たった一人にチーム全体が振り回されている状況を打破したい。こんなとき、どうする? 《チームマネジメント編-6》
リーダーとして仕事をしていれば、必ずぶつかる
コミュニケーションや人間関係の問題。
相対する人も違えば、状況もさまざまで、
「こうすれば正解」がないのが
難しいところです。
そこで、
リーダーとして働く女性が実際に体験した
コミュニケーションの課題と
それに対するアクションを
ケーススタディとして紹介。
同じような課題を抱える人のヒントになれば、
という思いで届けていきます。
今回は、傍若無人とも言える上司の元で働かざるを得なかったマルさんのケース。0、1、2歳児を預かる小規模保育園でクラス担任として働くマルさんは、いわゆる中間管理職。ほかの保育士と連携をとり、若手の育成も担うなかで、一人の上司の振る舞いに納得できない部分が多かったそう。みんなが働きやすい職場環境にするべく、自ら動いたマルさん。その行動力に迫りました。
立場を笠に着て、やりたい放題の主任に辟易……
私の上司にあたる今の主任保育士は、環境整備が上手でいつもテキパキしていて、信頼できる方です。でも、その前の主任には、本当に悩まされました。
保育士なのだから保育の仕事がメインのはずなのに、「主任だから」と職員室に入ったきり、コーヒー片手に延々とPCを見ていたりするんです。事務作業をするでもなく、参考にするなどと言って保育と直接関係しないサイトのネットサーフィン。
子どもに対しても、基本的に0歳児しか受け持たないんです。少しずつ自我が芽生えてくる1、2歳になると大人の言うことを素直に聞かなくなってくるから、自分のペースで可愛がることができる0歳児の方が都合がいいのだと思います。
でも、学年に関わらず子どもと保育士の関係性が近い小規模園なので、2歳の子が「マルせんせいのほうがすき!」なんて素直な気持ちを伝えてくれることも。するとますます主任はいい気がしないのでしょう。八つ当たりされる私はたまったものではありません。どんな子も分け隔てなくかわいがれば、子どももそれにこたえてくれるという単純なこと、保育士であればわかっているはずなのですが……。
どんなに説得を試みても、ジェネレーションギャップが埋まらない
昔ながらの常識や保育のルールをアップデートしようとしないことにも、頭を痛めました。
例えば、保育園では給食を出しますが、離乳期以降の小さな子にはまず食べることの喜びを知ってもらいたい、食べる時間を楽しんでもらいたい、そんな気持ちで取り組んでいます。でも、ひと昔前の保育では“全てを食べること”が最も重要視されていたんですよね。
現場の保育士がフルーツも主食やおかずと一度に並べて「好きなものから楽しく食べましょう」と実践しようとしたのですが、主任には受け入れてもらえませんでした。「フルーツを先に食べたら完食できない」「成長に影響する」などと言って、覆されてしまったんです。
現代の保育のやり方を、きちんとした理由をつけて説明しても、聞く耳を持ってもらえませんでした。
そんなふうに積み重なるモヤモヤは、園長に訴えれば改善されるかと思ったのですが、園長も主任に強く当たられたくないようで、ほぼ主任の言いなり状態。立場に関わらずたった一人の主任の意見ばかりがまかり通るような職場になってしまっていました。
同じ立場の仲間がいたからこそできた、直談判
そんな上司の傍若無人ぶりに現場は疲労困憊。あるとき同僚が私に「あの主任の下で働くのはつらいから辞めようと思う」と打ち明けてきたんです。その頃は私も同じ思いが芽生えてきていたので、もう一人の同僚にも話したら、彼女もまったく同じ。みんな辞めたくなるほどつらいのなら、3人で一緒に園側に困りごとを伝えよう!ということになったんです。
当時の状況の園長が相手では解決には進まないと思い、園を経営する社長に直談判。現場の私たちが話をしたことで逆にストレートに伝わり、看過できない問題だと認識してくれて、結局主任は退職することになったんです。
園長は社長から「指導が不十分だったのではないか」と詰められてしまったみたいなんですが、そうはいってもあまりにも主任が高圧的で立場が逆転しているような状態だったから、どうすることもできず、苦しかったのではないかと思います。
私たちは園長から「動いてくれてありがとう」と感謝されました。それ以降は、園長との関係性も深まり、古い常識は見直され、私の新しい提案なども前向きに検討してくれるように。園全体が本当に平和になりました。
感情を押し殺して働いたり、つらくて辞めようと思うくらいなら、まずは仲間を見つけて環境を改善する道を探すのが得策だと思います。
実は私たちが社長に直談判する少し前に、主任の影響で辞めてしまった新卒の保育士がいたのですが、本当に悔しく思います。仕事はできるし、子どものために一生懸命で、すごくいい保育士になれそうだったのですが、やはり耐えられなくなってしまったようです。今もどこかで保育士を続けていてくれたらいいなと思うけれど、違う職種に転職してしまいました。
職場の人間関係が原因で天職とも言える仕事を諦めてしまうのは本当にもったいない。一人ひとりがそれぞれに我慢するのではなく、周囲と連携し行動に移せば、職場環境は改善できると信じています。
イラストレーション:高橋由季