子どもがいる人、いない人、意図しない分断が生まれないために、組織のリーダーやマネジメント層ができることは? 一般社団法人WINK代表・朝生容子さんに聞きました【後編】
職場における、子どもがいない人への仕事のしわ寄せの実情を、一般社団法人WINK(※)の代表理事・朝生容子さんにお聞きした【前編】。【後編】では、組織人として、子どものいる、いない、に関するモヤモヤにどんな心持ちで向き合っていくのか、相互理解を深めるヒントなどを、またまた朝生さんにご登場いただき伺います。
聞き手は私、子どもを持たない境遇で働いているF30プロジェクトの小林奈巳と申します。また、私自身、小さな組織を経営しているので、マネジメント側の視点でも、自分ができることをもっと考えたいと思って取材に臨みました。
組織内で分断が起こるのは、マネジメント層がほったらかしにしているから!?
朝生さんたちの調査を見直していて、「不快な経験は誰によるものなのか」という質問に「男性上司」と「女性同僚」という回答がすごく多くて、そういう構造があるんだなって思いました。
Q.不快な経験は誰によるものですか?
Q.不利益な扱いは誰によるものですか?
出典(上記グラフすべて):ダイバーシティ&インクルージョン研究会2020
女性同僚とのやりとりは、それぞれが自分のことを肯定したいところがあるのかもしれないし、“そういうふうに聞こえちゃった!?”みたいな、お互いに過敏になりすぎたゆえのすれ違いなんかもあるかもしれない。だから女性同僚との関係だったら、言い合って何とかできるかもしれないなって思ったんです。そんなに簡単にはいかないのですかね?
それはあるかも。特に、小さい会社だと距離が近い分お互いのことがよく分かるので、子どもがいるかいないかという属性ではなく、個人に対する理解が得られやすいのかなと思います。私が会社員だったときの話なんですけど、元々は、独身で子どもがいない女性がいて、そこに正社員の女性が育休から復帰するタイミングで私のところに異動になったんですね。それを元々いた彼女が心配したんですよ。
マーケティングをやっている部署で、夜にイベントをやることもあるわけです。でも復帰した女性は時短勤務。「あの人は残業ができなくて、時短で帰っちゃうんですよね。それは困りますよね」と。とはいえ2人しかいなかった部署に1人増えるわけだから、私はウェルカムだったんですけど、“なるほど、そうか、そういうふうに感じるんだな”と思いました。
でも一緒に働いていくうちに、時短であっても、その人が貢献できていることがわかるんですよね。1年くらい経つと、最初はすごく反発していた彼女は一切不満を言わなくなったし、復帰した彼女のことを「いろいろありがたいと思っています」と言ってくれるようになりました。
それはよかった!
先ほど小林さんのおっしゃった通りで、お互いに理解ができるような職場を作っていくことがとても大事だと思います。とはいえ、現実は人が足りない中での難しさもある。私の経験でいえば、時短や育休をとれる正社員と、とりにくい契約社員という雇用条件の差の影響も考えないといけないし。
元々いた彼女と育休明けの彼女、1年でどんな変化があったんですか?
復帰してきた彼女もすごく頑張ったんです。その会社は裁量制で時間管理の面で個人の自由が利きやすいこともあり、帰宅してお子さんを寝かしつけてからリモートの環境でメールなどのチェックをしたり、いろいろな情報をキャッチアップしようという努力もしてくれました。
あと、とても助かったのは、私はトラブルの時にあわてちゃうところがあるんですけど、復帰した彼女は、そんな時にも冷静で落ち着いていて、タイプが全然違うんですよね。チームとしてそれぞれの特徴が上手く活かせました。元々いた彼女は、復帰した正社員のことを“ちゃんと頼りになる人なんだ、相談できる人なんだ”と受け入れてくれたのだと思います。
それぞれの特徴を生かしながら一生懸命に取り組んでいける場所があるからこそ、ダイバーシティが成立するのかなって実感しました。
そうだと思います。
場を作って当事者同士で話ができるようにしたり、みんなで向かう先を“ここだよね”ってコミットすることがすごく大事になってきますね。仕事をする上で、お互いが仕事のフォローをすることは当然出てくると思うし、そんな時にみんなが同じ方向に向かっていれば、自然とコミュニケーションを取るだろうし。まあ、言うのは簡単で、やるのは難しいかもしれないですけど。
お互いにカバーできる人なんだなということがわかると、子どもがいるかいないかとか、時短かフルタイムなのか、というのは乗り越えられるんじゃないかなって私は思っています。
表層のコミュニケーションからもう一歩関係性を深められると、立場やライフステージの違いからくる苦しさも乗り越えられそうですが、それを阻んでいるものって何ですかね? 決め付けとか、“どうせ○○だろう”とか思ってしまうのを拭い去るにはどうしたらいいだろう? ごめんなさい、ただただ疑問を投げかけてみました(笑)。
そうですよね(笑)。「すごく嫌な思いをした」という方の職場に共通して出てくるのは、マネジメントの人がほったらかしにしている、ということなんです。
そこか~!
よく聞くのは「お互いに話し合ってやってくれよ。自分は関係ないから」みたいな対応ですね。それはひとつ問題になるポイントじゃないかなと。メンバーからしても、”この管理者なら言えるけど、この人には言いたくない”っていうのもありますよね。
マネジメント層は耳を澄ませて。メンバーの多様な選択肢に、アンテナを立てることが第一歩!
マネジメント層とか、チームリーダーみたいな立場の人が意識すべきことがあったらお伺いしたいです。
プライバシーのどこまで関わってほしいかという線引きは人それぞれなので、それを慎重に見極める必要はあると思います。ただ、“この人はどういうことを目指しているんだろう?”とか、“この人にとってどういうことがハッピーなんだろう?”っていうことのアンテナを立てておくのは、まず大事なことなのかな。それが今のウェルビーイング経営とか健康経営とかにもつながるんじゃないかなと考えます。でもまぁ、中間管理職は大変ですよね。
管理職やマネジメントの人たち自身の中にも、子どもがいる、いないで、意図しない分断みたいになっちゃうこともあるだろうし。それでもって、部やチームのことを管理していくわけだから、そう思うと大変ですね。だからこそみんなに力を借りるべきなんだろうけども、言いにくいこともわかる。
「できない、助けて!」って言いにくいですよね。
人間には感情があるので、相手のことを知らないと猜疑心みたいなものや、もっと言うと恐怖みたいなものが出てきてしまうので、さらけ出したことを受け入れてもらうにはどうしたらいいのかな、ということかな。
例えば「子どもがいない」って言うと、「かわいそうな人ね」みたいに評価されちゃうこともある。でも、それを多様な選択肢とした上で、こういうキャリア志向を持っているとか、こんな趣味があるとか、そういうことを言えて、そのまま受け入れてもらえるようにできるといいなって感じますね。
“心理的安全性”が解決のキーワードなのですかね。子どもが急に熱を出して「帰らなきゃいけない、ごめんね」って言えて、それをいつもフォローしてる人が「実は今日ちょっと更年期の症状でしんどいんだよね」って言えるとか。「引き受けるよ」「ありがとう」とか、「今日は引き受けるの無理!」「(また別の人が)ならば私が今日はやります!」とか。そういう環境を作り出すのがマネジメント層に求められるのかな。組織内の方向性を合わせながら、風通しを良くすることで、有機的に解決していけたらいいですよね。
子どもがいるかいないかだけで見ちゃうと、いない人がいる人のカバーをするという構造になっちゃうんですけど、子どもがいない側も「私、今度、推しのコンサートがあるの。その時には代わりにやってくれない?」と頼る場面があるとか、ジグソーパズルのようにお互いをカバーし合えるような関係が社会全体の中でできるといいなと本当に思いますね。
子どもが熱でも、ペットが下痢でも、学校行事でも、推し活でも、「帰っていい」という労働環境が理想ですよね。視座を一段上げて考えると言いますか。
それと私はやっぱり両者や上司も含めて、もっと激突してもいいんじゃないかなと思うんですよ。なんか忖度したり遠慮しすぎたりして、きちんと伝えないことが混乱の要因になってる気がしてならなくて。殴り合った後に抱き合うみたいなことができればいいんだけど、今の時代ってハラスメントという言葉もあるし、圧倒的にケンカがしにくい状況になっているじゃないですか。あえて傷つける必要はないけど、正直に想いを伝えたことで万が一傷つけてしまったのなら、謝ればよくない? で、その後に抱き合おうよ!って本当に本当に思う。
ごめんなさい、論点がズレているかもしれないけど、なんか歯がゆいんですよね。人間だから、“あ、言っちゃった!”ということだってあるじゃないですか。それに対して“今、傷ついたんだけど!”って言えたらいいのに。それで”ごめんなさい”“許すよ”っていう流れ、難しいのかなぁ…。
声に出せなくなってしまったのは、過去に声を上げても無視されたり、声を上げる方が悪いんだという思いをさせられた経験があったのかもしれません。「そんなことなんで気にするの? 気にする方が悪いんだよ」とか、「ひがんでるじゃないの?」とか言われたりして。それで“言ってもダメだ、もう耐えるしかないんだ”って思い込んでしまった可能性はありますよね。だから、ちょっと声を上げたときにちゃんと聞く耳を持つ人が周囲にいるかいないかが、とても大きい気がします。
良い面を見ようとすると、日本ってついこの間まで専業主婦が当たり前で、そこから共働きが一般的になってきて、子どもを産んでも復職できる環境が整ってきて、そこからこういう話ができるようになったことで、またゆっくり階段を上がれているのかなと感じています。ほかの先進国と比べるとものすごく遅いんですけどね。
そうですね。私が調査をして発表したことで、「実は私も嫌な思いをしたんです」って言ってきてくださった方もいらっしゃいます。自分が傷ついた経験って、普段なかなか言わないし、見せないですね。
知らないうちに傷ついていて、後で気づいてハッとするとか、そういうこともあると思います。だから改めて、朝生さんが調査を発表されたことはすごく意義のあることだなって思いました。痛たたた!と思うことでも、膿を出すというか、表出させることは、この件に限らずですけど、大事ですね。
そういう膿を出しながら、受け入れたり、話し合ったりできる職場の雰囲気を作っていこう、信じ合える仲間で仕事ができる環境を作っていこうと、私は組織のリーダーとして今日改めて心に決めました。私の組織に限らずですが、小さくても意識や行動の変化が積み重なっていけば、社会とか大きなものをも動かしていけると思います。今日は非常にいい対話ができて、清々しい気持ちです。ありがとうございました!
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