「推し」がいない、広く浅くしか好きになれない私は愛情が少ないの? コンプレックスも感じています 【ライムスター宇多丸のお悩み相談室448】
✳️今週のお悩み✳️
私の悩みは「推し」がいないことです。音楽や映画、マンガも人並みに楽しんできたと思うのですが、いわゆる「推し」がいたことがありません。
俳優、アイドル、アニメのキャラクターなど、のめり込むほど大好きな対象を持っている人がとてもうらやましいです。
私もそんな人(コトやモノでもいいのですが)と出会いたいし、広く浅くしか好きになれない自分は愛情が少ないのかな?とコンプレックスも感じています。
どうやったら「推し」と出会えるでしょうか? 日々の行動や心構えなど、ぜひアドバイスをお願いします!
(ちゃーこ・40代・会社員・東京都)
推しがいない、これ私もわかります。好きなカルチャーはあるけれども、推しっていうほどなのかなとか思ってしまって。あと、推し推しってみんな言うけど、ファンとは違うの?
概念があんまりわからず……。
「推し」ってワード自体、ここ数年で急速に一般化したものではありますよね。
なんなら今はすでにもう、安易に使われすぎて消費されつつあるような感じさえするくらいで。
端的に言えば、ものすごく軽い言葉になった。
昔ながらの「ファン」と変わんない、ってことでべつにいい気がしますけどね、もはや。
それでも誰もがこぞって推し推し言っているように感じるのだとしたら、それはやっぱ、明らかにSNSの影響なんでしょうけども。
要は「私は◯◯推しです!」ってアピールを、自分のアイデンティティの表明として使うようになってる部分が、とくに近年は大きくなっているんじゃないかと。
「◯◯が好きな私」というのを改めて前面に打ち出すことで、その共通項から人とのつながりがどんどん広がったり深まったりもして、その自己定義がさらに強化され、高揚してゆく……みたいなサイクルが、たぶんそこにはあって。
だから、いわゆるファンダムが以前よりできやすいし、目につきやすくなっているのは間違いない。
たとえば映画も、ある一本の作品「だけ」に熱狂的な支持を表明して、リピートしまくったり評判を草の根で拡散したり……というような、かつてであれば「カルト映画」と呼ばれたような動きが出てくる頻度が、近年どんどん高くなってるな、とは僕自身如実に感じていて。
いい悪いではなく、そういう時代なんだなと、つくづく思ったりはします。
なのでとにかく、ちゃーこさんが思ってるほど、みんながみんな自然に推しと「出会っている」のかというと……。
むしろ、自分の推しを意識的に「選択して、決めている」というほうがふさわしいような人も少なくないんじゃないか、という気がしますけどね。
対してちゃーこさん、「広く浅くしか好きになれない」っておっしゃるけど、それでなんの問題が?とも僕は思いますが。
逆に、特定の推しに対する意識が強すぎるあまり、他のいいものを味わい損ねてたり、ってことも普通に考えられるわけだし……無論それだって、本人が良きゃそれでいい、ってだけのことだからさ。
まぁぶっちゃけ、そこまで全身全霊で打ち込めるような対象に出会えるかどうかは、それこそ恋愛と同じで、ただただご縁次第、って話でもあるでしょうからねぇ。
頑張って見つけたりするもんじゃないってこと?
いやもちろん、その確率を上げる努力をするかしないかの差は、たしかにある程度あるだろうとは思いますけど。
間違いなく、常にオープンマインドでフットワーク軽いほど、推しにしろ恋にしろ、ご縁ができる可能性は高まりますよね、そりゃ当然。
ただその、前に恋愛に関して言ったのと同じで、本気で推しにハマっちゃったらハマっちゃったで、デメリットもしっかりあるというか……なんならそんな極端な起伏は、ふだんはできるだけ避けて平穏に生きるほうが賢明だしラク、みたいな面も、実際にははっきりあったりするわけじゃないですか(笑)。
ソイツと出会ってしまったがために、有り金と時間と労力全部つぎ込んじゃって、人生狂っちゃいました!みたいなこと、ザラにありますからね。
僕自身も、たとえば2000年代初頭にはハロプロに狂いまくってて、たしかにめちゃくちゃ楽しかったし有意義な経験だったと思うけど、あんな正気を失った状態がその後もずっと続いてたら、と考えると……(笑)。
正直、なかなか怖いものがありますよ。
だから、当たり前だけど、どんな状態にもいい面悪い面があるもんで。
ちゃーこさんは目下、単に「隣の芝生が青く見えている」だけってとこ、あると思うけどなー。
あとさ、多くの人がものすごく夢中になってることで、みなさん楽しそうで結構ですねとは思うけど、自分的にはどうしても興味が持てなくて、当然まったくうらやましくもない、みたいな領域って、世の中いくらでもある……というより、そっちが大半でしょ、どう考えても!
僕だったら、たとえば休日に朝早くから出かけてゴルフして、みたいなの、やったらやったで楽しいんでしょうね、とは思うけど、悪いがマジで、今んとこまったく食指が動かない!
あと、ギャンブルなんかまさにそうだよね。好きな人はすごい好きで、賭け事やらないなんて人生損してる!とか言われることもあるんだけども、それにドハマりしてる人がうらやましいとは、正直まるっきり思わない、みたいな。
なんでもいいですよ、自分が共感できない系の……たとえば風俗巡りしてるおじさんが、まさしく推し嬢とかいてめちゃめちゃ生き生きしてたとして、楽しそうなのは何よりだけど、じゃあ自分もそうなりたいかっていうと、それはまたまったくべつの話なわけじゃないですか。
そんな感じで、ちゃーこさんも、世に無数にある「推し」的なるものの大部分を、今までもとくにうらやましがりもせずスルーして生きてきてるんですよ、事実上!
そう考えると、それがない自分は何かが欠けてるのかな、という懸念自体が、実はやっぱりあんまり意味ないのかも、って気がしてきません?
それと、「自分は愛情が少ないのかな?」と不安になられていますが、私見では、推し感情の本質とは、厳密には愛ではなく、「欲望」だと思います!
欲望、ですねぇ。とはいえその欲を増幅させるというか、推しと出会える可能性を高める手とかはありますか?
それはだから、繰り返しになりますが常にできるだけオープンマインドでフットワーク軽く、ってことに尽きますよね。
推し云々とは関係なく、そのほうが経験として豊かなものが蓄積されやすい、というのは間違いないかと。
たとえば、「自分が好きそうな方向」にアンテナを働かせて、ちょっとでもピンと来るものがあったら、そっちをさらに「掘る」クセをつける、とかね。
音楽だったら、これいいなと少しでも感じる曲があったら、そのアーティストやプロデューサー、あるいはそのジャンル全体の、ほかの作品もどんどん聴いてみる。今ならそれがむちゃくちゃ手軽にできるわけだから。
そうこうするうちに、自分の好みみたいのもより精度高くわかってくるし、そうなると「これだー!」というドンピシャな誰かとか一作に出会う確率も、さらにグンと上がってくる。
そして、そこまで行けばもう、明らかにいっぱしの「音楽ファン」なわけですから。
そんな心がけをするとかは、まぁできるっちゃできる。
ただまぁ、ねぇ……。
恋も推しも、あったらあったでいいけど、なかったからって死ぬわけじゃなし、っていうか。
逆に迷惑なこともあるし!(笑)
そういうふうに思ったら気がラクになりました。べつに無理して推したり、推しを見つけにいかなくていいや~。
だいたい今回に限らず、いつも言ってることですけど、そもそもその、「◯◯がないと不幸になる」式の思考法自体、マジでやめませんか、って思いますよ。
なんでわざわざそんな、絶対に気持ちが落ちるような考え方をするのか。
むしろ、そう考えること自体で不幸になってるじゃないか!って。
「◯◯がないと不幸」?
◯◯があっても不幸にはなり得るよ!っていうね。
だからあえて言えば、「『◯◯がないと不幸になる』思考をすると不幸になる」、間違いなく!
たしかに~。
そんなことよりも、今この瞬間、自分を心地よくさせることに集中すればいいのに!
もしうっかり、今んとこ存在もしないパートナーや推し対象の不在を嘆いてしまったりして、「◯◯がないと不幸」思考に陥りそうになったときも……手っ取り早くあなたを幸せにしてくれる、あなたなりの数々の魔法があるだろう!と。
風呂とか飯とか酒とかネイルとか! 犬とか! 猫とか! 犬動画とか! 猫動画とか!
たとえば、恋人がいるのに不幸な人もいれば、ひとりで猫動画を見てるだけなのに幸せな人もいる。
めっちゃ金持ちと結婚してるのに不幸な人もいれば、犬動画を観ながらお気に入りの季節限定ポテチを食べてるだけで幸せな人もいる。
幸せとは、そういうことであって。
ちゃーこさんはさ、「広く浅くしか好きになれない」っていうけど、広く浅くでも、何かに心がちょっとでも動いてるなら、もうそれでじゅうぶん、いいじゃない。
たとえば僕、すごい好きな道が、都内にいくつもあってさ。
ただの道だけど、お気に入りの服でも着てそこを歩くだけで、しっかりちょっとだけ、気分がよくなるんですよ。
そういうものさえあればべつに……「推し」という流行ワードには当てはまらなくたって、僕はじゅうぶん幸せだけどなぁ。
ちゃーこさんも、ご自分にとってのそういう「幸せ」を、改めて振り返ってみてもいいんじゃないかな、と思います。
ちょっと気分がいい、みたいなものに推しを置き換えるのはいいですね!
今年ももうちょいで終わりだし、この機に一年の反省だけでなく、幸せの棚卸しをするのもいいなって思いましたー! 私は最近、仕事帰りにライフで鉄火巻き(好物)が残っててそれ買えるとちょっと気分がアガります(笑)。
というわけでして、これで2023年の連載更新は最後となります。
本年もご愛読、ありがとうございました!
メリー・クリスマス!!
そして、よいお年をお迎えくださいませ~!!