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【浜田敬子さんに聞く女性活躍とアンコンシャスバイアス】 目に見えないジェンダー差別の積み重ねが、女性の自信を奪っている。

「女性活躍推進」という言葉がなくなるような、本当に女性が活躍する2030年を迎えるためには、どうすればよいのでしょう? AERA編集長時代から女性の働き方を発信し、現在はダイバーシティや働き方について広い知見をもとに活動されている浜田敬子さんに聞く連載企画

今回は、管理職に就きたくない女性が多いという背景にある、アンコンシャスバイアスについて伺いました。


入社後からはじまっている目に見えないジェンダー差別。その積み重ねが、女性の自信を奪っている。


——女性は男性と比べて、リーダー職に就きたい人が少ないという話をよく聞きます。どうしてそうなってしまうのでしょう。


入社したときから女性に対しては、目に見えない差別がたくさんあることも認識しておくべきです。例えば、上司が男性の部下には、無意識のうちに「君ならできる」「もう少しこうしたら、さらに伸びると思うよ」といった期待をもった言葉がけをしがちですが、女性に対してはそうでなかったりする。

また、営業職の男性と女性がいたら、大きなクライアントは男性ばかりに任されている。そうすると男性のほうが、評価が上がりやすくなるわけです。

さらに、企業によっては、女性の営業職がほとんどいない場合もあります。経理や総務に就き、ほぼ異動はなく、複数の部署を経験しないままでいる場合も多いと思います。専門性は高まっているかもしれませんが、いざ管理職になって「経理のことしか知らないから不安」「会社のことが全然わかっていないから心配」という声が挙がります。営業や工場勤務などの経験もなく、自社がどういう事業をして儲けているのかを知らないことが、自信のなさにつながるわけです。

一方、男性はジグザク異動といって、営業職の後に経営企画に異動し、製造現場にも異動する。そうすると、会社全体のことがよくわかります。会社の中の人間関係も見えてきます。ネットワークが広がって情報も入ってくるでしょう。そうやって、たくさん武器を手に入れられるわけですね。だから、自信もつきます。

人事のことしかわからない、人脈もその部署内しかないというのに、管理職になってと言われても困ります。人事の管理職ならまだよいですが、今よくあるのは、「女性の管理職を増やさなければ」という理由で、いきなり玉突きで違う部署の管理職に抜擢されることもあります。営業職を一度も経験していないのに、営業の係長になって不安になっている人もいました。結果、仕事を辞めてしまったり、仕事が上手くいかなくて「やっぱり女は駄目だ」と言われたりするわけです。



ライフイベントが変化する前に、性別に関わらず等しくチャンスを与えてほしい。


——見えないバイアスが積み重なっているんですね。どうすれば改善されるのでしょう。

そうならないために、企業は、特に若いうちに、性別に関わらず同じようにチャンスを与えてほしいのです。このタイミングであれば、多くの人が、ライフイベントの変化を迎える前なので時間的な制約も少ないはずです。そこから先は、適性を判断する必要もあると思います。でも、最初の小さな機会の積み重ねで差がついてしまい、女性たちが自信をなくしてしまっているということを意識してほしいです。

公益財団法人 21世紀職業財団が、共働きのミレニアル世代約4,000人の男女を対象に実施した調査によると、総合職の4割がマミートラックに陥っていると回答しています。

※育休・育休から仕事復帰した女性が、出世コースからはずれた働き方をさせられること。

■【女性】現在のマミートラックの状況(コース別、一皮むける経験の有無別)

※公益財団法人 21世紀職業財団「~ともにキャリアを形成するために~ 子どものいるミレニアル世代夫婦の キャリア意識に関する調査研究」(2022年1月)


そして、共働きの女性の約5割が、自分のキャリアよりも配偶者のキャリアを大事に考えたいと答えています。一方、男性の方は、自分とパートナーである女性のキャリアを同じように大事だと考えている人が多くいました。

女性はなぜ自分のキャリアより、パートナーのキャリアを大事にしているのでしょう。先述のように、入社後に同期の男性がどんどん大きな仕事にアサインされていくのを見ているからだと思います。私も、そういう時期がありました。期待のかけられ方の差を目の当たりにしたんです。

なぜ女性がキャリアを諦めているかについて、この調査では「夫のほうがきれいなキャリアを歩んでいるから」と答えている人もいます。もちろん、女性でもキャリアに対して意欲的で、どんどん進んでいく人もいますが、そういう人は若いうちに多くの期待をかけられ、チャンスにも恵まれていたのだということもわかっています。


「失敗してもいいから」と難易度の高い仕事に取り組む機会を与えられ、ひと皮むけるような経験をしたり、小さくてもいいから自分に権限を与えられた仕事をしたり。リーダーとしての経験は、管理職になる前にたくさんできるはずです。新人が入ってきたときに教育係をやるというのでもいい。そういう経験をしていることが、仕事をがんばろうというモチベーションにもつながっていくはずです。

女性活躍推進には、リーダーの要件定義をして評価基準を変えることが大事だと言いましたが、その前にできることはたくさんあります。上司がこういったことをしよう、と変わることによって、今まで眠っていた人材の潜在能力を引き出すことも可能なんです。


いかに若いうちに「仕事っておもしろい」と思えるかどうかが大事。


これまでの「女性活躍」とは少し違う文脈で、公平にチャンスを与えていくと、女性もやりがいを感じ、成長する実感や達成感を得られ、それが仕事のおもしろさにつながります。私もそうでした。その経験があれば、両立で大変なことがあっても仕事を辞めずに乗り切れると思うのです。

いかに若いうちに、「仕事っておもしろいな」「こういう形で、チームに、会社に、社会に貢献できるって嬉しいな」と思えるかどうかはとても大事です。これは、女性に限ったことではないですが、なぜ女性に今、力を入れなければいけないかというと、これまでジェンダーで差があったからです。


——だからやはり「女性活躍に注力する」ということが大事なんですね。リーダーになりたくない女性が多いという理由について、入社後からの積み重ねが影響しているというお話は、とても納得感がありました。


例えば、よく言われるのが「東京大学(東大)の女性学生比率が2割を超えない問題」というのもあります。東大はもっと女子学生に入ってきてもらいたいと考え、女子高で学校説明会を開いたり、女子だけの奨学金を作ったり、積極的にキャンペーンを打っています。2021年はかろうじて2割を超えたのですが、2割の壁は依然として厚いようです。

※NHK「東大が悩む女子学生「3割の壁」 世界に遅れるジェンダーギャップ解消」より

私がBusiness Insider Japanに所属していたとき、東大の女子学生がインターンに来てくれました。話を聞いていると「合コンでは東大生だということを隠す」と。親にも「東大に行ったら結婚できなくなるから、○○大学ぐらいにしときなさい」と言われたと。

男性なら「がんばったね」と褒めることを、女性がやると「でしゃばっている」と言われる。同じことをやっても評価が違うんです。そうではなく、仕事や勉強ができる女の子が褒められる社会であるべきです。


——まだまだ男性社会のなかのジェンダー観が、私たちのなかにも刷り込まれていると感じます。どうやって変化していけばよいのでしょう。

キリングループを取材したとき、お子さんが2人いて、育休から復帰したばかりの30代の女性がいました。両立しながら経営層を目指すってとおっしゃっていたので理由を聞いたら「これだけ会社に期待され、がんばれと言われたら、がんばろうと思う」と。やはり、期待されたり、評価されたりすることが大きいと思います。でも、その機会が、今までは女性に少なかったということだと思います。

総合職だけなく、例えばパートや契約社員など、どんな立場でもやはり期待されると成長するし、褒められればもっとがんばろうと思いますよね。そういった体験が当事者の意識も変えていくはずです。




*****

【浜田敬子さんに聞く中小企業のダイバーシティの重要性】社会課題の当事者がいなければ、新規事業も上手くいかない。
に続きます。


<お話を伺った人>

ジャーナリスト
浜田 敬子(はまだ けいこ)さん

前Business Insider Japan統括編集長。元AERA編集長。 1989年に朝日新聞社に入社。前橋、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部。副編集長などを経て、2014年からAERA編集長。 編集長時代はネットメディアとのコラボレーションや1号限り外部の人に編集長を担ってもらう「特別編集長号」など新機軸に挑戦。 2017年3月末で朝日新聞社を退社し、世界12カ国で展開するアメリカの経済オンラインメディアBusiness Insiderの日本版を統括編集長として立ち上げる。 2020年末に退任し、フリーランスのジャーナリストに。 2022年8月にリクルートワークス研究所が発行する『Works』編集長に就任。 「羽鳥慎一モーニングショー」「サンデーモーニング」のコメンテーターを務めるほか、ダイバーシティや働き方などについての講演多数。著書に『働く女子と罪悪感』『男性中心企業の終焉』。


取材:F30プロジェクト 文:武田 明子




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