【ライムスター宇多丸のお悩み相談室286】元カレが職場でデキ婚。なぜ私じゃダメだったのか……、悲しさと悔やみの気持ちでいっぱいです。
✳️今週のお悩み✳️
宇多丸さん、こばなみさん、こんにちは。 最近、元カレの存在に苦しんでいます。20代後半の頃に約3年半職場恋愛で付き合っていた6歳年上の彼氏がいました。当時、私は彼のことが大好きだったのですが、彼に結婚願望がなく、付き合いもなあなあになってきて彼にフラれました。別れてから4年経ち、職場で彼を見かけるものの辛い気持ちは感じなくなっていました。しかし、その彼が最近40歳で職場恋愛でデキ婚したことを知人から知らされました。感じなくなっていた辛い気持ちが再燃してしまい、彼を見かけると悲しい気持ちが込み上げてきます。付き合ってる当時に私自身もデキ婚でもいいかなと思い、避妊をしなくなった彼を許していたのですが授かることはできませんでした。彼は付き合って半年のバツイチの女性とデキ婚したのですが、自分が今彼氏なしで結婚していない状況もあり、なぜ私じゃダメだったのだろうとか自分が彼とデキ婚できていればなど。意味のない悔やみの気持ちでいっぱいです。彼が別の人と結婚しようと、子どもができようと気にならない生活を送りたいです。現在私自身婚活中なのですが、励ましでも何でも構いませんのでアドバイスお願いします!
(オイスター職人・33歳・長野県)
こばなみ:
こういうのってありますよねぇ~、って思いながら読んでしまいましたが……。
宇多丸:
気持ちは痛いほどわかる話だよねぇ。
さてどうしたもんか……。
自分と別れた後に、あっちは意外と早くゴール的なところにたどり着いちゃったように見える、というのがモヤるわけだよね、要は。 そういう問題じゃないというのは頭ではわかりつつも、どうしても、自分がなにか悪かったのかとか、劣っていたのかとか、考えても仕方ない比較をついしてしまう、みたいな感じだよね、きっと。
こばなみ:
つくづくタイミングってことなのかなと思いました。子どもができる/できないも含めて。
マネージャーおさない:
でもこの元カレは、デキ婚だから、結婚したんですよ。じゃないとしないタイプの人だったんでしょう。
宇多丸:
たしかにね。彼側になにか主体性があってこうなったわけじゃないのかもしれないけども。
ただ、だからこそ余計に、できなかった私が悪いわけ?って感じる余地ができてしまったりもするんでしょう。
こばなみ:
子どももつくろうと思ったからってできることじゃないし、自分を責めることはどうか、しないでほしいですね。
そう思ってしまう気持ちもわかるけど……。
宇多丸:
まぁ、現時点でオイスター職人さんにお相手がまだいないから、余計に前の彼との思い出に引きずられてしまう、自分だけポツンと取り残された気分になってしまう、というのは間違いなくあるだろうけど。
でもまぁ、男だって、30代までは結婚願望がまったくなかった人が、40代に入って老境が見えてきたら気が変わるとか、普通によくあることでしょうからね。 だからやっぱりまぁ、すべてはタイミングなんだけどねぇ。いつも言ってる「ご縁」があるかないかっていう話ですよ。
こばなみ:
私は、「避妊をしなくなった彼を許していたのですが~」ってところで、この彼どうなのよ!?って思っちゃったんですけど。
宇多丸:
そこを考えだすとキツいのはさ、仮にその時点でできちゃってたとしても、「今は結婚する気、ないから」とかあっさり言われてた可能性だって決してゼロじゃない、どころか、そっちの線のが濃厚だったかもしれないわけじゃん?
こばなみ:
それはつらい……。
宇多丸:
もちろんそれは100パー彼側の気持ちの問題で、オイスター職人さんは本来いっさい何かを負うべきではない件なわけだけど。
まぁオイスター職人さんも、そんなこと今さらウジウジ考えても仕方ない、っていうのは重々わかったうえで、それでもやっぱ気になっちゃうじゃん!という話をしてるわけだからね。 さぁ困った。
まずやっぱりさ、そもそもこの彼に対しての未練が、まだまだ相当強い状態らしい、というのはあるよね。
デキ婚がわかる前から、別れて4年経ってようやく「辛い気持ちも感じなくなった」ってくらいなんだから、なんとか感情を抑えていた、忘れようとしていた、って段階だったんでしょう。
そう考えると、オイスター職人さんにいま本当に必要なのは、結婚相手を見つくろうってことよりも、要は「彼より好きな人をつくる」ってことに尽きるんじゃないかという気もしますけども。
こばなみ:
私、たまたま先日、大学生のころに付き合っていた人の住所を知ったんですよ。で、やっぱりどんなところに住んでいるのか気になっちゃって、ググっちゃうじゃないですか。そしたら、いいマンション住んでるじゃん!って。間取りもチェックして、これは子どももいるなぁ、順風満帆か!? とか思っちゃいました。
なんていうか、別れた人で思い入れのある人には、いっそものすごい老けててほしいとか、そういうふうに思っちゃうこともありません?
マネージャーおさない:
私も元ダンナに関しては、自分よりほんの少し不幸であってほしいと思っちゃいますけどね。
宇多丸:
僕、1ミリもそんな風に思ったことないよ!
こばなみ:
いつも宇多丸さん、そのスタンスですけど、素晴らしいと思う。
宇多丸:
別にカッコつけてるわけじゃなくて、これは恋人に限らず人生で関わった人全般、その後不幸になられてたりすると、なんか責任感じちゃうじゃん?
だから、なんであれみんな幸せであってほしいんですよ。
こばなみ:
でもそれは、振られたからという恨みもあるのかもしれない。
なので、前も言いましたが、その人の嫌なところ10個挙げて、気を落ち着かせてるところはありますね。効き目ばっちり!
宇多丸:
出た、必殺技!(笑)
ただなんか、オイスター職人さんに関しては、彼のことをこれ以上考えちゃうこと自体が、あんまりよくないんじゃないかなぁ、って気もするんですよね。 心の中での彼の存在の比重を、なんとか軽くしてゆけないものか、という……、ホント、新たに恋しちまえば一発解決、なんだけどなぁ。
なんにしても、すでに起こってしまったこと、してしまった選択に関しては、なかったことにはもう、絶対にできないわけだからね。 だとしたら、ひょっとすると今すぐできることで意外と一番いいのは、さっき言ったこととは逆に聞こえるかもだけど、いつかそれに飽きるまで、ひたすらそのことばっかり考えて、ウジウジウジウジしまくって、いったん落ち込むとこまで落ち込んでみる、ってことなのかもしれないですよ。 そうこうするうちに、いつしかハッと我に返って、「これって、そこまで悩むことかぁ?」って、すべてがアホらしくなる瞬間があったりもするんじゃないか。
こばなみ:
前にそれで、事後報告では彼氏ができたって人もいましたよね。
宇多丸:
それに、僕はいつも言ってることだけど、「あのときこうしてればああなったかも」的な想像って、言ってみれば「過去に向けて開かれた希望」、絶対に壊れない夢、みたいなもので、実は人生における、ひとつの救いでもあるんじゃないかと思うんですよ。
だって、仮にそっちを選んでいたとしても、そう思い通りに行ったかどうかはわからない、どころか、実はもっと最悪なことになっていた可能性だって全然あるわけだから。
前にこの連載でも話に出した、楳図かずおの短編『夏の終わり』が、まさにその絶望を描いているんですけど。
むしろ、「あのときああしてれば……」と何度も思い返せるような過去というのは、それ自体がその人固有の人生をかたちづくる、要は生の豊かさの一種なんだと、僕は考えてますけどね。 ときどき取り出してはねぶねぶできる記憶の数々。まさに宝物ですよ!
こばなみ:
ねぶねぶできるのは豊かだって、その考え方、いいですよね。
宇多丸:
たとえばタイムマシーンがあったとして、彼となんとかデキ婚に持ち込む方向に、歴史を改変できたとしましょう。
でもさ、それで得る「幸せ」と、オイスター職人さんがそのときそのとき自分なりにしてきた選択の結果としての今のこの苦しみ、どっちが真に大切な、尊いものなんだろう?って僕は考えちゃう。
僕はやっぱり、後悔や痛みも含めて自分だけの人生なのだから、全部込みで抱きしめてあげようよ、と言いたいけども。 悲しみをまったく抱えてないって人がもし仮にいたとしたら、全然魅力的じゃないですよ、その人の人生。そんな人はいないけどね。
少なくとも、近場で無神経にデキ婚して「幸せ」な今の彼より、オイスター職人さんのほうがずっと、素敵な大人の人生を歩んでいるように僕らには見えますよ。 てか、そもそも彼がそれで本当に「幸せ」なのかも、この状態がいつまで続くのかも、実際まったくわかんないことだし。
いつか遠からず、やっぱりこの道で間違ってなかったんだ、ヤツとうっかり子など設けてなくて本当に良かった、と思えるようなタイミングが来るといいですね。 それまでは、味がしなくなるまで好きなだけ思い出と後悔をしゃぶり尽くしつつ、ちゃっかり次の出会いへの準備は怠らない……、そんなくらいの感じでいいんじゃない? こんなんで、ちょっとは気休めになれてればいいんだけど。
こばなみ:
33歳なんて、これからまだまだなにがあるかなんてわからないですしね。今回はとにかく、みんなでおお~っと大興奮でした。事後報告などあれば、またお待ちしております!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2019年7月13日に公開したものを再編集し、掲載しています。