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老いや衰えを実感する今日この頃。年をとるほど楽しくなることってあるの?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室72】


✳️今週のお悩み✳️

最近、前歯が入れ歯になったり、徹夜ができなくなったり、皺が増えてきたり、僅かながらですが、歳をとってきている実感できるようになってきました。老いというほど大げさではないのですが、日々間違いなく年をとっていく、衰えてくるということに対して、世間的にはネガティブなことしかいわれませんが、年をとっていくほど楽しくなることって、考え方などなにかあるのでしょうか。
(おいたろう・36歳・静岡県)


宇多丸:
こばなみは「老い」って実感したりします?

こばなみ:
そりゃ、してますよ~。表面的には顔のシミがひどいですね。1年くらい前にレーザーでバチバチって消したんですけど、また浮き出てきてしまいました。宇多丸さんは?

宇多丸:
僕もシミとか気になりますよ。若い頃はもっと肌がつるんとしてたから余計に……。
こないだ、20代前半くらいの自分の写真を見たんだけど、ホント、つるーんとしててさ。
昔も今も自分はブサイクだってコンプレックスは変わらないんだけど、45歳現在の目線で振り返ると、「なんだよこのコ、超可愛いじゃん!」って感じでしたよ(笑)

まぁ、今も年のわりにはお肌キレイって言われるほうだとは思いますけどね。
でも、改めて鏡とか見るとやっぱり、「あ~、年取ってきたなぁ~」って実感しますよ。年相応になってきてるのは否めない。

とは言え、そういう自分が嫌かっていうとそんなことは全然なくて。
その20代前半と今の自分とを比べたら、そりゃもう明らかに、今のほうがイケてるだろ!と自分では思ってますけど。

ツラがブサイクとか、どんどん年食ってくるとかに関してはどうにもなんないけどさ。今は、積み上げてきた仕事の実績もあるし、そのぶんお金もあるしで、そういうコンプレックスとか老いとかを補ってあまりあるプラス要素が、たくさんあったりもするわけでしょ。
少なくとも、前に出た「自分が好きな自分でいられるかどうか」って話で言えば、断然今のほうが理想の自分に近づいてるのは間違いない。
それこそ単純に、前よりはイケてる服がある程度好きなように買えるし、似合うようになった、みたいな部分でもいいんだけどさ。

たとえば、これは一般論だけど、スーツとかはさ、年取ってからのほうが似合うと思うのね。
若いとどうしても、七五三感とかリクルート感が出ちゃうでしょ。ま、そういう背伸び感も、それはそれで若者のときにしか出せないキュートさだったりするんだけど……。
とにかく、スーツ姿は40代になってからのほうが俄然キマってると思うし、自分でも。
そんな風に、年を重ねたなりのカッコ良さっていうのも、確実にあると思うんですよね。

……でも、どうだろう? これってひょっとして、男ならではのお気楽な意見? 
女の人が感じてる「老い」の切実さは、また違ったものがあったりするのかな?

こばなみ:
ありますあります。シミしかり、カラダもぽよよん。私は30過ぎてから体重が食べた分だけ増えていくし、体重だけでなく見た目がぶ厚くなり、肉感もぶよぶよになった。そしてそれがもうちょっとやそっとじゃ戻らないですからね。だから日々これ以上にならないようにと調整はしているつもりですけど毎年デカくなってるな……。でもまだ衰えを自分で認めたくないから、悪趣味ですけど、テレビとかで自分と同じ年の人とか街角インタビューされてたりするときに、「私のが若く見える、よし!」とかって、いや申し訳ないです、本当に意地悪いけど、そうやって安心したりしています。

宇多丸:
それわかるよ。僕も全然やるし。
例としてはちょっとズレるかもだけど、少し前に、桂小金治が亡くなったっていうんで、昔テレビ番組で司会してたときの映像をワイドショーで流してたのね。それ見たら、「これで今のオレと同い年!?」ってくらい、どっからどう見ても揺るぎない昭和の「お父さん」感が、もうすでにガッチガチに出来上がっててさ(笑)。
まぁ洋邦問わず、特に大人の男の雰囲気が幼くなっていく傾向はあるけどね、時代を経るにしたがって。

でも、ひょっとしたら当時の小金治も、司会として貫禄を出すために、あえて年より老けて見えるようにしてたのかな。
一応そういう手もあるんだよね、年の取り方として。
若い段階で実年齢以上の年配感を醸し出しておくと、逆にいつまでも老けないというか、いつ年を取ったかよくわからなくなるという……、笠智衆はいつからおじいさんになったのか、菅井きんはいつからおばあさんになったのか、ってことですよ。

そういう意味では実は僕も、20代後半くらいから徐々に「おじさんキャラ」にシフトチェンジしてったつもりなんですけど。
最初に言ったように、僕、若い頃はホントにつるんとした顔しててさぁ。
でも、当時はそれがコンプレックスでもあったんだよね。なんか顔に引っかかりがないなぁって。

子供の頃からの理想は、クリント・イーストウッドとかジェームズ・コバーンとかエド・ハリスとかスコット・グレンみたいな、ほっぺに縦ジワがスーッと入ってる感じなんだけど、あれはアングロ・サクソンじゃないと無理そうだし……。
ということで、サングラスしてみたりヒゲ生やしてみたり、要はもっと「濃く」なりたかったというか、汚れた、年輪を重ねた感じになりたくて、いろいろ試していった結果が現状のコレ、でもあるわけです。結局なんか全体につるんとはしてるけどね。
ともあれ、なので加齢というのをより前向きに捉えられている、というのはあるかもしれない。

こばなみ:
私はおいたろうさんより2歳上なので、この気持ちってわかりますよ。肉体的にはどうにもならないことは確かにあるんだけど、でもそこで諦めたらすぐおばさんになってしまいそうなので、なんとか踏ん張っていたりとか。スキンケアとかも一度サボったら、すぐカサカサ肌に転落して戻らなくなってしまうんじゃないかって、そんな恐怖はあるかもしれない。

宇多丸:
前にも言ったように、アラフォーだから恋愛できないとか、「◯◯◯だからダメ」って考え方をしたその瞬間から、人というのはどんどん、本当にダメなほうダメなほうへと転がってっちゃうもんだからねぇ。

「◯◯◯だから」ってことにどれだけ理があろうと……、というか、そこにちょっとでも理があればあるほど、当然のことながらそっちに流れていきやすいわけだから。
安易に認めた途端、どんどんそれは「本当に」なっていっちゃう。

ただね、「世間的にはネガティブなことしか言われませんが」ってあるけど、さっきも言ったように僕の実感はむしろ逆で、身体的にはもちろん衰えたりもしてるんだけど、トータルで考えると良くなってることのほうが全然多いじゃんって感じなんだけど。

こばなみ:
そういう男性って多いです。私のまわりの仕事関係のおじさんたちはみんなして、「コバナミ~、40代になったら今よりもっと楽しいぞー!」とかって言ってくるし、実際にすごく楽しそうに見えるんだけど、自分が40代になって「たっのしぃ~」ってとこまでいけるのかなっていったら、正直不安ですね。

宇多丸:
そのテンションに性差ってあるのかな? 
もちろん、女の人には「出産」っていう、今のところ年齢と無関係ではいられないファクターがあるわけだけど。
それも含めて、もし、さっきこばなみが言ったように「女は男ほどには年を取るということに楽観的でいられない」というのが事実なのだとしたら……、それって要は、ミもフタもない話になっちゃいますけど、日本社会にまだ性差別構造が根強く残ってるから、ってことに尽きちゃいますよね、たぶん。

つまり、さっき僕が言ったみたいな、「年を取ったなりの社会的地位や収入」を得るに至る機会っていうのも、日本ではいろんな意味でまだ、女性一般にフェアに開かれてるとは言い難いという、残念な現実が厳然としてあるってことじゃないですか。
まぁ僕の仕事はちょっと特殊だけども……。

で、そうやって社会のなかでキャリアを積んでいくルートが女性には十分に開かれていない、というのと完全にパラレルな話だけど、そのぶん女の人は、それ以外の表面的要素、それこそルックスとか若さとかで判断されてしまう局面が人生のなかで異常に多いため、容色の衰えみたいなことに対する恐怖も、男よりはるかに切実になってしまうっていう。まぁおおむねそういうことですよね。

みなさんからしてみたら、何を今さら、って話なんだろうけど……。
とにかく、だとしたら、これは一朝一夕にどうこうできる問題ではないですけどね。
男サイドとしては恥ずかしい限りですけども。

でも、だからこそ!
 女の人に、自分から「どうせ私ババアだし」みたいな投げやりなことは言ってほしくない……、というか、ご自分たちのためにも、あんまりそんな風に言わないほうがいいんじゃないかな~、と思うんですよね。

だってそれって、昔ながらの男に都合のいい性差別構造に、自らまんまと乗っかっちゃってるようなもんじゃん! 女は若くなきゃっていうさ。

前述した「◯◯◯だからダメ」論法のなかの「◯◯◯」に、自分から「オンナ」って代入しちゃっていいの?って話ですよ。

女性にフェアじゃない社会があるんだとしたら、それは結局、女性側が戦って正してくしかないんですから。男側、言わば既得権益側の意識を変えていくこと含めてさ。

こばなみ:
むむ! 立ち上がれ、女子!ですね。私は比較的男女の差がない業界に勤めているとは思うんですけど、でもそれもまだまだ社会全体からしたら一部でしかないんですよね。そう思うと、「どうせ、おばさんだし~」とか、言ってる場合じゃないわ。そして、本当におばさんになっちゃいそうな気がするから、絶対言いたくない!

宇多丸:
あ、でも僕、「おじさん」って自分で言いますけど。

こばなみ:
おじさんはいいの。おばさんは違うんですよ!

宇多丸:
だからやっぱり、そのあたりの性差はまだはっきりとあるってことだよなぁ……。
さらに年取ってくると、おじさんは「おばさん化」して、おばさんは「おじさん化」してく、って傾向も出てくるけどね。

それとも関係してるかわかんないけど、街で見かけるおばさんグループって、キャッキャしててなんか楽しそうだなっていうのも一面あってさ。
それこそ同年代のくたびれきったおじさんより、全然生き生きしてるなって思えるときもあるでしょ。

思うにあれは、「女子」時代にずーっと課せられてきたいろんな枷、それこそさっき言ったような、ルックスや若さみたいなところでばっかジャッジされるプレッシャーとかさ、そういうものをいいかげん全部まとめて「投げちゃった」ことから来る開放感なんじゃないのかな。
だからちょっと「おじさん化」して見えたりもするんじゃないか。

そう考えると、一方のおじさんの「おばさん化」も、男社会のなかでのマッチョな闘争というか、オス同士のヒエラルキー争いから「降りた」年頃に現れる兆候だったりしてね……、いま僕、ものすごーく適当なこと言ってますけども。

ひとつ共通して言えるのは、年を取ってくると、これまで自分を縛ってきたような余計なこだわりとかプライドが薄れてきて、さっきは枷が外れる的な表現をしましたけど、要はちょっとだけ、生きるのが楽になってくる、という側面は確実にあるような気がします。
なんか、どーでもいいよそんなこと! それがナンボのもんじゃい!ってことが増えてくるんだよね。
とは言え、身だしなみとか暮らしぶりとか、そういうところはむしろ、年取ったからこそ「投げたらアカン!」部分だろうとも思いますけど。

こばなみ:
最近、40代とか50代でも美魔女とかってキレイな人が多いけど、ちょっと違和感あることもありません? もちろんいろいろ探って着地したところが美魔女で、素敵な人もいるんだけど、なかには若さだけにこだわりすぎている人もいますよね。40代の女性誌とかみてると、ショートパンツとか履いてるんだけど、膝をみるとちょっとヨボヨボしてて水分が足りない感じになってたり。隠しきれないのに張り切って出してる感じがちょっと……。

宇多丸:
街でもさ、服装とかメイクとか、一瞬ギャルかと思わせるんだけど、よく見てみたらこの人結構トシいってるぞ……、みたいな女性ってよく見かけるよね。
あれ、正直ちょっと怖いよね。軽くサイコ感っていうか。

要は、「いくつになってもお洒落心を忘れない」みたいなことと、「無理矢理な若作り」は違うってことですよ!
 後者がいき過ぎると、内面的な成熟度というか、まともさまで疑わしく見えてしまうという。

さっきは男の例でスーツっていうのを出したけど、女の人だってさ、たとえば着物とか、年を取ったからこそサマになる着こなしってあるでしょ。
高級ブランドなんて全般、若い人にはまさしく分不相応、似合わないと思うし。

そう考えると、女の人だって、年取ったら結局問われるのは、「中身」ってことなんじゃないですかね。
若いうちはさ、男も女も、やっぱ表面的な「イケてる感じ」にヤラれちゃうわけじゃん?
 小学生の男だったら「足が速い」とかさぁ。
中学高校になってくると、「イケメン」とか「ケンカが強い」とか。

でもさ。たとえば45歳になって、「足が速い」「イケメン」「ケンカが強い」だけが売りの男って……、マジやばいでしょ(笑)。

やっぱりさ、何の仕事をしてるのか、何を成し遂げてきたのか、経済力はどのくらいか、人に優しさを発揮する余裕はあるのか、話は面白いのか、というような……、つまるところ「人間力」が総合的に問われるわけでさ。
少なくとも僕は、駆けっこ勝負とかじゃなくなってくれた今のほうが、比べものにならないくらい生きてて楽しいですよ!

女の人だってさ、加齢がただただマイナスにしかならないんだとしたら、それはそもそも、若さを武器にするような生き方しかしてこなかったツケ、とも言えるわけじゃん。
だからこそ、さっき言ったように必死で若作りしちゃう人も出てくるんだろうけど……、それは逆に、内面的な未成熟さ、歪さをさらすことにもなりかねないっていう。

そうじゃなくて、その年齢なりの人生の喜びというのは必ずあるはずだし、そうやって年相応に重ねた経験がちゃんとその人の魅力に転化されているような生き方、考え方というのも絶対にあるはずでしょう。
要は、おいたろうさんがこれまでどう生きてきたのか、ということが、ここに来て問われてもいるんだと思いますよ。

こばなみ:
たしかに中身が決め手になると思えば、年をとるのも悪くない! 
あと最後にすみません!相談文の「前歯が入れ歯」っていうのがどうも気になって……。

宇多丸:
歯の健康は「勉強」と同じです! 
つまり「若い時にもっとちゃんとやっとけばよかったね」という類い。
これもまた、若さにかまけてるといつかツケが回ってくるよ、という話ですね……。
それにしても前歯って……、何やらかした!?


【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年11月29日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
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詳しくは
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。



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