メンバーとの対話は「傾聴」だけじゃない!? 仕事のチームの力を上げる、吉川ゆりさん流コーチングメソッドとは?
人生を楽しいと思えるためのコーチングメソッドを提唱する、吉川ゆりさんにお話を聞く全2回。前編では、20代からアメリカ金融企業の管理職を務め、40代で子育てをしながらライフコーチに転身した吉川さんのストーリーから、人生を好転させるヒントを紐解きました。そして今回は、実践編。吉川さんのコーチングメソッドから、私たちが日常で活かせるマネジメント術や、自分らしいキャリアデザインの描き方を教えてもらいます。
(聞き手:F30プロジェクト 武田明子)
ものの捉え方は人それぞれ。発達レベルに合わせたマネジメントが大事!
前編からお話を伺ってきて、中間管理職の立場としては「部下の心の声が聞けたらな……」なんて思いました。吉川さんのコーチングメソッドのなかで、私たちがチームマネジメントに活かせる部分があれば伝授していただけないでしょうか……!
たくさんありますが、その一つが、「それぞれの意識の発達段階に合わせてマネジメントをする」ということです。心理学でいう成人発達論(人は成人してからも知性や意識が発達し、生涯にわたって成長し続けられるという理論)をベースにした考え方です。
私のメソッドでは、家族の中での意識のレベルはその環境に順応するために必要なレベルまで成長するのですが、これは社会での関係構築にも深く影響します。
だから例えば、自己主張をせず親の言うことを聞いていたらいいよね、という家庭で育ってきた人が、いきなり競争社会の会社に入社しても、自律的に仕事を回していくことができません。それでコーチングを受けると、上司に親を投影していたことがわかるんですね。そのようにして、自分を俯瞰して見られるようになることが、自分がどうしたらいいか気づくきっかけになります。
なるほど、おもしろいですね。一人ひとり意識レベルの成長段階があり、今までの慣習などによって考え方や物事の捉え方が違うから、チームメンバーとのやりとりのなかでも齟齬がおきることがあるんですね。
そうなんですよ。これは私の実体験ですが、意欲的な部下がいて、向こうが「これやりたいです、あれやりたいです」って言うから、もっとできるんだと思っていろいろ仕事を与えていたんです。そしたら、締切の日になって「できませんでした」と言われて……。どうやら、自分のキャパを超えたのを私に言えないでいたようで、結局、私が徹夜してやらなきゃいけなくなったんですね。
あー、あるあるですね。
ありますよね。
そういったときに、私はめっちゃ腹が立つわけじゃないすか。「なんだこの無責任は!」って思うわけですけど、それはあくまで、私のレベルで考えていることなんですね。その部下からしてみると、自分のキャパも知らないなかで、「この人を喜ばせないと私がここの会社にいる意味がない」と思ってがんばっていたみたいなんです。
一緒に仕事をしていても、見えている世界が全然違うんですね。
ほかに「部下に指摘をしたら、急に泣かれてしまった……」みたいな経験がある人もいると思いますが、そういった場合、部下側は承認欲求が満たされていない段階にあって「上司に嫌われる」と気にしているパターンが多いです。でも上司側からすれば、好きとか嫌いとかいうレベルじゃなくて、「仕事をちゃんとしてね」って言っているだけなんだよ、と。
そういったすれ違いを解消するには、やっぱり一人ひとりをちゃんと知って、指示の仕方も人によって変えていかなければならないんですかね。
そうですね。子どもみたいに慕ってきてくれる部下に対しては、ビジネスライクじゃない接し方をするとか。逆にもっと発達している部下には、マイクロマネジメントしないで自律性のある仕事をどんどんやらせてみるだとか。
ただ、一人ひとりの意識レベルは、年齢や外見だけでは分からないので、その人の言動や日頃の態度で判断するしかないです。世の中に出回っているビジネス本とかのセオリーは、ある程度意識レベルが発達してる人向けなんです。だからそれをそのままやっても、そもそもの精神状態が届いていない人には響かないんですよね。
お話を聞きながら、いろんな人たちが思い浮かんでいます。でも、会社の目標をみんなで達成しなければいけないという状況で、個別に対応するのって、なかなか大変ですね。
どのメンバーも、その会社の採用試験を乗り越えるだけのスキルがあったからそこにいるわけなので、本来、みんなできるポテンシャルは持っているはずなんですよね。ただ、自分の心の声を聞けていないから、自分の能力を発揮しきれないんです。
そのためプロのコーチングでは、意識レベルの底上げが一つの肝になります。現在の問題の引き金となっている幼少期のトラウマや傷に対処するアプローチのことを「インナーチャイルドワーク」と言いますが、自分の内面と向き合うことは、傷ついている部分を癒していくことでもあるんですね。
対話ができる安心安全な環境は「呼吸」から!
コーチングの考え方を取り入れて部下と対話をするにあたって、私たちが実践できるようなコツはありますか?
よく言われることだと思うのですが、対話をするためにまず大事なものが心理的安全性です。「ここは絶対に安心・安全な場所だ!」と部下に思ってもらうためには、まず自分が意識してそのような場所をつくらなければなりません。
例えば、「ほかの人に言わないでほしいです」と言われたことは上司に聞かれても断固言わないなど、ルールを設けて自分を律していくことが必要です。そして、一番大事なのが上司である自分自身が安心を感じていること。
自分が自分の上司との関係のなかで心理的安全性を確保できていなければ、部下に対しても安心・安全は作れません。
上司との関係性に悩んでいるミドルマネジメントも多いですもんね。
それに安心・安全な環境は、外的要因だけでなく、自分でつくっていくこともできるんですよ。
ちょっと深呼吸をしてみて、「自分ってまわりに支えられていて、安心な環境にいるな」という感覚を持つだけでも、毎日くり返すと徐々に感じ方が変わってきます。地に足がついてくるイメージです。そうすると、今までちょっと怖いと思っていた上司が、「もしかしたら怖くないかもしれない!」と気持ちが変わる。
思い返すと、その日のコンディションでも、会社のメンバーに対する見方や仕事に対する捉え方が変わる気がします。そういうちょっと疲れているような日に深呼吸をするだけでも、変わってくるのでしょうか?
変わります!
呼吸一つで交感神経と副交感神経のバランスがとれて、自律神経がととのうので、会社で議論が白熱して、ワーッと喧嘩のようになってしまったときにもおすすめですよ。ほかにも スクワットなど下半身を動かすことでも安心・安全な心持ちが活性化されるはずです。
「傾聴だけ」も「一方的なアドバイス」もNO! 対話のなかで本人の意見を引き出そう
心理的安全性を確保して、初めて部下と対話ができるんですね。
1on1など、対話においては傾聴が大事だとよく聞きますが、コーチングでも同じでしょうか?
傾聴はもちろん大切なんですが、それだけでは「コーチング」とは言えません。だからといって、こちらが一方的にアドバイスをして意見を押し付けるのも違います。
一番大事なのは、その人自身からアイデアを引き出すことなんですよ。人から言われたことより、自分が考えたことの方が断然やりたくなりますよね。ついヒントを出したり自分の考えを伝えたりしたくなるのですが、そこはぐっと我慢です。
まさに、つい「こうしてみたら?」って言ってしまいがちです……。
部下に「どうしたらいいですか?」って聞かれたときは、あえて質問返しをするのも効果的ですよ。すでに「この人の言っていることを、空気を読んでそのままやらなきゃ」と思わせないほど信頼関係が部下と作れている場合は、「たとえば私だったら」の話をしてから、「どう思いますか?」と聞き返すのでもいいかもしれません。
信頼関係って、築くのが難しいですよね。
そうですね。信頼関係構築のためには、やっぱり日頃のコミュニケーションが重要ですが、ひとつのコツとして、「無意識の信頼」、コーチング用語でいう「ラポール」を形成するということがあります。
ラポールを形成するためには、「あなたと私は似ていますよね」と無意識で相手に思わせることです。ちょっとした雑談から共通点を探してみたり、相手の仕草や言葉遣い、話すスピードをミラーリングしてみたり。日頃から相手に対する興味を持つことで、少しのテクニックで潜在的に信頼関係を築けていきます。
ラポールが形成できている相手だと、たとえ意見が対立していても建設的な方向に議論を進めることができるんです。
それぞれが自分らしいキャリアデザインを描くには?
読者のなかには、自分自身のキャリアデザインに悩む人も多いと思います。日本の女性が自分の人生を考えていくなかで、障壁になっているものはなんでしょう?
一つは、先程お伝えしたように意識の成長段階のどこかで葛藤のようなものがあり、承認欲求が満たされていない人が多いということ、もう一つは、自己犠牲がすごく強い人が多いと思っています。
例えば、「自分は夜中の12時に帰ってきて、夜中の4時に起きてお弁当を作ってます」という女性がいます。でも、その子どもは高校生。「自分で作れるじゃん!」みたいな突っ込みを入れたくなりませんか。おそらくその女性は「なんでも自分でやる」お母さんを見て育ったから、自分も完璧でなければいけない、と潜在意識で思っているんですね。
“いい母親像”みたいなものがあるんですかね。
そういう人が仕事に行くとどうなるかどいうと、そこでも同じことをするんですよ。
けっこう上のポジションの人でも、自分が全部把握しておかなきゃいけないとか、全部の作業をまず自分ができておかないと部下に渡せないとかいった思い込みをしているんですね。
……なんか今、ちょっと耳が痛めになっております(笑)。
でも本当は、それぞれの人が得意なことを持ち寄るのが組織なので。自分の才能が発揮できないことはどんどん人に回した方が、組織としてはよくなっていくんですよね。
この考えに従って、「私わかんないです!」と言ってみたら、みんなが助けてくれて大出世した、みたいな話も聞きますね。
自分がそういったよくない状態に陥っていることって、自分で気づけるものなのでしょうか。
なんとなく停滞しているとか、苦しいとか、体の不調だとか……、そういったサインが出てきたときに、ちょっと時間をとって思っていることを紙に書き出してみるのがおすすめです。
本屋など外で情報を集める人も多いですが、まずは自分の内側に目を向けるのがいいと思います。私もとにかく書きまくるので、すぐにペンのインクが無くなってしまうんですよ(笑)。
ここまでお話を聞いてきましたが、ずばり、吉川さんから見た「理想のキャリア」ってなんでしょうか?
「人生をかけてまでこの課題を解決したい」と思える道に自分の天才性がマッチしたものです。
みんなそれぞれのものの見方が違うので、自分で気づいていないだけで「天才性」を発揮できることって絶対にあるんです。「子どものときに泥団子にめちゃめちゃ熱中していた!」とか、そんなことでも、スライドしたら仕事に活かせるかもしれません。
まだ理想のキャリアを見つけられていない人が、最初のステップとしてできることはありますか?
十分な睡眠・食事・休憩で正常な思考を作ったうえで、自分自身と対話をすることが一番大事です。私が時間をかけて頭を使って解決したい課題は、はたして職場の人間関係なのか、それとも別のことなのか、と。
まずは自分の内面ともっと向き合ってみます。最後に、吉川さんのこれからの目標について教えてください!
今後はコーチ養成にさらに力を入れ、女性管理職を育成したい企業に向けての支援も行っていく予定です。これからもこのコーチングメソッドが、悩む女性の役に立つと信じて、女性のエンパワーメントに貢献していきたいと考えています。
<お話を伺った人>
■キャリアとビジネスのサクセスコーチ
吉川 ゆり さん
◆note
https://note.com/yurid_media/
◆インスタグラム
https://www.instagram.com/yuri_happily.ever.after/
◆HEA Coaching International
https://mentalbreakthroughcoaching.com/
<聞き手>
■F30プロジェクト 企画・運営
武田 明子