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「容姿をジャッジする」話題が極端に苦手ですが、好きなアイドルを「かっこいい」と応援する矛盾に苦しんでいます……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室446】


✳️今週のお悩み✳️
性別に関係なく「容姿をジャッジする」話題が極端に苦手です。一番の理由としては、自分に対するジャッジに聞こえるからです。そういった話題を親しい家族や友人にふられた時は話をそらしてしまいます。
苦手であることを正直に伝えた際に「過敏すぎる」「そんなことを言われたら何も話せなくなる」と言われて以来、へらへらと笑ってごまかしてしまうこともあります。内心「自分も品定めされているのではないか」という恐怖からとても辛いです。
特に未だに年下から同年代の男性は、過去に受けた容姿へのジャッジでの嫌な記憶が多く、近くにいるだけで身体が強張るほど苦手です。コロナ以前よりマスクも常につけていて、外食や病院でも必要最低限しか外さないようにしています。
大好きな趣味を楽しんでいても「今のオタクはおしゃれでかわいい」「○○のファンは美人が多い」といった文言を目にして、心から楽しめないことが度々あります。趣味の領域でまで容姿をジャッジされるのか、というやるせなさが浮かび上がってきます。読んでいた小説に「○○なのが美人の証」という一文が出てきて、真逆の特徴を持つことから涙が止まらなくなったこともあります。
容姿への蔑みはもちろんのこと、上記のような褒め方からも「大多数から好まれる容姿ならもっと楽に生きられたのだろうか」という身勝手極まりない考えが浮かんできて、罪悪感と嫉妬心から苦しくてたまらなくなることがあります。また、これだけ自らの容姿へのジャッジに対して敏感であるにも関わらず、好きなアイドルを「かっこいい」と応援する矛盾にも苦しんでいます。歌やダンス、考え方が大好きだからこそ、という前提はありますが、言い訳ではないかと恥ずかしくてたまりません。しかも、その方は苦手であるはずの同年代の男性です。
まとまりのない文章で、もはや相談という形ではなく申し訳ありません。少しでも私の偏見を改善できる助言をいただければ幸いです。
(でみせ・30歳・会社員・福岡県)


「趣味の領域でまで容姿をジャッジされるのか」って、これ読んで、たしかに!と思いましたよ、改めて、遅まきながら。

オタクだのファンだのって本来、「◯◯が好きなこと、それ自体」だけで完結している、だからこそ意味があることだったはずなのに……そこに、それとは関係ない世間的な比較の尺度を持ち込んでなんか言ったような気になるとか、マジで世知辛いしヤボすぎるから、やめれ!

まぁたとえば、古参としてそのシーンの「イケてなかった時代」を知ってるからこそ、嬉しさ半分やっかみ半分でその手のことを言ってしまったり、僕もぜんぜんしてきたと思うんで。
反省して、自戒いたします!

ちなみに僕も自分のルックスに関しては、おそらくは多くの方と同じくただただコンプレックスの塊なので、でみせさんの苦しみにも、すごく共感しますよ。
すごい無神経なこと言う人、いっぱいいるよね、世の中って。

もちろん同時に、そうは言いつつも、とくに昔は絶対、意識的にも無意識的にも人には最悪なことたくさん言い散らかしてたと思うし、今だって完全にゼロではないはずだから。
繰り返しになりますが、せめて自戒に努めないといけない、と考えております。


いっぼうででみせさんは、自分が「かっこいい」とアイドルを応援することに矛盾を感じて苦しんでいる、ということですが。


まぁ、美しさとかかわいさっていうのは、もちろんひとつの「能力」ではあって。
たとえば、ずば抜けた見た目の優秀さを、合意のもと競技化したり職業化したり、というような領域というのも当然いっぱいあるし、これまた本来、それ自体が悪いことというわけでもないはずだと僕は思うんですよね。

ただ、そのような見た目によるジャッジを一般の生活に持ち込んだり、あまつさえそれによって人を貶めたり差別するようなことがあってはならないという、問題はそこでしょう。
下手すると優生思想みたいなところにつながりかねない部分もたしかにあるし。

それってじつは、べつに容姿に限んないよね。知的能力や財産、出身や民族や人種、信仰や思想、性別や性的指向、などなど、なんだっていいんだけどさ。
とにかく単純に、法を破ったり他人の権利を侵害しているのではない限り、「ある人の在り方」を外野がどうこう言うべきではない、まして否定してはならないという、じつにシンプルな大原則を思い起こせばいい、ってことじゃないですかね。

たとえばでみせさんが悩んじゃってるアイドルというものについては、さっき言ったような「ルックスという能力の職業化」の一種とも言えるわけだから、特にその秀逸さを堪能したりそこに向けた努力を称えたりすることに後ろ暗さを感じる必要は、もちろんないと思いますけどね。
たとえばスポーツ選手を応援したからといって、運動能力に劣る人をバカにしてるとか否定してるってことには、べつにならないじゃないですか。それと同じことだと思うんですけど。

そんなこと言い出したら「人を褒める」ってこと全般、その前提には「そうではない人」の存在があるわけだけど……要は、それによってより弱い立場の人を間接的にサゲるような意図がある、もしくはそう感じられてしまうような物言いは、なんにせよ暴力性をはらんでいると言えるよ、という話であって。
前述の「今のオタクはおしゃれでかわいい」とかは、まさにその構図を含んでいるから良くない、ってことですよね。

ということでとにかく、ルッキズムによるジャッジに自らは傷つきつつ、美しいものに惹かれもする、というのは、矛盾もしてなければ、恥ずかしいことでもないですよ。
でみせさん、なんも悪いことしてないじゃん!

だからそこをまず納得していただいた上で、さらにできれば、少なくとも、純粋に美しさを称えるだけの文脈にも自分に対する攻撃性を感じてしまうような心持ちからは、なんとか脱せるといいですよね……。

それこそ、美などあくまで長所の一種にしかすぎないし、その尺度もまったく単一ではない、という紛れもない真実は、でみせさんの心を楽にはしないのかしら。

僕自身はもう、ことルックスということに関しては、「大谷翔平ってすごいね~」くらいの気分ですけどね(笑)。
つまり、我々の誰も大谷翔平のように投げたり打ったりできないけど、べつにそこにコンプレックスを感じもしないじゃないですか?
なぜなら僕らは、それとはべつんとこで勝負したり、幸せや喜びを得てるわけで。
逆に、大谷翔平だって彼にしかわからない苦しみや劣等感、絶対あるはずだしね。
だから、あんま人とくらべて悩んだりしても意味ないかなーって。


なるほど、その例はわかりやすいですね!


でも、そこでもし仮に、「大谷翔平にひきかえお前は運動音痴で稼いでもいなくて」とか無神経にディスってくるバカがいたとしたら、それはそれでしっかり不快にはなるわけじゃないですか。
だけどそれは、あくまでそのバカが悪いんで、こっちや大谷翔平が悪いんじゃない!(笑) 

と同時に、そういうのとはべつの次元で、「自分が好きな自分でいる」ための努力や工夫をする余地がもしもあるならば、それはそれでできるだけのことをしておくに越したことはないだろう、とは思いますけど……。
僕の場合なら、「好きな服着て自分をアゲる」ってことだけは譲らない、みたいなことが、そう簡単に外野には左右されない自尊心の担保に、やはり多少はなっていたりもすると思いますしね。


偏見を改善できる助言を、とのことですけど。


でもこれべつに、偏見があるのはでみせさん側じゃないからね。
そもそもはやっぱり、とくに女性を外見で差別してきた社会こそが歪んでるんであって、改善すべきなのはそっちだろ、っていう。

あえて言えば、周囲のそういうクソな価値観に長年ダメージ喰らいすぎてか、どうやらご自分に対しても過剰に卑下するような「偏見」を抱くようになってしまっているっぽいことに関しては、たしかに「改善」したほうがいいのかもしれないけど。

大事なことなんでもっかい繰り返しますが、「美などあくまで長所の一種にしかすぎないし、その尺度もまったく単一ではない」ので、少なくともその一点だけを人とくらべてあーだこーだ言っても、マジであんまり意味なくて。
そんなことで、とくに他者を貶めたりする言動は厳に戒められるべき、なんてのは言うまでもなくですけど、同じように、自分のことをやたらと低く見積もって落ち込んだりするのも、できるもんならやめたほうがいい癖だというのは、間違いない。
これは正真正銘の真理だと思いますが、でみせさんにも、なんとか心から実感してもらえるといいんだけどな……。

たとえば相談文にある、「大多数から好まれる容姿ならもっと楽に生きられたのだろうか」っていうのもさ……。
仮にホントにそれ的な資質を備えた人がいたとしても、だからって人から嫌われたり損したりしないわけじゃ明らかにないはずだし、「楽に」生きられる保証などないのも、言うまでもなくで。

それにそもそも、「大多数から好まれる容姿」なんて存在するの?って気が僕はしちゃうけど。

どんなのが望ましい見た目かなんて、時間や場所や人によって意外と簡単に、いくらでも変わってゆくものでしょう。


そうですね。基準がないですもんね。


そしてもちろん、そこに絶対的な基準などないからこそ、この世は豊かで楽しいんですよ!

たとえば、いきなり非常に卑近かつ失礼な例になるけども、世間的にすごいキレイだのかわいいだの言われてるタレントさんも、私はぜんぜんいいと思わないな、みたいなことってたくさんあるでしょ?


あります、あります。


逆もまたあって、バラエティ番組ではブサイク扱いされてる芸人さんとかが、自分的には横にいる美形枠の人よりよっぽどいいと感じる、みたいなこととかさ。

だからなんかその、美というか、「良さ」みたいなものを、一元的に捉えるのがよろしくない、ってだけの話な気もするんですよね。

でみせさんがおっしゃる「考え方が大好き」も、僕はすごくわかりますよ。
なんなら僕はそこのプライオリティがすごく高いほうで、嫌なこと言うなぁとか、クソみてぇな考え方してんなコイツ!とか思った人のことは、どんなにかわいくてもキレイでも、まったくいいと思えなくなってしまう。
逆に、それまでとくに興味なかったタレントさんとかがインタビューですごく素敵なことを言ってたりすると、それだけでちょっとファンになっちゃったりね。

いっぽうで、言わずもがなかもしれませんが、アイドルなど「ルックスという職能」を生かした仕事をしている人たちこそが、実際には誰より苛烈なルッキズムによるジャッジにさらされ続けてもいるわけですよね。
やれ劣化だなんだって、酷すぎる言葉も平気で流通してて……。
つまり「大多数から好まれる容姿」っぽい人だからこそ理不尽に傷つけられ続けている面だって、きっとあるわけですよ。


太った、とかもそうですよね。
私には想像もできないくらいの、大変さや辛さがあるのだろうと思います。


でも、世の中面白いのは、加齢やふくよか化とかがべつにマイナスにならないどころか、そのほうが個性が際立ったり親しみやすくなったり、なんであれ逆にプラスに働く局面だっていくらでもある、ってことで。
だからやっぱり、一元的に物事のいい悪いを判断するのは、何より事実として間違いなんだと思いますよ。

とにかくそんなふうに、世の中全員それぞれ苦しみながら必死に幸せを求めてるだけで、その有り様も一通りじゃないんだから、他人と自分の人生を、しかもある部分だけクローズアップしてくらべて悲観したりしたって、ホントにマジであんまり、意味ないんですって!

むしろそれぞれ比較不能な、その人だけのものだからこそ、人生って価値があるんでしょ?と僕は考えていますけど。

まぁ、いまだに暴力的なまでのルッキズムが社会のあちこちで平然とまかり通ってるのもまた現実ですし、でみせさんの絶望も至極ごもっとも。気持ちはすごいわかります。
でもそこで、そんな世間や周囲のクソっぷりに飲み込まれてしまわないようには……つまり、こっちもいつしかそのイズムを内面化してしまったりしないようには、せめてしてゆきたいじゃないですか。

そのためにも、さっきからずっとしてきたような話、改めてでみせさんのほうでも、ご自分の場合に置き換えてみたりして、じっくり咀嚼していただいて……。
そのなかに、でみせさんの気が少しでも楽になるようなものが含まれてるといいんですけど。

それにしてもホント、基本的にはとにかく世の無神経さのほうがどうかしてるぜ!って件なんで、でみせさん側が何かを反省して正すべきって話ではないですからね。

だいたい、「そんなことを言われたら何も話せなくなる」って、じつは傷つくからその話題はやめてくれって信用してる相手だからこそ思いきって頼んでるだけなのに、なんでそっちが余計に意固地になる必要がある? ホント腹立つわー。
そんなさぁ、ルックスの話題除いたら話すことなくなるなんて、どんだけつまんねぇヤツなんだ?ってことですよ!(笑)
そんな手合いは、愚にもつかないおしゃべりで無駄に二酸化炭素を排出してんだから、どっちにしろ黙ってろ!と僕は言いたいね。
でみせさんも、内心でいいからまずはそう思っといたらいいよ……ご自分を責めたり卑下するのだけはやめましょう!


多くの人が悩んだり苦しんだりしていて、かつみんな自分の幸せを求めているだけなのに、なんでこうなってしまうんだろう、あーって思うけど、嘆いていても解決しないから、私も自分がいいと思う状態でいられるよう、楽しいことを妄想したりしながら笑顔で過ごそう!って改めて思いました。

でみせさん、また何かあれば、いつでもご連絡ください!



【今週のお絵描き】

画・宇多丸





『ライムスター宇多丸のお悩み相談室』(幻冬舎)

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「ライムスター宇多丸のお悩み相談室」、ついに書籍化!! 幻冬舎より発売中!
執拗に、フェアに、意外と優しく、時に興奮しながら、とことん考え答えた人生相談34!


<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」(毎週月曜日から木曜日22:00-23:30の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。

月曜〜木曜22時からは「アフター6ジャンクション2」がON AIR!
ライムスター宇多丸の聴くカルチャー・プログラムは、あなたの"好き"が否定されない、あなたの"好き"が見つかる場所。大人気週刊映画時評「ムービーウォッチメン」は毎週木曜日22時20分頃~にお引越しです。

ニューアルバム『Open The Window』が発売中!!!

現在、King of Stage Vol. 15
Open The Window Release Tour 2023-2024が開催中!


こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは「F30プロジェクト」と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。女性活躍推進など、"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。




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