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家業の農家を継ぎ、もがく夫。“手伝う”立場である私は、相談相手にもならない……。こんなとき、どうする? 《ライフステージ編-5》

リーダーとして働く女性たちが
実際に体験した、
コミュニケーションや人間関係の課題と
それに対するアクションの
ケーススタディ。

同じような課題を抱える人のヒントになれば、
という思いで届けていきます。

今回は、結婚を機に農業の世界に飛び込んだミキさんのエピソード。まったく違う業種からのキャリアチェンジとも言える状況を、はじめは“そういうものだ”と受け止めていたそう。簡単な農作業を手伝いつつも、主な役割は育児と、家の中を守ること。でも、若いうちから家業を継ぐことになって目の前の仕事に悪戦苦闘する夫に対し、何もできない自分がもどかしく思いはじめます。


育児家事中心の毎日。そんななか、夫が代を継ぐことになり……


私が結婚したのは二十数年前。当時の農家といえば、妻は義実家に入るのが当たり前でした。
私も特に何か聞かれるわけでもなく、幼稚園教諭の仕事は退職し、自然と同居するようになって。夫の両親と夫が農業に従事して、私はその手伝いをする。農家としては一般的な形です。
子どもが生まれてからは、育児をしつつ家の中のことすべてを私が担うようになりました。

農業の世界がどういうものかを本当にまったく知らなかったこともあって、今思えば、何もかも”言われるがまま”でしたね。

そうこうしているうちに、夫が義父から代を継ぐ形になりました。まだ30歳手前。一般的な農家さんと比べると夫はちょっと継ぐのが早かったんです。
時代は農業も先端技術を取り入れ始めた過渡期。たったひとりで経営も生産も栽培も担う夫は、思うようにいかなくて、悩んでいる様子でした。
でも、お父さんにも打ち明けられず、お母さんには心配かけたくない。そして私には話してもわからない……。

私は一緒にやっているつもりでいたけれど、専門的な話ができるほど知識はないから、夫は一人で抱え込むしかなかったんですよね。

周りの農家さんを見てみても、お父さんと二人三脚でこなしたりしている。うちももう一人いないとやっぱり大変なんだ!と思うようになり、育児が生活の中心だった私も、本格的に農業に携わってみようかと思いはじめました。


女性も経営に携わってもいい。そのためには、学ばなくちゃ!と一念発起


そんなとき、テレビを見ていたら、若い女性農業者のネットワークの代表をされている方が出演されていたんです。そこで「女の人も経営に携わっていいんですよ」って。女の人も口出していいんだ!?と、すごく衝撃を受けました。
自分の周囲では、経営のことは男性がやるのが当たり前で、奥さんが干渉するのはタブーみたいな風潮だったので、驚いてしまったんですね。

そこで世界がパッと開けたような気がしたけれど、そもそも私、経営って何も知らないぞ……ということで、その方が開催しているグループに参加。さらに、農水省が主体の『女性農業者リーダー育成塾』にも1年かけて通いました。

経営なんて大学とかでないと学べないと思い込んでいたし、本を読んでみても「何のこっちゃ」、「マーケティングって何?」レベルだったんですが、その育成塾に参加したおかげで、少しずつ理解できていって。そこから、いろいろなことに挑戦したいと思うにようになりました。


自分を閉じ込めていたのは自分だった。人との出会いで、農業への思いも広がった


育成塾の場所は東京だったのですが、全国の農業に携わっている女性たちが一堂に介していました。
そこで、私のなかで農業に対する意識も女性の生き方に対する意識も、ガラッと変わりました。それまでは、視野が狭かった。

集まっている人は千差万別で、すごく熱い思いを持って農業に従事している人もいれば、東京に行きたくて軽い気分で、という人も。
でも、農業のこととなるとみんなすごくキラキラした目で話すんです。

私は「農家なんかに嫁いでしまって……」みたいな感じで言われたりしたことで、業界にマイナスイメージがあって、農業をやっていることがちょっと恥ずかしいとすら思っていたんですが、彼女たちと出会えて、価値観や、農業そのものに対する思いを改めることができたんです。

それと同時に、「人の話はきちんと聞かなきゃわからない」とか、「自分の考えを押し付けてはいけない」というような性格的な部分でもいい変化が生まれました。
”リーダー育成塾”という事業の名前にあるように、リーダーの意識も学びましたし、コミュニケーション力も高めることができました。


自分の考えや判断で事業を進める。その楽しさに開眼!


そして、夫とともに認定農業者を共同申請。二人で経営していこうという考えのもと、動き始めました
毎年課題はありますが、私は、同じことだけを続けるのはつまらないし、天候によって赤字が出ることも不安だと考え、少しずつ新しい野菜づくりに着手するようになりました。

夫に頼らず、ひとりでも何かできるはずだと、独学でミニトマトの栽培に挑戦。夫が手慣れたメロン栽培の感覚で口出ししてくるけれど、「いやいや待て、こっちはトマトなんだ」と、私なりに進めていたら、甘くておいしいものが採れたんです!

それから、取引先の方との共同出資で直売所を設けたら、売る場所があるなら種類も増やさないと、となって。さらには、直売所を訪れる方から「マルシェに出店してみない?」「イベントに参加してほしい」など、声をかけてもらえるようになり、どんどん広がっていきました。

自分なりに作り、売って、利益が出ることの楽しさを知り、「おいしかったよ」の声に励まされて。ものづくりや経営の基本的な部分をすべて経験することができました。それが自信になり、農園の方にも貢献できている実感が持てて、今は以前と比べても充実した人生を歩めていると感じています。

この経験は、夫との関係にも、いい影響が生まれたと思っています。作業上の悩みや経営上の悩みにぶちあたったときも、私を仕事上のパートナーとして認識し、頼ってくれるようにもなりました。今ではしっかりと二人三脚で、お互いに前を向いて走ることができています。



イラストレーション:高橋由季












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