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【ライムスター宇多丸のお悩み相談室323】恋愛感情と性的欲求が一体ではない私。ノーマルではないことへの折り合いのつけ方は?


✳️今週のお悩み✳️
私は4年ほど前、「
処女のお悩み」というような題で相談を取り上げていただいたことがあります。当時私は19歳で、恋人と手をつなぐことにすら嫌悪感があり、将来を想って絶望的な気持ちになっていました。ですが、宇多丸さんに「自分のことがまだよく分かっていないだけだし、正常なこと」と言っていただいたことで、焦らなくてもいいんだと励まされました。
あれから4年経ち、心から好きだと感じて交際した男性と、なんとかキスまではすることができるようになりました。今でも多少の苦痛、違和感、罪悪感など負の感情を伴うのですが、以前よりは性に対する潔癖のようなものが薄らいできていると感じます。とは言うものの、相手からセックスを要求されると、やはり不快感が拭えません。精神的な結びつきや相手への思いやりを持つことはできているので、恋愛感情は確かに持っているのだとは思いますが、「普通の人」のように、恋愛感情と性的欲求が一体ではなく、その間に分厚い壁が立ちはだかります。処女であるが故の、未知なる体験への恐怖、ではないと感じています。必要もないのに、なぜセックスをしなければならないのか?と不思議に思ってしまうのです。それに加えて、今のところ女性と付き合ったことはないのですが、女性に対して恋愛感情を抱いてしまうこともあります。ただしこの場合も、性的な欲求を伴うのかと問われれば「?」です。
このような複雑な立場を、LGBTQのような特定のカテゴリに分類することに意味があるとは思っていません。しかし、自分は明らかにノーマルではないのに、だからといって別の「○○である」とも言い切れない微妙な立場であることに、不安を抱いてしまいますし、思い描いていた普通の幸せを掴めそうにない事実をどのように理解し、受容したらよいのか、悩ましいです(今は取り立てて困るというような状況ではないですし、それなりに楽しく過ごすことができていますが、例えば身近に結婚・出産ラッシュが訪れたとき、平常心でいられるとはとても思いません)。また、セックスを拒絶され不審に思っているであろう現在の彼氏や、恋愛・結婚を当然と思っている友人や家族に、いつ、どのように打ち明けるのがよいか、あるいはノーマルを装い、擬態する努力が必要なのか……など、あれこれ考え込んでしまいます。簡潔に言いますと、マイノリティであることへの折り合いのつけ方、周囲へのカミングアウトの是非等について聞かせてください。
(マイナスイオン・23歳 ・大学院生・東京都)


こばなみ:
当時のマイナスイオンさんのお悩みは「彼氏ができたものの、いざ付き合うとなるとカップルらしいことをすることに抵抗があり、手を握ることさえ生理的に受け付けられません」というものでした。

宇多丸:
この4年間でだいぶ自己分析が進んだようで、「ホントに好きな人さえできれば」とかいう話ではどうやらなくて、そもそもやっばり、性的な行為そのものに嫌悪感が拭えない、ということらしいのはわかってきた。

こばなみ:
はい。それに加えて「女性に対して恋愛感情を抱いてしまうこともあります」ともありました。

宇多丸:
ただ、恋愛対象がどうであろうと、性的欲求がついてこないことに変わりはないようだからね。

まぁ、「ノンセクシャル」って言葉があるくらいで、当然そういう人も普通にたくさんいるよね、ってことだけど。

したくないならしないでいい、というのはもちろん大前提として……。

とは言えたしかに、本人的にはそれでなんの問題もなくとも、特にパートナーに対しては、どうしても理解を求めなきゃならない局面も出てくるだろうし、そこにある程度のハードルを感じてしまうのもやはり無理からぬ話かな、と思います。

でもね、その前にまずマイナスイオンさんに絶対言っておきたいのは、「ノーマルではない」とか「普通の幸せを掴めそうにない」とか、自分自身を貶めるようなというか、誰かが勝手に設定した架空のルールやゴールをこっちも内面化してしまっているような決めつけは、できるだけやめるよう心がけたほうがいいと思いますよ。

少なくとも、自分からしちゃうのはやめたほうがいい。

なぜなら、ここはあえてはっきり言いきってしまいますが、そんなものは存在しないから!

たとえば、性的志向の何をもって「ノーマル」とするのか。

そんな線引きは、あくまでそのときの社会が恣意的に、しかも超ファジーなさじ加減でやってるもんでしかなくて、場所や時代が変わればいくらでもかたちを変えてくし……、まして個々人に関しては、本人だって実際よくわかってない上に、状況や年齢、気分などによってまたいくらでもグラつくものなんだから、実質定義なんかできるわけがないんですよ。

性に関することに限ってもこのザマなんだから、まして「幸せ」のありかたなんて一番デカい話に至っては……。

言うまでもなく、誰一人として同じ人生を歩むわけではない以上、どんなのが幸せな人生かなんて、確定的な答えがあるはずもなくて。

もちろん、「普通に」結婚して子どもを生めば幸せになれるってもんでもないし。どんなに理想的に見える家族にも、型通りには行ってないところのひとつやふたつ、必ずあるもんでしょう。

しかもその「普通」だって、一、二世代でもうガラッと変わってしまうということは、歴史を見れば明らかなわけだしさ。普遍的なものでもなんでもない。

よく無能な政治家とかが「昔の家族は……」みたいなことを言い出しますけど、それだってせいぜい二世代程度しか持たなかった形態だったりするし、その不公平や不都合がどんどん見えてきてどうにもうまく行かなくなったから廃れたんだろ!ってことだから。奴隷制度を懐かしがるアメリカ南部の旧農場主みたいなもんですよ! 『風と共に去りぬ』かよ!って。

またこういう話してるとすぐ、「生き物としての本能が……」的なことをしたり顔で言い出す人が出てくるんだけど、いや、野生の動物だって、環境の変化に合わせて速攻で適応したり、がんがん絶滅したりしてますから!っていうね。

すべての生物は常に絶えざる変容のプロセスのさなかにあって、この生き残り戦略、この子孫の増やし方でオールオッケー!ってなってる種なんていないし……、むしろ、その時点での条件に丸ごと過剰適応しちゃってるような集団は、あぶないんですよ。なんかあったときすぐ総倒れになっちゃうから。

そんなこんなで、とにかく「ノーマル」も「普通」も、存在しないんですから、現実として。

なので、そういうありもしない幻想に引け目を感じたり焦ったりしたりするのは、気持ちとしてはすごくわかるけど、やはり明らかに不毛というか、逆に着実に不幸を招く考え方なんじゃないかって感じですらあるので、ホント、やめるようにしてったほうがいいと思いますよ。

この件に限らず、自己卑下はダメ! いいことになるはずがない。

ということで、自分の中での折り合いはひとまずついたものと仮定して……。

あとは、今後周囲とはどう接していったもんか、という問題だよね。

以前、チューが嫌いな彼、という相談もありましたが。

こばなみ:
性欲はあるけど「キスだけは嫌」という潔癖症の彼で、粘着接触が気持ち悪いってことなんじゃないかって話をしましたね。

宇多丸:
まぁ、性的な行為全般を嫌だなと思う人の気持ちも、多少理解できなくはないよね。

キス含めて全体に、変は変だもん。明らかに正気ではない(笑)。
だからこそ、みんな酔っぱらってようやくコトに及んだりもするわけで……。

なんにしても、ことパートナーに関しては、まさしくパートナーならではの信頼感をもって、現状自分はこうなんだということを率直に話してとりあえずは理解してもらう、その上でどの程度すり合わせが可能なもんかをお互い探ってゆく、という以外にはないよねぇ、やっぱり。

ホントは嫌なのに黙ったまんま拒絶したり我慢したり、は当然良くないですよ。

もちろん切りだすのは怖いだろうけれども……、でも、そこでこっちが切実に訴えてることを、なんとかわかろうとしたり受け入れようと努力してもくれないような相手は、そもそもパートナーとして失格、とも言えるわけじゃないですが。

マイナスイオンさんのことを本当に第一に考えてくれる人かどうか、早めにジャッジできるひとつの大きなポイント、という考え方はできるんじゃないですかね。

そこでいきなり不機嫌になったりするような人とは、どっちにしろ今後もうまくはやってゆけないはずだし、逆に、悩みながらでも歩み寄ろうとしてくれる人なら、他の困難にも一緒に立ち向かってゆけそう、ってことじゃない?

こばなみ:
理解を願うしかないですね。

宇多丸:
それに、そういうところで折り合えないような人と無理して付き合っても、ひとりでいるときよりもっと絶望的な孤独や地獄に陥るだけだったりしかねないと思うんで、パートナー探しというのが目的化してしまわないようにというか、要はあんまり焦らないでいいよ、とは言っておきたいと思います。

で、家族と友人に関しては……、それぞれとの、距離感次第じゃないですか?

文字通り「話せる」人たちなら、対パートナー同様、率直かつ誠実にこちらの実情を伝えるのもありでしょうし。周囲にわかってくれてる味方が多いというのは当然理想的ですよね。

でも、もし仮に、わりとざっくり保守的というか、どうせ頭ごなしに否定してくるだけだろう、みたいな感じなんだったら、残念だけど真正面からわかってもらうなんてのはハナからあきらめて、特に何も言わずにやりすごす、というのもひとつの手だとは思いますよ。

家族だろうと友達だろうと、結局は自分を取りかこむ「他者」であり「社会」であることに変わりはないわけで、なんでも話してわかりあうべき!みたいに思いこまないほうがいい。

それに、「身近に結婚・出産ラッシュが訪れたとき」って言うけど、今の世の中、そこに全員参加感なんて、まったくないでしょ。だからこそ少子化にもなってるんだし。

当然のことながら、結婚して子どもなしもいれば、結婚しないで子どもありもいる。

その子どもにしたって授かり方はいろいろで、それこそ直接性交しないとか、もちろん養子や里子制度だってあるわけで、要は「いわゆる適齢期に結婚・出産」みたいなコースに乗ってない人なんて、そこらじゅうにたくさんいるわ!って話でしょ。

こばなみ:
いますいます。でもそう思っちゃう気持ちはわかりますけども。経験あり。

宇多丸:
そこで心がかき乱されるとしたら、まずひとつは、自分自身が納得してない場合。マイナスイオンさんであれば、性交渉なしでも結婚や出産はしたい、と考えているパターンだよね。

でも、それだって、ぜんぜん受け皿というか、理解してくれるパートナー候補、いっぱいいると思いますよ。
セックスというのに重きをおかずに結婚・出産はする、というカップルも普通に山ほどいると思うし……。

とにかく、まずは自分に悔いを残さない選択をする、というのが第一ですよね。

もうひとつ考えられるのは、自分のなかでは完全に納得して選んだ道だけど、それこそ家族や友達含む「世間」からの圧を感じてしまっている、というパターン。

悲しいかな日本ではまだ、そういうところで旧態依然とした意識が支配的、という現実は確実にあるかもだけど。

でもさ、親も含めて、結局のところその人たちが、マイナスイオンさんの人生だの幸せだのを保証してくれるわけでもなんでもないんだからさ。

まして性的な選択なんて、人に左右されたり介入されたりすること自体がおかしいですよ。『余計なお世話だバカヤロウ』の極み!

まぁ、おそらくですが、マイナスイオンさんの年齢から言って、人生の選択肢に関する周囲のサンプルが、まだ圧倒的に少ない、という面はちょっとあると思うんですよね。

お友達とか含め、メディアに流布してる「普通の幸せ」イメージくらいしか参照するものがない段階、というか。それは、日本がやっぱりそういうところでは絶望的に遅れてる、ということでもあるんだけど……。

だからって、ただそこに迎合して貴重な寿命を浪費するしかない、って時代でもないわけだから。

ということで、まずは「普通」だの「ノーマル」だのって無意味な思い込みを捨てて、改めて自分は本当にはどう生きたいのか、まだまだじっくり探り続けてみればいいですよ。結婚や出産、ホントにしたいのか?ということまで含めて。

これだけしっかり思考を重ねてるあなたならきっと、自分なりの「幸せ」というのに、いずれ必ずたどり着くはずだと思いますよ。だから大丈夫!

こばなみ:
たしかに「世間」からの圧というのは、私も少なからず感じていることがあるのですが、でもそこで「自分は本当にはどう生きたいのか」と問い直して、そんな圧やらなんやらはぶっとばしていくしかないのだなと、改めて思いました。みんな多かれ少なかれ、そういうことはありますよね。

マイナスイオンさん、自信持って! 応援しています!


【今週のお絵描き】


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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2020年5月30日に公開したものを再編集し、掲載しています。


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。
TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。
※ワンマンライブの新シリーズ
「ライムスターインザハウス」や
その他のライブ情報は
こちら
※シングル「世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND」が配信中! Victorサイト限定CD盤もリリース!
詳しくは
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女子部JAPAN(・v・)こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。現在はコミュニティ&メディア「女子部JAPAN(・v・)」として、スマホに限らず、知りたいけど難しくて挑戦できないコトやモノをみんなで一緒に体感する企画を実施。最近はフェムテックなど、女性ならではのコンテンツを発信中。




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