる気がない」などと言われたりしてるようです。仕事は手を抜きませんが、認められないので虚しくなって嫌になってしまうこともあります。 もっと同僚のみんなのように上司とたまには笑い合いながらおしゃべりしたりすればよいのかもしれませんが、そんなのは無意味だと思っています。同僚のみんなは私が頑張っているのをわかってくれています。それが救いです。 お二方はどう思いますか?
(やや・29歳・青森県)
宇多丸:
「やる気」って曖昧な言葉だからねぇ……。
これはまず、まさに部下を使う立場、上司側であるこばなみの意見を聞いてみたいところだね。
こばなみ:
う~ん……。もちろん上司が嫌なヤツ、ってのもあるのかもしれませんが、「そんなのは無意味だと思っています」というところが気になるんですよね。
おしゃべりとか笑い合うとか、そういうのを含めて仕事だし、会社だと思うので。 職種にももちろんよりますが、そういった上司とのコミュニケーションが無意味と思って、そんなもんは数字に反映されないと思っているのだとしたら、それはちょっと違うと思うな。
宇多丸:
そうだね。少なくとも完全に無意味とは言えないでしょ、と僕も思う。
要は、いくら仕事だっつたって、人間同士でやってくものである以上、そこに感情というのはどうしても入ってくる。 そこでさ、わざわざ空気を悪くするよりは、それぞれができるだけいい雰囲気を保つよう心がけてるっていうほうが、そりゃあやっぱり、仕事だってより円滑に運ぶでしょうよってことだよね。
これまでにこのコーナーで何度か、「なんであれ怒って言ったらいい結果にはならない、こちらが明らかに“正しい”場合はなおさら!」みたいなことを言ってきたけどさ、それともちょっと通じる話で。
いくら言ってることが正しくても、たとえば言い方が感じ悪かったとしたら、そりゃ相手だってどうしてもすんなりは受け容れづらくなっちゃうよね。 つまり、ややさんの言うように「仕事はちゃんとやってるし、数字にも出てる」っていうのはもちろん“正しい”んだけど、上司も人間だからさ、それこそ物の言い方ひとつでカチーンと来ちゃうことも、当然あり得るわけですよ。ひょっとしたらどこかのポイントで、そういう悪印象を決定的に与えてしまったのかもしれない。
そのせいで余計な摩擦を生んでしまい、結果として自分の仕事へのモチベーションさえ下げることになってしまっているのだとしたら……。
こばなみ:
それ、すごく非効率ですよね。それこそ無意味な気がする。
宇多丸:
ややさんの気持ちもわからなくもないけどね。
本当にヒドい上司っていうのも、世の中には確かにいるんだろうしさ。
それに、人間どうしたってウマの合う合わないっていうのはあるからね。
短い人生、なんでそんな相手と必要以上に付き合わなきゃなんないの、っていうのも、まぁ心情としてはわかる。
こばなみ:
後輩たちに私もこういうことを言われてるかもしれない……。うお~。
宇多丸:
「あいつはやる気がない」とか言ってるの?
こばなみ:
「手を抜いたな、この原稿~!」とかは言いますけどね。なるべく一方的に決めつけず、なんでそうなったのか?とか、話を聞こうとはしていますけど、頭ごなしに怒っちゃうことも、そりゃありますよ。
ま、でも、何の職種であれ、宇多丸さんも言ってた通り、感じが悪いよりはいい方が絶対いいですよね。
宇多丸:
なんにしてもこれ、状況が改善する余地があるとしたら、間違いなくそれは上司側じゃなくて、ややさん側からの働きかけ以外にはあり得ないですよね。
とは言っても、今さら急にフレンドリーに接しろっつったって無理な話だろうしね。
でも、僕が思うのはさ、別に「笑い合いながらおしゃべり」みたく、普段から親密なコミュニケーションを取るっていうんじゃなくても、要は「私はあなたにちゃんと敬意を持ってますよ、敵意など決して持ってませんよ」ということが伝わればいいんだからさ、そのやり方っていろいろあるじゃんっていう。
たとえば、どっか行ったときにはしっかりお土産を買ってきて、同僚たちに渡す流れからでいいから、自然に上司にも渡すとかさ。 そこで「これ、すごく美味しいので、よろしければ」とかなんとかひと言添えれば、ややさん自身の気持ちがこもってるんだ、というのがよりはっきりわかってなお良し!ですよ。 そしたら上司だって、さすがに「お、ありがとう」とか、ポジティブなリアクションで返さざるを得ないでしょ。 一度そういうやりとりをしちゃった相手を、そうそう憎々しく思ってばかりもいられない、っていうのもまた、人間の感情というものだからさ。そしたら関係性だってちょっとずつ、変わってくるんじゃないかなぁ。
あとは、フツーに毎日のあいさつとかですよね。せめてそこだけは、きっちり感じ良くするよう努める。 ホント、その程度の心遣いがあるかないかでも、だいぶ違うと思いますよ。 そんなもんで少しでも仕事がやりやすくなっていくんなら、安いもんじゃない? そういうのは、「媚び」じゃなくて、「知恵」って言うんですよ!
こばなみ:
おそらく今は、敵意がばっちり見えちゃってるんですよね。そうしたら、上司も「コノー!」って言うしかない。
そういうのに気づいた先輩とかがいたら、言ってあげるといいんだけども……。 これは私の想像だし、余計なお世話だったら申し訳ないですけど、「仕事をしっかりやってさえいればいい」と思っていると、それ以上にはなれないんですよ。
しっかりやっている。それは悪くはない。でも良くはない。 あまり上限を決めない方がいいのかなって思って。
すごくいい方向に考えると、上司がややさんにいろいろ言うのは、「自分とソリが合わない人ともコミュニケーションできれば、もっと仕事ができるようになるのでは?」というように期待している可能性も、なくはないんじゃないのかなって。 何も言われないより、いろいろ言われる人の方が伸びしろありますから、絶対。
宇多丸:
逆に、今後ややさんが人を使う側、すなわち上司的な立場になったときに改めて、ここで僕らが言ってるようなことが、より身にしみてわかるようになるのかもね。 「職場の雰囲気とか対人関係に気を遣うって、決して無意味なことなんかじゃなかった……!」ってさ。
まぁ、だとすると今の上司はやっぱり、そこらへんがあんまり上手くできてる人とは言い難いのは確かなのかもしれないけどね。実際ややさんとの関係はギスギスさせちゃってるわけだからさ。 向こうは向こうで、ややさんをどう扱っていいのか悩んでるのかもしれないよ?
もしホントにそうなら、ややさんがちょっと歩み寄ってきただけで、ものすご~く嬉しく感じてくれちゃう可能性もある。
ちなみに、たぶん同僚の皆さんも、上司のそういう不器用さ、ダメなところを重々承知した上で、あえてなお「笑い合いながらおしゃべり」してるんじゃないですかね。ややさんが正当に評価されていないのもちゃんと理解してくれてるくらいだからさ。
とにかく、どうしてもウマが合わないなら今から無理して親しくなれとは言わないけど、さっき提案したようなお土産作戦や日々のしっかりあいさつ程度、要は「敬意を示す」行為くらいはさ、ややさんの主張する“正しさ”とは別の次元で、フツーに社会人の作法として日常的にやっておくべきことだと僕は思うし、そんなこんなも結局は、物事をスムースに運ぶための、人類の知恵なんだってことですよ。
これは一般論として聞いてほしいけど、どれだけ自分では仕事デキるつもりのヤツでもさ、日々接しててなんだか感じ悪いような人とは、誰も継続して仕事したいとは思わないと思うんですよね。よっぽど替えが利かない、天才的アーティストや職人でもない限り。 それってじゃあ、結果「仕事できない人」と同じじゃん!
僕の周りで考えてみても、ずっと第一線で活躍してるような、本当の意味で「デキる」人でロコツに感じ悪い人って、まずいない気がします。
「アイツはクソ野郎だが仕事は抜群だからな……」なんてのは、ほぼ映画やドラマの中だけの話だと思ったほうがいいよ!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年9月13日に公開したものを再編集し、掲載しています。