自己主張がうまくできず黙っているのでストレス……。ある日突然大爆発したりも……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室58】
✳️今週のお悩み✳️
自己主張がうまくできません。子供のころ、自己主張が強すぎて他人とケンカばかりしていました。それに懲りて、控えめになってケンカしなくなったのはいい のですが、今度は自分の意見が全然言えなくなってしまいました。嫌なことがあってもひたすら黙っています。しかし、それのせいでストレスがたまります。いくつかストレスが重なると、ある日突然大爆発して怒ったり泣き出したりと周りに迷惑をかけてしまうことがあります。友人には「爆発する前に言って」とあきれ気味に言われます。また、「何を考えてるかよくわかんない人」となんとなく距離をおかれてるようで、親しい人は少ないです。なんとかして自己主張がうまくできるようになりたいです。アドバイスよろしくお願いします!
(みゅーたん・22歳)
宇多丸:
小さい頃はどっちかと言うと活発なタイプだったんだけど、長じるに従ってだんだんと引っ込み思案になってきちゃって……っていうの自体は、別に珍しいことじゃないし、そのことそのものがそんなに「悪い」わけでもないと思うんですよね。
要は、いろんな他者と出会ってゆく過程で、それまでの自分の狭い世界観を再構築せざるを得なくなる、っていうことだからさ。「成長」って、大なり小なりそういうもんだとも言えるでしょ。 でも、さすがに「ひたすら黙っている」か「大爆発」かのどっちかっていうのはやっぱりちょっと極端だし、まぁ間違いなくいい印象は与えないよね。
こばなみ:
言いたいことが上手く言えないって悩み、多いですよね。
宇多丸:
ただ、みゅーたんさんの場合、上手く言える言えないのもっと手前の段階で、相手に自分の考えや気持ちを直接伝えるのをハナから諦めちゃってる、そのくせ理解してもらえないことに対する苛立ちや悲しみはしっかり感じてる、っていうことだからな~。
意識では他者とのコミュニケーションを避けようとしてるんだけど、無意識がどうしてもそれを欲して悲鳴を上げてる、みたいな。
子供のころ、「自己主張が強すぎ」を誰かにたしなめられたのがよっぽどショックだったのか、あるいはそのたしなめ方が頭ごなしすぎたのか……、いずれにせよ言えるのは、ホントは「自己主張が強いこと」自体が悪いんじゃなくて、自己主張「だけ」を強く押し通すのが良くないってことなんだけどね。 そういうことをちゃんと教えないで、「屁理屈言うんじゃありません!」で済ませちゃう大人も多いからなぁ。
自分の意見を丁寧に伝えた上で、相手の言い分もしっかり聞く。それを繰り返しながら、それぞれ考えを発展させて、可能な限り両者が納得できるような落としどころを探ってゆく。それが無理でも、互いの違いを正確に認識して、尊重し合うよう努める……、めんどくさいかもしれないけど、とりあえずそういうのが、理想的なコミュニケーションの手順ってもんでしょう。
その意味で、思うところはあるのに、それを他者にわかってもらうための労力を惜しんでただ「黙る」っていうのは、実は自分の主張だけを押し通してるのとあんまり変わらないんですよ。 結果いきなり大爆発しちゃうんじゃなおさらだよね。
こばなみ:
ある日突然、大爆発って……。まわりにいます?
宇多丸:
ここまで極端じゃないけど、溜め込んじゃうタイプの人はまぁ、いますよね。
前も言ったけど、「実はあの時こう思ってた」とかって言われるの、僕はホント嫌でさ。
そりゃあ気づいてあげられずに申し訳なかったですねぇとしか言えないけど、こっちも神様じゃないから人の考えてることをいちいちわかってあげられるわけじゃないし、その時に穏当に伝えてくれてさえいたら、もっといろんな問題がライトにクリアされてたのにさ、って。
こばなみ:
そんとき言えよ問題ですね。以前も「自分勝手な幼なじみに腹が立つ! 嫌なところを言おうか迷っています……」という悩みがありましたね。
宇多丸:
人間、テレパシーが使えるわけじゃないし、なんかサイバー的に脳と脳を直接つなぐとかができるわけでもないけど、辛うじて「言葉」は使えるんだからさ。
確かにそれはまだいろいろと不便な、不完全な道具ではあるかもしれないけど、とにかく今の我々は、それを通じてお互いをわかり合おうとしてゆくしかないんだから。
バンバン使ってこうよ!
そりゃ、もともと人付き合いが得意なタイプの人とかは、別にそこまで言葉に頼らなくても、自然に誰とでも仲良くなっちゃったり、っていうのはあるだろうけどさ。そういうのはもう、ルックスとか込みで身に付いちゃってる「資質」だから、そうじゃない人は今さら真似しようもないでしょ。 それよりむしろ、自分は人付き合いがあんまり上手じゃない、っていう自覚があるみゅーたんさんのような人こそ、言語的なコミュニケーションスキルを磨く必要が本当はあるんですよ。
こばなみ:
それにしても、この「爆発する前に言って」という友人の方、いい人ですね。
宇多丸:
ホントだよ! 言いにくいけど、でも本人のためを思えばはっきり言ったほうがいいことを、面と向かってちゃんと言ってくれてさ。
つまり、まさしくこのお友達は、僕が言ってるような「言葉を使ったまっとうなコミュニケーション」がばっちり出来てる人ってことですよ。
しかし、こういう素晴らしい友人がいるくらいだから、ひょっとしたらみゅーたんさんも、自己評価が厳しめなだけで、文面から想像されるよりぜんぜん親しみやすい人柄なのかもしれないけどね、実際は。 それに、いつも言ってるけど、ホントに「親しい人」なんてそんなにたくさんはいないのがふつうだし……っていうか、「少ない」ってことは、複数はいるってことでしょ? ぜんぜん十分だよ!
そもそも、ここまで厳しく自分の欠点を見つめられてる時点で、ただのはた迷惑なムッツリ大爆発野郎ではないのは確かですからね。あんまり自己卑下しすぎることもないと思いますよ。
こばなみ:
まとめますと?
宇多丸:
「自己主張がうまくなりたい」ということに対する直接的な答えは、まずは何より、人の話を「聞く」のが上手くなればいい、ということだと思います。
この場合の「聞く」対象は、前にあった「怒りの瞬発力を上げるにはどうしたらいい?」のときと同様、「自分の心の声」も含むんだけど。
みゅーたんさんは、なんらかの理由で自分が考えていることを素直に表に出せなくなってしまった。 その結果、自分がそのときに感じていることを、いったん言語化して客観視してみるという思考プロセスを経ないまま、つまり文字通り「感情的」なモヤモヤのままどんどん心の中に溜め込んでしまい、そのマグマが一杯になるたび「大噴火」、というのを繰り返してきたわけですよね。
これ、「感情をコントロールする」というのを、「感情を抑え込む」ことと混同してしまっているのが一番の問題で。さっきも言ったように、あるポイントでみゅーたんさんは、周囲から不幸にもそういう風に「教育」されちゃったのかもしれないけどさ。 自分の中に生じたネガティブな気持ちをそのまま胸の内にしまい込んでゆくと、その蓄積は、当然のようにさらに非論理的で不合理な、グチャグチャドロドロした「感情の塊」に発酵してゆくしかないわけですよ。そんな、自分自身だってなんだかよくわかってないようなものが、「コントロール」できるはずもないんですから。
だから、自分の中に不意に湧き上がった感情に対して、ただ動物的に反応するのでもなく、かと言って否定したり考えないようにして済ますのでもなく、しっかり向き合い、「なぜ自分はいまこういう感情になっているのか」を客観的に分析すること……、みゅーたんさんに必要なのは、まずそれだと思います。
たとえば、誰かの言動に、思わずムカッと来たとする。人間も動物だからそれは仕方ない。 しかし同時に、その「ムカッ」の質を冷静に吟味して、長期的に見れば有利に働いたりもする、真に合理的な判断を下せる、ということこそが人間と動物の大きな差でもあるわけで。
相手の言っていることが本当に間違っているのか。だとしても、「ムカッと来る」ほどのことなのか。 それとも、ホントに痛いところを突かれてつい反射的に攻撃的、もしくは防衛的になってしまっているだけで、自分こそが間違っているのか。 あるいは、言っている内容自体は間違っていないんだけど、ついこちらが「ムカッと来る」ような言い方、態度をされたなど、実は別のところに真の問題があるパターンなのか。 そんなこんなを自分なりに整理した上で、さて、改めてこの件について、相手と話し合う機会を作る必要があるかどうか。
「ムカッ」ひとつ取ってみたって、よくよく考えてみればこんな風に、いろんな分岐があり得るはずなんだけど、みゅーたんさんはこれまでそれらを、「ストレス」っていう、曖昧すぎて具体的な対処がしづらいフレーズでひとまとめにしちゃってたわけですよ。
こばなみ:
何がストレスかって突きとめず、そのまま放っておいちゃったり……ってよくありますもんね。
宇多丸:
とにかく、人が言ってることにも、自分の気持ちにも、しっかり耳を傾けるということ。
「自己主張が上手い」人って結局、それがちゃんとできてる人ってことなんじゃないかな。
ちなみに、これはちょっとイヤらしい、議論というか会話テクニックの部類ですが、先に相手の話をじっくり聞いておいて、おもむろに「まさにいま○○さんがおっしゃった通りで……」と、まずは相手の言っていたことを全面的に肯定するところから自分の話を始める。 すると、たとえその後に展開される論旨が実は相手の主張からは微妙にズレていたとしても、先方は最初に「この人は自分の意見を全肯定してくれた、つまり同じ意見の人だ」という好印象を植えつけられてしまっているので、こちらの言うことを素直に受け容れやすくなっている、ついついうなずきやすくなっているという……、相手がそれと気づかないうちに、グイグイ自説のほうに引きずり込んでゆく技術ですね。
こばなみ:
それはいいですね! 使おう使おう!!
宇多丸:
部下とか、子どもの教育にも通じることだよね。
なんであれいきなり否定から入られると、それがいくら正論でも、さっき言ったように人間どうしても、反射的に攻撃的になっちゃったり、防衛的になっちゃったりするもんじゃん。
フリでもいいからまずはひとまず肯定してあげるところから入ったほうが、教育する側の目的は明らかに達成しやすいと思うんだよな。
あとはたとえば、仕事相手に対しても使える考え方じゃない? 僕の知人は、クライアントがわりと無茶なことを要求してきたとき、ホントはそう思ってても「それはダメ」とか「できない」って言うんじゃなくて、「おっ、それいいですね!」とまずは言ってみせて、いったんやってみるフリをするんだって言ってましたよ。 で、「これをおっしゃる通りこうしてみると……、あれ? なんか上手く行かないですね……、これとこれが合わないのかなたぶん……、う~ん、難しいな~、絶対いいアイデアだと思ったんだけどな~!」と、ひと通り問題点が浮き彫りになって向こうも廃案を納得せざるを得ないかたちを作ったところで、こんなこともあろうかと、とばかりに当初から用意していた「代案」を出すんだそうですよ。
こばなみ:
メモメモ。
宇多丸:
僕はぜんぜん上手くできてないことですけども……。ということで結論は、「聞き上手こそ主張上手!」。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年8月23日に公開したものを再編集し、掲載しています。