会社を辞めて実家暮らし。いい歳して親に甘やかされるのが精神的に辛い……。【ライムスター宇多丸のお悩み相談室154】
✳️今週のお悩み✳️
大学を卒業して1年勤めた会社を5月に辞め、実家に帰ってきました。実家は両親も健在で、共働きなので金銭的にもまだ余裕があるほうだと思います。両親は、私が前職ですごく辛い思いをしたと思っていて、学校に通いなおしてはどうか、しばらく仕事は休んでは、など提案してくれます。でもいい歳して実家にい て親に甘やかされるのが精神的に辛いです。中高時代も不登校気味で、親に守られながら甘えて生きていました。そのせいでせっかく入った会社もすぐに辞め、今も不採用通知が来るたびに大泣きして寝込んでしまうような甘えた人間になってしまったのだと思います。自分のために一刻も早く実家を出たいのですが、仕事が決まらない限り金銭的にも両親の心情的にも叶いません。甘やかさないでほしい、構わないでほしいと言っても、心配だからの一点張りで埒があきません。彼らの優しさを思うと、それに反抗すること自体が、私が甘えたガキである証拠のような気もしてきます。どうしたら心穏やかに実家暮らしができるようになるでしょうか。
(ピシモー・23歳・千葉県)
宇多丸:
まずこれ、相談する相手間違ってんじゃないの?ってのはあるよな。
僕なんか、前も言ったけど、30歳まで実家住まいで親のスネかじって平気なツラしてたよ!(笑)
その点ピシモーさんは、「いい歳して実家にいて」って、まだ23歳でしょ? 少なくとも日本の常識的には、ぜーんぜん問題ない範囲なんじゃないかなぁ。 もちろん、いずれ自立するに越したことはないだろうけど、つっても、実家暮らしであること自体にそこまで悩まなきゃいけないような年齢とは思えないですけどね。普通にいっぱいいると思いますよ、20代前半なら。
ただ、ピシモーさんの相談文を読んでいると、実家がどうこうよりも、「不登校気味で」とか「不採用通知が来るたびに大泣きして寝込んでしまう」とか、そういうメンタルの弱さのほうが気になりますね。
それが親御さんの甘やかしのせいなのかわからないですけど………。
ちなみに僕もひとりっ子で思いっきり甘やかされて育ったけど、メンタルは強いですよ! 仮に不採用通知が来ても、「んな目のない会社、こっちから願い下げだバカヤロー!」って考え方すると思います(笑)。
こばなみ:
たしかに強いっすね(笑)。
宇多丸:
とりあえずピシモーさんが、なんで会社を辞めるにいたったかが知りたいですけどね。
あと、かつて不登校気味だったっていう理由も。
僕は、不登校とかって、さっさと学校というか、教育受ける場を変えてあげりゃいいのにって思うんですけどね。 たとえばイジメが理由だったりしたら、同じとこに「頑張って」行かせようとすること自体、間違ってるじゃん。 今だったら、フリースクールとかなんとか、選択肢も昔よりはいろいろあるはずでしょ? そうやってなんらかの手を打つこともせずに、不登校を「本人の頑張り」の問題にするばかりでその状態をズルズル続かせたりっていうのは、周りの大人たちの責任が大きいと思いますよ。
仕事だって同じで……、そりゃ楽な職場なんてないし、一定期間下積みを経ないと身につかないスキル的なものもたしかにあるから、ある程度長続きはしたほうがい いのは間違いないんだけどさ。でも、そういう一般論とは別に、人間関係とか労働条件とかで、どうにもならないほど「合わない」環境っていうのも、やっぱあり得るわけで。それこそ、超ブラック企業とかさ。 だとしたら、そこに我慢して居続けることが決していい結果を招くとは限らないから。場合によっては、自衛のために「逃げる」のは全然悪いことじゃないよ。 事情も知らずに根性なし呼ばわりしてくるような心ない連中もいるかもしれないけど、仮に無理がたたってこっちが心や身体を壊してしまったとしても、そいつらがなんか責任取ってくれるわけじゃないからね!
なので、普通に考えればやっぱり、今はしばらく実家に身を寄せながらあせらず仕事を探して、いいのが見つかって軌道に乗ってきたあたりで改めて、家を出ることは考えればいいんじゃないの?ってことになると思うけど……。
ただ、どうやらピシモーさん自身が、親の庇護から脱さないと自分はどうしても前に進めない、という意識を強く持っているようだからね。
こばなみ:
そんなにご両親は過保護なんですかね?
だったら、お金も貸してくれると思うので、働く場所が決まる前に、お金借りて実家を出ちゃうとかダメ?
宇多丸:
それも全然アリでしょ。
環境から変えてくのもひとつの手だもんね。
こばなみ:
家を出てみると、別にご両親の甘かやしが原因ではないことがわかるかもしれないなって。
宇多丸:
一人暮らししても、やっぱり不採用通知が来て寝込んでいた……ということになるかもしれない(笑)。
僕だったら、自分が親に頼る必要があって、親側もそうしたいって言ってるなら、別に問題なくねぇ? WIN-WINの関係ですよ!って開き直るけどなぁ(笑)。
実際さ、これは子どもを手元に置いておきたいタイプのあるお母様がホントにおっしゃってたことなんだけど、僕が三十路になるまで実家にいた件、「いや~、ずっと親御さんのところにいるなんて、士郎さんは本当に親孝行だねぇ」って(笑)。そういう見方もあるのか!と思いましたよ。
こばなみ:
ちなみに宇多丸さんが実家を出たきっかけってなんでしたっけ?
宇多丸:
同棲~。
そのとき付き合ってた子が実家出ようかなって言うから、ひとりじゃ大変じゃない?ってことで、じゃあ僕もこのタイミングで出よっかな~、と。ちょうど収入も安定してきた頃だったし。
で、数年後出てかれて結果的にひとり暮らしになった(笑)。
これがたとえばアメリカとかだと、高校出た時点で家を出るのが基本で、成人しても親と暮らしてたりすると若干ルーザー的に見られちゃったりするんだろうけど。 そこ行くと日本はやっぱり、そこまで自立イズムがデフォルトってわけじゃないよね、やっぱり。まだまだ「イエ」が基本単位の国だから、ってことなのかな……。
こばなみはいつまで実家にいたの?
こばなみ:
26歳ですかね。働いて1年半くらいお金を貯めて、それで出ました。不規則な仕事だから遅いし、帰れないこともあったし。で、親にはいいよって 言ってたんだけど、雨とか降ると駅まで迎えにきてくれたりとか、ご飯つくって待ってたりとかで、だんだん申し訳なさと息苦しさが積もってしまって……。
宇多丸:
うわっ! それこそホントに過保護じゃん!
まぁ、そうでなくとも、こっちもいい歳になってくると、親と一緒にいると疲れてくるっていうのは普通にありますよ。向こうにとっては、いつまでたっても子どもは子ども、なんだろうというのはわかっていても……、俺いくつだと思ってるんだよ!?っていうようなコミュニケーションの齟齬が積み重なっていくと、そりゃグッタリもしてきますよね。
あと、一緒に暮らすとなると、単純に物理的な問題として、こっちの体積が、子どもの頃とくらべるとものすごく増えてるわけじゃん。 兄弟とかまでいるとなおさらだろうけど、住環境内での圧迫感は当然増しますからね。前ほど家が快適に感じられなくなってくるのも当たり前なんですよ。
まぁとにかく、自分でこのぬるま湯環境こそ元凶だと思うなら、とりあえず強引にでもそこを断ちきってみるというのも、たしかにひとつの手かもしれないですね。
それこそ、甘やかさないでほしいって言うんなら、先回りされる前に、自分でガンガン段取っていっちゃえばいいじゃん。 部屋もさっさと決めちゃってさ、さしあたってお金これくらいかかるから出世払いということで貸してください、はい借用書!くらいの勢いで。
そういうときに親の力を借りるのは、全然恥ずかしいことじゃないよ。一応、いずれは返すっていう話なんだしさぁ。
こばなみ:
私、借りて踏み倒したことがある。
宇多丸:
そこは踏み倒すなよ!(笑)
まぁでも、僕なんか借りるって体さえハナから取る気なかったですからね。もっとどうしようもない。お金要るからちょーだい!ってストレートにタカってただけですから(笑)。 やっぱひとりっ子サイコー!……なのかそれは?
あ、 一応少しだけ自分フォローしとくと、今は逆に親にちょっとした資金を貸したりできる程度には稼げるようになりました……って、そんくらいポンと出せよ!っ て言われるかもだけど(笑)。そこまでリッチではないのです残念ながら……、それにたぶん、それは親のほうが断ってくると思う。
ただ、僕に関して言えば、甘やかされてというか、親からの愛情をいっさい疑うことなく育ったということは、性格的には確実にポジティブな方向に働いてる気がするんですよね。
ライムスターの『サイレント・ナイト』っていう曲で僕が歌ってる「ひとりがさびしくないのはひとりじゃないからさ/いつだってまた会えると疑っちゃいないからさ」っていうラインとも通じるんだけど、なにがあろうと絶対に揺るがない愛情というのを確信しながら成長できたおかげで、性格のベースが楽観的になったというか、どんな風に生きようが、どうなろうが、まぁ大丈夫だろ、なんとかなるだろ、と心のどこかでは常に思ってるようなところが自分にはあって。
それがあるからこそ、僕みたいな本来はなにごとにも超慎重で臆病な人間でも、日本語ラップなんていう無茶もいいとこな賭けに出れた部分は絶対あると思うんだよな。「まぁ、最悪実家でおとなしく生きてりゃいいんだし、なんとかなんべ」って。
こばなみ:
ベースが楽観的! その感じ、なんとなくわかります。
宇多丸:
でも、ピシモーさんは逆に、守られて育ちすぎたせいで人間的にひ弱になっちゃったと、少なくとも自分では間違いなく感じてるんだもんな……。
だから、いずれはやっぱり、その、メンタルの異常な弱さという根本的問題に、勇気をふりしぼってしっかり立ち向かわないといけないのかもしれない。
だいたい、一発不採用通知が来たくらいで大泣きして寝込んでしまうって、どういうことなんだろう……、これまで、試験とかに落ちた経験ないのかな?
要はさ、「ま、(自分も世の中も)とは言えこんなもんだよな」っていう、誰もがどこかのポイントではするしかない「割りきり」が、サラッとできないってことでしょ。 実はプライドがむちゃくちゃ高いのかもしれないですね。
こばなみ:
宇多丸さんは、落ち込んだときなど、どう対処してます?
宇多丸:
何に落ち込んでいるかにもよるけど、まずはさっき言ったような「オレは悪くない」方向の逆ギレで精神の安定を図りつつ(笑)、そればっかりだとさす がに本気のダメ人間になってしまうので、あとから一応ちょっとは頑張ってそこそこ客観的な分析や反省もしようとはしてみる、くらいの感じじゃないですかね、たいていは。
あとは、失恋みたいに、とは言え今さら後悔したってどうにもならないような話のときは、わざわざ傷口に塩塗るような映画観たりして、いったん落ち込むとこまで落ち込んでみる、とか。 で、「落ち込むのにも飽きる」のを待つ(笑)。
要は、つまんない話になっちゃいますけど、なにごともバランスですよね。 自分を甘やかしてばっかり、もしくは周囲から甘やかされてばっかりで、失敗からなにも学ばないような人はそりゃ間違いなくダメになっていくだろうけど、かと言って、自信を完全に失って立ち直れないとこまで打ちのめされる必要はないでしょっていう。
たとえば同じ「できない」でも、「今はここまでしかできていない」と「とは言えここまではできてる」、ふたつの見方ができるわけでさ。どっちも間違ってはいないわけじゃん。
ピシモーさんだって、「中高では不登校気味だった私が、今や、キツい職場を1年も勤めあげられるようになった! 大進歩!」って考え方もできるんじゃないかな。 なにかを「やれる気がする」っていう感覚、つまり「自信」って、なにはともあれそういうささやかな「成功体験」の積み重ねで得ていくしかないものだからさ。
僕らみたいな凡人は、そういう甘やかしと反省だったら、8:2の比率でいいくらいだと思いますよ。 いや、9:1でもいいか。1でも反省できりゃ上等!
こばなみ:
反省しない人も本当にいますもんね。
宇多丸:
そっちのが世の中多いでしょ。
学習能力ゼロのくせにというか、だからこそイケイケではあるっていう。
でも、それより良くないのは、一見ちゃんと反省しているように見えて、実はただ「ウジウジしてるだけ」って人ですよ! 前の恋愛トラウマ男じゃないけど、鏡の前で己の不運を嘆いて、それに酔ってるだけっていうかさ。
とにかく、不登校にしろ、退職して実家出戻りにしろ、もちろんいずれは脱したほうがいいのはたしかだろうけど、とは言え別にこの世の終わりじゃあるまいしっ ていうか、まぁ世間じゃよくある話でもあるんだから、あんまりその状態を「ダメだダメだダメだ~!」って、思いつめすぎないほうがいいのは間違いないと思 います。 「いまは自分の人生に必要な休暇期間! リアル・ロングバケーション!」って、ちょっとばかり図々しくなってちょうどいいくらいだと思いますよ、ピシモーさんくらい繊細な人は。
前も紹介したけど、映画『モラトリアムたま子』でも観てさぁ。 「こういう時期って誰の人生にもあり得るし、実はそんなに悪くない時間なのかも」って、ちょっとは心安らかになれればいいんですけどね。
まぁ、 なかなかそううまく切り替えができないというのもあるだろうけど……、少なくとも、親御さんが、そこに無神経なプレッシャーをかけて追いつめてくるような人 たちじゃない、というのは、そこに一生甘えきってしまうというのでなければ――いや、当人たちがよけりゃ別にそれだってなんの問題もないはずだけど――、 タイミング的にはむしろプラス要素と考えていいこと、でもあるんじゃないですかね。
その上で、ピシモーさん自身の「“成人しても親の庇護下にいること”自体に強い引け目を感じる」という精神状態を脱するためには、やはり、さっきのこばなみの提案通り、とりあえず家を出てひとり暮らしする算段を自発的にどんどん立てていってしまう! そのためにこそ「親の甘やかし」を有効に利用する!というのでよろしいんじゃないでしょうか。
こばなみ:
とかなんとかいったって、23歳まだまだ若いし、フツーに考えて、焦る必要ないですよ! 一歩一歩、進んでいこう~!!
【今週のお絵描き】
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この記事は、女子部JAPAN公式WEBで2016年7月16日に公開したものを再編集し、掲載しています。