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自身が受けている福祉の制度を「こんな優遇してくれて社会バグってるよね(笑)」という友達。私にはわからない苦労もたくさんあるのだと思うけど、遊び歩くために利用しているように感じてしまいモヤモヤ……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室454】


✳️今週のお悩み✳️
話題として少しデリケートなので、誰にも話すことができず悩んでいることがあります。私には同窓会を機に親しくなり、大人になってからよく遊ぶようになった友人がいます。彼女は結婚していて時間があるので推し活に力を入れており、コラボカフェやライブに足繫く通ったりと、私よりも日々を楽しそうに過ごしているように見えるのですが、彼女は長年うつ病を患っており、障害者手帳を持っています。手帳のおかげで公共交通機関は無料だし、娯楽施設もいわゆる健常者と比べて驚くほど安く利用できるようです。一度「私と一緒なら安く映画が観られるよ」と誘われて行ったのですが、私にとっては健常者と何ら変わりない彼女の付き添いとして割引を受けることに嘘をついているような罪悪感があり、それ以降は断っています。障害者手帳の割引について話を聞いたときは「こんな優遇してくれて社会バグってるよね(笑)」と悪びれているところはありませんでした。また彼女は病気のせいで社会不適応で仕事もできない、という話をよくしてくるのですが、過去ブラック企業に4年勤め、心労で10㎏痩せて退職した自分は、どうしてもそれを聞いても病気を理由に努力していないだけでは?と感じてしまうのです(自分の経験を誇っているわけではまったくありません……)。

彼女は月に何度も心療内科に通っているそうなので経済的な負担もあるでしょうし、私にはわからないような苦労もたくさんあるのだろうとは思うのですが、国民の税金を使って元気に遊び歩いている彼女には、そのような社会保障を受ける資格がないように感じて、彼女が悪に見えてしまうというか、モヤモヤした日々を過ごしています。どんな心の持ちようでいればこの状況を「そういうものだ」と受け入れることができるでしょうか。アドバイスいただけましたら幸いです。
(ふなかわ・33歳・自営業・東京都)


要は社会保障や福祉っていうものに対する、考え方の話ですよね。  


今回の相談のようなモヤモヤ、ふなかわさんだけじゃないと思うんです。こういう考え方をついしてしまうのは、違うなと思いながらも、そう思ってしまう気持ちもわかるというか……。



そうなのかもね。
いまの世の中、みんな自分のことで精一杯だもんね……。

ただ、やっぱりまず、はっきり言っておかなきゃならないのは、憲法が保障している「基本的人権」っていうのは、ただ生きてさえいればいいってことじゃなくて、ひとことで言えば「人間らしく」、つまり時には娯楽や趣味に興じたりすること含めて、「普通に」楽しく暮らす権利のことであって。

だから、生活保護でも障害年金でもなんでもいいけど、とにかくそういう社会保障制度を利用している人はなんか「神妙にしてなきゃいけない」みたいな空気、特に日本は残念ながらいまも根強いと思いますけど、それは本当におかしいし、直してかなきゃいけないところで。

だって、誰でもいつでも、「その立場」になりうるんですよ、ホントに! 
身内まで含めればその確率はさらに何倍にも上がるし……そもそも、誰もが絶対に年寄りにはなっていくんだから(笑)、たとえば高齢者福祉とかは、例外なく利用することになるんですよ、我々全員が。

だからこそ、「それでも大丈夫なように社会の仕組みが作ってあるので、みなさん安心してのびのび人生を歩んでいってくださいね」ということにしてるわけでしょう。
それだって十分達成されているとはまったく言いがたいのが現実なんですけど……。

なんにせよ僕は、税金の使い道の中でも一番理にかなったものが、福祉だと考えていて。
この時期、納税額のことを考えると頭抱えちゃうし、それがさんざんムダだったり不正だったりする使い方されてるのを知るたびいちいち憤死しそうになってますけども、いやこれは福祉に行くんだきっとそうなんだ!と念じれば(笑)、だいぶ心穏やかになれるくらい。
困っている人のために使ってあげてください、僕は「今はそこまで」困ってないんで……ただし、いずれもしこちらが困ったことになったときには、遠慮なーく、バシバシ利用させていただきます!っていうね。

つまりはこれ、結局は自分のためでもあるんですよ。
ああなったらどうしよう、こうなったらどうしよう、っていう心配ばっかりしながらビクビクせこせこ生きたくない、だからやっぱり福祉が充実してないと困ります、ということであって。

ふなかわさん個人の件に話を絞ってゆくと……。
ご友人が抱えているのかもしれない大変さや苦しみや不安、いま現在もしくは将来にわたって被りうる不利益などなど、とはいえ他者である我々には、本当にはわからないことじゃない?
だからまずは、部分的な言動だけ見て、「健常者となんら変わらない」などと決めつけたりしないほうがいいというのは、とりあえず間違いないと思います。
たとえば、ふなかわさんと会ってるときは、つとめて明るく、冗談めかして振舞ってるだけかもしれないじゃん? 物言いがちょっと露悪的すぎるきらいはあるようだけども(笑)。

もし仮に、そういう切羽つまった感じでもべつにホントになくて、うつ病にはなったけど、手当ももらってそれなりに楽しくやれてます、ということだったとしても……だったらなおさら良かったね!というだけのことじゃないかと僕は思うんですけど。
たとえどんな状況、状態になっても、なんとか「普通に」楽しく暮らせるような保障がある、という、さっき言った福祉本来の理念を、体現してるような例なわけだから。

ちょっと想像してみてほしいんだけど、じゃあだったら逆に、そのご友人が「いかにもうつ病らしく」苦しんでいるほうがいいのか?って話ですよ。


そんなことないですよね、絶対。


ねぇ。ふなかわさんも当然、そんなことを望んでるわけじゃないだろうからさ。

言うまでもなく、ふなかわさんが勤め先で酷い目に遭われてきた件も、それはそれで重大な問題だし、場合によっては公に訴えることも考えていいくらいのことだと思います。

ただ、ふなかわさんだってそんなことは重々わかってはいるんだろうけど、そこで怒りをぶつけるべきは悪質な企業やそれを容認している社会であって、そうした世の中において、とはいえやはり明らかに弱い立場にいるご友人に矛先が向かってしまうというのは……。
もちろん筋違いでもあるし、にも関わらずさっきこばなみが指摘したように、少なからぬ人がそれでもついしてしまいがちな思考法でもあって、なんというか、痛ましい不毛な対立がまた延々と再生産されちゃってるだけなように、僕には思えてならないんですよね。

それに「優遇」ったって、言っちゃなんだけどそこまで目くじら立てるような金額じゃなかったりするんじゃないの? おおかた。


ちなみに障害者手帳で、映画は全国ほとんどの映画館で1000円に割引されるみたいです。あと美術館や博物館の入場料が無料になったり、ディズニーリゾートやUSJなどのテーマパークや携帯電話料金、Jリーグ観戦、カラオケ、ボウリングなどが割引になったり。公共交通機関は、東京都在住だと都営地下鉄が無料みたいです。その他の電車とか地下鉄は割引になるものもあるみたいですね。


やっぱそんなもんだよね。
そんなのさ、お偉いさんがワケわかんないことにジャブジャブ公費を使ってるのに比べたら、必要性もはっきりしてる上に、マジでどーってことない額でしょ!

とにかく、順番も矛先も違うだろ!という話になってゆきがちだと思うんです、こと公的な保障制度というものに関しては。
それだけみなさん余裕がないということだろうけど……だったらなおさら「困ったときはお互い様」なシステムが機能してないと、追いつめられるのは結局自分たち、ということになるだけじゃないかなと思うんですけど。


ふなかわさん、ブラック企業でめちゃくちゃ大変だったんでしょうね。


そうだね。
そこに関しては本当にご同情申し上げるし、泣き寝入りじゃないやり方はなにかないのかな、とも思うけれども……。
ひょっとしたら、今はまず、ご自身の心身のケアこそが必要な状態ではあるのかもしれないですよね。

だからあえて言えば、ご友人は何も悪くないのに、ふなかわさんについそう思わせてしまうようなこの社会の風潮こそが、本当によろしくないんだと思います。
よりによって助けを求める人間に対してこそ、より厳しい目線を向けがち、という……そしてそれはおそらく、ふなかわさんご自身を苦しめた何かとも、無縁ではないんじゃないですかね。


その「何か」は、またいくつかの要因が複雑に絡み合っていて、ひとつ改善されたからといって、悪循環から好循環に転換するものでもないのでしょうね。だからこそ、まずは自分自信が悪循環になる考えにならないよう、日々心身健康でいなきゃってことだと思うんですが。

あんまり足しにならないかもですが、悪循環思考に入っちゃいそうになったら、深呼吸とか空を見たりしながら、宇多丸さんの言っていたことを頭にめぐらすとか。私はそんな感じでけっこう乗り切っています!

心穏やかになることを祈っております!!




【今週のお絵描き】

画・宇多丸


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」(毎週月曜日から木曜日22:00-23:30の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。

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こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは「F30プロジェクト」と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。女性活躍推進など、"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。



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