「世の中はモヤモヤだらけ。気づいたことがすばらしい」 女性リーダー育成の専門家が管理職を楽しむコツを指南!【後編】
ダイバーシティを推し進める社会において、管理職の在り方も多様化しています。しかし、「女性管理職」として業務を進めていく中で湧きおこるジェンダーに対してのモヤモヤ、ありませんか? 企業のダイバーシティ経営を支援する株式会社アワシャーレ代表取締役で、女性のキャリアに詳しい 小嶋美代子さんに、モヤモヤと上手に付き合っていくための考え方を伺いました。
モヤモヤとは「自分自身が成熟した証」、祝福しましょう!
——女性管理職のみなさんは職場でジェンダーギャップを感じてモヤモヤしつつも、そのモヤモヤの正体がなかなかつかめないようです。原因となる要素があったら教えてください。
私が思うのは、「マイクロアグレッション(小さな攻撃性)」ですね。無意識の偏見や無理解、差別などの言動によって、何気ない日常生活において、相手を傷つける意図なく、結果として相手の心に影を落としてしまう言動や行動を指します。そういった他者からの攻撃に対し、1つずつが小さいから特に反応しないできたけど、花粉症のメカニズムのように許容範囲のコップがいっぱいになって出てくるんだと思うんです。
例えば、体育の授業のとき。女の子たちだけで倉庫からバスケットボールをカゴに入れて運んでいると、先生が「はいはい、そこの男子、やって!」と声をかけるようなことがありませんでしたか? たぶん、そのときに女子たちはマイクロアグレッションを受けているんですよ。
たとえ重いものでも、何人かでやれば女子だけでも運べますからね。でも、女子は重い物を運ばないで、男子がやる、そのときにみんな“何か”を感じていると思うんです。だけどまだ若いから、それがモヤモヤの“モ”にもならず、よくわからないまま大人へと成長してしまう。そして、その“何か”が積み重なったときに、「あれ、何だろう!?」と突然覚醒するタイミングが訪れます。今までにいっぱい溜めてきたモヤモヤが許容量をオーバーするんですね。
——ジェンダーギャップの原因がわかったところで、そのモヤモヤを解消する方法はありますか?
解決したいかどうかにもよりますけど、モヤモヤはなくならないです! 今までモヤモヤすることがなかった人がモヤモヤし始めると気になると思いますけど、世の中はモヤモヤだらけなんです! だから、過剰なストレスを抱かずにモヤモヤに慣れて、うまいことやっていくことがいいんじゃないですかね。
“1か0か”という世界に持っていかずに、1でもあり0でもある、モヤモヤが存在しているけど存在していない、という考え方をしてみるといいかもしれません。
——「なくならないもの」として付き合っていく、ということですね。
そう。今までもそこにあったけど見えなかったモヤモヤが、成熟したことで見えるようになったということです。「よかったね、おめでとう!」と成熟した瞬間を自分で祝いましょう。
なかには、小さい頃からモヤモヤをしっかり抱えながら育ってきて、学者やアクティビストになって、ジェンダーギャップに悩んでいる人のヒントになる活動をしている人もいます。そういう人が世の中に発信したものを参考にしたらモヤモヤが一瞬は晴れるけど、また別のモヤモヤが出てきますからね。でも、それが人間の終わらない探求心につながるから、私は「よかったね!」と祝福したいです。
管理職としての裁量をもっと使って、失敗を恐れずに実行していく
——小嶋さんは、たくさんの女性管理職のみなさんの悩みの相談を受けていると思いますが、今、伝えたいアドバイスはありますか?
これは最近の私の視点なんですけど、管理職になると裁量が増えるんです。その裁量をみんながもっと適切に使っていけるといいのになと思います。
本当は裁量があるのに、「どうすればいいですか?」と上の人に委ね続けるのは、“他責”ですよね。「だって、あの人がこう言ったんだもん」と言えますから。
失敗することも込みで「あなたの裁量でやってください」と言われているのだから、管理職である自分の権限をもっと使って、自分でいろいろなことを決めていけばいいんです!
——失敗することを怖れている人が多いのですね。
「挑戦」と「失敗」がセットで語られることが、実は悪影響だと思うところもあります。挑戦と失敗がセットだと思うと、どうしても大きな問題としてとらえてしまい、なかなか一歩を踏み出すことができないですよね。
私は、「実行」と「失敗」がセットだと思っています。実行したら、成功か失敗のどちらかが起こりうる。だから、失敗は当たり前に起きることです。
そして、失敗を避けるために実行しなかったら、成功は絶対に起きません。失敗は実行したというプロセスが前提なので、「実行したことはすばらしい! でも残念なことに失敗だった」と前向きに考えたほうがいいと思います。
みんながそれぞれに疑問を持つから変化できるし成熟もできる
——まだまだジェンダー格差が埋まらない日本にどんな未来を期待しますか?
みんなが疑問だらけになってきたことは、すごくいいことだと思っています。疑問がないと変化もなくて、衰退する一方ですよね。成熟し続けていくには変化していくしかないから、すごくいい未来があるんじゃないかなと思うんですよ。
逆に決めつけてしまう方が怖い。“答えが出なくてよかった”ということもある、それが成熟している国の未来なのかなと私は思うようにしています。
——小嶋さんが思う「今の日本社会の課題」を教えてください。
政治や企業の最重要ポジションに女性が増えていくことを希望します。特に、都道府県知事などの首長レベル、企業でいうと社長ですよね。上場企業で女性社長が増えたらいいなと思いますね。
今はまだ、例えば航空業界で、CAのほとんどが女性でも、そのトップは男性、とか。看護師業界でも、看護師長は女性だけど、それをマネジメントする事務局長は男性、とか。女性の占める割合が圧倒的に多い業界であっても、男性がトップに立つことがほとんどですよね。
「トップ=男性」という古い考え方が変わっていって、社会全体としてトップに立つ女性が増えてほしいです。
——女性管理職としての心構えと、自分ではなかなか気づきにくいジェンダーギャップに対するモヤモヤ。それを明確に言語化していただいたことでなんだかスッキリした想いです。お話しいただきありがとうございました。
<お話を伺った人>
株式会社アワシャーレ
代表取締役
小嶋 美代子さん
取材:F30プロジェクト 文:依知川 亜希子