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【浜田敬子さんに聞く女性活躍先進企業の事例】 経営者が強い思いを持っている企業は、変わるのが早い。

「女性活躍推進」という言葉がなくなるような、本当に女性が活躍する2030年を迎えるためには、どうすればよいのでしょう? AERA編集長時代から女性の働き方を発信し、現在はダイバーシティや働き方について広い知見をもとに活動されている浜田敬子さんに聞く連載企画

今回は、女性活躍推進に取り組む先進企業の事例と、成功の理由について伺いました。


自然になるのを待っていたら、100年経っても女性管理職は30%にならない。


——政府が2030年までに「社会のあらゆる分野において、指導的地位に女性が占める割合が30%程度」と掲げています。先進企業ではどのような取り組みをしているのでしょう?

10年くらい前は、大企業でも女性の管理職が3〜4%という企業もざらにありました。今後も何もしないで自然に増えるのを待っていたら、100年たっても女性の管理職は30%にはなりません。

今まだ比率の低い企業は自社の課題がどこにあり、どうしたら解決できるか、社内調査をし検証した上で対策を立て一つずつステップをふんで、取り組んでいくことが大切です。


■民間企業の雇用者の各役職段階に占める女性の割合の推移

常用労働者100人以上を雇用する企業の労働者のうち、役職者に占める女性の割合を役職別に見ると、上位の役職ほど女性の割合が低い。令和3(2021)年は、係長級20.7%、課長級 12.4%、部長級7.7%。
※内閣府「男女共同参画白書 令和4年版」より


——先進企業の事例についていくつかご紹介いただけますか?

●キリングループの場合

キリングループは、2013年に「女性活躍推進長期計画」を策定し、「女性リーダー比率を4%から、2021年には3倍の12%にすると目標を掲げ、社長肝いりで取り組まれてきました。

まず、グループ会社の経営層全員に、ダイバーシティの必要性という大義を理解してもらう。入社3年目の女性社員とその上司をセットで研修する「キャリアワークショップ、ポスト管理職世代となる28〜35歳くらいの女性の中から将来経営幹部候補を抜擢し、半年かけて経営的な視点などを身につける研修「キリン ウィメンズ カレッジ」を実施しています。そこまでやっても国内の女性マネージャー比率は8.9%(2021年)です。

目標には届いていませんが、下の世代がすでに育ってきていると聞いており、2022年には、リーダー女性比率を2030年に30%にすることを掲げた「女性活躍推進長期計画2030」を策定。達成できる予定だと役員からは聞きました。

一生懸命取り組んでいる先進企業でも、約20年かかるということです。


●丸井グループの場合

丸井グループも熱心に取り組んでいます。それまでは経営会議は男性ばかりだったのですが、青井浩社長が「これではだめだ」と指揮をとり、ダイバーシティを推進しています。

特に、性別役割分業の解消に注力しているのが特徴的です。男性の100%育休取得に早期から取り組み、2014年3月期には10%だった取得率は2019年3月期に100%を達成。その後も3年連続で100%を達成してきました。

一方で、女性の上位職志向が高まらないという課題は残ったままでした。どこに意識の壁があるのかを社内を調査し、意識変革に取り組んでいます。自分たちの会社だけが変わっても、社会の性別役割分業が変わらなければ変革はできません。そこで、近隣企業の方を招いて一緒に研修したり、配偶者も呼んで研修に参加してもらったり。男性も巻き込みながら一歩踏み込んだ、マインドセットを変える取り組みを実施しています。それでもまだ、女性管理職は20%に達していないんですよね。


——中小企業の現状はどうでしょう?

中小企業は、両極端です。私は、地方の中小企業の経営者に向けて講演することも多いのですが、働き方が昭和の時代から変わらない企業も多く、全体的に遅れているように感じます。でも、逆に中小企業は、経営者が変わると一気に改革が進みます。


●大橋運輸株式会社(愛知県瀬戸市)の場合

著書『男性中心企業の終焉(文春新書)』でも取り上げた大橋運輸という、社員数100名程度の物流会社があります。やはり経営者がすばらしく、3代目の鍋嶋洋行社長が、会社の危機感からダイバーシティの取り組みをスタートしました。中小企業の場合は、経営への危機感からダイバーシティに取り組まれるケースが多いですね。

1990年にトラック輸送業の規制緩和があり、「免許制」から「届出制」へと緩和されました。結果、業界への参入がしやすくなり、競争が激化。ドライバーをはじめ人材確保が難しくなると考えた鍋嶋社長は、1999年くらいから女性の採用を強化しました。まだ、ダイバーシティという言葉も広まっていなかった時代です。

そうすると、採用した女性たちがすばらしい働きをされたそうです。例えば、安全管理業務に就いてもらったら事故率が減った、など。男性的な指示・命令の言い方ではなく、“褒めて育てる”ではないですが、丁寧なコミュニケーションをすることでドライバーさんの納得感が上がり、事故率が減ったと考えているそうです。

女性の能力を社長が認めた結果、今では管理職の女性比率もアップ。今では短時間勤務の女性も管理職に就いています。

社内で反発はなかったかと伺ったら、「当然、ありました」と。だからこそ、経営者が、何度も何度も社員に、なぜ彼女を管理職にするのかを説明したそうです。「時短勤務で、緊急対応ができるのか?」と聞かれたら、「スマホを持っているので、家に帰っても緊急対応はできます」と。さらに、緊急対応ができるかどうかよりもっと大事な能力が管理職にはある、と説得をされたそうです。

管理職の本質的な能力や資質とは何か、仕事は何かをきちんと見極めれば、これまで管理職の候補でなかったような人たちに、潜在的な能力があるということがわかるのです。

中小企業の場合は、経営者がこういう強い思いを持っていれば、変わるのが早い。大橋運輸は、今ではLGBTQや障害者雇用、外国人の直接雇用などにも熱心に取り組んでいらっしゃいます。

リーダー層が多様であれば、社員の意識も「いろいろな人がリーダーになっていいんだ!」と変わります。そして、多様な人がいる会社は、これからの採用においても強いはずです。



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【浜田敬子さんに聞く女性活躍の捉え方の整理】日本は今後労働力が不足するから、女性がかり出された?
に続きます。


<お話を伺った人>

ジャーナリスト
浜田 敬子(はまだ けいこ)さん

前Business Insider Japan統括編集長。元AERA編集長。 1989年に朝日新聞社に入社。前橋、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年からAERA編集部。副編集長などを経て、2014年からAERA編集長。 編集長時代はネットメディアとのコラボレーションや1号限り外部の人に編集長を担ってもらう「特別編集長号」など新機軸に挑戦。 2017年3月末で朝日新聞社を退社し、世界12カ国で展開するアメリカの経済オンラインメディアBusiness Insiderの日本版を統括編集長として立ち上げる。 2020年末に退任し、フリーランスのジャーナリストに。 2022年8月にリクルートワークス研究所が発行する『Works』編集長に就任。 「羽鳥慎一モーニングショー」「サンデーモーニング」のコメンテーターを務めるほか、ダイバーシティや働き方などについての講演多数。著書に『働く女子と罪悪感』『男性中心企業の終焉』。


取材:F30プロジェクト 文:武田 明子




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