欲しいと思っても「本当に必要なのか?」となかなか「買う」決断ができません。買い物を楽しむコツを教えてください。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室385】
✳️今週のお悩み✳️
先日、靴を買いにデパートへ行ったのですが、履き心地もいろいろ、値段の差も様々なたくさんの靴を前に迷っているうちに、だんだん憂鬱な気持ちになってきて、結局買わずに帰ってきてしまいました。そもそも靴を買いに行ったのも、今履いている靴が痛んできたために交換しようと思ったからだったのに、必要な買い物の時でさえこんな風に手ぶらで帰ってきてしまうことが多くて困っています。
他のことでは特に優柔不断なタイプでもなく、それなりにファッションにも興味があり……、でも物(特に嗜好品やおしゃれに関するもの)に関しては欲しいと思えるものに出合っても、「本当に必要なのか?」「無駄遣いなんじゃないか?」という疑問が頭をよぎり、なかなか「買う」という決断ができません。
宇多丸さんはいつもお気に入りを身につけているイメージがあるのですが、買い物を楽しむコツや、自分の「欲しい!」という気持ちを認めてあげる方法があれば、ぜひ教えてください!
(てくてく・43歳・会社員・東京都)
こばなみ:
宇多丸さんは、どっちかっていうと、ちょっといいなと思ったら、とりあえず買っちゃうみたいな感じですか?
宇多丸:
前々回にも言ったように、最近ようやく家の持ち物を大幅に整理したので、今はだいぶ抑制していますけども、基本やっぱり、物欲かなり強めなほうなのは間違いないですよね。
全欲のなかでも、ぶっちぎりトップなくらい(笑)。買い物のためなら早起き苦じゃない!
ま、80年代、消費社会全盛期に育ったのが大きいのかな、やはり。
いったん欲しいものができちゃうとそのことばっかり考えちゃって、手に入れない限りその呪いが解けない、という感じですよね。 逆に言えば、無事ゲットして呪いが解けてしまえばもう、そこまで執着することもなくなっちゃう……って、みなさんこれ、あくまで対モノの話ですからね!?(笑)
とはいえ、面倒なことに根は堅実でもあるので、そこはてくてくさんともまったく同じように、もったいないかな~とか、いちいち逡巡もするはするんですよ。 ただ今は、その悩んでる時間こそが無駄っていうか、どうせその後もウジウジ考え続けてしまうんだから、だったらとっとと買って使って減価償却しちまえ!というふうに考えるようにしていて。 つってもそこまで高い買い物するわけではないし、ギャンブルするとかでもないんだから、どっちにしたってたかが知れた散財ですしね。
こばなみ:
てくてくさんは、本当に欲しいっていうところまでいってないんじゃないかって。
私もよくあるんですけど、なんか気持ちがマックスまでいってないからやめとこうみたいな。
宇多丸:
それはそれでいいんじゃない?
僕のような浪費家からすれば、その手前でしっかり自分でブレーキを踏めるって、ストレートに尊敬しちゃいますよ。
そこでたとえば、使わなかったぶんのお金を、臨時収入!とでも考えるようにしてゆけばいいんじゃないですかね?(笑)
要はみなさんもっと、この程度の問題に対しては、結果オーライ思考で生きてくほうが楽にならないかな、と。 やっちまったことは今さら取り消せないんだから、そこまで重大な件でないなら、後づけ、こじつけでいいから、これで良かったんだ、長い目で見れば正解だったんだ、などと考えるようにする。
何か買ってしまったなら、早く使い始めて減価償却できる! ウジウジする時間もカットできた! もちろん欲しかったものがゲットできて幸せ! オールオッケー!と考えないと。 事後にまだ悩んじゃうのとか、バカみたいじゃないですか。
こばなみ:
買って後悔することはないんですか?
宇多丸:
基本あんまりないけど、たとえばフィギュアを買いました、それが思ったほどの出来じゃなかった、としましょうか。
そしたら、「思ったほどの出来じゃない、ということが、確かめられて良かった!」と考えます(笑)。
もし買わなかったら、その後もずっと「あれ良かったのにな、買っときゃ良かったかな」とか、そのブツの幻想に踊らされ続けたかもしれないわけだから。 いざ買ってみりゃあなんのことはない、正体見たり枯れすすき! たいしたことない! するとやっぱり、しばらくフィギュア熱も収まったりしてね。 あれ以上無駄なもん買っちゃったりしないで良かった! 勉強代と考えりゃ安いほう!
こばなみ:
なんてポジティブな!!
宇多丸:
だって、買っちゃったという事実がすでに変えられないなら、今さらクヨクヨばかりしてても意味ないでしょ。
それより、これはこれで無駄ではなかった、という部分を見いだして今後に生かすというほうが、明らかに合理的じゃない?
たとえば、大事にしてたものが壊れちゃった、それはもちろん悲しいんだけど、どっちにしたって取り返しはつかないなら、ひょっとしたら自分がもっとひどい事態に遭う身代わりになってくれたのかも、くらいに考えとこうよ、みたいな感じですよ。
こばなみ:
厄落としみたいなことですかね。
宇多丸:
正確には、厄落とし的なものだったんだ、と「考えるようにする」ということね。
ウジウジ考えてもしょうがないことに対するあくまで一種の知恵として、そういうマインドセットを使いこなす、ということですよ。
「ポジティブシンキング」って言葉はあまりにも定着しすぎててバカにしがちだけど、ホントにそれで済む程度の件に関しては、じゃあガンガン使ってけばいいじゃん!というのが僕の持論です。
もちろん、家計が傾いてるとか、家族が崩壊しかけてるとか、そういう「考え方次第」ではどうにもならない重大な客観的問題なら話は別だけどさ。 ちょっとした買い物くらいのことにやたらとウジウジして時間や体力を使うのは、やっぱアホらしいと僕は思いますね。
こばなみ:
前に「すぐタクシーに乗ってしまいます。どうしたらやめられますか?」っていう相談があったじゃないですか。
そのときに、それを後悔している時間も無駄だし、時間とか休息とか贅沢とかを買えると思ったら無駄じゃないって話があったと思うんですけど、まさにそんな感じなのかなって。
宇多丸:
そうそう、ズバリそんな話もあったね。
とはいえさっきも言ったように、どんなことでも「考え方次第」で片づけていいとは言ってないし、なんならそういう物言いは僕ははっきり嫌いなんだけども。 でも、靴買う買わないくらいは、なんにしたってプラス思考しときゃいいでしょう!
こばなみ:
自分だけのことですしね。他人は関係ないですし。
宇多丸:
そう、自分の胸三寸なんだから。
てくてくさんに関して言えば、とかく「買わない、もったいない」方向に思考が向きがちなんだとしたら、別に今は無理して買うことなくない?ってだけのことじゃないのかな。
こばなみ:
でも、靴が傷んできちゃったんですよね?
宇多丸:
じゃ、ちょっと今までとは話のモードを変えますけど。
つまりてくてくさんは、必要性とは関係なく新しいものを「欲しいから買う」という、いわゆるファッション的な消費サイクルでは、靴というものをとらえてはいないわけですよね。少なくともそういうのは性に合ってない。
だとしたら、僕が前からちょいちょい推奨しているように、オーダーメイドで自分にピッタリな一足を作って、それを適宜リペアしながら一生丁寧に大事に履いてゆく、みたいなのが向いてるんじゃない?
特に女の人のパンプスは、スリップオンなのにスポスポ脱げちゃダメという実は大変難しい靴なので、既存品で自分に完全に合うものに出会うなんて、事実上不可能なわけですよ。 そりゃ足も痛めますよね。
だからこそオーダーメイド! ぶっちゃけお値段はかなり張りますけど、知人の一流靴職人いわく、足が数段細く見えるし、もちろん蒸れない疲れない。で、リペアしてけば一生履ける。 半端にブランド品を買い継いでゆくとかより、絶対イケてるしお得だと僕は思うけど。 世界で一足、あなたのためだけの、まさしくシンデレラなパンプスですよ!
こばなみ:
かなり興味が湧いてきました!
宇多丸:
そうやって、本当に自分に合ったものを大切に愛でてゆく、みたいなライフスタイルのほうが、てくてくさん向きなのかもしれないですよね。
ではその「本当に自分に合ったもの」とはなんなのか? ……その探求とはすなわち、より深く自分自身を知ること、でもあるはずだから。 それってすごく、ワクワクすることじゃありません?
あともうひとつ、買い物に行く際のアドバイスめいたこととしては、やはり事前に「自分が欲しいモノ」のビジョンを明確化しておく、というのはあるかもしれません。 こういう色、こういうカタチのスニーカーなり、ブーツなり……みたいなイメージも何もないまま、いきなり売り場でありあまる選択肢を前にしたら、そりゃどうしていいかわからなくなるのも当然で。
いずれにしても、いつも言ってる話ですが、やっぱりてくてくさんも、「自分が“快”と感じる」状態や対象について、日ごろからもっと考え抜き意識化する、ということをするべきなんだと思いますよ。 自分の欲望の在り方をしっかり把握しておく、というかね。
まぁ、僕のようにただただ物欲に踊り続ける人生もどうかと思いますけど……(笑)。 要は、当人が楽しきゃいいの!
こばなみ:
はい!
あと、自分もなのですが、わりと40代女性って、上の世代にいくか、下の世代のままでいるかとか、ファッションに迷う時期じゃないですか? それこそ体型も変わってくる時期だったりして。
なので、私もこの機会に自分の”好き”を集めてみて、自分が快適なスタイルを見つけたいなぁと思いましたよ!
まだ年も明けたばっかりだし、今年の自分をイメージしてみるのも楽しいかも!ですね。