コロナへの感染対策や危機感に周囲とギャップがあり辛い。収束してもその溝が埋まるのか不安……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室370】
✳️今週のお悩み✳️
最初の緊急事態宣言時にはあった周囲の危機感と自分のそれとのギャップが辛いです。
私は小さなバーの店主ですが、飲酒を伴う場での感染対策の難しさを痛感し、悩んだ末に去年の夏頃から自主休業を続けています。今年のお正月、お世話になっていたバーのマスターから店を辞めるとの連絡があり、不要不急の外出自粛の要請もあった時期なので悩みましたが、誰もいなさそうな時間帯をマスターに聞いて顔を出しました。でも、お店の最後ということで次々にお客様が訪れて……。その間も飲食時以外は常にマスク着用の私に向かって「この人、こんなに怖がって」とマスターから馬鹿にされたように言われたり、他のお客様や同業の方からも「マスク外したら?」「休業して大分、儲かったんだろ?」と声をかけられて、悲しい気持ちになりました。ぎゅうぎゅうの店内なのに消毒液も換気も無し、トイレには石鹸も置いてなくて凄く怖くなって帰りました。生活のために店を開けざるをえない店主達の気持ちもわかるし、飲んで応援!みたいな常連さんの気持ちもわかるんですが、でも……、と、コロナ前と変わらないようなライフスタイルを送っている周囲を見ると思ってしまいます。
一人暮らしの68歳の母は老人ホームの理事長です。自身の重症化の可能性や守らないといけない人達を預かる立場なのに、母は非同居の妹夫婦と小学生の孫と会ったり、一緒に食事するのを止めてくれません。去年、コロナ大流行時のNYCに住んでいた妹たちが日本で暮らすため帰国した際も、検査結果が陰性でも二週間は別居して欲しいと言った私に対して母は「妹たちがかわいそうだから」と聞いてくれず、母の家で一緒に過ごしていました。万が一でも陽性だった時に与える影響(母が高齢である事や母の仕事)を考慮しない母や妹に対して腹立たしく感じました。
そもそも母は「自分は感染しても良い」とも言っていて、責任感がなさすぎるのでは?と思ってしまいます。妹には、気を悪くするかもしれないけど、高齢の母のことも考えて変異株の流行の間だけでも会うのを控えられないかな?とお願いしたら「感覚が鈍ってた」と言ってくれてそこはありがたかったんですが……。
誰にも感染させたくない、感染したくない、自分が誰かを殺してしまうかもしれないウイルスだから、お互いワクチンを打つまでは前みたいに会わないでおこう、寂しくなったらリモートか屋外でマスクしたまま会おう、職場では黙食してね、そんな風に彼氏に伝えると「最悪のケースばかり考えている。感染が収まるまで普通に会えないなんておかしい。みんなでマスク会食なんて不可能だし、黙ってるのが平気な人ばかりじゃない」と言われてしまいました。
私が感染対策の正しさばかりに囚われて、他人にも押し付け過ぎなのかもしれません。完璧さを求め過ぎて相手を息苦しくさせているのかもしれません。過去に父と兄と恋人を病気で亡くしているので、死に対してほかの人より敏感になっているせいもあるかと思います。ワクチンの希望も見えてきてますが、今は周囲との温度差が辛くて、コロナ後の世界でもその溝が埋まるのか不安です。
(酩酊・38歳・バーの店主・ 大阪府)
宇多丸:
バーの店主さんということで、今も本当にご苦労されていることでしょうね……。
そしてこんな風に、コロナに対するスタンスや温度感の違いから、イラッと来たり孤立を感じたりってことは、目下、文字通りそこらじゅうで誰もが毎日経験していることと言ってもいいんじゃないかと思います。
僕自身は、前に「みんなが違う景色を見ている」ってイラストを描いたけど、まさにあんな感じで、みんなそれぞれ立場や事情によってさらにまったく違う状況に置かれているわけだから、外から見た印象だけで他人のふるまいを簡単にジャッジするのはこれまで以上に慎まないといけないな、とは考えるようにしていますが。
少なくとも、我々一般の国民同士がお互いを指さして非難しあったりするのは、実に不毛だし悲しいと思いますよ。みんな生きるのに必死なだけなんだから。
文句は為政者に言わないと! 主権者としてね。
その意味で、件の酒場のみなさんは、明らかに異なる考えを持っているらしい酩酊さんを揶揄してみせることで、要は自分たちサイドを勝手に安心させようとしているだけですから。まぁロクなもんじゃない。
酩酊さん側は彼らの立場にも一定の理解を示しているからこそわざわざ来店しているのに、向こうは露骨に自分らの正当化しか考えてないもんね。
特に、「休業して儲かったんでしょ」とか、どんな流れであれそこまで無神経な言葉を吐ける人間がホントにいるのかって、驚いちゃいましたよ……、まぁそれに関しては、世の中にはあんな見下げ果てた連中もいるんだなぁと、内心で呆れかえっておけばいいですよ。
ただ、身の周りにいる人たちとは、そこまでわりきった距離を取ったままでもいられないですもんね。
もちろん、酩酊さんの意識の持ち方は、ひとっつも間違ってないですよ!
特に、自らが感染源にもなり得るのだから、という危機感は、改めてみんなもっと心に留めておくべきことですよね。
だからこそ自分自身はできるだけのことをしよう、という心がけも当然これ以上ないほど真っ当だし、その一方では、他者にそれを押しつけているのではないか?と我が身をふりかえる思慮までしっかりお持ちで、姿勢として申し分ないと思います。
だってさ、コロナで亡くなっている人たち、現に山ほどいるんだよ!
ご家族をコロナで亡くされた方たちだって現実にたくさんいるその真横で、ナメた態度なんか取れますか?って話だよ。
こばなみ:
それは本当にそうですよね。
宇多丸:
無論、医療関係者のみなさんのギリギリの状況というのもあるわけだし。
ということで、酩酊さんが悪いわけじゃないというのはまず大前提として……。
こばなみ:
せめて近しい家族や彼氏はわかってくださいよって、これ読んでてちょいイライラしてしまいましたけど……。
宇多丸:
まさにそこですよね。
他人はともかく、あんたたちくらいはもうちょっとすんなり味方になってくれよ!っていう。
特にお母さん、老人ホーム理事長でそのテンションというのは、ちょっと本気で心配になってきちゃいますね。
その世代には、科学的正論を説くよりも、「そんな態度がバレたら速攻で炎上するよ!?」とか、“世間の目”を意識させるような脅しが効いたりしないかな。わかんないけど。
この前の義母の話じゃないけど、歳を取るとやっぱり、世の中の変化というものに対して、とかく自分の経験則をベースにタカをくくってしまいがち、という傾向は残念ながら確かにあるのかもしれないなぁと思いました。
我々も自戒してゆかないとね。
こばなみ:
その点、妹さんは言ったら理解してくれたようでよかったですけどね。
宇多丸:
一番大変だったときのアメリカをご存じというのもあるだろうけど、すぐにきちんと非を認められているのはさすが、という感じですね。
こばなみ:
あとは彼氏か……。
宇多丸:
なんなら親兄弟以上に基本的な考え方は共有していたい、というか、してなきゃなんのための「パートナー」だよ、っていう間柄だもんね。
ただ現実、東日本大震災のときもそうだったけど、何か有事があると、それまではさほど問題にならなかったような違いが決定的な断絶として前面化してしまって、パートナー解消に至りやすい、というのはあるかもしれないですよね。
逆に言えば、どんなに向かい風が強いときでも、共に支えあって前に進める誰かさえいてくれれば……。
こばなみ:
それだけあればまだ救われるのに……。
宇多丸:
だからここは彼、ちょっと残念なところでしたね。この件ではよそでさんざん嫌な思いしてきたんだから、せめてあなたくらいは、ただ自説を押しとおすだけじゃなくて、まずはこっちに寄りそってほしかった……みたいな心情を、もう一度彼にちゃんと伝えてみたら?
ちなみにこの、「一見正論風のあっさい一般論などを振りかざして、議論のマウントを取ろうとしてくる」感じは、ある種“男性パートナーあるある”でもあるのかな、という気もちょっとしちゃいましたね、恥ずかしながら過去の己を顧みてみても。
そんな話がしたいんじゃないよ!っていうね。
もし彼が、酩酊さんが改めて真摯に考えや気持ちを訴えているのに、やっぱりまた同じように、少しずつでも歩み寄ろうとするような姿勢すら感じられないリアクションしか返してこなかったとしたら……、ぶっちゃけそれは事実上、言ってみれば「一緒にいると余計に孤独を感じてしまう」ような、形骸化したパートナー同士にすでになっちゃってる、ってことじゃないですか。
ちょっと今日だけは話を聞いて、というときに、きちんと立ち止まって向きあってくれる相手なのかどうか。
そこから先は酩酊さんが決めることだけど……、ともあれ今の彼はまだ、ここまで酩酊さんが深く疎外感や孤独感にさいなまれているということを、正確にわかってない可能性も高いと思うんで。
まずはやっぱり、しっかり話し合うこと。これしかないですよ。
お母さんに関しては、妹さんや、なんなら孫たちとも連合軍を組んで、さっきも言ったけど、とにかく「世間体」を盾に攻略してゆく!というのはどうですかね。
理事長職、引きずり下ろされるよ?とか、最悪、入所者になにかあったら週刊誌沙汰だよ?とか。いやこれ、若干マジな話でもあるけど。
あと、僕自身、平常時は飲み屋的なところにもよく行っていたひとりの客の感覚から言わせてもらうと、もちろん最初に言ったように、みなさん十人十色のっぴきならない事情を抱えているのはわかるし、背に腹はかえられないということで営業されているところ、またそこに集まる人たちのことも、責める気にはまったくならないんだけど、だからといって、まさに酩酊さんが行かれたそのバーのように、なんら対策も打たずにお客をパンパンに入れて大騒ぎ、コロナなど知ったことか!なノリがむきだしなお店には、じゃあ事態が収拾したあと積極的に行くかっつったら、正直少し足は遠のくかな、と思います。
あそこの雰囲気は自分には合わないな、という印象がぬぐえなくなってしまうというか……、あくまでも僕個人としては、ということですけど。
こばなみ:
私もそういう視点でチェックしちゃいますね。
宇多丸:
そう考えるような層も、目に見えないだけで実はたくさんいる。見る人は見てるもんですよ。
つまり酩酊さんが、もろもろをできるだけちゃんとしようとしているのは、長い目で見れば商売的にも、絶対に無駄じゃないはずだと僕は思うんですよね。
「おたくのお店はコロナ禍でもすごくきちんとしていましたね、信頼できます」という良質なお客さんたちが、いずれ必ず帰ってきますよ!
それまでなんとか、踏んばれるといいんですけどね……、そのためにも、やはり周囲のサポートは必須でしょうから、協力体制がうまく確立できることを、心からお祈りしております。
我々自身も、すぐ隣にいる人がご身内をコロナで亡くされているかもしれない、あるいは医療関係者で大変な思いをされているかもしれない、そして当然、自分もいつその当事者になるかわからない、という現実をもっとしっかり意識しつつ、それでいて互いの抱える違いも当たり前のように尊重しながら、各々なんとかサバイブしてゆきましょうよ、ということに尽きますね。
こばなみ:
新たな感染者数が10000人を超えましたし、新型コロナウイルス感染症対策のデータページを見てみると、確実に感染が拡大していることがわかります。
今回の相談は、自分自身もあらためて気が引き締まるものでした。