【経営者に学ぶ! 女性活躍とリーダーシップvol.1】 ジェンダー平等実現のため、アファーマティブ・アクションをどしどし進める。(株式会社土屋 代表取締役・高浜敏之)
ジェンダーギャップやアンコンシャスバイアスを改善するカギはトップの決断とはよく聞くけれど、じゃあいったいどんな考えをもって、どんな行動をしているの? その決断の背景にあるリーダー論とはいったい……?
事業を継承して3年、新米経営者でもあるF30プロジェクト代表・小林奈巳(こばなみ)が、大先輩社長の生き様から経営視点をキャッチしていきます。
★中編はこちら → 【経営者に学ぶ! 女性活躍とリーダーシップvol.2】 管理職を打診したときの女性の「無理」は「無理じゃない」。私はあきらめない。(株式会社土屋 代表取締役・高浜敏之)
★後編はこちら → 【経営者に学ぶ! 女性活躍とリーダーシップvol.3】 サバイバーズミッションで己と組織を奮い立たせる。そうして経営者は組織文化を守り抜く。(株式会社土屋 代表取締役・高浜敏之)
■株式会社土屋 代表取締役 高浜 敏之 プロフィール
家父長的な家で生まれボクサー目指す。その挫折が心の解放に
こばなみ:高浜さんは、これまでにさまざまな経験をされてきているんですよね。
高浜:私自身、家父長的な家で生まれて、”男は喧嘩だ!”っていう世界観で育って、そういう自分が嫌で、変わろうと努力している過程のなかに今もあるみたいな感じです。
こばなみ:高浜さんから家父長的な雰囲気がしないのでびっくりですが、そうなんですね。
高浜:大学で文学とか哲学を勉強する前はボクサーになろうと思っていましたが、プロになる手前で挫折しました。男として生きていくことの挫折の結果ですね。でも、そこをあきらめたと同時に、求めていた生き方から解放されたみたいな感覚があったんです。
強迫観念に囚われた理由を考えるうちに、答えをくれるのはリベラルアーツなんじゃないかと思って、いろんな思想や学問を勉強して、なかでもフェミニズムはすごく自分を解放してくれた思想でした。大学を出た後は、意識的に自分のジェンダーバランスを崩したい思いもあって、ケアワーカーになりました。通常女性がやるであろう仕事を男性として選んだ面があります。
男性中心社会の象徴ともいえる集団が、“変えなきゃいけない”空気に
こばなみ:高浜さんのバックボーンが分かったところで、まずお聞きしたかったのですが。
ホームページに書いてあった「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」とは、具体的にどんな活動をしているんですか?
高浜:大企業の経営者や大学の学長、都道府県知事など、社会全体でリーダーシップを執っている経営者のおじさんというか、おじいさんの集まりですね。私は3年前から参加しています。
こばなみ :年齢層が高いんですね。
高浜:それが男性中心社会を象徴していると思うんですよ。でも、以前は男女平等を進めるうえで最大の阻害要因になっていた人たちが、こういうテーマを本気で語らざるを得ない時代になったんだなと、すごく感銘を受けました。
例えば、アファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置)の話をすると、「そんな逆差別を課すのはおかしいぞ」と言い出したり、本人たちのなかでギャップがあるんでしょうね。自分のなかの古い考え方と、新しくなっていかなければという葛藤が会話のなかに見えたりして、毎回楽しみに参加しています。
こばなみ:時間が経つにつれて、会の雰囲気は変わってきていますか?
高浜:最初に出席したときから“変わらなきゃいけない!”という空気は強くありましたよ。旧弊な人は圧倒的少数派で、9割方が“変えなきゃいけない”と思っている方々ですね。
こばなみ:その会の目的は、知識注入やディスカッションを通して、大企業や自治体が女性活躍の理解を深めていく、ということですか?
高浜:そうですね。政治経済文化の世界でリーダーシップを執っている人が、一丸となって日本のジェンダー平等指数の改善に当たっているんだと思います。経済成長の観点からも女性の社会進出を進めないと先が見込めないことも分かっているので、それを実現して日本のプレゼンスを高め、威信を回復することが目的だと思いますね。
こばなみ:この会のメンバーは男性だけですよね。
それには何か理由があるんですか?
高浜:男性をエンパワーメントしないと社会は変わらないと、会社経営をしていてよく思います。人が変わるときって、ピア・カウンセリングじゃないですけど、同一属性の人たちだけ集めて変化を生み出していったほうが効果的だっていうのは一般的にあると思うので。あえてそこはクローズドにしているんじゃないかな。これは私の推測ですけどね。
女性に下駄を履かせる=アファーマティブ・アクションとして説得中!
こばなみ:なるほど、それは納得しました。
そんななかで、御社は上位レイヤーの男性比率が高いことが課題ということですが、改善するためにどのような取り組みをされているんですか?
高浜:うちの実態としては従業員2,600名超で、従業員の割合としては女性7割、男性3割くらい。レイヤーが上がっていくにつれて、男性比が多くなっていきます。そのなかで管理職以上の男女比自体は、女性41%男性59%。創業時は女性が30%超ぐらいだったので、創業から4年で10%は改善した感じです。
部長クラス、執行役員以上になってくると男性比が上がって、取締役のところでまた女性比が30%くらいになるというデザインですね。取締役だけ比率が戻るのは、私が意識して女性を押しているからです。
ただ、これに対しては「女性に下駄を履かせている」と、かなり社内から批判があります。「下駄を履かせることを“アファーマティブ・アクション”っていうんだよ」と言って、納得はしていないだろうけど、説得している感じですかね。
こばなみ:管理職クラスで女性が少ない要因は、出産や育児などのライフステージの変化ですか?
高浜:複合要因があると思います。まず一つ目は、上にいる男性が女性よりも男性の部下との方が一緒に働きやすいから男性を上げたがる。二つ目は、女性が「自分なんか管理職なんて無理だ」と言って上がりたがらない。
あとは、うちの場合はすごく薄い理由ですけれども、やっぱりライフステージですね。とはいえ土屋では、女性が産休に入ってキャリアが寸断されることは、ほぼ皆無に等しいです。
こばなみ:産休や育休でのキャリアの寸断がほぼ皆無って、何かされてるんですか?
高浜:男性の育休取得が進まないことが大きな課題だったんです。何で進まないのかといったら、育休期間はお給料が70%くらいになって収入が減っちゃうことに対して、奥さんの合意が取れない。だから「育休はイヤだ」となる話が多かったんですよね。
そこで「お給料が100%になったら育休を取るんですか?」と聞いたら、正直乗り気ではなさそうでしたけど「取らざるを得ないですね」となったんです。じゃあ、70%を国の手当、30%を会社の補償にできるのかを調べたら、できなかったんですよ。残りの30%を会社が補償したら、国からの手当が出なくなる制度になっているんですよね。ここが最大のボトルネックだと議論した結果、それぞれのワーカーに1カ月の育休を会社が全額補償したらどれくらいのコストになるかを試算したら、十分受容に耐えうるレベルのコストだったんです。
それで、「子どもが生まれたら、全額給与保障するから1カ月間の育休を取らなければならない。ただし、仕事だから育児体験記録を報告しなさい」という制度にしました。これはかなり独自の取り組みだと思います。
こばなみ:やはり仕組みづくりが連動しているんですね。メモメモ。
あと、先ほどの一つ目の「男性は男性の部下との方が働きやすい」というのはなぜでしょう?
高浜:やっぱり思考回路が似ている人との方がやりやすいっていうのはあると思います。同一属性を求めることはダイバーシティに反しますが、反復しているうちにいつの間にか「そうじゃないとダメだ」「男性じゃないと無理だ」と転嫁されることがあると思うんですよ。
こばなみ:そういう考えを持つ方たちに、「違うよ」って伝えても変わらない?
高浜:変わらないです。
こばなみ:その場合、どのような対応をされているんですか?
高浜:啓発エンパワーメントといったところで、組織のなかにジェンダー平等を推進するための委員会を設けて、活動してもらうことで、会社全体を変える。また、その委員会を通じてKPI管理と定点観測ですね。管理職の男女比率を見て、進んでいなければ進めます。
あとは極端にジェンダーバイアスが強い人は個人的に呼び出して「どういう面でそういうことを思っているんだ?」と聞き、語るという、男性ならではの方法ですね(笑)。あと、取締役の選任権は株主にありますし、自分は土屋の株式を100%所有しているので、女性をどしどし入れています。
<こばなみ学習メモ>
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■F30プロジェクト 代表 小林 奈巳 プロフィール
文(対話部分):依知川亜希子
絵:酒井絢子