生理や更年期……女性の健康課題を解決するために、職場や家庭でどうコミュニケーションするといい? Femtech Japan代表の野口さんに聞きました。
「フェムテック*やフェムケアについて啓発したい!」という強い信念があったわけでなく、身近な人が喜んでくれた体験をどんどん広げていきたい、と「Femtech Japan Femcare Japan」というイベントを開催するようになったFemtech Japan代表の野口 俊英さん。イベントのほかにも、企業はもちろん、中学生や高校生に向けて、生理などの女性特有の健康課題について啓発するセミナーや授業などを実施しています。後編のテーマは、そういった女性特有の健康課題を解決に向けて、職場や家庭でどうコミュニケーションしていくかについて。当事者でない男性だからこそ伝えられる効果、フェムケア系のコミュニケーションで大切にしていることなども聞きました。
(聞き手:F30プロジェクト 武田明子)
*Female(女性)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた造語、Femtech (フェムテック)
意思決定層に男性が多い現状で、男性が伝えることで変わることもある
「なんで男性が、フェムケアを?」と言われることも多いと伺いしました。逆に男性の野口さんがフェムケアを語ることによるメリットは感じていますか?
いまだに言われますよ。「こういうのは、女性がやった方がいいんじゃないの」とか。でも、私は男性だろうが女性だろうが、関係ないと思うんです。やりたいって思う人が、やればいいんじゃないかなって。
そう言ってもらえると、清々しいです。女性活躍推進も、女性の問題だから女性で解決して、というのは違うと思います。みんなで考えるものだろうって。
だから、私は、男性でむしろよかったと思います。フェムテックやフェムケアの業界自体も、セミナーなどのスピーカーでは女性が多いですよね。でも、皆さんご存知のように会社は女性ばかりではないですし、良い悪いは別として、現状では企業の決裁者は男性が多いんですよね。「女性の問題だから、女性に全部任せる」という企業は少なくて、結局男性が判断していることが多いと思うんですよ。
ああ、そうですよね。以前、サニタリーボックスを商業施設などに設置する会社に取材をしたときに、営業に行っても決裁者が男性だから、生理についての知識があまりなくて、話がなかなか進まないということを聞きました。
そう。あとは、女性が話すと“自分ごとの話”になってリアリティが出る良さはあるけれど、なかには「女性がまた何か言ってるな」と、うがった見方をする人もいる。 “女性の権利主張”みたいに聞こえてしまうと、伝わらなくなる可能性もあると思うんです。
う〜ん、そうあってほしくないのですが、客観的に見て、確かにそう捉えられてしまいがちなこともわかります。
でも、同じ男性である私が生理のことを話すと、「俺、生理がないから、わかんないや」が言えなくなるんです。
では、企業の意思決定層に男性が多いという現状で、生理や更年期といった、女性の健康課題解決を推進していくために、どんなことを伝えるとよいのでしょう?
やはり、経済産業省が出している「女性特有の健康課題による労働損失等の経済損失は、社会全体で約3.4兆円と推計されている」ということが、答えに近いと思うんです。女性の健康課題を解決すると、企業として利益があがるだろう、と。女性が経営層にいる企業のほうが業績がよいといったデータもありますよね。
男性が生理の話をできないのは、セクハラを気にしているから!?
私がセミナーをするときは、女性特有の健康課題による国や企業の経済損失といった視点から話すこともありますし、女性の生理についての大変さについて話すこともあります。インパクトがあるのは、やはり生理の話みたいで。
セミナーが終わると、男女問わず質問に来る方がいますが、男性に聞かれることが多いのが「今日聞いた生理の話、はじめて知ったことが多く、とても勉強になりました。でもこの話、うちに帰って、妻に言っても大丈夫ですか? 怒られない?」といったことなんです。
ええっと〜。それはどういう意味でしょうか? 生理の話はタブーになっている、と?
ええ。男性は、“生理のことを口にしたらハラスメントにならないか”を気にしているんです。特に、企業では、女性特有のこういった話題に対して声を上げると、下手したらハラスメントで訴えられてしまうという意識があるから。
ああ、なるほど。企業内ではそうですが、家庭でもハラスメントを気にしている。
はい。だから私は、「僕をだしに使って、『今日、セミナーで男性から生理の話を聞いたんだけど、これって本当なの?』という聞き方をすると大丈夫だと思う」と伝えます。そしたら、数日後にメールがきて「本当に大丈夫でした」と。
なるほど。
生徒の7割が男子、3割が女子という元男子校の中学校で、生理についてのセミナーをしたこともあります。まず、女性特有の健康課題による経済損失の話をして、社会問題として捉えてもらう。その後、生理について私が取り組んでいること、生理中も快適に過ごすためにフェムテックやフェムケアという考え方があること、あとは妊娠率が年齢によって変わるということなどを伝えます。女子はもちろんちゃんと聞いてくれますが、男子も男性の私が話すから、恥ずかしがらずに聞いてくれる。スピーカーが男性であるからこそかな、と感じています。
男性が生理のことを話すのは、タブーではないということを、肌で感じることができますね。
男子にとっても「自分には関係ない」となりにくいんですよね。
男性が男性に伝えると効果があるというのは、今お話を伺いながら思いました。バイアスなんでしょうけど、同じことを女性が伝えると「マイノリティの弱者の私たちをケアして」って言っているように聞こえてしまう人もいるんでしょうね。
やっぱりなんだかんだ言っても、そう思う人がまだいるんですよね。例えばセルフプレジャーの話とかであれば、女性だけのコミュニティで話すのがいいと思うから、私が話す必要はないと思うんです。でもそうじゃないジャンルなら、想いや知識がある人が伝えればいいはずです。
男性に、生理や更年期など女性特有のことを伝えるときに気をつけていることはありますか?
基本的にはないです。男性に対しても、女性に対しても、私は第三者として話しているから。
なるほど。
それが最大の工夫かもしれません。逆に、女性が男性に話すときの方がいろいろ考えて話さないといけないっていう、思考が巡るのかもしれないですね。
女性だから伝えられることもあれば、第三者だから伝えられることもある。やはり女性の問題だから女性が解決するのではなく、いろいろな立場から伝えていくことで、企業や世の中の意識や仕組みが変わっていくのだと思います。
私が取り組むイベント「Femtech Japan Femcare Japan」も、性別に関わらずたくさんの人が情報を交流する場になれば、と思っています。
厚生労働省が公表した「令和5年度雇用均等基本調査」によると、日本の企業で課長相当職以上の管理職等に占める女性の割合は12.7%。企業の意思決定層に男性が多い現状のなかで、女性の健康課題への理解を進めていくには、性別に関わらずみんなで学び、考え、伝えていくことが大事だと改めて感じる機会になりました。一方、家庭なら、一対一。相手を思いながら素直にコミュニケーションすれば、壁はすぐになくなるのかな、と感じました。野口さん、貴重なお話をありがとうございました!
<F30プロジェクトも出展します!>
「Femtech Japan 2024 Femcare Japan 2024」
日時:2024年12月4日(水) 10時〜18時
会場:ザ ストリングス 表参道
〒107-0061 東京都港区北青山3-6-8
女性特有の健康課題解決へ向けた幅広いブランドやサービス提供企業・団体が出展するイベントを開催。そしてF30プロジェクトもブースにて出展します! 当日は女性ミドルマネジメントのモヤモヤをよりよく消化するためのツールなどをご案内する予定です。そのほかにも、この場が初のお披露目となるようなフェムテック/フェムケアブランドも多数出展予定とのこと。師走のお忙しい時期ですが、ぜひ、お越しください!!
<お話を伺った人>
■Femtech Japan 代表
野口 俊英さん
<聞き手>
■F30プロジェクト 企画・運営
武田 明子