実人生を曲にしている彼。元カノのバンドの曲を聴いて制作活動をしている……? 我慢していますがそろそろ限界です。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室266】
✳️今週のお悩み✳️
音楽を作っていらっしゃる宇多丸さんにご相談させていただきたいことがあり、初めて投稿させていただきました。
私の今お付き合いしている方はバンドマンで、彼が作詞作曲を手がけているのですが、いつも自分史というか、実際の気持ちや出来事を歌にしています。それはとてもかっこいいと思っているし、何より難しいことだというのも理解しているつもりです。最近某有料音楽アプリを共有するようになり、そこでお互いの再生履歴が見られるようになっています。彼の元々お付き合いしていた方もバンドをやられていて、彼はそのアプリでずーっと元カノのバンドの曲を聴いているのです。実際まだ元カノのことが好きなようで、その方のことばかり歌っているような気がします。それはしょうがないことですし元カノの曲を聴くのも制作に必要ならば否定はしません。しかし、せめて私のわからないところで聴いてくれよ……とは思います。
彼の制作活動にあれこれ口出しする気はないのですが、さすがにその音楽アプリを開く度に元カノの顔が出てくることと、履歴に残る再生回数の多さを見るととても不安な気持ちになります。履歴が残っていることに彼は気づいていないようなので、私が言い出さなければ改善されないのですが、言ってしまったらもう聴かなくなるでしょうし、それは彼の制作意欲を削いでしまうことになるのでしょうか。想像では、音楽を作っているバックボーンは自分以外にわかられたくないと思うので、それを口にして伝えてしまったら……と我慢をしているのですが、そろそろ限界で……。
彼を傷つけないよう、上手く伝える方法はないでしょうか。仮に宇多丸さんが同じようなことになられたら(宇多丸さんは履歴を残すようなことはしないと思いますが……)どのように伝えられるのが一番心穏やかに受け止められるでしょうか。
(NGmonster・30歳・東京都)
宇多丸:
実人生をまんま反映させたり、言い方は悪いけど切り売りするような表現が売りのアーティストっていうのはたしかにいて、彼もその色が濃い方なんでしょうね。
まぁ、この文を読んだだけでは、彼が元カノのバンドをやたら聴いてることの真意っていうのはわからないけども……、あくまで創作活動のガソリンとして利用するために、前に言った「想い出箱」をちょいちょい開けてみてるだけ、という感じなのかどうか。 ヘタすると、元カノがそのバンドにいるということをNGmonsterさんが知っている、というこの事実さえ、彼はわかってなかったりするのかね。
こばなみ:
再生回数がガソリン給油回数みたいな?
宇多丸:
ただ、それをNGmonsterさんの目に触れる状態でさらしているのは、やはりいかにもうかつだし、失礼だよね。
こばなみ:
履歴って、簡単に見られるんですかね。そしておそらく、消そうと思えば消せますよね?
宇多丸:
逆に言えば、彼的には特に隠しごとをしてるというような意識、後ろめたさがまったくない、という風にも見えるよね。
元カノがいるバンドではあるけど、本当に単純に「だってかっこいいじゃん!」ってことかもしれない。
こばなみ:
さてそれを、「彼を傷つけないよう、上手く伝える方法は?」ということですけど、彼、それ言われたらどうなるんだろう……? 言うの、勇気いりますね。
宇多丸:
でもさ、彼の心配してあげるのもいいけど、NGmonsterさんこそ彼のふるまいで間違いなく傷ついてるんだから、今後もお付き合いを健全に維持してゆくつもりなら、やっぱりその都度その都度、気持ちや考えはしっかり伝えておくべきだろうと僕は思いますけどね。不安や不満を一方的に溜め込んでいいことなんかないよ。
彼は彼で、NGmonsterさんがすぐそばで実は苦しんでいた、ということを遅まきながらでも知ったなら、全力で、誠実に、NGmonsterさんの不快感と不信感の解消に努めなきゃいけないはずだしさ。
もし仮にですよ、ホントに彼の創作に、元カノへの未練なりなんなり、恋愛感情のさざなみみたいものが必要不可欠で、彼もそう主張したとしても……、だったらひとりでやってろ!って話じゃん。なんだって現パートナーのNGmonsterさんがそこに巻き込まれなきゃならないの。 そもそもパートナーを傷つけながらじゃなきゃできない表現って……、いったいなに? 少なくともNGmonsterさんの立場からは、そんなもんはクソである、と断じていいはずだと思いますよ。
こばなみ:
で、喧嘩になったとしても……?
宇多丸:
パートナーが実はこっちのふるまいに傷ついてたって勇気を出して伝えてるのに、謝りも行動を改めようともせず、攻撃的に言い返してくる?
その時点で僕的にはアウトですけどね。いまのそいつとは絶対にいいことにならない。即決でこっちから切っちまえよ!と思いますけど。
ただ、恋愛感情というものは、そうビシバシと割りきれるもんでもないですからねぇ……。
でも、とりあえずNGmonsterさんはすでに、こうして相談を送ってきてるくらいだから、おそらくはもう我慢も限界で、誰かに背中を押してもらいたがってる段階、ってことではあるんでしょうから。
こばなみ:
音楽だけじゃなく、本とかもそうですけど、自分の私生活を切り売りしているタイプの表現者と付き合うって、相手はそれなりに嫌な思いをすることがありますよね。
宇多丸:
そうね。
しかも、そういう表現含めてその人のことを好きだったり尊敬してたり、ってことも全然ありうるもんね。
その意味で彼には、創作活動に必要なのならば否定はしたくないという気持ちもある、ということは伝えていいんじゃないかな。
ただ、だからってそういう好意に甘えっぱなしでいいってことにはならないからね。 「リアルな感情」とやらを創作の糧にするタイプだとして、じゃあいまの私との生活は「リアルな」人生じゃないのかよ!って話じゃん。
だから、とにかく現状もやもやしてキツいから、こっちの気持ちもケアしてほしい、ちゃんと心穏やかでいられるよう誠意を尽くしてほしい、と主張するのは、パートナーとして当然のことでしょう。 その対応次第で、彼の人としての真価もはかれるよ。ちょっと面倒ではあるけど、いい機会と考えましょうよ。
こばなみ:
彼の歌を聞いてみたいですね!
宇多丸:
あと僕は、元カノの所属してるバンドってどこ?っていうのがぶっちゃけ気になって仕方がない(笑)。
アプリを開くと彼女の顔が出るってことは、そこそこ知られた男女混成のバンドで、メインボーカルなんだろうと思うんですよね。
……the brilliant greenか?
こばなみ:
い、意外なとこついてきましたね。
宇多丸:
うーん、あとは……、東京事変?
こばなみ:
そ、それは……、元カノ、すごすぎですね……。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年1月19日に公開したものを再編集し、掲載しています。