父の携帯を覗いたら愛人からの出産報告が! これは墓場まで持って行くべき?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室101】
✳️今週のお悩み✳️
父に隠し子がいるようです。いけないとは知りつつ父の携帯を見てしまったところ、お相手の女性から出産の報告を受けていました。また、もう1人同じような関係を持っている女性がいることもわかりました。ショックでしたが、今までの幸せな家族が壊れる恐怖から誰にも言えずにいます。兄に相談しようかと思いましたが結婚を控えており、幸せムードを壊すようなことをしたくありません。母はどちらの方とも面識があり、父の長らくの友人ということで疑っていないようです。父はこのことを隠し、母との仲も良いので少なくとも別れるつもりはないのだろうと思うと、墓場まで持っていくべきなのか迷っています。
(かに玉・24歳・兵庫県)
宇多丸:
この相談コラムでもちょいちょい出てくる「人の携帯の中身こっそり見ちゃった」問題ですけども、これはなかなかの重量級が来ましたね!
しかし、お父さんの携帯盗み見るって、そもそもなんでそんなことしようと思ったんですかね。
恐らく、それ以前からよっぽど、怪しくは思ってたってことかな。
こばなみ:
秘密のトビラを開いてしまいましたね……。
宇多丸:
それにしてもこのお父さん、いい歳してモテすぎっていうかダメすぎっていうか……、こういう人、ホントにいるんだねぇ。
そりゃウン十年前とかまでは、権力者や金持ちがお妾さんに子供産ませるみたいな話も、今よりはまぁ、もうちょいよくあることだったのかもしれないけどさぁ。 いまどき隠し子って、せいぜい歌舞……(以下略)。
こばなみ:
かに玉さんの年から推測するに、お父さんは40代後半くらいですかね? 3股!?
宇多丸:
そりゃ魅力的な男性なのは間違いないんだろうけども……、いくらなんでも近場で全部回しすぎ!
前にも二股の板挟みになって迷惑!って相談がありましたけど、なんかセコいっていうか、単にだらしないだけって感じがするんだよな。
その上、少なくともかに玉さんに勘付かれて、ちょっと携帯覗かれただけで全バレっていう程度にはウカツでもあるわけだからね。リスクに対する自覚もひょっとしたらあんまりないのかもしれない。
まぁ、そういう天然なというか、ちょっとぼんやりしたところがあるくらいの男のほうがまた、可愛く見えるのかモテがちだったりする気もしますけども……、基本とっても優しかったりするしね、そういう人って。 で、まさにその優しさこそが、その場その場で流されがちな弱さにつながっていったりもするわけだけど。
いずれにしても今回の場合、お父さん側の「正しくなさ」はあまりにも自明すぎて、そこをあげつらっていっても底なし沼なだけなので、いったんそれは脇に置いておくとして……、あ、人の携帯盗み見て勝手に悶々とするっていう、かに玉さん側の「正しくなさ」に関しても同じくね。
まず、僕の意見としてひとつはっきりしてるのは、今んところホントにこの件がまだ誰にもバレてなくて、表面上平穏が保たれているのであれば、かに玉さん、いくらショックでも、この時点では絶対に誰かに言ったりしちゃダメだよ!ってことですね。
こばなみ:
お兄さんにも話す必要はないですよね?
宇多丸:
今はないと思う。
話してどうなるっていうの?
それでかに玉さんの気持ちはいっとき楽になるかもしれないけど、そのぶん秘密が漏洩して修羅場に発展したりするリスクは確実に高くなるわけで、そしたらもう気が楽どころの騒ぎじゃないよ。特にお母さんは、間違いなく深く傷つくことになる。 それでも構わないから正義を追求したい、白黒はっきりさせたい!とかいう固い信念がかに玉さんにあったりするなら仕方ないけど、個人的にはそういうの、はた迷惑な考え方だなぁって思います。ま、かに玉さんは別にそういうんでもないでしょ?
この件について、かに玉さんが今、話し合うべき相手がいるとすれば、それは地球上で唯一、お父さん本人以外いませんよ!
こばなみ:
お父さんと何を話すんですかね?
宇多丸:
そりゃもう「どういうつもり?」ってことに尽きるよね。
お相手の女性も、妊娠を隠したまま勝手に産んじゃいました!ってわけじゃないでしょうからね。
世間的な倫理に反しているなんてことは百も承知の上でなお、大の大人二人がこういう選択をしている。
ならば、家族に対してもそうだけど、その産まれてきた子の人生に、どうやって責任負うつもりなのか?とか、問い詰めたい件は当然山ほどありますよね。
と同時に、そんなもろもろの釈明をお父さんの口から直接聞いておくのは、特にかに玉さんの人生にとって、ひょっとしたら意味があることではあるかもしれないな、とはちょっと思います。
正しいとか間違ってるだけではわりきれない、お父さんなりの人間的な葛藤がそこに見えてくるはず、っていうかさ。 言ってみれば、親もまた自分とは違う独立したひとりの人間でしかない、という真実を心底思い知る、いい機会になるんじゃないですかね。
こばなみ:
宇多丸さんがもしなんかの偶然でそういうことを知っちゃったとしたら、どうします?
宇多丸:
当然なんだかなぁとは思うし気にもなるだろうけど、向こうが改めて告白してきたりでもしない限り、自分からそれ以上追求とかはしないかなぁ、僕は。単純にめんどくさいことがイヤってのもあるけど……。
僕の人生にも、親に知られたくなかったり口を出してほしくなかったりする面があるのと同じように、親の人生だって結局、どこまで行っても本人のものでしかないわけだからさ。
親だって、僕らとまったく同じように、道を誤ってしまうこともある。 そして、そうやって間違うこと含めて他の誰でもないその人の人生、言わば固有の「間違う権利」なんだから、いちいちほじくり返したり先回りしてまで、そういうこと全部を封じて回るのもどうなんだ?というのが僕の考えでもあるので。
かに玉さんだって、今のお父さんと同じ年齢になったときに必ず思うはずですよ。「あれ、私まだ全然、人間未熟なままなんですけど!」って。 まだまだ煩悩だらけで、迷ってばかりで……、それこそ、はたから見ればトチ狂ったとしか思えないような行動に、それでも本人としては止むに止まれず走っちゃったりしてるかもしれない。 僕だって、46歳の自分がこんな程度の人間的成熟度だなんて、若い頃は思ってもみなかったよ!
こばなみ:
みんなそうですよね、きっと。私も24歳のときは39歳はもっと大人と思ってたけど、ぜんぜん子供ですもん。大人はしっかりしてるなんて、自分も まわりも含め、ウソだった! そう見えてはいるのかもしれないけど、つつけば失敗も情けないことも次から次へとボロボロ出てきますから。
宇多丸:
かに玉さんのお父さんが、まさしくその状態なわけだからね!
仮にこれでホントに、かに玉さんがお父さんをこっそりどこかに呼び出して、改まった態度で今回の話を切り出したりしたら、完全に対等な大人同士、どころか、娘のほうが明らかに上の立場にすらなるわけでさ。 究極の親離れ完了!の場面ですよ。
こばなみ:
こんなことがあったら、大人にならざるを得ないですよね。
宇多丸:
それは、子供としてはちょっとさびしいことでもあるかもしれないけど、人としての大きな成長ポイントであることは間違いない。
そのプロセスを経れば、ひょっとするとそんなお父さんの弱さダメさを、ちょっとは「許せる」ような気持ちも出てくるかもしれないしさ。 何しろもう、子供は産まれちゃってて、かに玉さんはそれを知っちゃってるわけだから。どこかでその事実を受け入れながら生きてくしかないんだもん。
ただ、その痛みを他の家族、特にお母さんにまで共有させるかどうかに関しては……、少なくともかに玉さんが負うべき責任じゃない、というのも確かだと思うんです。 そんな重たい十字架、仮に背負うべき人物がいるとしたら、それはやっぱり、お父さん以外にはありえないでしょう。
なので、しつこいようだけどこの件については、話すとしても当事者であるお父さんとだけ、あとは秘密厳守!で行ったほうがいいと思います、さしあたっては。
その上で僕なら、クギだけはキツ~く刺しておきますけどね。 「死んでもバレるんじゃねぇぞお前! お母さんを傷つけるようなことがあったら私が殺す! あと、その子にも絶対肩身の狭い思いとか不自由させたりするんじゃねぇぞ!」くらいの。
ちなみに、相談文には「母はどちらの方とも面識があり、父の長らくの友人ということで疑っていないようです」ってありますけども。 これだって、本当のところはわからないじゃないですか。 たとえば、お母さんだって実は薄々気づいてはいるんだけど、いろいろ考えた結果あえて黙ってるだけ、なのかもしれないじゃん。 極端なことを言えば、お母さん側にだって、何か家族には言えない秘密があったりする可能性だって、マジな話ゼロじゃないわけですよ。
こばなみ:
なんだか昼ドラみたいだ……。
宇多丸:
そう言うけどね。誰だって墓場まで持ってきたい秘密のひとつやふたつあるもんだとしたら、自分の親兄弟だって同じことだろう、って話でしょ。
どんな家族でも、表面上の平穏さの向こうに、何か口に出せないような影の部分を抱えていてもおかしくない……ってより、それが普通、ってことなんじゃないの?
そんな後ろ暗いところやいびつなところがまったくない、「普通の」家族なんてのが存在したとしたら、逆にそっちのが異常だよ!
最後に蛇足ながら付け加えておくと、いま劇場公開されている映画で、是枝裕和監督の『海街diary』っ ていうのがあるんですけど、まさにそういう「優しいけど(から)ダメ」なお父さんを、後に遺された腹違いの娘たちがちょっとだけ理解し許せるような気持ちになっていく話、とも言えるから、特に今のかに玉さんの心情には、ドンピシャで寄り添ってくれる一本なんじゃないですかね。吉田秋生の原作漫画含め素晴らしい作品なので、ホントにオススメですよ!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2015年6月20日に公開したものを再編集し、掲載しています。