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「なりたい自分」がわからない。どう探せばいいのでしょうか?【ライムスター宇多丸のお悩み相談室466】


✳️今週のお悩み✳️
「なりたい自分」がなんなのかがわかりません。先日、友だちと飲んだときにそんな話になったのですが(つまり、自分自身を好きでいるのが大事。だからがんばれる!のような方向)、私自身はどうなんだろう、と思ってしまいました。最近、仕事もプライベートも全力でいい感じとは言えなく、少しだらけている気がします。体もだらしなく、太ってもきました。その自覚があるので、友だちが仕事や家族との生活も含め、なりたい自分の話をしていて、それに向かってがんばっていて、キラキラしているのがうらやましくなり、余計に落ち込みました。でも、まぁいいかと思ってしまう自分もいます。なりたい自分とは、どう探せばいいのでしょうか。お二人はそういう悩みを抱えた時期はありますか。だらけてしまったりすることはありますか。アドバイスをお願いします。
(みみ・39歳・会社員・東京都)



「なりたい自分に、なればいい」というのは、もともとは傑作アニメーション『アイアン・ジャイアント』の名ゼリフだったりするんですけど、たしかに僕もこの連載でも繰り返し言っているし、なんならライムスターの『My Runway』でもそのまんま歌っていたりして、まぁ明らかに近年の一大テーゼ、という感じではありましたよね。

ただ、そのメッセージ自体が、みみさんをはじめ一部の人にはむしろプレッシャーにも感じられてしまっていたとしたら、それはホントに申し訳なかったし、やや真意が伝わりきってないところもある気がするので、もうちょい言い方を考えないとダメかな、と反省もいたしました。

ちなみに僕自身、本気で「なりたい自分になればいい」と思って生きてはいますけど、じゃあたとえば今の体型が「なりたい自分」か?というと、当然と言うべきか、まったくそんなことはない(笑)。
むしろ、鏡見るたびイヤだなぁと思って……そこは単に、あえて考えないようにしてるだけですね(笑)。
まぁ、目にあまって標準体型から逸脱してきたり、健康診断で危険信号な数字が出てきたりしたら、それはまぁそれなりに何かやり出したりするかもしれないけど、今は正直そこまでがんばるモチベーションもわかないし、という感じ。

というのは、たぶん僕のなかで、見た目の「なりたい自分」は、主に着るものである程度クリアできているもので、ツラつき含めて肉体的な面に関してはとうに半ばあきらめている(笑)、という感じなんだと思うんですよね。
だから、そこにいちいち焦りやコンプレックスなどは感じない……まぁ、完全にボディが勝負の場、海だのプールだのジムだのに行く機会があればわかりませんけど(笑)、そんなのは、ハナから足を向けなければいいだけのことなので。

そんなわけで、「なりたい自分になる」と言っても、べつに全方位的に理想を目指してるわけでもなんでもないし、ましてそのために努力を重ねなきゃ、なんてことはまるっきり考えてもいない。
「だらけてしまったりすることはありますか」って、それがデフォだよ!(笑)


仕事もプライベートも全力でいい感じって、そんな全方位的な感じの人、本当にいるんですかね!?


というか、最も肝心なのは、これはあくまで「なりたい“自分”」の話をしてるんであって、みみさんがついついしてしまっているように、他人と比較して自己卑下するというのは、なんなら僕が一番おすすめしない考え方ですよ!ってことですよね。

人がどうとか世間がどうとかに左右されない、その人にとって価値あることを見つけて大事にしてゆきましょうよ、という意味での、「なりたい自分に、なればいい」であって。

たとえばそのお友だちがキラキラして見えるのは、「その人にとって価値あること」に向かってがんばっているからで、それはそれでもちろん結構なことだけど、どこまで行ってもその目標はみみさんのものではないんだから、そもそも比較すること自体が無意味なんですよね。


比較してしまうと悪循環に入りやすいですね。もちろん奮起してがんばれることもあるんだろうけど。


いやその、アスリート同士で記録を競ってるとか、目指すゴールが同じなら、なるほど妬みや焦りはなんなら時には必要なものですらあるのかもしれないけど……。
仮にそうだとしたって、それはあくまでその競技なりなんなりに限っての話で、人生全般も「目指すゴールが同じ」ってわけじゃあ、やっぱりないはずでしょう。

だから、りりさんが「でも、まぁいいかと思ってしまう自分もいます」って言ってるのも、まったく当たり前の話で。
まぁ、つい人と自分を比べてしまうときがあるのも気持ちとしてはわかるけど、とは言えそんなのはたいがい、まさに「まぁいいか」で済ましとけばいい程度のことだったりするもんで。
だって、ホントにいよいよケツに火がついててヤバい!状態とかなら、人間、とうに何かしら、ジタバタしてるはずじゃない?(笑)
なのに現状そうはしてない、ということは、自分にとってはしょせん、そのくらいの優先度の件だ、ということですよ。
そうする必要がそこまでないから、してないだけで。

あと、その「なりたい自分」、自分なりの理想というのも、人様から褒められるようなものでなくてぜんぜんいい、ホントにささやかなことでよくて。
たとえば、部屋を常にきれいに保ったりして「きちんと」暮らすのが心地いいという人はもちろんそうすればいい、という一方で、そういうふうにすべてがカッチリしてるなんて実は息が詰まる、逆にダラーンと過ごすのが好き!というような人は、そういう自分ごとまずは好きになればいい、といったようなことで。
でも、食べるものだけにはこだわりたい!とか、ピンポイントで自分が譲れないことがあるなら、そこはそこでがんばればいいし。
そういうのがないならないで、それで問題ないなら、問題ないわけで。

要は、なんでもいいからその人自身が気分よく生きられる自分でいましょうよ、という、シンプルな話であって。
「あの人のように、“なりたい自分“にならなきゃ!」みたく、他人との比較から気持ち的に追い立てられたり落ち込んでしまうというのは、少なくとも僕が言ってることからすると、完全に本末転倒なんですよね。

これもいつも言ってることですけども、なんにつけても人生、「◯◯でなきゃ、不幸になる」型の思考法は、むしろ当人が不幸に感じる確率を確実に上げてしまうので、個人的には絶対にやめたほうがいいと思います。


「なりたい自分」をどう探せばいいか?ということですが、好きなことをまず出してみればいいのですかね、手順として。


まぁそういうことかな、ものすごく平たく言えば。

これもいつも言ってることの繰り返しになりますが、みなさんもっと、自分が生きていてどういう状態を「快」と感じるか、日ごろから意識化するクセをつけたほうがいいと思います。
というのは、世の中というのは基本不快なことだらけ、というかそっちのが間違いなく大半なので、ある程度は自分で防衛壁やマップを作って、避けられるものは避け、自力で確保できる「快」を増やしておく、というような備えをしとかないと、そりゃあなるほど生きててもツラい局面ばかり、ということにもなりやすいでしょうよと。

と言っても、しつこいようですがそんな大げさなもんじゃなくていいんです。
一個一個は「この道を歩くのが好き」レベルでホントよくて。
もっと言えば「この道を歩いている自分が好き」「この道を歩くのが好きだという自分が好き」……そういう次元での「なりたい自分、なれる自分」をいっぱい持っておく。
そうやって「自分で自分を機嫌よくする方法」をいくつも知っている人こそ、僕に言わせりゃ真の意味で「幸せ」だし、僕もそこを目指したいと思ってる。

みみさんだってさ、これまで39年生きてきてれば、絶対にあるはずなんですよ、どんなに些細であれ生きる喜びを感じる瞬間というのは。
そこにもっとちゃんと敏感になりましょうよ、ってことじゃないですか?

僕もこないだ、休日夕方から夜の東京ビジネス街を散歩して、気づいたら13,000歩。
途中お茶したり古いビルの写真撮ったりして。
最っ高に楽しい一日でしたね!
ホント、そんなんでいいのよ。
べつに、そんな凝った趣味である必要もなくて。
もちろん、お金や他人の力も(そんなには)借りなくていい。

たとえばそういうのをさ、他の人の「世間的にイケていると見られやすい」休日の過ごし方と比べて劣等感かんじたりとか、心底バカバカしいだけだと僕は思うんですよね。


宇多丸さんは、「なりたい自分」が見つからないという悩みを抱えた時期ってありますか?


うーん、あえて言えば「なりたいし、実際なれる自分」を見つけるのには、多少時間がかかったところもあるのかな。
思春期から青年期にかけてはやっぱり、理想像としての「なりたい」ばっかり上滑りして、今ここにいる「自分」とは乖離してるような時期が、あったはあったのかもしれない。

でもそれって結局、要はやっぱり、「自分ではない誰か」を比較対象もしくは理想像にしてしまったりすることから生じる齟齬や不幸、ということですよね。
また世の中、そういう焦りやコンプレックスにつけ込んで、やたらとお金を使わせようとしてくるものだったりしますから。
それになんとなく気づいてからは、その考え方から抜け出すのも早かった気がしますが。

極端な話、たびたび例に出すけど、大谷翔平イケてやがんなチキショー!とか、僕らが言ったって、しょうがないでしょう?(笑)
だし、大谷翔平は大谷翔平で、彼にしかわからない苦悩や喜びを日々味わいつつ、必死で生きてるだけなんだから、間違いなく。

宇垣美里さんの名言「あなたにはあなたの、私には私の地獄がある」ということですよ。
どれだけ傍目にはそう見えようとも、ラクに生きてる人なんていないよ!

まぁ、一部のSNSとかはホント、完全に「他人と比較し合うための装置」みたいなところがあると思うし、それでまたみなさん一層そういう思考にハマりやすくなってもいる、世の中全体そっちに加速しているようなところもひょっとしたらあるのかもしれないけど……。

なんにせよ、みみさんはまず、他でもないご自分自身ともっとじっくり対話してみることから始めるべき、なんでしょうね。
何をしているときが幸せ? 
実は内心イヤイヤやっていることや、イヤイヤいる場所などはない?
たぶん、そこから自然と見えてくるのがきっと、「なりたい自分」の・ようなもの、ということなんじゃないですかね。

で、悪いけどお友だちがどうこうとかは、それとはまったく関係ないことなんで。
引け目を感じる必要、いっさいナシ!
万が一ついモヤったとしても、サクッと「まぁいいか」枠に入れておしまい、でいいですよ。

ひとまずは、手軽に自己完結できる小さな幸せサイクルの構築、目指しましょう!


今回説明した考え方に納得してもらえたらいいですね。元気になってほしい!


だし、僕自身も、みみさんの今回の投稿で、改めて自分の言わんとすることが整理できた気もします。
貴重な機会をいただき、ありがとうございました!



【今週のお絵描き】


画・宇多丸


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<プロフィール>

ライムスター・宇多丸
日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション2」(毎週月曜日から木曜日22:00-23:30の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(隔週金曜日21:00~21:55)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。

※昨年10月からは「アフター6ジャンクション2」に!

ライムスター宇多丸の聴くカルチャー・プログラムは、あなたの"好き"が否定されない、あなたの"好き"が見つかる場所。大人気週刊映画時評「ムービーウォッチメン」は毎週木曜日22時20分頃~にお引越しです。

※ライブ情報はこちら


こばなみ
2010年、iPhoneの使い方がわからなかった自身と世の中の女子に向けた簡単解説本「はじめまして。iPhone」を発行し、「iPhone女子部」を結成。2015年からは「女子部JAPAN」として、Webでのコンテンツ発信とイベントを企画・実施。2022年からは「F30プロジェクト」と題して、リーダーとして働く女性の生声を取材し、noteで発信。女性活躍推進など、"女性"という枕詞がなくなる世の中を目指している。



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