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過去の失敗を蒸し返されるのが辛い。だから、過去の自分を知っている人と会うのも怖い。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室381】


✳️今週のお悩み✳️
先日、高校時代の友達に会ったときのことです。その人を含め数人でお茶をする機会があったのですが、その人は私の過去のことをよく持ち出します。とくに私が触れるなよ、と思うことを持ち出します。これは今回だけではなく、前からそうなのですが、たとえば高校時代や大学時代の恋愛の失敗や、そのときの言動、考え方など、今はもう価値観も変わっているので、忘れたいことや、言われると恥ずかしいことを、よく持ち出してきます。
あれからもう25年以上経ち、自分もいくらか成長したり、過去を断ち切ったりして生きてきたなかで、過去を蒸し返されると、心がぎゅっと痛みます。そして、また会ったときに、また言われるんじゃないかと心配で嫌な気持ちになります。
相談は2点です。
・1つ目は、その人に会ったときに、もう言わないでと言ったほうがいいのか。でもそのたびに自分でも忘れたい過去を掘り返すのが辛いですが……。ただ、また言われるのではないかとドキドキしている状態も辛いです。
・2つ目は、その人に限らず、そういった過去を持ち出してくる人はいると思うので、過去の自分を知っている人と会うのが怖いです。生きてきた年数が増えると、過去が長くなり、そういった心配が増していきます。宇多丸さんは、このような不安感はありますか?
ある場合、どのように対処しているか教えてください。
(まるちゃん・48歳・会社員・東京都)


宇多丸:
ちょっと、前にあった子どものあだ名の話を彷彿させるところもある相談ですよね。

こばなみ:
悪気なく言われることが嫌でどうしようって、まったく同じ構図ですね。

どの年代も同じことに悩んでいるんですね。

宇多丸:
特に今回の場合は、昔の友達同士たまにみんなで会う、くらいの関係性なわけでしょ?

だから、話題が更新されようがないんだよね。

むしろ、昔の話をするためにこそ集まってる、と言ってもいいくらいなんだろうからさ。

たぶんその人にとっては、「まるちゃんと言えばあのエピソードでしょ!」くらいの、要は『すべらない話』感覚で毎回その件を持ち出してきてるんだと想像しますけど。

つまり、向こうはなんなら良かれと思ってやってることでもあるはずだから、まるちゃんさん側が実は本気で嫌だからやめてくれと思っている、ということを伝えない限りは、間違いなく半永久的に繰り返されてゆくことになると思いますよ。

毎度おなじみ、「やっぱ本人と直接話すのがきっと一番早いよ」パターンですね(笑)。

こばなみ:
それだけ直接言えない人がいっぱいいるんだな、って実感しています。

宇多丸:
そうなんだよね。

当人の前で本音をずけずけ言えるくらいなら最初からいろいろ苦労してないよ、という感じももちろんわかりますよ。

この場合なら、せっかくみんなで楽しく昔話してゲラゲラ笑ってるところに、水を差しちゃうことになるんじゃないか、的な懸念なども当然出てくる。

だからまぁやっぱり、第三者がいないタイミングでそっと伝える、というのが最も穏当なアプローチということになるでしょうけど。

そこで、まともな大人であり友人なら、「えっ、そうだったの? ぜんぜんわかってなかった! ホントにごめん!」とならないはずはないと思いますけどねぇ……。

万が一そうはならず、「なんで? 面白く“イジってあげてる”んじゃん」レベルの逆ギレ的自己正当化しかしてこないような人だったとしたら、もう付き合い自体を考え直したほうがいいくらいなんじゃない?

とにかくその人に関しては、まずそこに問題があるんだということを認識させるところから始める以外にはないので、まぁやっぱり、まずは直接言うしかないのはたしかじゃないですかね。

できるだけ穏やかに話すとか、伝え方の塩梅はあるにしてもね。

こばなみ:
あと、2つ目の相談というのもありますが。

宇多丸:
望んでないのに過去の自分と向き合うハメになってしまう可能性が怖い、と。

まぁこれも、ある意味万人に共通する話ですよね。

特に今どきは、かつての言動が掘り起こされやすい環境でもありますし。

それに対して僕個人は、心の平穏を保つためにどうマインドをセットしてるのか、改めて自分なりに考えてみると……。

まずまぁ、ガチで僕に落ち度があるようなことなら、普通にその都度謝り続けるしかないわけですけど。

それ以前に僕は、心配もなにも、たいていのことはもうすっかり忘れちゃってる、というのもあるんですが(笑)。

こばなみ:
まるちゃんさんは、けっこうな具合で恐れていますもんね。

宇多丸:
なんにせよ、改めて真摯に反省しなきゃいけないような件以外は、今の自分とはあまり関係のない、一種の他人事としか思わない、というのも
ひとつの手かと思いますが。

この前も言ったけど、10年以上前の自分は、実質他人なんで!

たまに昔の自分の文章とか読んでも、まったく共感できなかったりすることもあるもの。

こばなみ:
25年なんてもっと他人じゃないですか。

宇多丸:
そうそう。

だから、よっぽど深刻な、マジで取り返しのつかない犯罪的行為とかでもない限りは、20何年前の自分に、そこまで責任を感じすぎることはないと思いますよ。

刑法でさえ時効があるのに。

過去はどっちにしたって動かせないわけで、今から責任が負えるとしたら、現在の自分、そしてこれからの自分がどうするか、ということに尽きるわけじゃないですか。

それをより良きものにしてゆくためにこそ、過去の反省というのは必要なわけで……。

だから、そうだ、そういうかつての過ちがあったからこそ、そこから学んで成長した今の自分もある、という考え方をするのはどうですかね?

恥ずかしいことだの、過ちだのは、若いうちに済ませておいて良かった、ってことでもあるわけじゃないですか。

たとえば、漢字の読み間違いをしちゃったとして、それを人に指摘されたりしたらその場ではたしかに死にたいほど恥ずかしいかもしれないけど、ということはそれ以降、その件に関しては自分、バージョンアップしました!ってことでもあるわけじゃないですか。

もっと重大な局面とかでやらかしてしまう前に、先に軽く痛い目見といてホントに良かった!ってことでしかないよ。

そんなこんなで今はレベル48まで来てる、というときに、今さらレベル23のときの失敗の話されても、いやだから、そこを経てるからここまで来れてるわけで、としか思いようがないじゃん?

それだけのことですよ、実際のところ。

そう考えていられれば、仮に人から昔のことを持ち出されたとしても、「そうそう、そこから学んだおかげで今の私があるんだから、その経験にも感謝してますよー」、なんなら「で、まだそんな話してるあなたは、あの頃からどう成長したの?」みたいに、超然としてられたりしませんかね。

だいたい他のみなさんも、ほぼそんな気分で昔話ってしてるもんじゃないかな、という気もしますけど……。

若気の至りでいろいろあっだけど、だからこそ今はお互い立派な大人になれたんだから、結果オーライ、オールオッケーだよね?ってことを、確認しあうためにこそ思い出話をしてるようなところもあるんじゃないかな、みんな。

つまり、ひょっとするとこの件、一番のポイントは、「今の自分を肯定できているか否か」にあるのかもしれないですね。

さっきも言ったように、過去は今さら変えられない。いくら後悔しても、そこだけはどうしようもないわけですよ。

我々にできるのは、たった今から先の「現在」、つまり厳密に言えば未来をより良くしてゆくための努力しかないし、それが実を結びさえすれば、さかのぼってじゃあ、あれほど否定したかった過去も、ここに至るためには必要なプロセスだった、と思えるようになる……はずじゃないですか?

ということで、まるちゃんさんに本当に必要なのは、「今の」自己肯定感をもっと上げることなのかもしれないですよ?という仮説も、一応提示しておきたいと思います。

少なくとも今の僕に関しては、過去があまり気にならないのはその理屈ですね。

今の自分がまぁまぁ肯定できてるから、過去がどうだろうとそれも間違いじゃなかったと思える、という。

こばなみ:
なるほど。そこがグラつくと、過去の話でダメージ食らいやすくなりますよね。

まるちゃんさん、今ちょっと不安なことがあるのかな?

宇多丸:
まぁ、そういう僕だって、「今」の状況が変われば、そう思えなくなるかもしれないし。

逆に言えば、その程度には流動的なものってことですよね、過去のとらえ方なんて。

それゆえに、誰かの心ないひとことで、せっかく忘れかけてた記憶が、またさらに嫌なかたちでよみがえってきちゃう、というようなことも、たしかにあるかもしれないわけだけど……。

こばなみ:
そんなことはずっとあることでしょうしね。

宇多丸:
そう。

そして、それを押し返せるのはやはり、「今の自分」しかないんだよね。

外野にどうこう言われる筋合いはないよ!と、少なくとも自分自身は胸を張れるような人生を、今現在送れているかどうか。

結局、『茜色に焼かれる』で尾野真千子が言ってたように、「自分がちゃんとしてるしかないじゃないの」ってことなんじゃないですかね。

世の中クソだらけ、なんてのは生きてゆくうえでの大前提なわけで、肝心なのは、そのレベルに自らも染まって、まさしく「腐って」しまうのかどうかでしょ、という。

自分の尊厳は自分で守るしかない。

例によって、ホイットニー・ヒューストンの『グレイテスト・ラブ・オブ・オール』ですよ!

まるちゃんさんにもまさに、この歌詞を送りたい。

こばなみ:
まるちゃんさんは、過去のことや周りのことに目がいっているようだったけど、今の自分のことにも目を向けると、漠然と増してくる不安の霧のようなものが晴れたりするかもしれないですね。私も、ハッとしました!

宇多丸:
今回の件に限らず、これはありとあらゆる問題に対して言えることかもだけど、周囲に働きかけるのも大事だし、自分自身のマインドセットも大事、ということもありますよね。

どっちかだけで全部を解決しようとすると、いびつなことになってしまいがちでもあるかもしれない。

ともあれ、長々といろいろ言ってきましたけど、まるちゃんさんがあと少し心穏やかでいられるようなヒントが、この中にひとつでもあるといいなと願っております!



【今週のお絵描き】

画・宇多丸




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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。

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女子部JAPAN こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは「F30プロジェクト」と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。女性活躍推進など、"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。



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