今よりもデザインを極めたくて転職活動中なのですが、最終面接で落ちてしまい……。バリバリ働くのに向いてないのでしょうか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室202】
✳️今週のお悩み✳️
現在、転職活動を行っているのですが最終面接でどうしてか落ちてしまいます。現在はメーカー勤務のグラフィックデザイナーです(ロゴやイラストのデザイン)。今よりもデザインを極めたくて転職活動中です。主に個人のデザイン事務所などを受けているのですが、なぜか落ちてしまいます。思い当たる節は、「一生仕事続けて行く気はあるか?」という質問に対していつもYESと断言できないところです。頼りなさを感じさせてしまってるのだと思います。しかし、わからないのに「はい!」と言うのも違和感があり、言っておけばいいと頭ではわかっていますが、結婚するかもしれないし、出産もしてみたいし……と欲が出てしまい曖昧な返答をしてしまいます。仕事に対して一本に絞れない弱さもわかっています。バリバリ働くのに向いてないのでしょうか? それとも、会社との相性が合わなかっただけなのか、悶々としています。お二人は仕事と生活のバランスについてどうお考えですか? また、面接や、初めて会う人のどこを見ていますか? そして、お二人が自分を人にアピールする際に気をつけてることも伺いたいです。秋までには転職しているよう、お二人にアドバイスをいただきたいです。よろしくお願いいたします。
(つねこ・28歳・東京都)
宇多丸:
僕は就職活動もしてないし、考えてみたら面接的なものもまったく受けたことがない筋金入りのドロップアウト組なので、相談する人間違えてんじゃないの?って感じはちょっとあるんですけど(笑)。
その点こばなみは社会人経験も豊富だし、新人の面接とかもやってるんだろうから聞きたいんだけど、「一生仕事続けて行く気はあるか?」って、こういう場ではよくある質問なの?
たしかに、「一生って言われると……」とかバカ正直に考え込みだすと、一瞬たじろいでしまうという気分もまぁわからなくはない、程度には圧迫感がある問いですよね。
こばなみ:
はい。まぁたしかに、続ける気があるかは聞きますね。
宇多丸:
ただやっぱりさ、それに対してつねこさんが実際どんな感じで返してるのかはわからないけど、そこでのいずれ仕事を辞めるかもしれない理由が、「結婚するかもしれないし、出産もしてみたいし」っていうのは、正直ちょっと、「えっ?」って感じが僕もしちゃいましたけど。
まず、結婚したら辞めなきゃならないかも、というほうは、本当にまったく意味がわからない。結婚してると、仕事続けるのになんの不都合があるの?
もし本気で「結婚したら辞めるかも」みたく考えてるんだとしたら、それこそ昔で言う「腰かけ」ってやつじゃん。別にそういう選択自体を否定してるわけじゃないけど……、つねこさんが目指してるのって、そういうことなんだっけ?
とりあえず、おそらくは少数精鋭でやってるんであろう個人事務所なんかは特に、面接の時点でそんなユルめな気概モロ出しな人、取るわけないと思うんですよね(笑)。
出産にしたって……、もちろん、この国ではまだまだ制度も意識もまったくもって立ち遅れているという残念な現実はあるし、つねこさんが就職しようとしてる先がどの程度そういう部分でちゃんとしてるところなのかにもよるだろうけど、それでもやっぱりいまどき、子どもを産んだ女性は仕事を辞めなきゃならないなんて決めつけを、しかもこっちがあらかじめ先回りしてする必要なんて、まーったくないはずでしょ。
特にグラフィックデザイナーって、違ってたら申し訳ないけど、わりと自宅でできる作業が多い仕事だったりするんじゃないの?
家事との両立、まだしやすいほうでもあるんじゃないの、という感じもするんですけど。
ということで、実際に働きだす前からすでに、しかも必要以上に逃げ腰になっちゃってるつねこさんの姿勢、はっきり言えばどこかまだ甘えてるようなところが、やっぱり先方にもしっかり伝わっちゃってる、というのはたしかにあるかもしれないですね、相談文を読む限り。
少なくとも今のつねこさんは、これまでの比較的安定した、組織に守られているような立場をわざわざ捨ててまで、つまりある程度のリスクは覚悟のうえで、自分の行きたい道を進もうとしているタイミング、のはずでしょ?
なのに、この期におよんで「仕事に対して一本に絞れない」とか言いだしてるようじゃ、さすがにちょっと、だったら今のうちに考え直したほうがいいんじゃない?とも言いたくなってくるよね。
こばなみ:
だし、こんな質問、「YES!」って言っちゃえばいいものを……。
宇多丸:
つねこさんも一応「(YESと)言っておけばいいと頭ではわかっていますが」とは書いてますけど……、念のため言っておけば、「一生仕事を続ける気はあるか」って質問も、別に契約かなにかみたく、その返答次第でつねこさんの将来が縛られてしまうとか、そういうもんではまったくないですからね。
こばなみ:
面接してる側も、面接時に続けますって言ってた人が入社何年後かに辞めたとしても、「あの時一生働くって言ったろ!」とか言わないですから(笑)。
宇多丸:
じゃあなにを聞こうとしてるのかというと、もちろんほぼそのまんま、「それ級」のやる気があるのかどうかを測る、っていうような面もあるのもたしかだろうけど、それと同じくらい、こういうそれなりの圧迫感がある問いかけに対して、「どのように」答えを返すことができるのかっていう、要は「物事に対する対応力」を見てるとこも大きいと思うんですよね。
だって、たとえばグラフィックデザイナーだったら、クライアントに無茶な要求されたりとか、全然普通にありうるわけじゃん?
そういうときに、ただバカ正直に、先方の言うことをストレートに否定するだけだったり、露骨に嫌な顔したり(笑)、つねこさんみたいにいちいち思い悩み始めて曖昧なことしか言わない、とか毎度やらかしてたら、少なくともプロとしては失格というか、そのうち仕事なんか来なくなっちゃうでしょ。
そんなんじゃなくて、相手の意向もくみ取りつつ、こちらの主張もしっかり忍び込ませて、最終的にいかに適切な、誰もが喜ぶ着地に落とし込んでゆくことができるかっていう、そういうとこが勝負なわけじゃないですか。
これ、どんな仕事だってそうだろうと思うんですよね。
その場に最もふさわしい役回りを瞬時に判断して、いかにうまく振る舞うことができるか。言ってしまえば、そのときそのときで求められる役柄をパッと「演じる」ことができるかっていう……、社会って概ね、本質的にそういう構造で成り立っているものでしょう。
そこで、面接でのつねこさんみたく、想定外の重たい問いが来たからってモゴっちゃうだけっていうのは、社会人として求められる臨機応変の「演技能力」をあからさまに欠いてるという意味で、仕事に対する気合云々以前に、ちょっと子どもっぽいんじゃないかなぁと、僕が面接官ならジャッジしてしまう気がします。いくらなんでもフレキシビリティがなさすぎというか。
こばなみ:
そこじゃないですか、落ちた原因。
たしかに、そうやってモゴモゴしてたら、たくさんの応募者のなかで、一番最初に落とす対象になりますよね。
だいたい消去法で、まずは落とす人を決めるじゃないですか。
宇多丸:
結局、人のどこを見ていますか?
こばなみ:
質問に対してズレないで応えられるかどうか、まずはそこ。
内容も気になりますけど、内容はいくらでも作ったりできるんで。
宇多丸:
とは言え、ペラペラペラペラ、どっかで聞いたようなキレイごとばっか、かたちだけスムースにしゃべるようなヤツも、嫌なんじゃない?
こばなみ:
なにか読んできてそのまましゃべってるなっていう人もいますよね。よくみんなが言うことをいくら流暢に話しても印象に残らないかも、ですね。
あとは目をちゃんと合わせるかとか、感じがいいかどうかとか、そういうところじゃないですか?
宇多丸:
ちなみに僕ならさっきの「一生仕事続けるか」っていう質問、なんて答えるかな……。
とりあえず、「死ぬまでそれが持続するかはわかりませんが(笑)、私の技能がどなたかから求められる限りは、ありがたくそれに応え続けさせていただきたいと思います」みたいなとこですかね。(笑)のニュアンス込みでね。
でもホント、僕が今やってる仕事全部に、これは言えると思うから。ストレートに本気の言葉でもありますよ。
それにしてもつねこさん、実質的にまだなにもやってないうちから、ちょっとグラグラしすぎだよね。
こばなみ:
なにか、逃げ場みたいなものを残しておきたいんですかね?
宇多丸:
やっぱ、なんだかんだでメーカー勤務っていう安定した立場にすっかり慣れきっちゃって、無意識的にせよ、どこかのんきな姿勢が抜けきれてない、ってところはあるのかもしれないですね。
別に、のんきであることそれ自体が悪いっていうんじゃなくて……、「二十代後半で会社辞めて再就職して自分の職能を極めたい」という道をチョイスした場合のリスクを、ちゃんと覚悟したうえでの話なんでしょうねホントに?っていう懸念が、今のところ正直拭えないんですけど、っていう話ですよね。
こばなみ:
で、バリバリ働くのに向いてないのでしょうか?ってことですけど……。
宇多丸:
知らんがなー!(笑)
つねこさんの働きぶりとか見てないし、判断できる材料がないですよ。
ただ、ちょっと意地悪なことを言ってしまえば、やる前から「向いてないのでしょうか?」なんて言ってる人には、「その調子じゃあたしかに、向いてないのかもしれませんね」とも言ってやりたくなっちゃいますよね。
そんなの、とにかくやってみなきゃわかんないことなのに。
こばなみ:
このまま今のメーカー勤務のグラフィックデザイナーを続ければいいんじゃないですか。
おそらくですけど、メーカーのが環境はゆるっとしてると思うんです。
私が面接していても、たとえば大きい会社で編集をやっていて、でももっと他のジャンルの編集を本格的にやりたいということで、面接にくる方がいるんですけど、結局条件とかを話していくと辞退とか……。
宇多丸:
音楽の世界でもそういう話、たまに聞きますよ。
堅い仕事に就いてたけど、夢をあきらめられず……って言うんだけど、いざこの超絶不安定かつブラックな業界の実情(笑)に触れてみると、とてもじゃないけどやってられんわ、って。そう感じるのも当然だろうと僕も思うし。
でもホント、どっちが偉いとかではなく、大きな組織に属してるほうが向いてる人、っていうのも確実にいるわけだからさ。
こばなみ:
覚悟が中途半端だったら、「今の環境を捨てるの、もったいないんじゃないですか?」って言っちゃいますね。
そういう人は無理しないで、そのまま続けたほうがいいんですよ。
いまの環境にいたって悪いわけじゃない。
でもそういう人は、面接後、だいたいハッと現実に気づいて、やっぱやめときますーってなりますね。
ただ、何年か働くと、別の世界がみたい時期でもあるのかもしれませんね。
宇多丸:
二十代後半、まさに第二思春期真っ盛りですからね。
こばなみ:
お二人は仕事と生活のバランスについてどうお考えですか?とも聞いていますが、どうです?
宇多丸:
僕はこういう仕事ですから、そのふたつの境界線は完全にないですよ。
一年24時間常に仕事をしているとも言えるし、常に自分の好きなことをやっているとも言える。
当然それゆえの辛さも、歓びもあるわけだけども……、まぁ、僕は結局こういう風にしか生きられなかったというだけなんで、そのなかで少しでもよりベターな人生になるよう努力してくしかないって感じですけど。
こばなみ:
私は20代の頃はとにかく仕事が忙しすぎて、プライベートの時間はほぼほぼなかったですね。でも、仕事仲間と遊んだりとかはあったので、それは楽しかったですけどね。その頃は、とにかく数年は修行だと思っていました。編集を覚えるための修行。ときに辛いな~とかはもちろん思いましたけど、あともうちょっと、あともうちょっと、と続けてきたら、なんとなく気づいたら楽になってきたのが30代半ばですかね。
宇多丸:
要は、人生のなかで、人並みの楽しみをしばらく我慢してでも、とにかく脇目も振らず全力で頑張るべき時期ってあるわけじゃないですか。ある意味、誰しもそういう期間の「貯金」でなんとか暮らしてるようなものなんじゃないか、って気がしてくるくらい。
で、本来つねこさんは、決断しようとしてることの重大さからして、今まさに、そういうタイミングであるべき、はずなんですよ!
なのに……。
たとえて言うなら、受験を目前に控えた学生が、「でも青春も謳歌したいしなぁ」とかたわごと言い出してるようなもんだよ!(笑)
「いいから今は黙って勉強しろーっ! 青春なんかその後にいくらでも謳歌できる!」とか、お説教のひとつもしたくなっちゃうでしょ。
もっと言えば、別に受験勉強と青春謳歌って、両立も全然できるんですけど、って話だし。
前にあった相談で、保育士を辞めて海外留学しますって人がいたけど、あの人なんか完全に退路を断っちゃってたわけだからね。
それでも迷いが出てしまうときはある、だから背中をもう一押ししてほしい、ということだったわけで。
ましてつねこさんみたいな人は、本気で新たな一歩を踏み出そうと思ったら、先に自分の逃げ道をすべて断っちゃう、くらいの荒療治が必要なのかもしれないですけどね……、いやどうかなぁ、この人はそれじゃ危ないかなぁ(笑)。
とにかく!
初心を思い出してくださいよって言いたいです。
そもそも、なにがどうしたくてこういう話になったの? 最初の自分の動機にさかのぼって、それが十分な強さを持っているものなのか、平たく言えば自分には本当に覚悟があるのか、もう一度しっかり自問自答してみてくださいよ。
で、もし仮にそれで、やっぱ引き返そうかなって結論になったとしても、まーったく恥じることじゃないし。むしろそれこそ賢明な判断というものですよ。
逆に、やっぱこのまま突き進みたい!ってことなら、ここは本当に気合の入れどころなんだから、結婚も出産もとりあえず脇に置いて、今はまず、当初の志をしっかり貫くことに集中しましょうよ。当たり前だけど!
だいいち、さしあたって今、結婚したくて仕方ないとか、この人の子どもが産みたくて仕方ない、みたいなお相手が、具体的にいるわけ?
いないんだとしたら……、どう考えてもその問題は、後回しでいいだろがーっ!(笑)
こばなみ:
ががーって20代に仕事をすると、30代以降が楽になってきますよ。ペース配分もわかるし、自分が責任者にもなっていくだろうし。そうするとスケジュールもうまく組めたりしますからね。
宇多丸:
あと、「お二人が自分を人にアピールする際に気をつけてること」っていうのもあった。
僕はホント、就職活動はもちろん、オーディション的なものも受けたことないからよくわかんないんだよな~……、そう考えると恵まれてるかもですね。
こばなみ:
私は自分の就職活動がだいぶ昔で、いまの会社しかほぼ受けてないのでなんともかんともですけど、元気があります、体力があります、みたいな感じは押していたと思います。
私、自分が面接するようになって思ったんですけど、何をやりたいとか、これができると言われても、あまりピンとこないんですよね。
もちろんそれに期待して採用することはあるんですけど、そんなの本当かわからないし、やりたいことだって変わるかもしれないし。
なので、けっこう「体力アリ!」はおすすめかも。
体力がなければ、感じがいいとか。人の顔を見てきちんと応対するとか、当たり前ですけど、そういうところだと思いますけどね。
たとえ言うことがモゴモゴしちゃっても、一生懸命しゃべろうとしてればいいんじゃないかと思いますよ。
プラス、「秋までには転職しているよう、お二人にアドバイスをいただきたいです」ってことですが!
今もグラフィックデザイナーなのであれば、どんどん自分で作ってみて、賞とかに応募するとかも、働きながらできると思いますよ。
おそらくデザインも5年くらいやってるとしたら、基礎はわかってるじゃないですか。
あとは自分の考え方とか、何を作りたいとかだと思うので、誰かに教えてもらう話ではないかもしれないですし……。
宇多丸:
基本中の基本かもだけど、自分のブックをしっかり作るとか。
こばなみ:
うちは編集の場合ですけど、アピールで、仕事の実績だけでなくて、自分でフリーペーパー作ってますとか、LINEスタンプ作ってますとか、そういうのは評価が高いですよね。
宇多丸:
……といったもろもろを、人に言われんでも自分からどんどん考えてやれてっちゃう人、っていうのがいいわけだけどね、結局(笑)。
いずれにしても、健闘をお祈りします!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2017年7月29日に公開したものを再編集し、掲載しています。