【浜田敬子さんに聞く中小企業のダイバーシティの重要性】 社会課題の当事者がいなければ、新規事業も上手くいかない。
「女性活躍推進」という言葉がなくなるような、本当に女性が活躍する2030年を迎えるためには、どうすればよいのでしょう? AERA編集長時代から女性の働き方を発信し、現在はダイバーシティや働き方について広い知見をもとに活動されている浜田敬子さんに聞く連載企画。
今回は、大企業に比べて遅れをとっていると言われる中小企業が、女性活躍やダイバーシティーを進めるべき理由について伺いました。
「うちの会社は、このままでは潰れるかも」といった危機感が、変わるきっかけに。
——女性活躍やジェンダーギャップ解消には、経営者が変わっていかないと変わらない。でも、昭和の中小企業の経営者は、経営危機にでもならない限り、あまり向き合う機会がないように感じます。変わるきっかけはあるのでしょうか。
「本当に変わらなければ」と思うには、やはり「うちの会社は、このままでは生き残っていけないかも」といった危機感しかないと思います。著書『男性中心企業の終焉(文春新書)』にも載っているメルカリでも、そういった危機感を山田進太郎社長が持たれていました。
そして、キリングループもそうでしたけど、先進的に取り組んでいる企業の経営者は、海外経験のある方が多いように感じます。
山田社長は海外で「なんでこの企業が強いのか」と思って見てみると、ダイバーシティが進んでいることに気づかれたそうです。キリンホールディングスが2006年にポジティブアクションを始めたときの当時の社長、加藤壹康さんも、海外駐在が長かった方です。日本しか知らないと、なかなか変われないものかもしれません。
なぜダイバーシティが必要なのか? 中小企業の経営層に伝えている3つのこと。
私は講演で中小企業の経営層に、なぜダイバーシティが必要なのかを伝えるときに、こんな話をします。
一つは、多様なお客さまがいるから、企業にも多様な人がいた方がいいということ。さらに多様な価値観を持った人がいなければイノベーションも起きません。
次に、同質性のリスクを減らすことです。今の日本の企業には、同じような価値観の人が集まっています。それは、組織にとっては大きなリスクになります。例えば、3人の経営層が意思決定をするときに、皆が同じタイプなら一通りの選択肢しか出てきません。そうなると、そのチームのメンバーの能力の総和よりも、低いレベルの意思決定をする傾向があると言われています。もし、3人が違うタイプであれば、3つの意思決定の選択肢が出てきて、その中から選べたり、3つの選択肢を組み合わせることもできるわけです。
同質性が高い組織は、外部環境の変化より、自分たちの組織の中の規律やルールを重視しやすい傾向があります。「この事業が社会のためになっているか」よりも、「社内で誰に嫌われたくないか」を優先してしまう。結果、不祥事につながることもあります。
そして、最後は、やはり社内に、社会の課題をよく知る人=当事者がいるべきだということです。経営者の皆さんは「うちの企業のこの新規事業は、社会の課題を解決します」とよくおっしゃいますよね。当事者がいなければ、社会の課題になかなか気づけません。社会の課題として、理不尽な思いをしているのは女性だけでなく、障害をお持ちの方、高齢の方、子ども、性的マイノリティの方、外国人の方などのマイノリティです。
そして最後は、ダイバーシティが進んでない企業には、若い人や女性は集まってこないということ。つまり魅力的な組織に見えないということです。
投資家は、ジェンダー平等の指数などをESG投資の際に重視しています。理由を投資家に聞いたところ、「それは組織の風土やカルチャーを象徴する数字だから」だと。組織の風土やカルチャーは、なかなか数字で測れないものです。でも、ダイバーシティが進んでいたり、女性の管理職比率や賃金ギャップなどのジェンダーギャップが解消されていたりすることは、組織の変革に積極的であるという指標になるわけです。
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【浜田敬子さんに聞く家庭内のジェンダーギャップ】一番身近な存在である夫を変えるのが、なかなか難しい。(2023.3月公開予定)
に続きます。
<お話を伺った人>
ジャーナリスト
浜田 敬子(はまだ けいこ)さん
取材:F30プロジェクト 文:武田 明子