【山形】眠っていた織物から新たなプロダクトをつくる「Oriori」
日本全国でがんばっている女性を紹介する「のぼり坂47」プロジェクト。今回は、山形県で、それまで呉服店などで眠っていた着物の生地を使って、新たなプロダクトを生み出している「Oriori」の代表・藤川かん奈さんに聞きました。
眠っていた織物を国内外問わず届けたい!
「毎日幸せだなあ」と感じる人や「なんだかんだいつも楽しそうだなあ」と言われるような人が世界にあふれたらいい。そんな思いから、私たち「Oriori」は、ブランド事業と教育に関わる事業を行っています。
拠点は、山形の最北端にある人口1万3000人ほどの小さな町・遊佐町(ゆざまち)。そこに若きクリエイターたちが集まり、さまざまな人やモノとコラボレーションしながら製品を作っています。
製品づくりは、まず、山形県内の呉服店さんなどから着物になる前の生地(反物)を仕入れ、酒田市のしみ抜き職人さんへクリーニングをお願いすることからスタート。そして、企画からプロトタイプの作成、製品化、イメージ撮影、販売などを一貫して行い、山形庄内地区の作り手さんに制作してもらっています。
着物のビンテージ生地から作ったストールやスカーフ、ポケットチーフ、アクセサリーなどを販売中です。
このような事業を通して、日本に眠っていた織物たちを喜んでくださる方々へ、国内外問わず届けていくことを目指しています。そして、これまでブランドの立ち上げなどに関わったことが一度もないなか、私たちがこうして挑戦する姿が、誰かの後押しになれば…という期待もあるんです。
イタリアでのクレイジーな体験がきっかけ
「Oriori」は2019年4月に、遊佐町で生まれました。私は京都市で生まれ育ち、遊佐町歴は2020年で5年になります。
遊佐町に来て、地域おこし協力隊の仕事をしていたのですが、ふと次のキャリアについて考えるようになりました。
「もしかしたら、住む場所を変えなくてはいけないかもしれない。でもこのまま京都に帰るのも…」と思い、気分転換も兼ねて2018年の春に大好きな国・イタリアへ旅立つことに。選んだ地は、イタリア南部にあるシチリア島でした。
滞在したのは、シチリアのなかにあるミラッツォという小さな町。Air bnbで泊まった宿で出会った友だちからある展示会に誘われ、イタリア人写真家・ジュゼッペラスパーダに出会いました。
私は彼の写真の美しさに圧倒され、いろいろ語り合いました。そのうちに彼から「着物を着た日本人が海に飛び込んだ写真を撮ることが夢。かん奈をモデルに、この夏、シチリアの海でそのプロジェクトを実行したい」と提案されました。
冗談だと思ったので受け流して帰国したのですが、それからも彼の真剣な提案があり、それに乗ろうと決心。2018年の8月に実行することに。今度は、撮影で使う着物を貸してくれた遊佐町の呉服店・阿部京染店の松永ゆみさんにも同行してもらい、再びシチリアを訪れました。
ジュゼッペの招待で、私たちは着物を着ていろいろな展示会やパーティに参加しました。最初は何の肩書もなく、ただのモデルとして来ているだけだったので乗り気ではなかったんです。でもそんな思いが吹き飛んで、自信がわいてくるほど、着物は参加していたセレブたちからの注目の的。
「こんなに着物が尊敬されているところを見たことがない!」と、同行していたゆみさんが感動して涙を流すほどでした。
そして、ついに私はシチリアの海に着物を来て飛び込みました。しかも、正絹(シルク100%)の着物! クレイジーですよね。
正絹の着物で海へ入るというのは、業界では破門レベル。私も「そんな扱い方をしていいのかな」と揺らぐ気持ちが確かにありました。
でも、展示会やパーティで出会ったセレブやプロジェクトを発案したジュゼッペなど、海外の人々が惹きつけられるほど、日本の着物はすばらしいものです。その着物が、何者でもないと思っていた私に自信をくれたことが後押しになりました。
このプロジェクトが終わって思い浮かんだことは、「海外の人々を魅了する着物と世界をつなぐ役目を担えるのでは…」という使命感でした。
そこで日本に帰国してから、ゆみさんのお店の蔵に眠っている生地たちを見せていただきました。そこにあったのは、想像を遥かに超えた美しい生地たち。
「自分がほしい!」と感じ、また「どうにかこの生地をたくさんの人に見てもらって、使ってもらいたい!」という思いから会社を立ち上げることにしました。
ちなみに「Oriori(織々)」という名前は、活動が織物からはじまったことや、いろいろな人の思いが折り重なってプロダクトが生まれることから名付けました。
“固定概念をぶち壊し”、美しくてかっこいい、でもどこかクスッとお茶目なプロダクトづくりや発信をしていきたいと思っています。
今の状況にめげずに、挑戦しつづけていきたい!
「Oriori」の起ち上げから1年間走ってみて、今は大切にしたいことや届けたい人が明確になってきました。
新型コロナウイルスの影響もあって、展示会や店頭販売は打撃を受けましたが、その代わりにいろいろなことを見つめ直すきっかけを与えてもらったと思っているんです。
ちょうどそう考えていたタイミングで新たなルーキー・阿部さんが「Oriori」に加わってくれました。
阿部さんとの出会いは、「Oriori」で募集していたインターン生へ応募してくれたこと。本当は上京する予定だったのですが、それをやめて遊佐町へ。すごい勇気だと思います。
彼女の得意なことや学びたいこと、心躍る瞬間などを聞いて、広告の企画や商品の企画などを担当する「プランナー」として働いてもらっています。
私たち「Oriori」は、自分たちが挑戦しつづけられること、誰かに寄り添えるような存在であることを大切にしています。
今後は、昨年あまり活動できなかったイタリアでのメルカート(市場のようなもの)の開催や若いデザイナーの方への生地提供とコラボレーションなど、新たな取り組みをしていきたいと思っています。
女性ならではの感性を大切にして、ハッピーに生きてほしい!
いろいろなプロジェクトに参加していて感じるのですが、女性ならではの感覚ってとても大切で、それはスキルとかではなく本能の部分なのではないかと思いました。
女性のみなさんには自身の感性のおもむくままに、自分もまわりもハッピーな環境で生きてほしいなと思います。
★好きな言葉★
祖父がいつも優しい笑顔で伝えてくれた言葉です。
眠っている織物を生かしてプロダクトを生み出す
「合同会社Oriori」
山形県の北の果て、遊佐町から世界へ。私たちのミッションは、日本の眠っている織物たちを喜んでくださる方々に届けることです。私たちが身に付けたいものへと織を変化させたり、織を使って創作したい表現者の方へ、国内外問わず届けていくことを目指します。