彼はいるけど心から好きなのは芸能人。恋愛ができなくて悩んでいます……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室155】
✳️今週のお悩み✳️
私は恋愛ができないということで悩んでいます。大学時代に、相手から告白されて1人の方とお付き合いしたことがありますが、嫌なところが目について喧嘩が多くなり、2年ほど付き合って別れました。その後も心から好きだと思える人がいません。1年くらい前から、好き!と思える人ができましたが、一般人ではなく芸能人の方(既婚アーティスト)です。こんなに芸能人にハマったのは初めてで、どうしてこういうことになったのかわかりません。毎日その人のことを考えて、毎月ファンレターを書いています。この先こんなに好きと思える人がいるだろうかと思います。いやいや、その方の一端しか知らないんだから、現実を見ろよーという気持ちもあります。今、結婚を前提にお付き合いしている人がいますが、すごい好きかというとそうではありません。ただ、気を遣わなくてよくて楽で居心地がいいことは確かです。心は芸能人の方を追いかけいます。彼も、私が芸能人のことを相当好きなことは知っています。とりとめない内容ですが、恋愛できないことについてアドバイスをお願いいたします。
(ブルースカイ・36歳・埼玉県)
宇多丸:
とりあえずその、いまお付き合いしてるっていう方が、ブルースカイさんのそういうテンションを本当に承知のうえで、それでもいいから結婚しましょ、って言ってくれてるんなら、それはそれでいいんじゃない?って話ではありますよね。
当事者同士が完全に納得したうえでの選択なら、外野がとやかく言うことじゃないですから。
ちなみにブルースカイさんは、もし仮に、パートナー側もブルースカイさんと同じように、たとえばあるアイドルにハマりまくってる人で、日々の情熱のすべてを彼女に注ぎ込んじゃってて、ブルースカイさんにはぶっちゃけ女性としてそんなに惹かれているわけじゃない、みたいな感じだったとしても、それを抵抗なく受け容れる程度のフェアさはお持ちなんですかね?
こばなみ:
そういえば、以前、「アイドル好きの彼に嫉妬してしまう」というお悩みもありましたね。
宇多丸:
事後報告がないからわからないけど、あの回の彼はたぶん、ブルースカイさんほど深みにハマったファンじゃないと思いますけどね。
とにかくさ、もし、両方とも「永久に手が届かない心の恋人」はほかにいて、それを暗黙にせよ双方承知したうえで、人としてウマがなんとなく合うから一緒にいる、みたいなカップルがいたとしたら、それはそれで悪くないバランスというか、むしろ後から冷めるってことがないぶん、初期段階で燃え上がっちゃった恋人たちより、長続きしそうな気すらするんですけど(笑)。いやホント、冗談抜きでね。
もちろん、ブルースカイさんも「その方の一端しか知らないんだから、現実を見ろ」とまで自分で突っ込んでるくらいだから、実際んとこ百も承知なんだろうけど、ブルースカイさんにとってその芸能人は、結局のところやっぱり、決して「リアルな」存在ではないからこそ、そこまで入れ込むことができる相手なわけですよ。 前に、「LINEの返信がスタンプのみ、これって脈ナシ?」 の回のときにも言ったけど、自分にとって都合のいいところだけ見てればいい対象だからこそ完璧に思えるだけであって、現実の、メシ食ってウンコしてイビキかいて、機嫌が悪かったり病気になったり日々刻々と変化してゆく、生身の人間としてその人がそこにいたら、いずれは間違いなく「嫌なところが目について」 くることもあるわけですから。それはやはり絶対に。
こばなみ:
これって「恋愛」なの?
宇多丸:
「恋」の定義にもよるけど、少なくとも恋愛「関係」では絶対にないし、そこにいつか発展していくっていう可能性も、悪いけど、限りなくゼロに近い。
なので、これを「恋愛」と呼ぶのはやはりかなり違和感があるよね、普通の感覚だと。
もちろん、「好き、イコール恋」っていう言葉の使い方もあるけど、だとしたら「映画に恋してる」「サッカーに恋してる」とかもアリになるわけだからさ。
つまり、このスタンスに最もふさわしい表現は…….、「趣味」?(笑)
いやでもこれはホント、別にバカにしてるわけでもなんでもなくて。 心底夢中になれるなにかに出会えるって、我々の人生に起こる出来事のなかでも、とびきり素晴らしいことのひとつだと僕は思ってるんで。 逆にそれがない人生は、いくら表面上「イケてる」ように見えても、ひどく虚しいものなんじゃないか……、というのは、あの大傑作映画『桐島、部活やめるってよ』から最終的に浮かび上がってくるものでもあります。
ブルースカイさんみたいに、言っちゃえば疑似恋愛が「趣味」って人も、世の中にはいっぱいいますから。それこそ、アイドルファンの一定割合はそうなわけだし。 ま、ホストにハマったりするよりはコストもリスクもかなり低めで済むでしょうからね。
こばなみ:
ホストはもっとウン十倍のお金がなくなりますからね……。
宇多丸:
あと、なまじ相手が手の届く距離にいるぶん、これはあくまで疑似的なものなんだ、という一線をつい忘れてしまいがち、という危なっかしさもあるだろうしね。
いずれにしてもね、そういう疑似恋愛と現実の恋愛含む人間関係、あるいはさっきの映画やサッカーのたとえで言うと、純粋な趣味とそれが仕事になっちゃったような場合との決定的な違いって、やっぱり厳然としてあると僕は思ってて。 それはなにかって言うと、要は、後者はそこに「責任」が生じるってことだと思うんですよね。
たとえばブルースカイさんは、その芸能人の方に、現状なんの責任も負ってないでしょう? 仮にもし、いま突然その人ファンであることをやめたとしても、それはどこまでもブルースカイさんの勝手であって、もちろんなんの問題もない。 ま、その芸能人側からすれば熱心なファンがひとり減るという業務上の損失はたしかにあるかもだけど、それもまたあくまであちらの事情であって、ブルースカイさんがそこに責任を感じたりする必要はまったくないわけですよ。
でも、そういうのと対照的に、曲がりなりにもパートナーとして付き合っていたり、まして婚姻関係にまでなってしまったような相手には、当然それなりの責任が生じるわけじゃないですか。 好意の度合いがどれだけだろうと、現状ブルースカイさんが責任を負っているのは、「結婚を前提にお付き合いしている」っていうその人のほうだ、という事実に変わりはないわけでさ。 つまり、どんな事情があれ、彼のことを好き勝手に傷つけていいわきゃないし、もっぱらこっちの都合で不幸な結婚に付き合わせる権利もない、ということですよ。言うまでもないことだけど。
だから、最初に言った通り、向こうももろもろ了承済みで結婚するなら全然いいんじゃない?とは思うけど、こういう「そんなに好きでもない人とホントに結婚していいのかしら……」みたいな悩みは、こっちの問題である以上に、そういう人とこれからの人生を歩んでいかなきゃならないかもしれない、先方にとってこそより深刻な問題なんだ、ということはどうか肝に銘じていただきたいもんですよね。下手すりゃ、相手の一生を台無しにしかねないんだからさ。
で、なんだっけ? 「恋愛できないことについてアドバイス」、か。
つってもさ、いっつも片思いばっかしててなかなか恋が実らないとか、そういうことじゃなくて、そもそも人をあんまり好きになれないっていう話なんだもんね。 これまでも、あくまで受動的に付き合ってみたことはあるけども、やっぱりピンと来ず……ってことだもんなぁ。 要は、ブルースカイさんがそう思える相手さえ現実に現れてくれればその時点でこの件終わり!ってことだけど、そうでない限りはどうにもなんないっていう。
ただ、別に万人が恋しなきゃいけないってことでもないからねぇ。 こばなみの周りにも、こういう、惚れっぽさゼロな人っている?
こばなみ:
いるいる!
でも、さすがにこの歳になるとあんまりそこに悩んではないっていうか。
宇多丸:
別にそれ自体が「悪い」ことってわけじゃないもんね。
色恋沙汰以外にも世のなか楽しいこといっぱいあるし……、むしろ、いっつもしょーもないヤツばっか安易に好きになってドツボにハマってる人とか、いわゆる「恋愛至上主義」ゆえに不幸になってる事例のほうが豊富なくらいじゃない?
こばなみ:
そうですよね。だから、それで自分がいいと思えばいいんじゃないですかね。猫しか愛せない友達もいますよ。
宇多丸:
猫しか愛せない、犬しか愛せないとかも、言っちゃえば芸能人と同じで、自分に都合のいいなにかだけを勝手に投影できる対象だからこそ、こちらも無制限に愛情を注げる、っていう構造だよね。
それはだから全然、一種の生きる知恵ですよ。
ただ、ブルースカイさんがなぜ恋愛できないかということに関して、ひとつ言わせてもらうならば、やっぱり、相手に「理想」を求めちゃうタイプなんだろうなぁ、っていう感じはどうしてもしますよね。
だって、そのいまお付き合いしている彼、ブルースカイさんの度を越した芸能人への熱狂ぶりもとりあえず受け容れてくれるくらいには、優しくて度量があって、しかも「気を遣わなくてよくて楽で居心地がいい」、つまり人としてのウマ的なところも実はばっちりハマってるって言うんだから、もうこの時点で、「えっ、そ の人かなりいいんじゃない? あたしなら喜んで付き合うし結婚する!」ってなる人、たくさんいると思うんですよね。
こばなみ:
私もすごく羨ましい!
宇多丸:
でも、彼はおそらく、ブルースカイさんの「理想」――それを体現している、ように思えるのがその芸能人の方ってことだろうけど――には当てはまらないから、そこまで好きにはやっぱりなれない。好きになれないもんは、そりゃ仕方ないんだけどさ。
でも、僕はこの、「理想」って言葉がクセモノだと前から思ってて。
恋愛って、別にそういう抽象的な「概念」とするわけじゃなくて、目の前にいる人との、あくまで具体的なコミュニケーションからしか生じ得ないもののはずじゃん、ホントは。
なのに、これは間違いなくメディアの悪影響が大だろうけど、恋愛に対して、常に先に「理想」を思い描いてしまっていて、当然そんなのは「現実」と完璧に合致するわけがないんだけど、前者が正しいというところに固執してしまって、結果なかなかリアルなパートナーシップを築いていけない……的な人、ブルースカイさんがまさにその典型だと思うけど、むちゃくちゃ多いんじゃないですかね。
こばなみ:
私も最近とくに思うんですけど、「理想のタイプは?」とかって聞かれるけど、その意味が本当によくわかんない……。
顔の好みは?ならまだしも、たとえば優しい人とかって言う人がいるけど、みんな優しいし、みんな優しくない一面もあるわけだし、本当になにを答えていいかわからないんですよね。
で、そういうこと言うと、「うわっ、めんどくさっ」みたいな感じになるし……。
ちなみに男友達に言われたのは、その質問をされたときは「大泉洋」もしくは「阿部サダヲ」と言うと好感度が増すらしいです。 ってくらい、本当にどうでもいい質問ですよね、アレ。
宇多丸:
いやいやいや、大泉洋や阿部サダヲが「安パイ回答」だと思ってるその男友達のレベルもどうかと思うけど。
面食いじゃないってとこに安心してるのかもしれないけど……、その二人、あふれる才能で大成功してるって時点でフツーに性的魅力ビンビンだろうし、それ以前に、間違いなくお前よりはストレートにイケメンだよ!(笑)
とにかく「理想」って、これまでさんざん濫用されてきましたけども、こと恋愛においては、タバコばりに「あなたの人生に害を及ぼす危険性があります」って警告文添えたほうがいいんじゃないかっていうくらい、劇薬ワードなんじゃないかと思う次第でございます。
こばなみ:
「ママ友」に続き、「理想のタイプ」も禁止用語にしましょう!
宇多丸:
対して、前に「人のいいところに気づけるのは才能だ」って言ったけど、ブルースカイさんが今後誰かを好きになるために必要なのも、たぶんそういう感受性なんじゃないかと思いますね。
現実にはどこにも存在しない抽象概念ではなく、目の前にいる誰かにこそ、美しいところを見出せるかどうか……、「美しい」っていうのはもちろん見た目だけじゃなく、言動がちゃんと優しいとか賢いとか、そういうの含めね。
こばなみ:
彼を大切にしてほしいですね。
宇多丸:
そこまで行かないまでも、最低限、必要以上に傷つけないよう気をつけて、敬意を払ってほしいです。
まぁ、とは言え前述した通り、誰もが恋愛しなきゃいけないなんて強迫観念にとらわれる必要もまったくないし。 この世には、ほかの歓びも星の数ほどありますから!
たとえばそのひとつが、ブルースカイさんのように、特定の芸能人に夢中になる、ということかもしれないし。それ自体は素晴らしいことなんだから、いまはその情熱を思う存分燃焼しきるのもいいんじゃないかな。 それより一番かわいそうなのは、前も言ったように、「なにも好きじゃない人」だよ!
ブルースカイさんの場合、すでに死ぬほど好きなものはひとつしっかりあるわけだから。この時点でもう、勝ち組ですよ、勝ち組! そのうえで、いまお付き合いしている彼や、いずれ出会う誰かの素敵さにも気づけるようになれば、好きなものが増えるわけだから、人生がさらに豊かになっていいのかもね……くらいの気持ちで、別に焦んなくていいから、とりあえずできるだけ常に心をオープンにしておくよう心がけてれば、十分じゃないですかね。
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2016年7月23日に公開したものを再編集し、掲載しています。