フェムテックの先駆け『ルナルナ』【後編】 事業部長としてチームを引っぱる姿勢とルナルナのこれから
女性ならでは健康の課題を解決する、フェムテックという言葉を、最近いろいろなメディアで目にするようになりました。Female(女性)とTechnology(技術)を掛け合わせた造語で、ドイツ発の生理管理アプリ『Clue』を開発した企業がつくった言葉だそうです。生理管理アプリは、フェムテックというキーワードを生んだサービスとも言えます。
ガラケー時代から生理日管理サービスを提供し続けて20周年、今やアプリは1,700万DL(2021年6月時点)を突破した女性の健康情報サービス『ルナルナ』は、フェムテックの先駆けともいえる存在。今と比べると生理に対して閉鎖的だった時代から、どのようにしてサービスを育てあげ、今後どのような未来を描いているのでしょう。株式会社エムティーアイ ルナルナ事業部長の日根麻綾さんに話を聞きました。
後編では、女性管理職としてチームを引っぱる日根さんの姿勢、生理日管理サービスの枠を超えて広がる未来のサービスの話まで、読むと元気がでるエピソード満載です。
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ゼロイチに強いメンバーとともに、失敗してもいいから駆けずり回った
——『ルナルナ メディコ』の立ち上げ時に一番大変だったことが、社内の意識を変えることだったということですが、社内の意識を変えるためにどんなことをされたんですか?
そうですね、事業部全体にこまめに事業戦略の説明をしました。あとはメンバーにも、0から1をつくるのが好きな人、1から2に育てるのが好きな人、ゆるやかに10まで育てていくのが得意な人……など、さまざまな特性があります。基本的にはゼロイチでチカラを発揮するメンバーを選定して、失敗してもいいので駆けずり回るということを、私も含め担当メンバーはやっていました。社内には最初はあまり納得していない人もいたし、みんなには苦労をかけたと思います。
一生懸命やっていると、だんだん「しょうがないね」って助けてくれるんですよね。サービスも少しずつ改善され、昔からのお客さまからも、新しいお客さまからも良いフィードバックが返ってくるようになりました。それが腹落ち感としてみんなに伝わっていくと、納得をして巻きこまれてくれるようになったと思います。
新規事業は、初めは「どうやっていいかわからない」ものです。私が先頭に立ってやっていくことで、結果的に後からみんなが少しずつ付いてきてくれるくらいが丁度いい、と今振り返って思います。もっと上手い方法があったかもしれないですが、当時は精一杯でした。
事業部長は、あくまで役割。何をやるか・やらないかを決める人
——お話を聞いていて、なんだか元気がわいてきました。出産後の忙しい時期でしたが、どうやって両立していたんですか?
必死すぎて、ほとんど覚えていないですが、立ち上げから2〜3年はとにかく出張が多かったです。延長保育やベビーシッターさんにお世話になるなど、さまざまな方法を活用して両立していました。今思うと、子どもに負担をかけていたのかもしれないですが、忙しいなかでも週末には一緒にたくさん遊ぶなど、子どもとの時間をなるべく取れるように調整していました。
——すごい行動力ですね。 当時の出張の目的は?
最初に3,000件の産婦人科と連携すると決め、ローカルとのつながりをつくって差別化していこうと考えました。まずは不妊治療の情報提供でいろいろな自治体と連携をするために、その交渉や協定式に出席しました。その流れが、結果的には地域の産婦人科の先生たちの信頼を得ることにもつながっていきました。
ほかにも学会が開いている学術集会に出展させていただいたり、セミナーを開催したり。今は営業体制が拡大して、営業メンバーがクリニックへの訪問してくれて私が地方へ行くことはほとんど無くなりましたが、やはり立ち上げ時は大変でしたね(笑)。
2021年現在は、全国で対応している施設が約1,000件に。「ルナルナで記録したデータをクリニックで見られて便利」というSNSの投稿を目にしたり、クリニックで紹介されることで数あるアプリのなかからルナルナを選ぶきっかけとなるサービスにまでなったと感じます。
当時はしんどかったですけど、ルナルナが現地の産婦人科とつながっているということが、今後グローバルなデベロッパーが展開してきたときも大きな強みになるはずです。
——日根さんがバリバリと仕事をされている姿が、ありありと伝わってきましたが、組織やチームを引っぱるときに心がけていることはありますか?
組織マネジメントがあまり上手ではないと自分では思っています。ハレーションを生んでしまったと感じるところもあるので自信を持って言えないですが、ただ、事業部長やマネージャーというのは、基本的には役割でしかないと考えています。
上下関係をあまり意識していないですし、私の役割は何かと問われたら、その事業の方向性ーー何をやるか、何をやらないかを決める人。いつも「決めることが仕事」だと思ってやっています。逆に決めること以外は、私が弱くて他のメンバーが強いことがたくさんあるので、どんどん頼っています。
——「こんな上司が良いなぁ」といったロールモデルはいますか?
実は、ずっといなくて、そういう人を外に求めていた時期もありました。でも、今は弊社の常務執行役員で本部長の立石というロールモデルを見つけました。なんて言えば良いのか……、全方位のスキルを身につけているような女性です。したたかな論理性とあたたかい情緒的なところを兼ね備えている。最近は新規事業などを二人三脚でやらせてもらっています。すごく頼りにしていて、子育てなどプライベートなこともよく相談していますね。
女性だからというより、チャレンジを妨げるハンディキャップを拭うという視点
——御社は女性が活躍しやすい会社だろうと感じていますが、そのためにどんなことが大切だと考えていますか?
「女性が」というよりは、自分でどうしようもないハンディキャップは、世の中にたくさんあると思うんです。例えば育児かもしれないし、介護かもしれないし、ご自身の病気やご家族の病気かもしれない。月経の症状がものすごく重い人もいます。
「女性活躍」という言葉がこれだけ言われるのは、今、女性がそういうハンディキャップを負いやすい社会構造があると思うんですね。だから、そこを拭うことに注目も注力もされていますが、本質的には、女性だからというよりは、チャレンジしたい人がチャレンジできない妨げとなるものをなるべく排除してあげる環境が職域で揃うと、女性であろうが男性であろうが、能力や意欲がある人が活躍できるのだと思います。
——なるほど。女性だからというよりも、ハンディキャップを拭うためにどういうサポートができるかという視点ということですね。
はい。弊社の人事制度も、女性が働きやすいように整えられていると思いますが、女性に限定して提供されているわけではありません。育児についても、介護についても、性差なく必要な人が利用できることになっています。唯一女性向けの福利厚生制度と言えば、「ルナルナ オンライン診療を活用した低用量ピルの服薬支援」があります。生理痛やPMSなどに悩む女性社員に対し、オンライン診療で診察から低用 量ピルの処方まで行うことができ、その費用補助が出ます。ただ、これもハンディキャップを取り除くという視点から生まれたものです。
——会社の福利厚生として低用量ピルのサポートがあるんですね。まさにそういったシステムを提供する取り組みもはじめていますよね?
株式会社カラダメディカが提供する「ルナルナ オンライン診療」を活用した法人向けサービスですね。オンライン診療事業は、これまで医療機関に向けて提供していたのですが、今後は企業にも活用の場を広げていきたいと思っています。
女性の人生にずっと寄り添って支えていけるようなサービスへ
——ルナルナの今後のビジョンを教えてください。
ブランドビジョンとして「カラダに向き合い、あなたに寄り添う」と設定していますが、『ルナルナ メディコ』を通じて産婦人科とのつながりができたなか、事業をどう発展させていくかというお話させていただきますね。
『ルナルナ』は、女性の月経が何十年もあるなか、月経サイクルによる体調の変化に寄り添ってきたわけですが、私たちの限界も感じています。それは、例えば「生理の痛みが強い」「生理に異常がある」といったときに、「産婦人科を受診してみたらどうですか?」としか言えないことです。
でも、女性の人生という視点で考えれば、『ルナルナ』を使っていることも、勇気を出して婦人科を受診するのも、陸続きですよね。ルナルナという日常的なサービスと、医療という少し非日常なことをシームレスにつなぎ、受診を悩む過程も、婦人科を選ぶ過程も、受診したときに上手く症状が伝えられないドキドキも、その後に低用量ピルを飲んだり経過観察で受診したりすることも、すべて含めて支援をすることで、より女性の体に向き合い、寄り添えるんじゃないかと思っています。
医療系のアプリもありますが、たまにしか行かない診療のために、そのアプリを使い続けるのはなかなか現実的ではありません。ずっと寄り添っているパートナーのようなサービスがあって、それが医療機関ともつながり、なんでもないときも、何か不安があって受診するときも支援してくれる——といった世界観を実現したいと思っています。
それが女性をもっと生きやすくし、事業としてもプレイヤーや連携先が増えていくことで幅が広がっていくと考えています。
——女子部JAPANでも、「婦人科はどう選べばいいの?」といった質問を受けることがありますが、なかなか明確な答えを出せないと感じていました。今おっしゃったようなことが実現できれば、変わってきますかね?
おっしゃるように、婦人科をどう選べば良いかはすごく難しい問題です。患者フレンドリーではないドクターはいらっしゃいますが、それが医師としての腕をあらわしているかといえば、そうでない場合もあります。患者さんによっても、親密にコミュニケーションをしてほしいか、あっさりと対応してほしいか、望むことも違うので、すごく難しいですよね。
「どういうふうに産婦人科を選べばいいか」は、私たちもよく質問をいただきますが、簡単に答えられないんですね。ただ、一つの目安になると思っているのは、『ルナルナ メディコ』を導入している産婦人科は、少なくとも、患者さんが日々記録した日常のデータも参考にカラダの状態を見ているということです。よくお話を聞くあるクリニックでは、『ルナルナ メディコ』のピルモードを使ってくださっています。ピルを処方した患者さんが、どの薬剤をいつ飲んでいるか、どういう体調の変化があったかを先生がパソコンで見ています。なぜ、わざわざ患者さんに記録をお願いしてまで見ているのかを聞いたところ、もちろん診察の参考にもしているのだけど、それだけではなくて一緒に画面を見て日々の状況を共有することで、「あなたのカラダのことを知りたいと思って診察している」ということを伝えることができる、と。その話を聞いて感動しました。診察ツールでもありながら、患者さんと医師のコミュニケーションツールになっているんです。
——アプリを活用してデータを共有するだけでなく、それがコミュニケーションツールとなって、医師と患者をつないでくれるんですね。テクノロジーは便利さばかりにスポットがあたりがちですが、そういう人と人のアナログなつながりのツールになっているんだと感じました。今日はたくさんお話を聞かせてくださり、ありがとうございました!
★日根さんの好きな言葉★
ドラッカーの言葉で、弊社の社長もよく口にする言葉です。この言葉を知ったときに、ある意味で気がラクになりました。こういう業界にいると、世の中の変化が激しく、追い付くのにヘトヘトで、振り回されていると思うこと多々あります。先頭に立つのは大変だけど、世の中を逆に振り回しにいくというか、コントロールできないのであれば自分がそこに立ってしまおうというのは、弊社の考えにも合っていると思いますし、私自身がそういう言葉で救われています。
女性の健康情報サービス『ルナルナ』
2000年にガラケーと呼ばれる携帯電話向けウェブサイトにおいて、女性向けの生理日記録・管理ツールとして誕生。生理日をいつも持ち歩いている携帯電話で簡単に管理できる上に、生理日などの予測機能を提供することで、多くの女性の支持を獲得。「フェムテック=女性の健康課題をテクノロジーで解決するサービスやプロダクト」という新しい言葉も誕生するなか、これまでの実績や経験を生かし、生理日管理ツールとしてではなく、「女性が自分らしく生きることをエンパワメントしてくれるサービス・ブランド」となることでで、より幅広い面で女性のヘルスケア課題に寄り添い、社会課題解決に貢献することを目指している。
(テキスト:編集部 武田)