店員さんの効率の悪さにイライラ……。気持ちをゆったりさせる方法は?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室126】
✳️今週のお悩み✳️
先日スーパー銭湯にいったときのことです。店員さんが、お会計とタオル渡しにモタついており、ものすごく待たされました。私の後ろに列もできてしまいました。気長に待てばいいのでしょうが、そういうことが気になって気になって、すぐ短気になってしまう自分がいます。たとえば、もう1人あいてる人がいるんだから、その人がタオルをどんどんお客さんに渡していけばいいじゃないか?と思ってしまうのです。この短気は歳だから、でしょうか。効率が悪い場面に出くわすと、よくないとは思いつつ、イラついて顔に出てしまいます。だけど抑えられず……。このままだと、もっともっと短気になってしまうのでは…? 気持ちをゆったりさせる方法を教えてください。
(ばっちこーい・38歳・埼玉県)
宇多丸:
いや~、わかりますよ。
僕も基本短気だし、何よりせっかちですからね。
街に出るとホント、イライラすることばっかり。
あまりにも気が利かないというか、周囲に対する気配りがない人が多すぎる!
電車乗ったってさ、目の前に、明らかに立ってるのが辛そうな年齢のご老人がいても、スマホいじりに夢中で気づかないのか気づかないフリしてんのか、どいつもこいつも譲る気配ゼロ、みたいなことが増えましたよね。車両全体がそのザマだから、注意したくても誰に言っていいかわからないっていう。 お年寄りには席を譲りましょうって、日本ではわりと一般的に共有されてる社会道徳だと思ってたんだけど……、なに、そういう風習はもう、この国から消えたの?
こばなみ:
消えてないと思うけど薄らいだ気もしますね。
宇多丸:
こういうこと言ってると必ず、「譲ろうとしても断られたり、最悪、年寄り扱いするなって怒られたりするから……」みたいな話が出てきたりするんだけどさ。そういう、見返りがあるかどうかの問題じゃねぇだろ!
そんなの、普通に「ああ、それは失礼いたしました」でいいじゃんよ。
本当に、もしこれ読んでるなか心当たりがある方がいたら、今からでも悔い改めてほしいです。 杖ついてたり腰曲がってたりするような人を目の前に立たせたまま平然としてられるような人は、どれだけ見た目をキレイにしてても、単にバカで無神経で醜い生き物にしか僕には見えないです。
ま、これはマナーの話だから、ばっちこーいさんの苛立ちとはまた全然違うっちゃ違うんだけど……、要は、「他者に対する想像力の欠如」にイラッと来る、という意味では通底してるのかなと。 特に、「もう1人あいてる人がいるんだから」ってところだよね。そいつ本人でも上司でもいいけど、気づけよ!っていう。
こばなみ:
やっぱり腹立ちますか。
宇多丸:
こばなみは正反対の意見だったけど、コンビニとかでちゃんとフォーク並びさせてなくて、案の定なかなか進まない列に並んじゃったときとかね。ついついピリピリしちゃいますよ。
ちょっとした工夫や気遣いでこんなのすぐ解消するのに、なんでこっちがお前らの怠惰のしわ寄せ食らわなきゃなんないのよ?って。
こばなみ:
私ももちろんイライラすることもあるんですけど、フォーク並びが苦手なように、どんくさいところやぼやっとしてるところがあるので、言えないなぁってときがある。
そういやコンビニでバイトしてたとき、列ができるとプレッシャーでしたね。
宇多丸:
コンビニで言うと、開いてるレジが一個しかないせいでズラーッと列ができちゃってて、困り果てた店員さんが大声で何度も「レジお願いしまーす! レジお願いしまーす!」っつってんのに、聞こえないふりしてんのかなんなのか、のーんびり棚の整理とか続けてる「もう1人」がすぐそこにいる、みたいなパ ターンもあるよね。
並んでると、前後の人も殺気を発し出すのを感じますよ(笑)。
まぁ、さっきのお年寄りの件みたいのは別としても、そうやって細かいことにいちいちイラついてたりするのも、それはそれで悪い意味で典型的な現代日本人というか、良くはないよなぁとは思ってるんだけどね……。
スーパー銭湯だって、本来はみんな、心を落ち着かせて日々のストレスを解消するために行ってる場なわけだからさぁ。 ばっちこーいさんも、そこでわざわざ腹を立てたくはないはずなんですよ、そりゃ。
僕にとっての、映画館イライラとも近いかもね。 たとえば、本編の上映中にスマホをピカピカさせてるようなバカどももさ、よっぽど延々やり続けてるっていうんじゃない限り、こっちもたいていは我慢してるんですよ。
だって、たぶん普段あんまり劇場に行く習慣もない、親からしてレンタルビデオ世代でそういうしつけもちゃんと受けてないような人が、たま~に気が向いて足を運んだからこそ、そういうマナー違反しちゃったりもしてるわけでしょ? そこでさ、知らないおじさんから叱られたっていう、嫌な思い出を持って帰ってほしくないんだよ。もう映画館行きたくない!とか思ってほしくないからさ。
だからそこはやっぱり、劇場側になんとかしてほしいところなんですよ。 もちろん、携帯消してくださいっていうアナウンス映像はどこも流してるんだけどさ……、ほとんどのとこは、「音を鳴らす」のがダメって言ってるようにしか見えないんだよ! 液晶の明かりも迷惑だって、もっとはっきり言ってくださいよ。「ノ~ウ、セルフォ~ン」とか、カッコつけてる場合じゃないよ!
スーパー銭湯も映画館も、こっちは浮世の憂さを晴らしに時間とお金使ってわざわざ来てるんだから、つまんないことでストレス感じさせないように、サービス業としてもうちょいできることあんだろ!って話ですよ。 「他者に対する想像力」って、その業種で一番必要なもんだろうにさ。
こばなみ:
これ、イライラを鎮める方法ってないのかしら……!?
宇多丸:
ズバリ、海外でも行けばいいんじゃ~ん?
効率の悪い仕事ぶりなんて言ったら、たいていの国は日本の比じゃないんだからさ!
こばなみ:
そうきたか!
宇多丸:
インドとか行って、発狂するような思いを散々してから日本に帰ってくれば、「なんて隅々まで気遣いが行き届いた国なんだ!」って、イライラどころか感謝の念が湧いてくるかもしれませんよ。
こばなみ:
部員さんからは、こんなユニークな意見も!
宇多丸:
食べ物を想像って(笑)。
さっき海外の話をしたけど、日本よりもろもろルーズだったり融通が利かなかったりでイライラする局面も多い代わり、たとえば列に並ばされてる連中側も、おとなしく黙ってはいないっていうのがあるよね。 気遣いが足りないと思えば、そうはっきり主張する。
その意味ではばっちこーいさんや僕のイライラって、「わざわざ角が立つような言葉を吐かせる前に、“察して”くれよ!」っていう、やはりとても日本人的な怒り方なのかもしれないね。
こばなみ:
「抑えられず」って書いてるけど、抑えてるから余計イライラするんでしょうね。
宇多丸:
さっきから言ってるように僕自身も短気なほうだから、逆にあまり腹を立てないって人の心理がよくわからないんだけど。
こばなみ:
怒らないっていうか、気にしないんじゃないですかね。悪く言えば鈍感。無関心。
宇多丸:
なるほど。
相手の落ち度はわかった上で「許す」っていうのがホントに心が広いってことだろうけど、単純になんにも気づいてない、気にしてないから結果として怒りもしない、ってパターンは多そうだよね。
そう考えると、すぐイライラしちゃう人ってのは、まず、「いろんなことによく気づいてしまう」敏感さを持った人だってことかもしれないですね。
逆に、さっきから僕が怒り狂ってる、ご老人を目の前に立たせたまま平気でスマホいじってるような輩っていうのも、自分以外の状況や物事に無頓着、というのがまずあるかもしれない。
そういう人から見れば、僕らみたいのは「何をそんなにカリカリしてんの?」ってことになるんだろうけど……、他者に対する無関心がベースにあるのだとしたら、単に怒らなければいい人かっていうと、一概にそうも言えないんじゃないか。
こばなみ:
それはそう思います。無神経とか無関心とかのほうが人を傷つけることもある。
宇多丸:
もちろん、いつもピリピリして周囲の空気を悪くするような態度がいいとも思わないけど、「気づく」能力の副作用と考えれば、怒りを感じることそのものを否定する必要はないんじゃないですかね。
それどころか、仕事上とかだったら、はっきりプラスに働く資質ですらあるよ。 だって、たとえばばっちこーいさんがそのスーパー銭湯の従業員だったら、真っ先にその非効率性に気づいて、改善に動くわけでしょ。 物事を批判的に検証できる人だけが、さらにそれをより良くもしていけるわけでさ。 だから、自分の身の回りに関しては、その感受性をできるだけポジティブな方向に生かすよう心がける。
一方、こっちが客の場合とか、電車のなかの他人とか、とにかく直接関係ない相手にイラッと来てしまった場合は……、「内心の上から目線」で解消するしかないんじゃないですかね! 「コイツはきっと一事が万事この調子で、職場でも家庭でも、絶望的に気が利かないアホとして不遇な扱いを受けているに違いない……、生まれや育ちのせいで “能力”を身につけることができなかったのだろう……、アホだけに自分ではその不遇にも気づけてないのが唯一の救いと言うべきか……、なんにせよトータルで、 かわいそう!」ってさ。
だって実際、目の前に年寄り立たせてスマホいじってるようなヤツが、まともに出世できるとはとても思えないでしょ?
こばなみ:
思えない思えない。
ちなみに、知人から聞いた話ですけど、電車のなかで妊婦さんが立ってて、ギャルが優先席に座ってたんですって。で、譲ってあげなさいよって言ったら、ギャルが「赤ちゃんいます」札をパカーンと出して、あちゃーって……。
宇多丸:
あぁ、それはちょっと、我々のような勝手にイライラ組に対する戒めにもなるようなエピソードだね。
座ってる側にだって、なんらかの事情があるのかもしれないんだもんね。
誰かにイラッとしてしまったら、「でも、ひょっとしたら自分は、表面的な決めつけをしてしまっているだけなのかもしれない……」といったんは考え直してみる謙虚さを持つことも、特にばっちこーいさんや僕みたいなタイプの人間には、大事なことかもしれない。
まとめますと、
1.海外(インドなど)に行って日本はマシだと思い知る作戦
2.あいつらバカでかわいそうと心底思ってあげる上から目線作戦
3.とは言え人にはどんな事情があるのかわからないのだから決めつけは禁物!と自戒する謙虚作戦
以上の三段構えでいかがでしょうか?
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年12月26日に公開したものを再編集し、掲載しています。