一児の母です。周りのママ友に「兄弟がいないとかわいそう」「ひとりっ子はワガママになる」と言われるのですが……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室153】
✳️今週のお悩み✳️
39歳一児の母です。現在3歳のメンズを育てていますが、周りのママ友のほとんどが第二・第三と兄弟を出産し、肩身の狭い思いをしています。私は欲しかった男の子が生まれ、我が子ひとりで十分という考えで、今後、兄弟は作らない予定ですが、周囲や世間は、兄弟がいないとかわいそう、ひとりっ子はワガママになる……などネガティブイメージを投げかけてきます。そこで、お二人に“ひとりっ子論争”をしていただき、再度考えてみたいと思います。
(りゅうママ・39歳・東京都)
宇多丸:
しかしさ、周りのママ友のほとんどが第二子、第三子を出産って、世の中少子化なはずじゃないの?って感じだよな。
こばなみ:
最近、私の周りもご懐妊・出産している人が多い気がします!
宇多丸:
僕の実感としてもそうですね。
決して子育てしやすい環境が整ってきたというわけでもないなかで、それでも子どもがちょっとでも増えるということ自体は、社会全体からすれば、まぁありがたいことなんだろうけどさ。
でも、だからって、個人としての生き方の選択を、人からとやかく言われる筋合いはないよ! これこそまさしく、『余計なお世話だバカヤロウ』、以上終了!って話だよ。いまだにそんなしょうもない物言いがまかり通ってるなんて、マジで最っ低だなと思いますね。
こばなみ:
兄弟がいないとかわいそうとかって、そんなこと言われてもいないもんは仕方ないし、本当にかわいそうかどうかなんて、その子しかわからないことなのに、嫌な言い方ですね。
ひとりっ子代表として、宇多丸さん、今回はいろいろと話すことがあるかと思うのですがいかがでしょう?
宇多丸:
おそらくですけど、ちょうど僕らくらいが、日本にひとりっ子が増えてきた最初の世代なんじゃないかと思うんですよ。昭和40年代生まれ。
だから、その手の「ひとりっ子差別」みたいなこと、一番言われてたくらいかもしれない。
でも、今もそういうデリカシーのないこと言う人、普通にいるもんなんですね……、それってつまり、そんなこんなで嫌な思いしてる子や親がいまだにたくさんいるってことだからさ。ホント腹立つ。
たとえばさ、保育園とかでも、「ひとりっ子だからワガママ」説を、よりによって保育士さんが、僕に向かって言ってきたりしたわけよ。 子どもながらに、そんなこと言われたって僕にはどうすることもできないじゃん!っていう理不尽さに怒りがわいたし、親の選択を責められてるようですごく不快だったのをよく覚えてる。 別になにか言い返したりもしないんだけどね。そこで口答えすること自体が、まさに「ワガママ」説の裏づけにされちゃう、ってことも、幼いながらにわかってるから。曲がりなりにも教育をになう場として、許しがたい話だと思うけど……。
あとはもちろん、たぶんそいつの親が普段から言ってるってことなんだろうけど、ガキのなかにもそういうこと言ってくるやつはいた。 でもね、僕に言わせりゃ、その手の言いがかりをつけてくる連中に限って、「お前にだけは言われたかねぇよ!」って言いたくもなるような、筋金入りのワガママ野郎なんだよ(笑)。
要は、自分が考える「正しさ」を人にも押しつけて、それが当然だと思ってるようなやつらってことだからさ。そういうのをこそワガママって言うんだよ、バーカ!
こばなみ:
うらやましいっていうのも大いにあるんじゃないですか?
宇多丸:
どうなのかな~。
小学校のとき、ひとりっ子ワガママ説を一番しつこく唱えてたキクチくんは、土地持ちだったのかな、けっこうな資産家の次男坊で、スーパー甘やかされてたはずだけどね。マジでスネ夫みたいなキャラなのよ(笑)。彼を見てて僕は、「金持ちの次男こそワガママになる」っていうのがその後の持論になっちゃったくらいで(笑)。
でも、「責任感が強い長男」ならではの押しつけがましさというか、恩着せがましさみたいなものも明白にあったりするし……さらにそれがねじまがったケースとして、前にも名前を出した中学時代の友達のタカミくんは、「佐々木はひとりっ子だからひ弱でワガママなんだ、オレが叩き直してやる」とか、いかにも長男チックなこと言っちゃあ僕にいろんなおせっかいをしてきたんだけど、実は彼、お兄さんがいたんだよね。つまり、育ってくる過程でお兄さんに言われたり、やられたりしてきたことを、おそらくそのまま、彼が見つけた「弟分」だったのかもしれない僕に対して繰り返すことで、なにか人生の溜飲を下げようとしてたっぽいという……、あーめんどくせえ(笑)。
こばなみ:
箸の持ち方を矯正してくれたタカミくんですね!
宇多丸:
その一点に限っては本気で感謝してますけども(笑)。
いずれにせよ、僕がいままで会った人のなかでも最も「ジャイアン」に近いのはこの人なので、言うまでもなくワガママという点では、どう考えても僕の比じゃなかったはずですよ。
もちろん、僕だってワガママな面は間違いなくあったし、いまもあると思うけど、それはどっちかって言うと、自分で言うのもなんだけど同世代の子たちよりは圧倒的に口が立ったとか、そういうところから来る話であって、我を通すために怒り狂うとか泣きわめくとかは、まずしてないはずなんですよ。 むしろ、ひとりっ子だったがゆえに、他者との関わりに慎重にならざるを得なかった結果、はっきり言えば、人の顔色を見たり場の空気を読むことばっかりに長けてしまったのではないか、という感覚が個人的には拭えないくらいで……。
だから、こんなこと改めて言わなきゃならないのもうんざりだけど、ひとりっ子だろうが何男坊だろうが、ワガママになるかどうかは、ケースバイケースです! 身もフタもない真実! 「ワガママ」の定義にもよるだろうけど、人格的な欠点がない人間なんていない以上、ひとりっ子だからどうこうなんて雑な因果関係が、あらゆる意味で成り立つわけがない。低脳な議論すぎますよ、ホント。
でね、なんでそんな、100パー余計なお世話でしかないことを、それでもいちいち言ってくる人が一定量いるのかっていうと、要は「自分の人生を肯定したい」から、「それとは違う他者の選択は否定しておきたい」っていうような欲望が根底にあるんじゃないかと思うんですよね。
つまり、子どもの数の件に限らずですけど、その選択が一生もんレベルというか、重ければ重いほど、取り返しがつかなければつかないほど、それは間違いじゃなかった、ということを必死で確認したくなるわけですよ。
たとえば、家を買うか買わないかとか、レーシック手術を受けるか受けないかとか。 すでに家を買っちゃった人は賃貸暮らしがいかに損か、レーシック受けた人はいかにもっと早く治療すべきだったか周囲に力説して、なんなら勧誘して回ることで、その選択は正しかったのだということを、実は自分自身に言い聞かせようとしてるっていう。 逆に、持ち家やレーシックのリスクを指摘して回ることで、そっちに踏みきらなかった自分を安心させようとする人、っていうのもいるでしょうし。
本来そんなのは、むしろ人生を左右するような重大事であればあるほど、結局は各々が各々の責任で判断していくしかないことで、他人が一番くちばし突っ込むべきじゃない部分なはずなんだけどさ。
だから、ひとりっ子であることにとやかく言ってくるような連中も、「兄弟がいる自分の人生」「複数子どもを持っている自分の人生」を肯定したい、肯定してほしいっていうのが根本の動機なんだと思いますよ。 それは別にいいけどさ。なにも、そのために他の人の人生を貶めることねぇだろ!っていう。
しかも、大人がそういうのを子どもに言うとかさ、超有害だからいいかげんやめれ!
ライムスターの『だから私は酒を呑む』って曲でも歌ったけど、「ひとりっ子」「鍵っ子」「現代っ子」「モヤシっ子」とか、70年代はとにかくその手の「◯◯っ子」みたいな子どもへの無神経なレッテル貼りが流行ってて、僕はそれ、まさに全部言われる立場の子どもだったわけですよ。 でも、たとえば「ひとりっ子」なのは、今の基準から考えても母がかなりの高齢出産だったんで、もう一人なんて論外っていう現実もあったと思うし、「鍵っ子」なのも共働きっていう経済的事情があったからだし……、「現代っ子」「モヤシっ子」にいたっては、露骨に悪意ありきのネーミングだろ!(笑)
特に子ども的にはやっぱり、親に関連したことで文句言われるのがひときわイヤでしたね。 「鍵っ子」とかさ、ボクのために頑張って働いてくれてるお母さんのことを暗に非難するような言い方、なんでお前らにされなきゃならないわけ?って思ってたよ。
こばなみ:
母親が働いてることに対して、そういうこと言ってくる近所のおばさん、いた!
さびしくないの?とか言われても、子どもとしてはどうしようもないですしね。
宇多丸:
そのおばさんのなかには、旧態然とした「善き家族」像みたいなのが、疑いの余地なくあったりするんでしょうけど。
その枷が外れることでようやく自分の幸せをつかめたっていうような人が、親にしても子にしても、山ほどいるのが現代というものだと思うし。大きく言えばこれ、「人権問題」ですからね。
……とまぁ、こんな言い方をしてると、あたかも僕が、ひとりっ子であることに被害者意識を持ってるように思う人が出てくるかもしれませんけども。
ぜんっぜん、違いますから!
前に、「姉のことが嫌い」って相談のときのイラストにも書きましけど、 10歳くらいからこっちですかねぇ、とにかく物心がついてから先は、もう、ガッツポーズしかありませんでしたよ! 「ひとりっ子、サイコー!」ですよ、マジでマジで。
思春期になるとよりはっきり思うようになったけど、家に同世代の人間がウロウロしてるのとか、想像するだけで「う、うぜ~ッ!」って。 実際、仲いいとこは別にいいんだけど、兄弟姉妹と人としてウマが合わなくて何年も口聞いてない、みたいなケースも同級生からいくつも聞いたし。 特に、異性同士で仲悪いと、ホントどうしようもないみたいだもんね。妹に汚物のように扱われてるとかさ。家に帰ってまでなんでそんな思いしなきゃなんないの!
要は、兄弟姉妹だからって一生親密な関係とは限らない、むしろ、近しいゆえに嫌悪や憎しみが深まることだって全然考えられるわけだから。
そこへ行くとひとりっ子は、そういうわずらわしさとは無縁に、親の愛情を一身に受けてスクスク育てますからね!
こばなみ:
サイコーポイントを女子部員のひとりっ子たちにも聞いてみたところ、
「テレビ番組やお菓子の取り合いがない」
「親の目が行き届く。各種メリットを1人で全て享受」
「何から何まで独り占めできる」
「家計が楽」
「闘争心がある意味でないので落ち着きがある。……多分」
なんて意見がありましたよ!
宇多丸:
あとさ、それこそ兄弟がいるような人からはどう思われるかわからないけど、僕自身ひとりっ子で良かったなぁと心から思う部分として、「ひとりでも全然平気、むしろそっちのが心地いい」っていうのは間違いなくあって。
要は、みなさんがギャーギャー騒ぐほどには、孤独ってものが怖くない。むしろ孤独は友達!
こういうこと言うとすぐ、タカミくんみたいな人が勘違いして(笑)、「ほーらひとりっ子だから協調性がない」とか言い出すんだけど、違うから。 さっきも言ったけど、ひとりっ子は、もちろん個人差はあるという前提だけど、他人との関係に臆病にならざるを得ないぶん、集団でいるときは、むしろ人一倍空気を読んで行動してるもんですよ。ひとりっ子ワガママ説でさんざん抑圧もされてるしな!(笑)
僕に言わせれば、真の個人主義者ほど、自分の自由とか権利を大事にしているぶん、他者のこともきっちり尊重するから、その場その場の協調性はむしろばっちりあったりするもんだと思いますよ。
それよりもやっぱり、人に向かって「協調性の押しつけ」をしてくるような輩のほうがよっぽど、どう考えても一番悪質な「ワガママ」でしょ! ま、そういうやつはおおむね、まんまとみんなに煙たがられてたりもしてますけどね、本人だけ気づかないまま……。
こばなみ:
それにしても、子どもを産む/産まないって、けっこうセンシティブな話題じゃないですか。年齢のこともあるし、よくそんなこと言うな、とも思っちゃいました。
もし、りゅうママさんが努力してもできてないのだったらどうするんだろう?
宇多丸:
そうだね。もし、第二子以降も欲しくていろいろ手は打ってみてるんだけど……、みたいな状況だったら、かなりストレートに人を傷つける発言ってことになっちゃうよね。
でも、仮にそうじゃなかったとしても、やっぱり同じことだよ。 要は、人の生き方をてめぇの物差しでジャッジしようとしてる時点で、普通にクソですよ、クソ! なんにしたってデリカシーなさすぎ。
まぁね、そういうしょーもないこと言ってくる人たちのこと、りゅうママさんは「ママ友」って呼んでますけど、前も言ったように、それ、別に友達じゃないから! たまたま近所に住んでて、似たようなタイミングで子どもを産んだというだけで、本当の意味で仲良くなれる相手だなんて保証はどこにもない、単なる「ママ知り合い」じゃん。
しょせんその程度の、ちょっとした顔見知りが、よく考えもせず言ってるだけのたわごとなんだからさぁ。真に受けるだけ損ですよ。 例によって、チンパンジーがなんか言ってるよって思っとけばいいよ(笑)。 実際、子どもをたくさん産むほうが偉いとか、動物かよ?って話じゃん。 動物的価値観で来る人のことは、動物的に見てやればいいんですよ!
つーことで、ひとことでまとめれば、「そいつらがこっちの人生に責任取ってくれるわけじゃなし、アホどもの言うことは気にする必要ナシ!」ってことです!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2016年7月9日に公開したものを再編集し、掲載しています。