彼女のいる彼と体の関係を続けています。会うと最高に幸せなのに別れた後は虚しい。今後どうすれば……?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室194】
✳️今週のお悩み✳️
出会った日から毎週のように飲みに行ってはセックスをしている彼がいます。趣味は合うし、深い話をしなければ一緒に食事をする相手として外見もマナーも最適な相手です。映画や音楽に関する話をすると知識のない人特有の軽薄な知ったかぶりが出てくるのでそこは見ないように浅くて楽しい会話をするようにしています。彼には同棲している彼女がいて一緒にいるときは私のLINEをブロックしています。彼女とはお互いにスマホチェックをしていて、私とのLINE履歴は削除し、外泊するときは必至で言い訳を考えて彼女に連絡をしています。でも私は完全に好きになりました。とても虚しいです。私は彼を軽蔑しているのに、そんなことはどうでもいいと思う程好きなんです。彼は私の顔と体が好きと言います。彼女とはセックスレスだと言いましたが鵜呑みにはしていません。彼と会うと最高に幸せなのに別れた後はやりきれない虚しさに襲われます。このまま流れに身を任せどんどんすれていくか、関係を終わらせるように自分が努力すべきか助けてください。
(マイハズバンドユアボス・34歳・東京都)
宇多丸:
いやぁ、これまたずいぶんとオトナっぽい悩みだなぁ……、そのものズバリ、セフレ関係ってことですもんね。そのうえで、性と愛の境目っていう、かなり高度な問題に直面してるわけだから。
これ、僕なんかの手に負えるかなぁ(笑)。
まず、マイハズバンドユアボスさんの書き口がいいよね。すごく知性を感じる。 「知識のない人特有の軽薄な知ったかぶりが出てくるのでそこは見ないように浅くて楽しい会話をするようにしています」とか、最高だよね(笑)。 ここまで鋭く相手の欠点を観察してて、なおかつ、その部分とは冷静に距離をとって、現実的な範囲で良好な関係を保つようにしてるっていうのがもう、相当オトナですよね。 「深い話をしなければ一緒に食事をする相手として外見もマナーも最適な相手です」っていうのも、わりきり方が身もフタもなさすぎて(笑)、思わず笑ってしまうけども。 ただやっぱり、「マナーも」ってところが、知性や品を感じさせる視点なんだよね。
いっぽう、お相手の彼も……、もちろん、同棲してる彼女がいるのに、っていう根本のところを言われたら、そりゃあ褒められたもんじゃないのは言うまでもないんだけどさ。でもまぁ、人間ですから、なるようになっちまうときは、なるようになっちまうわけで。 実際マイハズバンドユアボスさんとこういう関係になってしまった以上は、僕の持論として前から言ってることですけど、とりあえず今のところは、パートナーには死んでもバレないようにするのが最低限のマナーでしょ。その意味でこの彼は、細心の注意を払って証拠隠滅を徹底してるわけだから、現状できるだけのことはしてるってことなんじゃないかと僕は思いますけどね。 これがよくいるホントにダメな男だと、なにも考えてないからハナからバレバレなことしまくって、当然のようにすぐ修羅場を招いたあげく、誰に対しても誠意ある対応が特にできるわけでもなく、全員を傷つけて終わる……とかいうことになりがちなわけで。そういうのにくらべれば、全然いいお相手でしょ。 ただまぁ、マイハズバンドユアボスさん側の気持ちは、今の状態を辛く感じる程度には、思いのほかどんどん高まってきちゃっていると。これまでのようなクールなバランスが、保てなくなってきてる。 「私は彼を軽蔑しているのに、そんなことはどうでもいいと思う程好き」ってフレーズとか、僕は正直、感動しちゃいましたよ。ホント、歌みたいだなぁって。 彼は彼で「顔と体が好き」っていう、「そこだけかいっ!」とも言いたくなるようなことを言ったりしてるわけだから(笑)、まぁ、お互い似たようなスタンスではあるんですよね、やっぱり。 いわゆる生理的な相性が、本当に抜群なんだろうね。
こばなみ:
見事にハマってる感じですね。
宇多丸:
人柄にほだされてるってわけじゃないぶん余計に、じゃあホントに、純粋に生き物として「合う」んだろうなぁ、って感じすらしますよね。
ただ、マイハズバンドユアボスさんは、「このままの関係を続けるかorやめるか」の二択しか考えてないみたいだけどさ。ホントはそこにもう一個、「彼が今の彼女と別れてちゃんと付き合いだす」って可能性も、一応はあるはずなんだけどね。そこはまったく考えられない、って感じなのかな。
少なくとも、彼とそういう話はしてないし、する雰囲気もないのは間違いなさそうですね。
つまり、マイハズバンドユアボスさんの好意がもはや「LOVE」な段階まで高まってるってことは、ひょっとしたら彼には伝わってないし、伝えられてないってことだよね、たぶん。
そこで、マイハズバンドユアボスさんが、自分からがっつくわけにはゆかないし……って、やせ我慢してでもちょっと引いた立ち位置をキープしていようとしてしまう気持ちも、まぁ全然わかるんだけどさ。
でもね、たとえば彼が、マイハズバンドユアボスさんとのお付き合いの痕跡を念入りに念入りに消しているのは、さっきも言ったように、仮にも現行のパートナー的な相手を、さしあたっては不用意に傷つけないようにするという最低限のマナーであって、だからと言ってそれがイコール、マイハズバンドユアボスさんとの関係までどうでもいいと思ってるとか、後に引きずりたくないと考えてるとかってことには、必ずしもならないと思うんですよね。 彼女との関係だって、本当のところどんな感じなのかは良くも悪くもまだわからないわけだし。 「お互いにスマホチェックをしていて」って、僕の感覚では、「あんたら付き合ってて楽しい?」って感じが正直かなりしちゃうけど……。 とにかく要は、向こうはどうせセフレとしか思っていないだろう、みたいに決めつけているからこその、そのハナからのあきらめモードなんだとしたら、それはそうとも限んないんじゃない?とは言っときたい。 こばなみは、彼女の気持ちわかる?
こばなみ:
こんなオトナっぽい恋愛の経験ないっすよ(笑)。もう止まらない感じがしますよね。
宇多丸:
ということで、これはちょっと、なにが正しい答えなのかは一概に言えないっていうタイプの問題だと思うけど……、なので、あくまで僕の意見としては、ってことで聞いてほしいんだけど。
僕はまず、わざわざいま、慌てて別れようとすることもないんじゃない?とは思います。 だって、目下別に、ほかにちょっとでも好きな人とか気になる人がいるってわけでもないんでしょ? もちろんね、この先も発展性が見込めない関係だからここで別れといたほうがいいのかな、って考えもわかるし、人生観によってはそれで全然、普通に正解なんだろうとも思うんです。 でもなぁ……、そうやって「先」を見越した考え方を優先するあまり、それはそれで決して嘘ではないはずの「今」の充実や幸せまで、先回りして丸ごと否定してしまうのって、個人的にはどうしても、それはそれでどうなの?って気がしちゃうんですよね。 それこそ、ここまで相性がいい、頭ではコントロールしきれないほど好きになれるような人と、この先また出会えるって保証もないのにさ……、まぁもちろんそれは同時に、その人との関係をズルズル続けるうちに、ほかのもっといい出会いのチャンスを取り逃がしているのかも、という可能性の裏返しでもあるんだけど。
たださ、現実問題として、マイハズバンドユアボスさんは、彼のことをいますぐ好きじゃなくなることって、結局なかなかできないと思うんですよ。 たとえ例の「彼の嫌いなところ10個書き出し作戦」をやったってさ、マイハズバンドユアボスさんの場合、すでにしっかり軽蔑はしてるのに、それでもやっぱり好きなんだよ! 打つ手なしですよ! 少なくとも、別れるって方向に完全に決断するのは、マイハズバンドユアボスさんのいまの気持ちを、彼にもちゃんと伝えてからでも遅くなくない? そのうえで、彼がどうそれに応えてくれるかくれないかは、わからないけども……。 ひょっとしたら、結局やっぱり、悲しい結末が待っているだけなのかもしれないけどさ。 それでも! ここまで誰かにどうしようもなく恋してしまうってこと自体が、生きてくなかで、このうえなく貴重な経験だと思うんですよね。そんな相手には一生会えずじまい、って人だってたくさんいるのに! 結果傷ついて終わったとしても、それ込みで人生として豊かってことでいいじゃん、っていうかさ。まぁそれは本当に僕の考え方なんだけど。
こばなみ:
なんだか映画を観ているようです。
宇多丸:
いやでも、むしろ逆に、そんなドラマティック方向じゃなくて、単にこのままのお付き合いを続けるうちに、たとえば自然とオスメス的な盛り上がりは治まっていって、普通にマイハズバンドユアボスさん側が冷めてしまっておしまい、っていうような、面白くもなんともないとこに落ち着く可能性だって全然あるわけだからね(笑)。
そうなってから初めて、マイハズバンドユアボスさんがいかに得がたい相手だったか、彼側がようやく気づいて後悔しまくったりとか、ホント、「人生あるある」でしょ。 あるいは、仮にホントに彼が彼女と別れて、正式にこっちとくっつくことになったとしても、それが即ハッピーエンドとも限らないわけだし。 日陰の恋っていうスパイスがなくなってみたら、意外と改めて「コイツやっぱ言うこと浅ぇな」ってあたりが気になってくるかもよ?(笑)
いずれにしても、いまは彼への気持ちが最高潮に高まっている段階なんだから、その火をわざわざ消すこともないじゃん、というのが僕の意見です。 どうせ先がどうなるかなんて誰にもわからないんだから、完全燃焼するとこまで行っちゃえばいいじゃん!とさえ思います。ま、もちろん自己責任でお願いしますけど(笑)。 少なくともやっぱ、彼にもその熱い気持ちをわかってもらうくらいはしといたほうが、その先どうなろうと、後々思い残すこともなくなるんじゃないですかね。 言うまでもなくですが、彼の気持ちや立場もちゃんと尊重しながら……という、人として最低ラインのエチケットは忘れずに、ね。 だからマイハズバンドユアボスさんも、「どんどんすれていく」なんて、自己卑下することはないよ。むしろあなたは純粋ですよ。 たいして好きでもない相手と、保険かけるみたいな、「掛け捨てじゃない!」みたいな(笑)、安定的ではあるけどそんなに楽しくもないっていうテンションで一緒に過ごして時間を浪費するほうが、よっぽど「虚しい」と思うよ。
こばなみ:
そういう人もいますよね。結婚条件とか、概ねそういうの多くないですか?
宇多丸:
でもそれって、逆に一度きりの人生を無駄遣いしてないかな?というのが、まぁひょっとしたらちょっと極端なのかもしれないけど、僕の基本的な考え方ですね。
ま、その前にそもそも、そこまで好きになれるような人と出会えなきゃどうにもならないんだけど……。
その点やっぱ、マイハズバンドユアボスさんは、ラッキーなほうなんですよ。
だって、こんな恋愛経験、普通ある?
こばなみ:
ないですよ(即答)。
宇多丸:
とにかく、マイハズバンドユアボスさんにとって、いまは真夏みたいなもんなんだからさ。
最高のビーチが目の前にあるんだから、さっさと裸になってがんがん泳げばいいじゃん!(笑)
そりゃいずれ、秋も来るし冬も来るよ。でも、その覚悟をしっかりしておくということと、いつか寒くなるからってそのことばっか考えて、ひょっとしたら人生最高かもしれないいまこの瞬間を楽しめないっていうのは、 まったく違う話だよ。
何度も言うけど、彼との関係を続けた結果、マイハズバンドユアボスさんは、そうしなかった場合より、余計に傷つくかもしれない。 でもじゃあ、できるだけ傷つかないほうばっかり選ぶのが、ホントにいい生き方なのか?っていう話ですよ。 特にこの場合、彼との相性は、そうそう何度も出会えるレベルではないと思われるわけで。 その関わりから得られるものはすべて財産、くらいに考えるっていうのも、僕は全然ありだと思うんですよね。 たとえて言うならさ、自分ちの本棚に、すごく悲しい結末の小説があったって、それは全然いいことじゃん? 逆に、ハッピーエンドの本ばっかり並んでるのがいい本棚、ってわけじゃないでしょ? 大事なのはその本が面白いかどうか、役に立つかどうか、もっと言えば自分にとって大切かどうかであって……、まぁだいたい、僕の言いたいことはそういうことです(笑)。
こばなみ:
そうですね。傾向はあるにせよ、いろんな本があるからおもしろいのとだと私も思いますし、そういう人生でありたいですね。
宇多丸:
たぶんだけど、マイハズバンドユアボスさんは、見た目も中身もとっても魅力的な女性なんだろうと思うから、いまのその彼とうまくゆくにせよゆかないにせよ、自分の選択に自信持って、胸張って突き進めばいいんだと思いますよ。あなたは「虚しく」なんかない!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2017年6月3日に公開したものを再編集し、掲載しています。