タオルを替える頻度は?など、転職先の飲み会の話題がつまらない。そんなの人それぞれで良くないですか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室288】
✳️今週のお悩み✳️
数の暴力について相談です。最近転職をして新しい環境になり、部署の飲み会があったのですが、すごく私的には気にしてないこと、どうでも良いこと、を飲み会のたびに持ち出され、わーと私以外が一緒になって言ってくることに、めんどくせえなと思ってしまいます。というか人それぞれなんだから、そんな同じ意見にしなくてもいいじゃないと思ってしまいます。
例えばなのですが、洗濯をするのが週一、タオルの替える頻度、恋人の噛んだガムは噛めるかなど。別の人が加わった飲み会でもそのネタを持ち出されて、否定されるのはわかりきっているので、対応も面倒だし、それにやはり数が集まって否定されるとイラッとするし、嫌な気持ちになります。これが女子にありがちな同等意見が正義!ってやつなのかな……。対処法もしくは、気にしない方法などありますでしょうか。めんどくさいので飲み会も参加したくないです。というか人それぞれで良くないですか?
(さいき・29歳・神奈川県)
宇多丸:
前にあった「飲み会での議論が嫌だ」っていう、あれに近いのかなぁ。
やってる側はたぶん、単に話のネタとして、ってだけなんだけど、同席しててもそこに乗れない人間にとっては、ただただ疲れる……っていうことですよね。
こばなみ:
でもこのネタ、洗濯をする頻度とかタオルを替える云々とか、微妙ですよね。
宇多丸:
要は、自分にはたいして面白く感じられないような話題でそこにいるみんなが盛り上がっているときにどうするか、ということだよね。
ただ、そっとその場を離れてもいいようなシチュエーションならいいけど、飲み会にわざわざ参加しているとなるとそれも難しいだろうし、ずっと無視してるわけにもゆかないし……。
こばなみ:
宇多丸さんならどうします?
宇多丸:
そもそもそんなとこ、行かねぇ(即答)。
たださ、さいきさんは「人それぞれで良くないですか?」って訴えてるけど、別にほかの皆さんも、全員一律でこっちの「常識」に従えー!とかがしたいわけじゃなくて、さっきから言ってるように、基本的にはただその場を盛り上げる話題として俎上に載せてるだけ、なんだろうとも思いますけどね。 そういうやりとりを通じて、お互いのパーソナリティを少しずつつかんでゆくというか、いわゆるキャラ付けをしてゆく、というような効果だって当然あるんでしょうし……、それがさいきさんにとって面白いかどうか、愉快かどうかは別にして、ね。 もちろん、みんなして本気でさいきさんをハブろうとしてるというなら話は別だけど……、その可能性、さすがに低くない?
ということで、「数の暴力」ってほどハードな話なの?という気は正直ちょっとします。
人それぞれでいい、少数派が多数派に合わせることなんてない、というのは異論の余地がない正論で、さいきさんは当然間違っていないんだけど、おそらく他の皆さんもそれは百も承知のうえで、「だからこそ際立つ互いの違い」についてあーでもないこーでもないやり合って、この時間を楽しもうぜ、程度のつもりなんじゃないかなと思いますよ。
ま、「たいしておもしろくもねぇ話で、よくもまぁこんなに盛り上がれるもんだよなぁ」と内心思ってるような場に、それでも一応いなくちゃならない、みたいなときのイライラ、僕も全然わかりますけどね。
前も言ったけど、僕はそういうとき、ニコリともしないで本読んだりスマホ見たり最終的にはイヤホンしたり、余裕でガン無視してますけど(笑)。 会社の飲み会じゃそうもいかないもんなぁ……。
ただ、さいきさんもさ、新しい職場だし、みんなと馴染むためにも顔出しとかなきゃな、というのがあるからこそ、わざわざそんな気の乗らない会に行ったりしてるわけでしょ? 要は親睦が目的の場に、自分もメリットを感じて参加してるんだったら、ある程度は「郷に入りては郷に従え」精神も込みで臨まないと、その時間ムダじゃない? 嫌々いるくらいならハナから行かないほうが、みんなにとっていいことですから。 でも、メリットとデメリットをはかりにかけて、行くほうを選んだのだったら……。
こばなみ:
楽しみを発見してみるとか、ですかね。
宇多丸:
例えば僕ならどうするかな……、何度も言うように、向こうもあくまで軽い話題として振ってるんだと思うから、こっちもライトに反論して遊ぶかな。
「あ、その件、始めちゃいます~? 言っとくけど僕、かなり手強いし、めんどくさいですけど、本気出していいんスね?」って(笑)。
あと、さいきさんがおっしゃっているような不満を、空気が悪くならない範囲でギャグっぽく、でもはっきりキレ気味に表明する、とかもありじゃないですかね。 「もう、めんどくせーなー!」「その件、何度言ってもわかってもらえないから、こっちもいいかげんウンザリしてるんスよっ!」って。 それこそ「出た、数の暴力!(笑)」的に、はっきり言っちゃえばいいんだよ、思うところがあるなら。飲み会ってそういう場でもあるわけでしょ?
こばなみ:
「恋人の噛んだガムは噛めるか」は、数の質問じゃないですけどね。
宇多丸:
そのトピックはさ、チャンスだよ。
要は「究極の選択」みたいな方向に話をズラして、どんどん全体をどうでもいい感じに持っていく(笑)。
「じゃあ、誰のうんこなら、いくらもらったら食えるか」とかさ。超くだらない話(笑)。
タオルを替える頻度の件だってさ、「でも、タオルによりません?」「あと、汗かくほうか、かかないほうかとか、そういうのにもよりません?」「そもそもみなさん、洗剤はなに使ってるんですか?」とか、できるだけ相手に情報を開示させる方向に誘導していったりね。
そしたらさ、敵もさるもの、「話がずれてきてる!」とか言い出したりして(笑)。
こばなみ:
そんなになったら超おもしろいじゃないですか!
宇多丸:
そこまで行きゃあ、もう普通に楽しい会話だよね。
だから、出席する以上はなんであれ、最初から心閉じ気味モードで行かないほうがいいかもよ、とは言えるかもしれない。
自分が孤立しているように感じるときもあるかもしれないけど、あちらによっぽど明白な悪意があるというのでない限り、そんなのをいちいち真に受けて腹立ててたら、身が持たないですよ。 僕だってそりゃ世の中にイライラすることばっかりですけど、だからって、全員説得して回るわけにもいかないじゃないですか。さもなきゃ、かたっぱしからぶっ殺してく!ってわけにも、やっぱりいかないしさ。
意にそわない会話もあるし、思ったようにこっちのことを見てくれないとかもある。腹もそりゃ立つよ。 でも、そのいちいちに全力で戦うほどのことでもない。 それこそ、どうでもいいんだもん。 だから、どうでもいい話にはどうでもいいレベルで付き合っときゃいいんですよ。
こばなみ:
私もニタニタしながら別のこと考えてるときとかありますよ。
宇多丸:
ガンガン食ってるとかね。
僕、おしゃべりに夢中になって食べ物にみんな手をつけてないとか気になるから、「これ、おいしいよ~」とか言って、いますぐ食べなって感じでお皿をまわしてたりします。
こばなみ:
お酒がない人とか確認して注文するとか、ほかにもやることありそうですしね。
宇多丸:
それだとどうにも逃げられない感じなんだったら、さっきも言ったように、こっちからどんどん質問してく、というかたちに持ってく。
しょせんはみんな自分の話がしたいだけなんだから、いい気持ちでペラペラしゃべらせといて、はぁなるほどぉとか適当にあいづち打ちながら、枝豆でも食ってりゃいいんですよ。
飲み会でつまんない話振ってくるからって、その人たちのことを全面的に嫌いになる必要もないしさ。 そのときたまたまちょっとバイブスが合わないだけ、くらいに考えといたほうが、せっかくの新しい同僚たちなんだし、いいんじゃないかなぁ。
こばなみ:
人のことって、全部が全部好きってことなんてないですもんね。トータルで好きとかはあるにせよ。
宇多丸:
とにかく、いきなり「数の暴力!」って頑なになってしまうと、それはそれでこっちも一方的に決めつけてることにもなっちゃいますからねぇ。
こばなみ:
決めつけないで~(真矢みき風)。
宇多丸:
まぁさいきさんも、よっぽど一斉にワッと言われて、ウンザリしちゃったんだとは思うんですけどね。
大前提として、ホントに行きたくない場なら、行かなくていいから。
僕だって基本的には単独行動を好む人間なので、無理してでも周りに合わせろ、なんてことが言いたいわけじゃなくて……、ただ、「人それぞれ」だからこそ、他者同士が共存してゆくために、ときには対話なりなんなりが要るわけでしょ、とは思うからさ。
だからやっぱり……、「恋人の噛んだガムは噛めるか」は、楽しい議論につなげてくチャンスですよ!
こばなみ:
私は噛めないです……。
宇多丸:
そこから、「なんで? だってキスしてんだよ?」とか「じゃあキスは汚いの?」とか、話広げ放題だよ!
こばなみ:
おもしろで言い返すのはいいと思うけど、疲れちゃうときもあるので、そんなときは飲んだり食べたりしとく、ですかね~。
宇多丸:
そこでも、「みんなわかってくれないから、もう飲む!」とか、ときには自分の気持ちを冗談交じりに入れ込むっていうのも、全然ありなわけじゃん。
「うっるさいなぁもう!」って冗談ぽく言うのとか、会話上の知恵だと思うんだよね。
そうやってちょいちょい本音を入れて話してると、裏表ない人ってことにもなってくるだろうし。
こばなみ:
そうやって考えていくと、いっけんつまんないネタもおもしろくなるし、どんな人ともコミュニケーションできる力がつきそうですね。
職場のみなさんとも確実に距離が縮まりますし、嫌だ嫌だ方向からの発想の転換、大事ですね。
宇多丸:
繰り返しますが、とはいえ僕自身は、つまんねぇなぁと思ったら平気で無視、中座、というかそもそも不参加、というタイプなので……、多少嫌われたり孤立したりしても構わない、という覚悟があるのであれば、そういう選択肢もありますからね、念のため。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年7月27日に公開したものを再編集し、掲載しています。