誰にも相談ができません。自分の感情の出し方がわからないんです……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室308】
✳️今週のお悩み✳️
小さい頃から人見知り&人に弱みを見せられないなんだか変なプライドのおかげで、仕事、恋愛、結婚など人生のいろいろについて誰にも相談できずにいます。
これまで、「相談できない=自分でなんとかするしかない」ので、いろいろ調べたりしながらなんとか乗り越えてきましたが、どうしたものかと自分でもこの歳でようやく思うようになったのは良いけれど、相談の仕方(自分の感情の出し方)がわからないんです。
先日、結婚前提でお付き合いしていた彼に「親にも紹介してくれない、結婚や同棲すらしてくれないなら付き合ってる意味がない」と言われお別れしました。おそらく誰にも彼にさえも相談することなく自分の中に溜めてしまったのが原因だと思います。私も2年弱付き合っても彼(穏やかで優しいが、あまりしゃべる人ではない)がどんな人間かがイマイチわからず、信用はしてても信頼できなかったというのもありますが……。
何年か前には一度「このままではいけない」と思い、音楽好きだったのもあってクラブイベントや感情を出せるようにボーカル教室に行ったり、15年以上している接客業の仕事もあって初対面の人でもとりあえず話すことには慣れましたが、深い話や恋愛などのごくごくプライベートなことは友人や家族であってもやっぱり気後れしてしまいます。特に恋愛系はそれが自分の中で顕著です。
自分を出すことは、それ自体が勇気の要ることだと思いますが、私は感情が表情に出にくいタイプのようでより頑張らなければいけません。でも、それで疲れてしまうのもあります。ここまできたのでこれを貫くか!とも思ったのですが、出来れば今よりも少しでいいから感情表現を自然にできるようになれないものかと悩んでます。何か良い方法や考え方はないでしょうか。
(おみそ・39歳・サービス業・岐阜県)
宇多丸:
接客業のほうは一応つつがなくやれているということは、少なくとも表面的なコミュニケーションは普通にとれてて、社会生活上は問題なくやっていけちゃってるということだよね。
それだけに、うまく自己開示ができない状態が続きやすいとも言える。
それにしても、感情が出せるようにクラブやボーカル教室に行った、ってのもすごいよね。
それは単に発散であって自己開示とは違うのでは?という気がしなくもないけど……。
ちなみに僕も、ホントの胸のうちを明かすようなことは、少なくとも表ではほとんどないタイプだと思いますよ。
当然、パートナーが一番なんでも吐き出せる相手ではあるけど、それでもすべてじゃない。
自分だけに吐く弱音、みたいなものもありますしね。要は独り言ですけど。
でも、たとえ自分自身にであっても、「話を聞いてもらう」ことの心理的効果って、やっぱりものすごく大きいものがある。
そこを実感してもらうためにも、ちょっと大げさに思えるかもしれないけど、一度プロのカウンセラーにそれこそ相談してみる、というのはひとつの手じゃないかなと思います。
だってさ、「深い話や恋愛などのごくごくプライベートなことは友人や家族であってもやっぱり気後れしてしまいます」って言うけど、それは別に、普通のことでしょう。
親しい相手だと、これ言ったらショック受けちゃうかなとか、嫌われないかなとか、気を使う部分がむしろ多いわけだから。
逆に、近しくない人だからこそ心おきなく言えることって、間違いなくあると思うんですよね。
ましてカウンセラーっていうまさしく「話を聞くプロ」で、当然守秘義務もあるしちょっとやそっとの話じゃ驚かないし、絶対にその件でこっちをジャッジしたりしないってことがわかっている相手なら、相当しゃべりやすいはずでしょ。
そこで、たとえばいろんなことに対する不満とか、本当はこう思ってた、たとえば育ってきた過程で感じていたこととかをいったん吐き出してみると、ああ私はこれが辛かったんだとか、これが心を閉ざす原因だったんだとか、自分で自分に気づくってこともあるんじゃないかと思うんですよね。
言わば「壁打ち」の効果というか……、僕の独り言も、「ひとりカウンセラー」なのかもしれない。
こばなみ:
私はそれ、自分で書き出したりしてやってるかも。書くと自分の気持ちが整理されるじゃないですか。
どっかSNSに書くとかじゃなくて、メモ帳に書くってことです。
たとえば嫌なことがあるとばばばーって思うままに書く、それで読み返すと何が自分は嫌なのかがはっきりしてくるから、それを解決することを考えるか、結局それならもう気にしないようにしようとか、気持ちが落ち着くんです。
宇多丸:
こばなみもそうやって自分の感情をセラピーして、コントロールしているわけだよね。
だからとにかくやっぱり、なんであれ自己開示できる人や場を持つっていうのは大事なんだと思います。
カトリックの懺悔とかそういう効果を見込んだシステムでもあったんだろうしね。それが今はカウンセラーになった、というか。
前も言いましたが、プロの手を借りるのは何も恥ずかしいことじゃないですから。風邪こじらせたら医者に行くのと同じです。
親しい相手だからなんでもかんでも打ち明けりゃいいってもんでもないし……、その意味でおみそさんはむしろ正常っていうか、他者を他者として強く認識してるからこそ、つまり礼儀正しい人なんだと思いますよ。
こばなみ:
そうですよね。何でもうち明ける土足系コミュニケーションが嫌なときもあるし。
宇多丸:
人ん家にドカドカ上がり込んでうんこしてく、みたいな(笑)。
だけど、やっぱりうんこはどこかでは出さなきゃいけないんだから……、汚いたとえになってしまってすみませんね(笑)。
ゆえに、「処理」は慣れた業者にまかせましょうって、理にかなってるでしょ?
しかしおみそさん、自己開示が下手なんだという自覚があるだけでも、だいぶマシなほうだと思いますよ。
おそらく、生育過程のどこかで、自分をさらけ出すと拒絶される、みたいに思い込むような経験があったりしたのかな。
僕もちょっと、その感じはわかる気がしますよ。
ちなみに、周囲の人たちに関しては、すべてかゼロか的な発想じゃなくて、この人にはこの件はざっくばらんに話せる、この人にはこの話題なら思う存分吐き出せる、みたいに、言わば「パートごとを担当してもらう」的な考え方で接してみたらどうですかね。
わりと皆さん、実はそんな感じでなんとかしてるんじゃないかと思うんですけど。少なくとも僕はそう。
なんにせよこれは、すごく普遍的な悩みだと思いますよ。
こばなみ:
逆に、自己開示が上手い人なんているんですかね?
宇多丸:
いやでもなんつーかな、すごく愛嬌があるタイプというか、たとえば悲しいときに人前でストレートに泣けちゃうような人とか、いるじゃない?
ああいう人はやっぱり、比較的すんなり自己開示できてるとは言えるんじゃないかな。僕は絶対無理だから、いいなと思いますよ。
ちなみにおみそさん、僕がまさにそうなんだけど、自分とは直接関係ない物語やアートなら泣ける、みたいなことはないのかな?
涙がやっぱ一番ストレス成分を排出してくれるらしいですから。まさしく精神浄化作用、カタルシスがあるわけです。
こばなみ:
そういうのがあるとまたちょっと違うんですかね。
宇多丸:
あとさ、改めて考えてみりゃ、みんな自己開示が普段はなかなかうまくできないからこそ、酒とか飲むわけじゃん?
こばなみ:
たしかにそうだわ。酒で勢いつけて、たまに言い過ぎちゃったりもあるけど(苦笑)。
宇多丸:
だから、おみそさんが思ってるよりみんなずっと不器用なんですよ。
たぶんカウンセラーは酒よりずっと穏便にもろもろを解消してくれるはずだから(笑)、もうどうしていいかわかんないなー、という感じなら、繰り返しますがサクッと頼るのはぜんぜんありだと思います!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2020年1月25日に公開したものを再編集し、掲載しています。