生理痛の私に正露丸を勧める旦那にイライラ!男性は生理のことをどのくらいわかっているのでしょうか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室470】
✳️今週のお悩み✳️
宇多丸さんにお聞きしたいのですが、男性は生理のことなど、女性の身体のことをどのくらいわかっているのでしょうか? というのも、うちの旦那はまったくもって知識がなく、学習もしません。
たとえば、私が生理痛で苦しんでいるときに、「お腹が痛いときは正露丸だよ!」などと言ってきます。「生理痛だって言ってんだろっ!」と、思わず怒りが込み上げてしまうのですが、そうすると「そういう言い方はよくないよ」などと注意してきます。それに対して私は「何度も言ってるのに理解してくれないから、イライラするんだよ!」というようにまた怒ってしまい、言い合いになり嫌な雰囲気になることが多いです。
私はもともとあまり繊細ではないタイプ(見た目も)なので、たいした痛みでもなさそうに見える、というのもあるのかもしれません。ただ、本当に辛いし痛いし、動けないときもあるのです。どう説明したら理解してくれるのでしょうか。それか、もう諦めて無視しておけばいいのでしょうか。同性としてどう思いますか?
(キキ・44歳・東京都・会社員)
宇多丸さんは、生理痛とかPMSとか、どのくらいわかってると感じていますか?
恥ずかしながら、全然わかってないです!……ということは自覚しているつもりですけども、くらいでしょうか。
さすがに正露丸は勧めたりはしないけど……(笑)。
こないだも遅まきながら田中ひかるさんの『生理用品の社会史』(角川ソフィア文庫)を読んで、いかに自分がこれまで女の人たちの日々の暮らしについてなーんにも知らなかったし知ろうともしてなかったか、思い知らされましたもん。
まぁぶっちゃけ昭和40年代生まれの男性なので、今の感覚から見てまともな性教育というもの自体を、ほとんど受けてない世代ではあるんですよね。
それこそ生理に関する保健体育授業とかは、男女完全に分けられて、「男子は知らないでいいこと、なんなら知るべきではないこと」として扱われていた時代ですから、大人になってもその感覚を引きずっている人は、やっぱりどうしても多いと思います(※宇多丸補足:中学生の娘を持つ知人に聞いたところ、性教育の際に男女分けるシステム、いまだに変わらずやってるみたいです……)。
言うまでもなく、PMSとかの概念も世の中にはまだ知られていないも同然だったし……。
お子さんがいる編集部メンバーに聞いたところ、小学校の保健体育で受ける性教育の授業で生理のことを男女一緒に習ったというのも聞きましたが、まだまだじゅうぶんではなさそうだし、生理の実情がちょいちょいメディアで語られるようになったのも本当に最近のことですよね。
キキさんのパートナーも40代半ばくらいなのだとしたら、自分がそういう時代的な限界に囚われたままなんだということすら、現時点では認識していない感じなんでしょうね、まぁ間違いなく。
あまりにとんちんかんなことを言われたキキさんが当然のようにイラついているのに対して、「言い方」のレベルに論点をズラしてなんなら正論ヅラで説教返しするとか、自分がいかに無知で無神経かにまるっきり無自覚ゆえになお厄介、というたぐいの男性が取りがちな、まさしく典型中の典型みたいな言動ですもんね。
そりゃもう、さらに腹立って腹立って仕方がないことでしょう……。
一方で、ちょっと学ぶ気さえあれば、今はいくらでも、すぐ読めるような入門書とかもあるわけじゃないですか。
だから、そういう本とかをバン!と渡してみるとかはどうですかね。誕生日とかに(笑)。
この前、男子中学生に生理痛を体感させるワークショップをしてる人に会ったんですね。電気とかで「生理痛ってこんなに痛さなんだ!」ってことを体験させているって。
男子にちゃんとわからせるっていうそういう最新教育のかたち、僕もニュースか何かで見ましたよ。
僕が見たのはゴリゴリ男子校のケースでしたけど、みんな思った以上にしっかり学んでいたというか、女性たちの大変さを初めてちゃんと知った、今までなんにもわかってなかったって、すごく謙虚になっていて。
その姿勢が、とてもいいなと思いました。
やっぱ教育、大事だよなと……少なくとも僕が見た彼らは、僕らの世代よりずっとずっとマシな男性たちになってくれそうだなと、大変頼もしく感じましたけど。
ただ、現状の大人たちが仕切ってる社会は、残念ながら正直、まだまだ理解が進んでいるとは言いがたいのが現実なんでしょうが……。
女性活躍と言ってるのに……。
だいたい「女性活躍」というのを、何か特別ないいことしてやってるみたいな感じで言ってる時点でもう、何周遅れの話をしてるんだよ?って感じですもんね。
視点の置き方からしてすでに、男性中心的な社会の在り方を前提にしたものであることを露呈してしまっている、というか。
要はこういうのって、女性の身体の件に限らずですけど、「それを意識せずに済んでいる側」にとっては、基本的に「自分では気づけない」ことなんですよね。
だから、まずはやっぱり当事者側から教えてやらないとならないし、そうでない者は全員、「自分にはわかっていないことが世の中には無数にある」という言うまでもない真実の前に、さっき言ったように謙虚になって、常に「せめて知ろうと努める」ことが望ましい。
たとえば女性たちが感じている現行社会の不公平を、男性は「意識せずに済んでいる」だけ、ということすらわかっていない、わかろうとしないような人が、どうしても多い。
だから議論のレベルが主に男女間でなかなか噛み合わない、ということが起こりがちなんだと思うんです。
キキさんのパートナーも、今ココ、という感じじゃないでしょうか。
なので、とにかくなにかをきっかけに、少しずつでも学んでもらうしかないんでしょうが……。
たとえば、今年公開された日本映画ですけど、三宅唱監督の『夜明けのすべて』という素晴らしい作品がありまして。
僕も番組で時評しましたし、先日は振付師の竹中夏海さんにも改めてフェムケアという文脈でご紹介いただいたばかりなんですけど、これなんか一緒に観てみたらどうですかね?
上白石萌音さん演じる主人公の藤沢さんは、けっこう重めのPMSに悩まされていて、前の職場ではちょっと働きづらくなっちゃって、今はこじんまりした学習教材会社に勤めている。そこに、松村北斗さん演じる山添くんという、こちらはパニック障害を抱えた青年が転職してくる。
この二人の、劇中のセリフ通り「助けられることは、ある」っていう感じのやんわりした互助関係とか、この会社全体がふたりの症状をやはりやんわり受けとめてる雰囲気とかがとってもいい感じで、現実の我々の社会においても学ぶところが多い作品だと思うんです。
たとえば山添くんは、当初は自分に理解を示そうとした藤沢さんを突き放すような態度なんだけど、その後ふと思い直したように、担当医にPMSの本を借りて、まさしく「せめて知ろうと努め」だすんですよ。
それは藤沢さんも同じで、軽く本を読む程度であれ、ちゃんとパニック障害に関する知識に触れたうえで、山添くんに接している。
あと、会社のほかの人たちも、二人が発症したときもあくまで「そういうときもあるよね」程度の日常的な扱い方をしていて、なんというか、いちいちおおごとにしないんですよね。
普段も社長が画面の奥のほうで「それとなく見守っている」くらいで、二人を特別扱いしてる感じも、まったくない。
要は、登場人物の誰も「特別ないいこと」をしてるわけじゃなくて、ただそれぞれが抱えた事情を理解して、そのときそのとき対応してるだけで……藤沢さんと山添くんも、結局べつにそこまで仲良くもないし(笑)、もちろん恋愛感情など生じる気配もない。
藤沢さんは最後、サラッと転職してっちゃいますし。
そのくらいでいいんだ、それでも互いに「助けられることは、ある」っていう……そのさりげなさが、ものすごく感動的で。
映画としてストレートにおすすめですよ。
PMSって、女性でも知らない人もいるだろうし、いいですね。観てみよう!っと。 女性特有の身体のことを知る最初の一歩にも良さそうですね。少しでも知識を得たら、想像ができるかもしれない。
それにしてもまったく……生理痛やPMSなんてとくに、本来なら最初から、デフォで社会の在り方に織り込み済みであるべきものじゃない?
そもそも生理がなかったら人類が成立しないわけですもんね。
ホントそうだよ!それを抑圧的に扱ってきたこれまでの社会が、いかに野蛮で非合理的だったかってことですよね。前述の『生理用品の社会史』にもそういう事例が山ほど出てきますけども。
一方で、女性同士だって、それぞれが感じていること抱えているものを完全に理解することなんて当然できないし、ほかの少数派とか立場の弱い人たちに対しては、さらに想像力がまったく働いてなかったりするようなことも、当たり前ですけどぜんぜんありうるわけで。
だからやっぱり、要は他者同士、お互いにわかってないことだらけかもしれない、という大前提の下、常に「せめて知ろうと努める」姿勢だけは忘れないようにしたいものですよね。
キキさんのパートナーにも、それこそ『夜明けのすべて』きっかけでいいから、それがちょっとでも伝わるといいんですけど……って、僕自身、生理痛やPMSなどについてはまだまだなんにも偉そうなことは言えない知識レベルなので、自戒を込めて!
最後に私からもおすすめ本を紹介します~!
以前取材したことがある産婦人科医・高尾美穂先生と、博多大吉さんが生理について語り合っている『ぼくたちが知っておきたい生理のこと』が読みやすいと思いました! 生理痛やPMS、更年期などの身体のことから、生理休暇や生理にまつわるコミュニケーションの課題まで網羅できます。
それとなんだかんだ漫画『生理ちゃん』もイメージしやすいかも!
ぜひチェックしてみてください~。