予備校を2ヶ月サボっています。進路がわからなくなってきて、どうしていいのか……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室62】
✳️今週のお悩み✳️
現在4年制の定時制高校の4年生です。来年卒業ですが将来の夢も目標も決められず日々を食い潰しています。 私の日常は日中に映画を観ること、毎週TSUTAYAに通うこと、ラジオを聞きながら一日二回の犬の散歩、たまの読書、学校、それがすべてです。家族は日中は仕事や学校、夜も出かけることが多く基本、家に一人です。一年前これじゃまずい!と自分なりに将来の展望を考え得意な上唯一やりたいことである美術を進路に決めて、4月から美術予備校に通い始めましたが、予備校・学校・映画・読書と詰め込んだ結果、調子を崩しここ2ヶ月ほど授業料高額の予備校をサボっています。その間ずっと焦燥感を誤魔化すため予備校へ行くはずの時間に映画ばかり観ていたら、少し前は美術の道でやっていくんだと確信を持っていたのに、将来のことを遠ざけたくなってきて、そうすると別に美術とかやりたくないな、映画を観てる方が楽しいな、と思うようになってしまいました。あと頭がぼんやりします。一度決めたのにまた進路がわからなくなって、どんどんうつになっていくんですが、もう自分ではどうしていいかわからないです。
(しんとと・20歳)
宇多丸:
何かをサボって観る映画とかって、また格別に面白く感じるんだよなぁ……。
そういうときはだから、「俺にとって今はむしろ、この映画を観ることを優先させるべきタイミングだったんだ、決して無駄な時間じゃなかったんだ」と自分に言い聞かせるようにしてますけどね。
そして実際、後年思い返してみると、ホントにそうだったかも、と思えることも多いんですよ。
しんととさんも、むやみに焦ったり鬱々としてしまうくらいなら、今はいっそ、そういう風に開き直ってしまったらどうですか。
2ヶ月もサボっちゃった!っていうのが、ハタチの身には、何か途轍もなくでかいハンデを背負ってしまったように感じられてしまうんだろうけどさ。 ぶっちゃけ、長い人生のうち、数ヶ月どころか、数年足踏みする時期があったところで、別にどってことないから! しかもまだハタチじゃん。余裕!
僕なんか自慢じゃないけど、30歳になるまで実家暮らしで、完全モラトリアムでしたから。
特にヒドかったのは、6年かかってなんとか大学を出てからの5年くらい、20代後半だよね。 もちろんライムスターとしての活動もまだ、それだけで食ってくにはほど遠い、っていうかそんなの想像もできないくらいの草の根レベルだったしさ。 音楽ライターとしての仕事はちょいちょいやってたけど、あんなのギャラなんて微々たるものだし、それで一生やってくっていうしっかりしたビジョンがあるわけじゃなし。 まぁ、実家住まいで生活費が浮くぶん、飢え死にはしないだろう……くらいの、本当にしょ~もな~い考えで日々をダラダラ過ごしてたって話、前もしたよね。
当然のように時間なんかイヤってほど持て余してるはずなのに、そのぶん頑張ってラップの歌詞を書いたりするでもなく……。 じゃあ毎日何してるかっていうと、やらなきゃいけないことがない日は誇張じゃなく一日中、神保町の本屋や中古ビデオ屋に入りびたってました。 で、夜中になって親が寝静まったら、ひたすらゲームと映画。 あと、テレビで深夜に流れてる「フィラー映像」をひたすらじーっと眺めてたりとか……、病気!
ちょっと金があるときは、近所のラーメン屋で餃子とメンマをつまみに、本読みながらベロベロになるまで瓶ビール飲んで。そのままの勢いでちっちゃな公園行ってブランコ漕ぎまくって落っこってケガしたりね。一人で。
要は、のんべんだらりと暮らしつつも、内心は未来が見えない状況にかなり悶々としてたんだと思いますよ。 クラブに行ったって、何しろ例の「“死にたい”連発時期」ですからね、どっちかって言うとひたすら酒と音に「逃げ込んでた」感じですよ、女の子とキャッキャしたりするよりも。
まぁ、今だってそういう「死にたい」成分がゼロになったわけではないんだけどさ……。 とにかく、そんな時期だったからこそ感じ取れたこと、考えついたこと、あるいは出会えた人たちっていうのが、振り返ってみると意外と後々の道につながる、重要な要素になってたりするんですよ。 最短距離で来てたら見つけられなかった何か、というかさ。
こばなみ:
進路って、そんなにすぐに決められませんよね。最初からこれやりたいからこの大学に行こう!って決めてる人って、ほんの一握りなんじゃないかって。それに一度決めても、変えたって別にいいわけだから。いや、変える人のほうが多いでしょ?
宇多丸:
要はね、しんととさん、ハタチくらいで道に迷ってますって、それ全然普通です! むしろ健全な「その時期の過ごし方」してるなぁって思うくらいですよ。
僕の相棒のMummy-Dだって、もともと美術系に行こうかどうか迷ってたらしいんですけど、結局早稲田の政経に進んで、5年かけて卒業した後に、やっぱりと思い直して改めてデザイン専門学校に入るっていう、かなりの回り道をしてるんですよ。すごい苦学しながらね。 当時の彼に比べれば僕はやっぱお気楽なもんだったかも……。
しかも、デザインの道に進んでからも、「やっぱ、こっちじゃないのかな……」とか悩んだりもしてたっていう。 そうこうするうちに、彼にとって常に「本当にやりたいこと」であり続けてきた音楽の道が、徐々に開けてきたわけです。
こんな風に、進路なんて本当に変わっていくし、どの時点で変えてもいいし、また新たにやりたいものが見つかる場合だってあるし。
だから逆に、これだっていう道が見つからないうちは、ジタバタしても仕方ないから、そこそこ食いつなぎながら、現時点で「好きなこと」を突き詰めてけばいいんじゃない?
しんととさんであれば、「映画が好き!」っていうのは一貫してるっぽいからさ、今はもう、ひたすらそこに没頭すればいいじゃん。なんなら予備校は休学してもいいよ。 それにも飽きる頃には、頭もちっとははっきりして、「やりたいこと」「やるべきこと」の片鱗くらいはつかめてるかもしれない。
それより一番厄介なのは、「何も好きじゃない」人ですよ! そのことで悩んでる人のほうが、よっぽど深刻。 その点しんととさんは、少なくとも「好きなこと」ははっきりしてるし、「得意なこと」もひとつは持ってるわけで、恵まれてるほうですよ、ホント。
こばなみ:
たしかにそうですね。先日、アラフォーの女友達と飲んでて、「これから先、好きなことをやるぞー!」なんつって、みんなで意気込んでたんですけど、「何やろっかなー?」なんて具体的なこともなかったりで、いくつになったってモラトリアムですね。でも、逆にいくつになっても、なんだってできる気もしたり。もちろん、成し遂げるのはたやすいことではないけれど。
宇多丸:
よく考えてみたら、前の彼女と同棲を解消してから今の奥さんと結婚するまでの数年間、だからほんの3年前ほどまでの僕だって、事実上のゴミ屋敷で、24時間飲まず食わずトイレも行かずでゲームし続けたりとか、毎日ワイン1本ずつ空けてたりとか、自堕落極まりない生活を送ってたわけだもんなぁ。
あれだって今から振り返ってみれば、立派なモラトリアム期間ですよ。
アラフォーでも、そういう時期はある!
でもやっぱ、そういう暮らしをしてなければ思いつかなかったようなこと、出来なかったようなこともいっぱいあったからさ。あれはあれで楽しかったし大事なプロセスだったよな、と心から思いますよ。 だからホントに、過剰に焦ったり落ち込んだりする必要はないから。
ちなみに「しんとと」っていうペンネーム、当然のように、森田芳光監督のエヴァーグリーンな長編デビュー作、『の・ようなもの』の主人公の名前から取ってるんですよね?
劇中後半、その若手落語家「志ん魚」は、それまでののんきなスタンスを揺るがされるほど、己の未熟さ、実力不足を、手痛く思い知らされることになりますよね。 しかし、まさにその先にこそ、今後自分が落語家として進むべき方向性が、なんとな~く見えてくる。
つまり、恐らくはしんととさんご自身も、今はまさにそういう『の・ようなもの』な時期、モラトリアムな季節であって、いずれはそれを通り抜けるときもやってくるということを、薄々予感されてもいるんじゃないでしょうか。 だとしたら、いつかこのしょーもない日々が、何よりも愛おしく思い起こされるようになる……、かもしれないよ?
あと、前田敦子さん主演のズバリ『もらとりあむタマ子』も、しんととさんはきっと観てるかもだけど、未見であればぜひ! 人生にこんな時期があるっていうのも悪くないのかも、と心底思えるキュートな一作です。
こばなみ:
わたしも学生の頃はとくに何がやりたいってハッキリしてなかったし、フジツボ研究から編集者になったのも、流れにまかせてそうなったわけでして、今だってこれでいいのかな?っていろいろ悩んだりします。でもこれって一生、悩むことなんでしょうね。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2014年9月20日に公開したものを再編集し、掲載しています。